No.416813

本編補足

根曲さん

・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。

2012-05-01 19:29:40 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:358   閲覧ユーザー数:358

首の挿げ替え

C1 呼び出し

C2 暴虐な決定

C3 お酒の勇気

C4 夜間出撃

C5 背後の一撃

C6 事後処理

C1 呼び出し

 

セレノイア王国ヴィートリフ王宮。半裸及び全裸の女性達が踊り狂う。玉座に座り、抱きかかえた美女の胸を揉みし抱くヴィートリフ。にやけた面のヴィートリフ親衛隊とセレノイア王国のカルデハイフンをはじめとする幾人かの人間族の議員達が満面の笑みを浮かべてその様子を見ながら酒を飲んでいる。

 

響き渡る靴音と共にセレノイア王国議員のクランケンシュタインが登場する。ヴィートリフは美女を突き飛ばし、玉座のひじ掛けを叩いて立ち上がる。

 

ヴィートリフ『おお、来たか調教師!』

 

クランケンシュタインはヴィートリフに向かい跪く。

 

ヴィートリフ『君命だ!ただちに森の仲間議場に全議員を集めよ!』

クランケンシュタイン『御意。』

 

クランケンシュタインは立ち上がる。ヴィートリフは眼を細めてクランケンシュタインの黒い長髪を中指と人差し指に絡ませ、自身の方に引き寄せてにおいをかぐ。クランケンシュタインはヴィートリフの方を向く。

 

クランケンシュタイン『陛下、如何いたしました?』

 

ヴィートリフは眉を顰め、無造作にクランケンシュタインの髪を手放す。

 

ヴィートリフ『獣臭くてかなわんな。どれ、これで洗い流してやろう。』

 

ヴィートリフはクランケンシュタインの頭から酒をかける。玉座の間に笑い声が響く。ヴィートリフは席に戻り、再び女を傍らに侍らせる。

 

ヴィートリフ『用件は済んだ。とっとと失せろ!』

 

クランケンシュタインは一礼し、彼らに背を向けてヴィートリフ宮殿から出ていく。宮殿の外に止まる一台の巨大リムジンの扉を開けるクランケンシュタイン。リムジンの中にはクランケンシュタインの義兄弟、女性の容姿をしたヴォジャノーイのハイデイルと半身半馬でネックのスプリヴァと緑色の八重歯を持つ可愛らしい童顔のニクスのジャト、男ハーピーのイナフォが座っている。水の滴る黒髪、濡れた衣のクランケンシュタインを見る一同。

 

ハイデール『どうなさいましたお兄様…そのお姿は。』

クランケンシュタイン『酒の席の座興にされただけだ。気にすることは無い。』

スプリヴァ『何という恥知らずな王だ!兄上にこの様な仕打ちをするとは!前王とはまったく違う!今から私が…。』

 

スプリヴァは立ち上がる。クランケンシュタインはスプリヴァの手を握る。

 

クランケンシュタイン『止めておけ。ここで下手な争いは起こしたくない。』

 

スプリヴァは舌打ちをして座る。

 

イナフォ『まあまあまあ、まずは体を乾かしてからにしようや。な、兄貴!』

 

イナフォは翼でクランケンシュタインの体を拭こうとする。

 

クランケンシュタイン『…ちょ、止めろ…痛い。』

 

ジャトは頬杖をつき、イナフォの翼を抑えているクランケンシュタインを見つめる。

 

ジャト『それで、王様はお兄ちゃんに何の用事だったの?』

 

クランケンシュタインはジャトの方を見る。

 

クランケンシュタイン『森の仲間議場に前議員を招集せよとのお達しだ。』

ジャト『ふぅ~ん。珍しいこともあるもんだ。あの獣人・亜人嫌いの王様が。』

 

クランケンシュタインはリムジンのカーテンを開け、ヴィートリフ宮殿を覗きこむ。

 

クランケンシュタイン『…嫌な予感しかしないのだがな。』

 

エンジンの音が唸り、巨大リムジンは動きだす。

 

C1 呼び出し END

C2 暴虐な決定

 

セレノイア王国の議員達が集うセレノイア王国森の仲間議事堂。熊獣人のクーマン・ベアードが腕組みをしてクランケンシュタインの方を向く。

 

