No.411609

本編補足

根曲さん

・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。

2012-04-20 23:35:23 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:260   閲覧ユーザー数:260

黒き翼の解放者

C1 別れ

C2 新しい場所で

C3 父の居場所

C4 敗残兵狩り

C5 来訪者

C6 レールからの脱出

C1 別れ

 

ロズマール王国レール市の一区画。まばらな人々の影を映しだす街灯。歩道を歩くベラとその娘の蝙蝠獣人とヒューマンのハーフのマリア。テレビの並ぶ電気店を横切る二人。液晶に映る齢98歳のマチェルパチェット元老院議長と名門貴族ヴァシュトヴァル。傍らにはブレイマン伯爵とヴォルフガング・オーイーを含む元老院の者達。

 

マチェルパチェット・ゴーリキ『我が国はゴーガサン荒地において降伏文書にサインを行い…我が国と貴族連合軍の戦争は終結いたしました。我々は寛大なる貴族連合の庇護のもと復興を成し遂げていかなければなりません。』

 

マリアは眼を見開き、青ざめた顔で腕を胸に当てるとテレビの方を向く。2、3歩進先に進んでいたベラは立ち止まり、振り返る。

 

ベラ『早く来なさい。』

 

マリアはテレビとベラの方を何回か見た後、ベラの方に足音を立てて駆け寄る。マリアはベラの方を向く。

 

マリア『お父さん…大丈夫かな。』

 

ベラは無言のまま歩む。街灯に照らされた二人の足元から長く伸びる影。やがてそれは街灯の届かない闇に溶け込む。ライトアップされるバブル・タワー。見上げる二人。文字を模ったライトが様々な色に数分おきに変化している。

 

マリア『…こ、ここは。』

 

ベラはマリアの方を向く。

 

ベラ『しばらくここで預かって貰うことにしたの。』

 

ベラを上目使いに見つめるマリア。ベラはマリアの手を引いてバブル・タワーの裏口へと行く。スキンヘッドのサングラスを掛けた屈強な男が腕組みをし、扉の前に立っている。ベラとマリアのいる方を向き、サングラスを上げ、黒い瞳に二人を映し出す男。

 

ベラ『私ベラと申します。ウェディはいるかしら。』

 

ベラは男に向かってお辞儀をする。スキンヘッドの男は頭を下げ、耳に掛けられたチューブ式イヤホンに向かい口を動かした後、ベラ達の方を向く。

 

スキンヘッドの男『どうぞしばらくお待ちください。ウェディがもうすぐここに来ますので。』

 

扉が開き、ウェディが扉から現れる。ウェディはマリアに近づく。

 

ウェディ『その子ね。話は聞いているわ。お入りなさい。』

 

ウェディはマリアの手を取り、裏口の扉へ向かう。ベラの方を向くマリア。ウェディは手を離す。立ち止まり改めてベラの方を向くマリア。

 

マリア『お母さん…。』

ベラ『早くお行きなさい。何回も言った筈よ。』

 

マリア瞳を潤ませて頷き、バブル・タワーの中へ入っていく。

 

C1 別れ END

C2 新しい場所で

 

バブル・タワー10階のエレベータの扉が開く。現れるウェディ、その後ろにはマリア。正面に現れるメイド服に身を包んだメイド姿の獣人A。

 

メイド姿の獣人A『お帰りなさいませ!御主人様。』

 

アンティークな小物が並ぶ店内、コーヒーを飲む客達とメイド姿の獣人亜人達が周りを見回すマリアの方を向く。マリアは顔を赤らめて一礼する。ウェディの後に続くマリア。ソファに座る客Aが二人の方を向く。

 

客A『ウェディちゃん。今日は私服なの?』

ウェディ『ええ、色々と所用がありまして…。』

 

客Aはマリアの方を向く。

 

客A『その子は?』

 

ウェディは微笑みながら口を開く。

 

ウェディ『今日から入る新入りの子ですよ。』

 

ウェディはマリアの方を向く。

 

ウェディ『じゃあ、行きましょうか。』

 

マリアは軽く会釈してウェディの後に付き、奥の部屋へ入り、そこの扉が閉まる。

 

客A『さっきの子結構カワイイじゃん。今度は蝙蝠っ子か~。』

 