クーマン・ベアード『ヴィートリフ王が我々を招集するとは稀有な事もあるものだ。して、何の用件か?』

 

クランケンシュタインはクーマン・ベアードの方を向く。

 

クランケンシュタイン『さあ、それは王がここへ来ないと分かりますまい。』

 

クーマン・ベアードは眉を顰めてクランケンシュタインを見つめる。

 

クーマン・ベアード『貴公は要件の詳細を聞かなかったのか。』

 

クランケンシュタインは眼を閉じて、頭に手をやる。

 

クランケンシュタイン『はぁ、何せ、酒を浴びせかけられてとっとと失せろと言われましたからな。』

 

クーマン・ベアードは腕を組むのを止める。

 

クーマン・ベアード『何と…まぁ。呆れた話だ…。』

 

騒音。議事堂の扉をバイクに乗った配下の親衛隊と共にチャリオットで打ち破り、セレノイア王国国王ヴィートリフが登場。彼はセレノイア王国議員達を見回し、地面につばを吐き、鼻をつまんで取巻きの議員カルデハイフンが取りだしたガスマスクを装着してメガホンを取りだす。

 

ヴィートリフ『まったくいつ来ても獣臭くてかなわんわ。』

亜人議員A『いつも来てない癖に…。』

 

ヴィートリフはスプレー状の消臭剤を取りだすとそれを周りの議員、とりわけ亜人議員Aに集中的に吹きかける。ライオン獣人のオラオンがヴィートリフの傍らによる。

 

オラオン『陛下、いったい何の御用でございましょう。議員をこの森の仲間議事堂に全員集めて。』

 

ヴィートリフはチャリオットから降り、高台の円形の議場の中央に側近と共に歩む。

 

ヴィートリフ『ゼムド王国を攻めるぞ。』

 

セレノイア王国議員達は青ざめて顔を見合わせる。ライオン獣人議員オラオンが前に出る。

 

オラオン『…ゼムド王国を攻める。正気とは思えません!』

 

ヴィートリフはオラオンの正面に立ち、身をかがめる。

 

ヴィートリフ『ああ?百獣の王の癖にチキンハートか!?』

 

キノコ人の女性議員マシュルマインドがオラオンの傍らに駆けより、ヴィートリフを見る。

 

マシュルマインド『ゼムド王国は陛下の母国!いったい如何なる理由で開戦を!』

 

ヴィートリフは立ち上がる。

 

ヴィートリフ『フン!知れたことよ!この俺様を世継ぎに指名しておきながら、実子ができた途端にこの様な獣人臭い辺境の地に送る奴らに復讐する為よ。』

 

マシュルマインドは眼を見開いてヴィートリフを見る。

 

マシュルマインド『その様な下らぬ私情の為に!!』

ヴィートリフ『下らぬ!?貴様!!』

 

ヴィートリフは剣を抜いてマシュルマインドの頭上に振り上げる。

 

ヴィートリフ『俺がゼムド王国を継ぐことができなかったことが下らぬ事だと言うのか貴様!!』

 

眼をつぶるマシュルマインド。クランケンシュタインがヴィートリフの剣を持つ腕を掴む。

 

クランケンシュタイン『陛下。落ち着いて下さい。陛下の無念さは良く分かります。』

 

ヴィートリフはクランケンシュタインの腕をふりほどき、剣を下に向ける。

 

ヴィートリフ『分かるだと!臣下というものは君主の為にあるものだ!貴様らが俺の為に働くということは当然の義務であろう!!なのにこいつらは!!』

 

ヴィートリフは大きな靴音を立てる。

 

ヴィートリフ『クランケンシュタイン!だいたい貴様がこの動物園をきちんと管理していないせいだぞ!』

 

ヴィートリフはクランケンシュタインに唾を吐きかける。クランケンシュタインはヴィートリフに頭を下げる。

 

クランケンシュタイン『申し訳ありません。開戦の準備はすぐにいたしますので。』

 

ヴィートリフはそっぽを向くとチャリオットに乗込んで親衛隊と共に煙をあげて議事堂から出ていく。オラオンはヴィートリフ達の前に立つ。

 

オラオン『お待ちください!陛下!陛かぁーーーーーーーー!!』

 

ヴィートリフの騎乗するチャリオットがオラオンを弾き飛ばす。砂煙が立ち上がり、地面に叩きつけられるオラオン。オラオンの侍従でピクシーのラドルがオラオンに駆け寄る。

 

ラドル『だ、大丈夫ですか!オラオン様!』

 

オラオンはラドルが手を貸す中、離れていくヴィートリフ王とその親衛隊達を暫く見つめている。オラオンは立ち上がり、振り向きてクランケンシュタインの方を睨みつける。

 

オラオン『クランケンシュタイン!なぜ、実権を持たない貴様が勝手に了承したのだ!このゼムドからの流れ者めが!』

 

クーマン・ベアードがオラオンの前に立つ。

 

クーマン・ベアード『クランケンシュタイン議員を責めても無駄な事だろう。あの王なら強引に開戦を決定しただろう。ことによっては犠牲を強いられたかもしれん。マシュルマインド議員も斬られそうになり、現に貴公も轢かれたではないか。』

 

オラオンは眼をつぶって首を振り、眼を開けてクランケンシュタインの方を向く。

 

オラオン『そうだな。あたってすまなかったクランケンシュタイン。』

クランケンシュタイン『いや、私は…。』

 

ラドルは高台の円形の議場の中央に駆けて行く。

 

ラドル『皆さん!聞いて下さい!!』

 

議員達の眼がラドルに向けられる。

 

ラドル『ゼムド王国は私達が建国以来伝統としてきた議会制国王制を踏みにじったばかりか、その血族の身勝手で暴虐な決定により我々に出血を強いられています!ヴィートリフ王はろくに議会にも出席せず、私達の血税で豪勢な宮殿を造り、美女を侍らしています!』

 

議場からは賛同の声が多数聞こえる。

オラオンは眼を見開き、円形の議場の中央へ駆けていく。続くクーマン・ベアードとクランケンシュタイン。

 

ラドル『私達は力を合わせ、暴虐な圧政を討ち砕き…。』

 

オラオンがラドルの方を向き、大声を出す。

 

オラオン『何をやっているのだ!ラドル!!』

 

ラドルは眼を見開いてオラオンの方を向く。

 

ラドル『オラオン様!どうしても言わせて下さい…。』

オラオン『ラドル!!』

 

ラドルは再び議員達の方を向く。

 

ラドル『共に暴君ヴィートリフを討って、この手に議会制国王制をとりもどしましょう!!』

 

オラオンは眼を閉じ、額に手を当てて俯く。歓声及び拍手喝采。

 

獣人議員A『そうだ!あの国王、いけすかねえ野郎だ!とっちめちまえ!』

亜人議員A『あんな奴はぶち殺しちまった方がいい!』

兎獣人議員『狩りの時だ!』

 

歓声をあげる議員達多数。スプリヴァが前に出る。

 

スプリヴァ『止めておけ!王族殺しは重罪。下手をすれば貴族連合が攻めてくるぞ!』

 

ざわめきが起こり、青ざめ、互いに顔を合わせる議員達。ラドルは周りを見回して眉を顰める。オラオンがラドルの背後に立ち、ラドルの襟首を掴んで中央から引っ張っていく。

 

獣人議員B『くそっ、キ連さえいなければ!』

亜人議員B『あのクズ王め!畜生!血縁の威さえなければ…。』

 

クランケンシュタインは顎に手を添えて眉間にしわを寄せ、議場を見渡す。

 

C2 暴虐な決定 END

C3 お酒の勇気

 

ドクガの酒場。クーマン・ベアードとクランケンシュタインとその義兄弟、セレノイア王国議員多数がテーブル席に座っている。クーマン・ベアードはクランケンシュタインの方を向く。

 

クーマン・ベアード『クランケンシュタイン議員。メルミン、ルソタソ、シュヴィナ、千年大陸と長旅ご苦労だったな。これで最新鋭の魔粒子砲が100門。』

クランケンシュタイン『クーマン殿こそゼムド王国までわざわざ物乞いに身をやつしてまで諜報任務ご苦労様です。』

 