メイド姿の亜人Aが客Aに胸を押しつける。

 

メイド姿の亜人A『もぅ、私というものがありながら~!』

 

客Aはメイド姿の亜人Aの方を向く。

 

客A『おっ、焼きもちやいてくれてるんだ。』

 

メイド姿の亜人Aはそっぽを向いて頬を膨らます。

 

メイド姿の亜人A『そ、そんなのじゃないもん!』

 

奥の部屋の扉が開く。

 

ウェディ『イシュトリッタールを呼んで頂戴。』

 

メイド姿の亜人Aは扉の方を向く。

 

メイド姿の亜人A『あっ、はぁ~い。』

 

メイド姿の亜人Aは厨房の方へと歩いて行く。暫くして厨房から眉間にしわを寄せた巨乳の狼獣人のイシュトリッタールが現れ、靴音を響かせて奥の部屋までゆっくりと歩む。イシュトリッタールは奥の部屋の扉を開け、大きな音と共に扉を閉める。客と従業員達はそちらの方を一斉に見る。客Bが客Aの方を向き、コーヒーを右手ですすりながら左手を掲げる。

 

客B『相変わらず不機嫌そうだね~。モフオッパイは。』

客A『あれでデレれば可愛いんだが…。』

客B『デレたところを一度も見たことが無いんだが…。』

 

奥の部屋の扉が開く音。客達は奥の部屋の方へ目を向ける。奥の部屋から現れるメイド服に身を包んだ姿のマリア。その後ろからイシュトリッタールとウェディが出てくる。マリアは客の方を向いて一礼する。

 

客C『おおっ。』

客D『これはこれは…。』

客A『かわいいねぇ。』

 

マリアは顔を赤らめる。ウェディはイシュトリッタールの方を向き、微笑む。

 

ウェディ『後は頼んだわよ。』

 

イシュトリッタールは頷く。マリアはイシュトリッタールの方を向き、一礼する。

 

マリア『宜しくお願いします。』

イシュトリッタール『あ、ああ。』

 

C2 新しい場所で END

C3 父の居場所

 

ブブル・タワー10階厨房。皿を洗うイシュトリッタール。マリアが厨房に入って来る。マリアの方を向くイシュトリッタール。

 

イシュトリッタール『ああ、マリアか。少しは慣れた?』

マリア『ええ。だいぶ…。』

 

マリアはイシュトリッタールの方を見つめる。

 

マリア『そういえばイシュトリッタールさんって毎日厨房にいますね。』

イシュトリッタール『ああ、こんなことをしている場合ではないのになぁ…。はぁ。ロズマールの敗戦、イレジスト王の増税…、敗残兵狩りに魔竜教の台頭。こんなにも世界は混沌とし、時代は私を必要としているのになぁ。』

マリア『は、はぁ…。』

イシュトリッタール『何の為に獣人の身でありながらロズマール王立大学を首席で卒業したのか…。こんな所で皿洗いする為ではない。私はクロノウスを支えたウィオウとゼーテスに匹敵する能力を持っているのに…。』

 

マリアは苦笑いを浮かべ、皿に盛り付けられているサンドウィッチをトレイに乗せる。

 

マリア『あの…イシュトリッタールさん。これもらっていきますね。』

イシュトリッタール『あ、ああ。』

 

マリアはトレイを持ち、客Aと客Bが座る席へと歩いて行く。

 

客A『おおっ、マリアちゃんが運んできてくれたか。結構様になってるね。』

マリア『そ、そうですか。ありがとうございます。』

 

客Bが厨房の方を向く。

 

客B『相変わらずモフオッパイは厨房に引きこもりか…。』

マリア『そ、そうですね。』

 

マリアはサンドウィッチの盛り付けられた皿を置くと苦笑いを浮かべて厨房へと引き返す。厨房の隙間から椅子に座り、コーヒーを飲んでいる客Eと客Fを見つめるイシュトリッタール。マリアがその傍らに寄る。

 

マリア『どうしたんですか?イシュトリッタールさん。』

 

イシュトリッタールはマリアの方を向く。

 

イシュトリッタール『んっ、いや、あいつらの話ではどうやらこの地に黒き翼の解放者が来ているらしい。』

 

マリアはイシュトリッタールの方を上目遣いに見る。

 