クランケンシュタインは一礼する。亜人議員Bがクーマン・ベアードの方を向く。

 

亜人議員B『ふむ、後は誰が引き金を引くかということだが…。』

 

ハイデールが眉を顰める。

 

ハイデール『この様な場でその話は止めましょう。』

 

笑い声と共に千鳥足で酒の瓶を持ったラドルが登場。

 

ラドル『よ~くあんな馬鹿げた命令に従うことができるものだ。ぎいんさまぁ方は…。』

 

議員達は一斉にラドルの方を向く。

 

ラドル『ああっ、捨て地だったセレノイアの地をここまでにした先祖様の開拓魂と誇りと勇気は何処へいってしまったのだ!!!』

 

ラドルは議員達を指差す。

 

ラドル『議員の殻に籠った臆病もの達め。ハハハハハッ!』

 

獣人議員Bが立ち上がり、眉を吊り上げる。

 

獣人議員B『無礼者!我々に対する何と言う侮辱!確か貴様はオラオンの所の者だったな!!』

 

クランケンシュタインは獣人議員Bに向かって掌を向ける。獣人議員Bは眉を顰め、大きな音を立て着席する。

 

ラドル『ハハハハハ!』

 

ラドルは転んでクーマン・ベアードにもたれかかる。唖然とする議員達。クーマン・ベアードはラドルを見つめる。床に転がる酒の瓶。クーマン・ベアードのふとももに寄りかかり、眼を閉じて寝息を立てるラドル。

 

クーマン・ベアード『…眠ってしまった。』

獣人議員B『ケッ、オラオンのところはえらい奴をやとっているものだな。』

 

クランケンシュタインが立ち上がる。

 

クランケンシュタイン『酒の席の上の事として忘れましょう。今日はこの辺でお開きに。』

 

議員達は顔を見合わせ、席から立ち上がると酒場から出ていく。

 

残るクーマン・ベアードとクランケンシュタイン及びその義兄弟達。彼らはラドルの方を見る。

 

クーマン・ベアード『気持は分からなくもないが…。』

 

クーマン・ベアードはラドルの頭を撫でる。クランケンシュタインはラドルの傍に寄る。

 

クランケンシュタイン『クーマン殿は軍備でお忙しいでしょう。私がこの子を連れて行きましょう。』

 

クーマン・ベアードはクランケンシュタインの方を向く。

 

クーマン・ベアード『ああ、すまんな。』

 

クランケンシュタインの義兄弟達はクランケンシュタインの方を向く。クランケンシュタインは彼らの方を向く。

 

クランケンシュタイン『お前達は帰っていいぞ。私もこの子を送り届けたらすぐに戻る。』

 

ハイデール『解りました。』

スプリヴァ『了解。』

ジャト『はぁ~い。』

イナフォ『分かった。』

 

クランケンシュタインはラドルを背負ってドクガの酒場から出ていく。オラオン邸宅。門前に立つラドルを背負ったクランケンシュタイン。オラオンの妻が重厚な扉より現れる。

 

オラオンの妻『ラドル!』

クランケンシュタイン『酒場で酔いつぶれていたので連れてきました。』

オラオンの妻『ま、まあ…。』

 

オラオンの妻は眼を丸くしてクランケンシュタインの方を向く

 

オラオンの妻『この子が何か粗相を働いたのではないのですか。オラオンと口論になって飛び出していってしまったのです。』

クランケンシュタイン『いえ、その様な事は。』

 

オラオンの妻は胸を撫で下ろす。クランケンシュタインはオラオンの屋敷の玄関にラドルを下ろす。使用人達が寝息を立てるラドルを運んで行く。オラオンの妻がクランケンシュタインを見つめる。

 

オラオンの妻『クランケンシュタイン様。どうぞ中へ大したおもてなしもできませんが…。』

クランケンシュタイン『どうぞお気遣いなく。明日も早い事ですので私はこれで。』

 

クランケンシュタインは一礼するとオラオンの屋敷から出ていく。

 

C3 お酒の勇気

C4 夜間出撃

 

夜の暗闇の中、セレノイア王国メタファ城から出撃する最新鋭の魔粒子砲を装備したブラブラ級機動城塞群。旗艦ヴィートリフの艦橋に居るヴィートリフ、カルデハイフン並びにクーマン・ベアードにオラオンとクランケンシュタイン及びその他議員達。