マリア『黒き翼の解放者?』

イシュトリッタール『知らないのか?ローレル市で大規模なデモ行進をした指導者で蝙蝠獣人の革命家ガギグルスだ。』

 

マリアは眼を丸く見開く。

 

マリア『ガギ…グルス!!』

 

客Eと客Fは立ち上がり、レジへ向かう。マリアは彼らを追いかける途中で転ぶ。彼らは会計を済まして、エレベータに乗り込む。エレベータの扉が閉まり、機械音が響く。客Cがマリアに手を貸す。

 

客C『大丈夫かい。マリアちゃん。』

マリア『え、ええ。』

 

マリアは客Cの方を向く。

 

マリア『あ、ありがとうございます。』

 

マリアは客の方を向いて一礼すると、厨房へと戻っていく。

 

C3 父の居場所 END

C4 敗残兵狩り

 

バブル・タワー10階展望ラウンジ。翼を広げ、下を見つめるマリア。ウェディがイシュトリッタールと共に現れる。

 

ウェディ『マリア。何をやっているの?』

 

マリアは顔を上げ、ウェディとイシュトリッタールの方を向く。

 

マリア『私はお父さんの無事を確かめたいんです。』

イシュトリッタール『馬鹿な事は止めろ。だいたい。君の父君かどうかも、居場所さえ分からないだろ。』

 

マリアは無言で俯く。

 

ウェディ『外は危険よ。獣人、亜人に対する風説が飛び交っているから。』

 

マリアは手摺から下を見る。マリアの眼下に獣人の少年兵Aが市民達に追われている光景が映る。マリアは眼を見開き、翼を羽ばたかせてバブル・タワーから降りていく。

 

イシュトリッタール『マリア!おいっ、マリア!!クッ!!』

 

マリアは急降下して獣人の少年兵Aを抱えると低空飛行でビルの路地へと消えていく。

 

市民A『どこにいった!』

市民B『あっちだ!あっち!捕まえろ!!』

 

マリアは獣人の少年兵Aを抱えながらゴミ捨て場に頭から突っ込む。起きあがる二人。獣人の少年兵Aはマリアの方を向く。

 

獣人の少年兵A『あ、ありがとう。』

 

マリアは獣人の少年兵Aの方を向く。

 

マリア『大丈夫ですか?お怪我はありませんか?』

 

マリアを見つめる獣人の少年兵A。

 

獣人の少年兵B『おい!大丈夫か!!』

 

路地の暗闇から獣人の少年兵Bが現れる。獣人の少年兵Bは二人の所まで来ると歩みを止め、マリアを睨み付ける。

 

獣人の少年兵B『お前、あの貴族どもが集う建物から降りてきたな!』

 

獣人の少年兵Bはマリアの胸倉を掴む。獣人の少年兵Aは彼らの傍へ駆け寄る。

 

獣人の少年兵A『に、兄さん止めよ!この人は僕を…。』

獣人の少年兵B『汚らわしい売女め!』

 

獣人の少年兵Bはマリアから乱暴に手を離し、彼女の方を向く。

 

獣人の少年兵B『俺はこいつが許せない!俺達は…俺達は故郷の為に前線で、死に物狂いで命をかけて戦った!沢山の仲間達が血まみれになって苦しんで死んでいったんだ!なのに…なのに僕らが…懸命に戦った僕らが現場でサボタージュをし、見えざる獣人・亜人勢力の手の攪乱によってこの戦いに敗北したと貴族どもは吹聴する!!その薄汚い貴族どもに媚び諂ってのうのうと生きていられるこいつが!!!』

 

マリアは口に手を当てる。潤んだ瞳から滴が零れ、地面を2、3滴濡らす。マリアは涙を腕で拭きながら、駆けて大空に向かって飛んでいく。

 

C4 敗残兵狩り

C5 来訪者

 

バブル・タワー10階。

 

ウェディ『こ、困ります。今すぐにいらっしゃられても…。』

 

奥の部屋からウェディの声。

 

ウェディ『あ、はい。しかし、こちらにも準備というものが。』

 

奥の部屋の扉の前に居るイシュトリッタールとマリア。エレベータの扉が開く音。軍靴の音が鳴り響き、店内の者達はエレベータの方公を向く。レールのシーネ侯爵とその妻であるベラが現れ、後に続く胸に緑光の勲章をぶら下げたブライドン大佐と兵士多数。マリアはベラの方を向く。