 

オラオン『ヴィートリフ王!宣戦布告も無しにゼムド王国を攻めると言うのですか!!』

 

ヴィートリフはオラオンの方を向く。

 

ヴィートリフ『ルールを無視するから奇襲というのだ!これよりラッドラク山岳城を攻めるぞ!』

 

カルデハイフンが眉を顰める。

 

カルデハイフン『ラッドラク山岳城!しょ、正気ですか!!』

 

クランケンシュタインが前に出る。

 

クランケンシュタイン『確かに大多数の鉱山を抱えるラッドラック山岳城を攻めればゼムドの収入源は大幅に断たれますが、あの城は豪勇を馳せるコクシの居城。奇襲をするとしても長期戦は必至。後には知将の誉れ高きゼムド国王及びゼムドの双鷲レンゲン、ゼットフが控えております!』

 

獣人議員Cが前に出る。

 

獣人議員C『コクシは自身の財産にしか興味の無い男。奴の所領に攻め入らなければ攻撃してくることも参戦してくることもないでしょう。わざわざ危ない橋を…。』

 

ヴィートリフは獣人議員Cを剣の柄で殴りつけ、議員達を睨みつける。

 

ヴィートリフ『はぁ?だから?』

 

ヴィートリフは自らのこめかみを指さす。

 

ヴィートリフ『あいつらに勝つ為とあらば頭を使ってどのような手段でも使え!!それが臣下の務めであろうが!何のための議員だ?このド無能らめが!さっさと軍を進めよ!』

 

ヴィートリフは軍靴の音を響かせて、艦橋の正面の窓の傍によって両手を腰に添える。顔を見合わせる議員達。

 

旗艦ヴィートリフの露天艦橋に出てくるクランケンシュタイン。傍らにイナフォが居る。クーマン・ベアードが現れ、クランケンシュタインの傍らに寄り、煙草を吹かす。クーマン・ベアードは煙を吐きながらクランケンシュタインの方を向く。

 

クーマン・ベアード『首尾は?』

クランケンシュタイン『上々…。』

 

靴音が鳴り、振り返るクーマン・ベアード、クランケンシュタインにイナフォ。オラオン登場。

 

クランケンシュタイン『オラオン議員。』

 

オラオンは彼らの傍に歩み寄る。

 

オラオン『王の粗暴さには困ったものだ。ゼムドから派遣された前王とは大違いだ。』

 

クランケンシュタインはオラオンから眼を逸らし、露天艦橋の床を見、暫くしてオラオンの方を向く。

 

クランケンシュタイン『…侍従のラドルの姿が見えないようですが。』

オラオン『ラドルは置いてきた。あの子をこの戦いに参加させれば何か事を起こすのではないかと思ってな。』

 

オラオンは露天艦橋の手摺に手をかけて星空を眺める。

 

オラオン『あの子の親兄弟皆…モング国とシラクーザ獣人領との戦いで戦死したのだ。王侯、貴族を守る為のセレノイア王国の捨て地としての役割を全うして…。彼らの愛したセレノイアがゼムド王国に蹂躙されることが許されなかったのだろう。ましてやあのような王では尚更…。』

 

煌めく星空を見上げる一同。クーマン・ベアードが煙草を露天艦橋の床に捨て踏みつぶす。

 

クーマン・ベアード『さて、行くとするか。』

 

一同は露天艦橋より去る。

 

C4 夜間出撃 END

C5 背後の一撃

 

ラッドラック山脈付近シレーン荒地。鳩人の斥候が血相を変えて旗艦ヴィートリフの艦橋へ入り込んでくる。

 

鳩人の斥候『た、大変です!ラッドラック山岳にてゼムド王国の部隊が展開中しております!』

 

ヴィートリフと親衛隊、及び議員達は一斉に鳩人の斥候の方を向く。冷や汗を垂らす議員多数。

 

ヴィートリフ『何!既に奴らが陣を張っているだと!願ってもいないことだ!ノコノコと殺されにでおったな!』

 

カルデハイフンが前に出る。

 

カルデハイフン『き、危険です。』

 

ヴィートリフはカルデハイフンに詰め寄る。

 

ヴィートリフ『はぁ、貴様!この俺様がレンゲンやゼットフに、ましてや後継者に抜擢されたというのにゼムド王にも及ばぬというのか!!』

 

カルデハイフンは両手を振る。

 

カルデハイフン『い、いえ、滅相も!』

ヴィートリフ『ならば勝てるようにしとけ!それが配下の務めだろうが!!』

 

ヴィートリフは配下の親衛隊の方を向く。

 

ヴィートリフ『行くぞ!』

 

ヴィートリフと配下の親衛隊は艦橋から出ていく。艦橋の窓に詰め寄る議員達。暫くして茶色の壮麗なヴェルクーク級人型機構と多数のヴェルクーク級人型機構がラドラック山脈へ向かって進軍していく。カルデハイフンは杖の柄を艦橋の床に叩きつけ、大きな音を出す。

 

カルデハイフン『何をやっているか!我が軍も続かぬか!!』

 

高速で動きだすブラブラ級機動城塞群、前方にはヴィートリフの部隊と展開するゼムド王国のクーメ級機動城塞群と人型機構部隊。ヴィートリフの部隊は壮麗な装飾が施されたクーメ級機動城塞とその前衛に施された壮麗な装飾を持つヴェルクーク級人型機構に向けて突撃していく。カルデハイフンは大声をあげる。

 

カルデハイフン『魔粒子砲を両翼の部隊に向かい発射せよ!』

 

艦橋の右側面の窓ガラスが割れ、ガラスの破片が降り注ぐ。カルデハイフンは割れたガラスの方を向く。

 

カルデハイフン『何事か!』

 

ラドルが現れ、砲主を押しのけて魔粒子砲の標準をヴィートリフの部隊に合わせ、引き金を引く。薄紅色の魔粒子砲が放たれ、ヴィートリフ王の部隊及びゼムド王国国王の部隊を包みこみ消滅させる。唖然とするカルデハイフンと立ちつくす議員達。ラドルは彼らの方を向く。

 

ラドル『フハハハハ!ゼムド王を、ゼムドの血族を殺してやったぞ!!』

 

カルデハイフンはラドルに駆け寄り、杖で殴る。倒れるラドル。

 

カルデハイフン『ななななななななななっ、何ということを!貴様!何と言うことをしてくれたのだ!!こ、国王殺し、並びに王族殺し!じゅ、重罪だ!重罪だぞ!!これは!!』

 

ラドルは口元の血を腕で拭きとり、立ち上がる。

 

ラドル『奴らを倒した私の種族の誇り…。』

 

自らの額の角を握り、へし折り、両手を天に掲げる。クランケンシュタインは眼を見開いて頭に手を当てる。

 

ラドル『お父様、お母様あの世でお受け取りください!』

 

オラオンが駆けより、手をかざす。

 

ラドル『私達の愛したセレノイア…。議会制国王制万歳!!セレノイア王国万歳!!』

 

ラドルはへし折った自身の角を自分の首に突き立てる。ラドルの首から勢いよく鮮血が飛び散り、天井と壁と床を染める。倒れこむラドル。オラオンは血飛沫を浴びながらラドルを抱きかかえる。

 

オラオン『ラドル!』

 

クランケンシュタインは片手で頭を押さえながら歯を食いしばって彼らを見つめる。片手を天井に捧げ、口を動かす血飛沫に染まったラドルの首筋からは空気の漏れる音がしている。オラオンはラドルを揺する。

 

オラオン『ラドル!!』

 

クーマン・ベアードは頭に手を当てて俯く。

 

クーマン・ベアード『ちっ、何て馬鹿げたことを…。』

 

ラドルの口は閉ざされ、上げられた片手は勢いよく床に落ちる。カルデハイフンはその場に崩れ落ちる。

 

カルデハイフン『ど、どうする。どうすればいいのだ!』

 

クランケンシュタインが前に出る。

 

クランケンシュタイン『残存部隊を蹴散らし、ゼムド王国首都に進軍を。』

 

カルデハイフンは眼を大きく見開いてクランケンシュタインの方を向く。

 