 

マリア『お、お母さん!』

 

シーネは部屋を見回す。

 

シーネ『ふむ、悪くは無い趣味だ。』

 

ウェディが奥の部屋から飛び出してくる。唖然とするウェディ。ベラがウェディの傍らに歩み寄る。

 

ベラ『事情が変わったのよ。あの子を引き取りに来たの。』

 

シーネはメイド服に身を包む獣人と亜人達を見回す。

 

シーネ『なあに、マリアさえ渡してくれさえすれば、ここの経営をわしが支援してやろう。』

 

ウェディはマリアの方を向く。

 

ウェディ『お気持ちは嬉しいのですが、本人が納得するかどうか…。』

 

ベラが前に出る。

 

ベラ『私に話をさせて頂戴。』

 

ベラはシーネの方を向く。

 

ベラ『シーネ様。二人きりで話した方がいいと思うの。よろしいかしら。』

 

シーネは頷く。

 

シーネ『うむ。いいだろう。』

 

ベラはマリアの方へ歩み寄る。

 

ベラ『マリア。こっちへ来なさい。』

 

マリアは首を傾けてベラの方へゆっくりと歩み寄り、二人は奥の席へ座る。ラウンジにまばらに集う軍人達。椅子に腰かけ煙草を吹かすシーネ。

 

ベラ『マリア。私、再婚したのよ。』

マリア『再婚!?』

 

ベラはシーネの方を向く。

 

ベラ『お相手は誰か分かると思うけど、あの方よ。』

 

ベラはマリアの方を向く。

 

ベラ『シーネ公は魔術の大家。魔術における体系と理論を著した著名人であり、名門貴族よ。あなたには苦労の無い生活を送ってもらうことができると思うの。』

 

マリアは眼を見開く。

 

マリア『お、お父さんは!?』

ベラ『ブラインドヒルの戦いで消息不明よ。』

マリア『消息不明…。ま、まだ生きているかもしれないのに再婚するなんて!生きてる。きっとお父さんは生きてるよ。お母さん。革命家で蝙蝠獣人のガギグルスって人がこの地に来てるってお客さんが言ってたもん。だから…。』

 

ベラは眉を顰める。

 

ベラ『分かって欲しいの!お父さんが居なくなってから私はあなたを養っていくのに必死だった。来るか来ないか分からない夫を待ち続け、毎日毎日安月給で働き続け、とうとうあなたをここへ預けるしか方法が無くなってしまった…。』

 

ベラはハンカチーフを取りだすと、目じりの涙を拭きとる。マリアは俯く。

 

マリア『…ごめんなさい。私、私そうとは知らずに…。』

ベラ『あなたが嫌であればそれでいいのよ。勝手に再婚の道を選んだ私がどうこう言う資格は無いわ。ただ、シーネ様は良いお方よ。こんな私にもお力を貸して下さり、親身になって接して頂いて。再婚まで…。』

 

マリアは顔をあげる。

 

マリア『…私、行きます。だってお母さんの力になりたいんだもの。』

 

砲撃音。

 

砕け散るバブル・タワーの壁。瓦礫となった天井が逃げ惑う人々を襲う。ベラはテーブルの足に躓き、体がマリアに当たる。マリアはよろめいて尻もちを付く。マリアの方に手を向けるベラ。頭上の瓦礫がベラを押しつぶす。鈍い音。血飛沫が飛び、返り血を身に受けるマリア。マリアは眼を見開き、その場に崩れ落ちる。瓦礫からゆっくりと赤い血が溢れ、マリアの方へ伸びていく。

 

マリア『いやあああああああああああ!お母さん!!お母さん!!』

 

シーネとブライドンは小型ヘリに乗り込み、バブル・タワーから離脱する。砲弾の音、飛び交う実弾。唖然としているマリアをさするイシュトリッタール。

 

イシュトリッタール『おい!マリア!マリア!』

 

マリアの虚ろな瞳は空を映している。大型ヘリが多数現れ、ロズマール王国兵士達が逃げ惑う人々を収容していく。片角が欠け、顔面に切り傷を多数つける羊獣人のヨーデルが二人に駆け寄る。