カルデハイフン『貴公は現状を把握しておらんのか!!』

クランケンシュタイン『王は勝つ為なら手段を選ぶなと仰せられた。王自らが囮になったのだ!ゼムド国王と双鷲レンゲン、ゼットフ及び猛将コクシを一度に相手をしなければならなくなった。自暴自棄になり、あのような行為に走ったに相違ないでしょう。それでよろしいではないですか。』

 

獣人オペレーターAがクランケンシュタインの方を向く。

 

獣人オペレーターA『ラッドラク城より通電です。繋ぎます。』

 

モニターに現れるラッドラック山岳城城主コクシ。コクシは一礼して口を開く。

 

コクシ『セレノイア王国の方々。ゼムド王国が敗れ、王と親族どもがこぞって戦死したとあらばもはや争う必要はございません。貴殿らが我が領土を保証し、一切の危害を加えぬということであればこのコクシ抵抗は致しませぬし、そちら側に参戦する用意がございます。御配慮の程を。』

クランケンシュタイン『願っても無い申し出。我らセレノイア王国一同、心より歓迎いたします。』

 

カルデハイフンは眼を見開いてクランケンシュタインの方を向く。コクシは不敵な笑みを浮かべる。

 

コクシ『分かりました。では…。』

 

モニターの画像が消える。

 

カルデハイフン『なっ、何を勝手な…。国王が不在なのだぞ!そんな重要な決定を我々がしていいわけが…。』

 

クランケンシュタインはカルデハイフンを見る。

 

クランケンシュタイン『首を挿げ替えても国家は進まなくてはなりません。我々は亡き王の意志を継ぎ、ゼムドの首都まで進軍し、他国の王侯、貴族達に我々の誠意を伝えなければならないのです!』

 

クーマン・ベアードが艦橋の正面の窓に歩み寄る。

 

クーマン・ベアード『ふっ、コクシらしい。』

 

クーマン・ベアードは議員達の方を振り向く。

 

クーマン・ベアード『王の意志に従い、このままゼムド王国首都まで進軍するぞ。王の遺灰を回収するのも忘れるな!』

 

歓声をあげる議員達。呆然としているカルデハイフンとラドルの屍にすがるオラオン。ラッドラック山岳城より出撃した赤い羽根飾りを付けた黒いパラディンヴェルクーク級人型機構を筆頭とする部隊が混乱するゼムド王国の残存部隊に襲いかかる。右往左往するゼムド王国の人型機構や切断されたコックピットから脱出したパイロットを轢きつぶすセレノイア王国ブラブラ級機動城塞群。

 

C5 背後の一撃 END

C6 事後処理

 

ゼムド王国首都ムライトに進軍するセレノイア王国ブラブラ級機動城塞群。獣人オペレーターBが議員達の方を向く。

 

獣人オペレーターB『前方にメルミン王国、及びルソタソ王国の部隊が展開しております。』

 

青ざめる議員達。クランケンシュタインが前に出る。

 

クランケンシュタイン『メルミン、ルソタソ両王国旗艦に繋げ。』

獣人オペレーターA『は、はい。』

 

暫くノイズが発生し、その後にモニターに映るメルミン、ルソタソ両王国の面子。玉座に座る伝説の聖獣ショダ・コーンの角を額に装着したメルミン王国国王ルッソ・メルミンと伝説の聖獣ロッリ・コーンの角を額に装着したルソタソ王国国王ゼンド・ルソタソ。ルッソ側にはセーラー服アーマーに身を包んだ将軍のスカートーと副官のトーサツ、ゼンド側にはエントでボンテージスーツに身を包んだ将軍のハンザイサが居る。

 

スカートーがモニターの画面に近づき、顔がモニターの全面を埋める。

 

ハンザイサの声『おばさん。近寄りすぎ。皺が…。』

 

スカートーは振り返り、ハンザイサに剣を投げつける。避けるハンザイサ。

 

スカートー『じゃかましい!』

 

スカートーは再び振り向く。

 

スカートー『ヴィートリフ王が死亡した今、首都であるムライトに進軍する必要は無い筈!直ちに進軍を止め、本国へ撤退しなさい!』

 

クーマン・ベアードが前に出る。

 

クーマン・ベアード『我々は亡きヴィートリフ王の意志を継ぎ、進軍しているのです!それはできません!』

スカートー『何と!ならば一戦…。』

ルッソ『止めよ。』

 

スカートーがモニターから離れ、ルッソの前に歩み寄り跪く。

 

ルッソ『亡き主君の意を継いで立派な事だ。』

 

ルッソはゼンドの方を向く。

 

ゼンド『しかし、ヴィートリフは粗暴な奴だと聞き及ぶ。そんな奴に義理だてする必要があるのか?』

クーマン・ベアード『粗暴でも我が主君に変わりはありません。我々はただ配下として忠誠をつくすのみ。』

 

ルッソはクーマン・ベアードの方を向く。

 

ルッソ『ムライトも攻めるのか?』

 

クーマン・ベアードは首を横に振る。

 

クーマン・ベアード『いえ、亡き王に義理立てするとはいえ、これ以上の犠牲を強いる事はできません。せめて、王の遺灰を戻りたがっていたゼムドのムライトの地へと…。』

 

ルッソとゼンドは顔を見合わせて頷き、モニターの方を向く。

 

ルッソとゼンドのはもる声『ならば我々が同行しよう。』

 

通信が切れ、壮麗な桃色のヴェルクークが二機、配下の数百機のヴェルクークを伴いセレノイア王国ブラブラ級機動城塞群の前に来る。クーマン・ベアード、クランケンシュタインとその他議員達はブラブラ級機動城塞より降り、彼らの先導の元、ムライトの王宮へ入城する。

 

扉が開き、赤い絨毯の上で赤子のヴィクトリー・ゼムド王子を抱いたゼムド王国王女ルーイン。ルーインは丸く眼を見開く。

 

ルーイン『メルミンとルソタソは貴族連合の名のもとに私達をお守りになるのではないのですか!こ、この様な獣達と一緒に入城するなんて!』

 

ゼンドはルーインの前に出る。

 

ゼンド『この者達はヴィートリフの遺灰を届けに来ただけだ。』

 

ルッソが前に出、ヴィートリフの遺灰の入った箱をルーインに渡す。

 

ルッソ『亡き王の意志を継いだ類稀なる忠臣…。』

 

ルーインは眉を吊り上げ、ルッソとゼンドの方を向く。

 

ルーイン『こいつらは、こいつらは私の家族を殺した人殺しでは無いですか!!それが…それが…類稀なる忠臣!?』

 

ルッソとゼンドは顔を見合わせて眉を顰める。軍靴の音と共にエグゼナーレを抱えたエグゼナッセが大多数の護衛と共にムライト王宮に入場してくる。王の傍らにはコクシ。ルーインはエグゼナッセに駆け寄る。

 

ルーイン『盟主様!盟主様!!どうかこの人殺し達に処罰を!どうか処罰を!!』

 

エグゼナッセはルーインを見下ろす。

 

エグゼナッセ『先程の合戦、自暴自棄になったヴィートリフは自らを囮としたのだ。戦場でのことセレノイア王国重臣達に何の落ち度も無かろう。』

 

ルーインは唖然としてエグゼナッセを見つめる。

 

ルーイン『お、王侯貴族殺しは重罪!この者達は…。』

エグゼナッセ『セレノイア所領の横領と身勝手な振る舞い、挙句の果ては他国まで巻き込んだ親族争い。これではゼムド王国の自業自得である事は明白だ。』

 

ルーインは眼を見開きエグゼナッセを見つめる。

 

ルーイン『そんな…。』

 

エグゼナッセはセレノイア王国議員達の方を向く。

 

エグゼナッセ『セレノイア王国には今後、この様な事が起こらぬように議会制国王制を復活させよう。』

ルーイン『なっ、何てこと!家族を奪ったこの獣達には何のお咎めも無いなんて!!』

 

ルーインは手に持った遺灰を投げつけ、周りにまき散らす。

 

ルーイン『こんなもの!こんなものぉ!!!』

 

泣き叫ぶヴィクトリー。ルーインは膝を落とし、ヴィクトリーを抱きしめ、泣き叫ぶ。

 

C6 事後処理 END

 

END

 


 
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