 

ヨーデル『おい!ここは危険だ。早く来い。』

 

イシュトリッタールはヨーデルを見る。ヨーデルはイシュトリッタールを見た後、マリアを見る。

 

ヨーデル『ちっ、さっさと行くぞ。』

 

ヨーデルはマリアを担ぐとイシュトリッタールと共に大型ヘリに乗り込む。大型ヘリ群は爆炎に包まれるバブル・タワーを背にその場を離れる。大型ヘリの格納庫。青ざめ、虚ろな眼をして座るマリアに寄りそうイシュトリッタール。

 

ウェディ『いったい…何が起こったの!!?』

 

操縦席のパイロットの傍らに立つヨーデルは後ろを振り向く。

 

ヨーデル『オンディシアン教国が攻め入ってきた。』

 

ウェディをはじめ、大型ヘリに収容された人々の表情が青ざめる。

 

市民C『教国が…。』

ヨーデル『詳しい事情は良く分からん。貴族にでも聞いてくれ。ともかくこのまま基地まで直行する。』

 

ヨーデルは前を向き、ヘリのパイロットに指示を出す。砲弾の飛び交う中、大型ヘリ群は旋回音を響かせて低空飛行で市街地に潜り込む。

 

C5 来訪者 END

C6 レールからの脱出

 

人混みで溢れかえるレール市軍事基地。プロペラを旋回させる音響と共に大型ヘリが降り立つ。ざわめき。市民達に取り囲まれるロズマール王国軍人で犬獣人のヴロイヴォローグ。

 

市民D『おい!どういう量見だ!あそこにでかい機動城塞があるのに!』

ヴロイヴォローグ『あれには貴族や上流階級どもが傭兵と共に乗っているんだよ。』

市民E『だから、どうした。魔術の大家シーネ公も居るという話じゃないか。』

市民F『俺達が行けばきっとわかって下さる筈だ。』

ヴロイヴォローグ『止めとけ、近づいただけで貴族や上流階級に雇われた奴が発砲してきやがるぞ!』

市民E『そんな馬鹿な筈があるものか!』

 

市民数人が停泊しているドラケン級機動城塞及びテイガー級機動城塞に駆け去っていく。

 

ヴロイヴォローグ『行くんじゃねえ!死ぬぞ!!』

 

ヴロイヴォローグは彼らから眼をそらす。

 

ヴロイヴォローグ『ちっ、馬鹿どもが…。』

 

多数の銃声。頭を抱え伏せる市民達。緑色の壁が大気中に現れ、銃弾を弾く。

 

ガギグルスの声『早く戻れ!』

 

市民達は起きあがると急いで元の場所へと向かう。

 

市民F『ど、どうなってるんだ。あそこには魔術の大家シーネ公がおられるのに…。』

 

市民達の前に現れる蝙蝠獣人のガギグルス。

 

ガギグルス『魔術の大家だと。笑わせる。奴の書いた本は俺の研究の盗作だ。』

市民E『なっ、何だって!』

市民D『そ、そういう貴様は何者だ!』

ガギグルス『ああ、俺か?俺はガギグルスだ。』

市民F『ガギグルス!あっ、あの黒き翼の解放者と言われる…。』

ガギグルス『兎にも角にもまずはここに居た方が無難だ。』

 

市民達は顔を見合わせて俯き、人混みの中へ消えていく。ヘリの中のマリアの眼は見開き、立ち上がる。

 

イシュトリッタール『おい、マリア…。』

 

大型ヘリの格納庫から出ていくマリア、追うイシュトリッタール。黒き翼をはためかせヴロイヴォローグの横に降り立つガギグルス。ガギグルスはヴロイヴォローグの方を向く。

 

ガギグルス『久しぶりだな。親父。』

 

ヴロイヴォローグはガギグルスの方を向く。

 

ヴロイヴォローグ『何だ、お前。この地に来ていたのか。俺に会いに来れば歓迎してやったのに…。』

ガギグルス『歓迎?どっちの意味で?』

ヴロイヴォローグ『そういえば、お前指名手配されてたからな。ハハハハハ。』

 

ガギグルスは苦笑いを浮かべる。ホルスタイン獣人のバクゥーガが前に出る。

 

バクゥーガ『大尉、何とかゼームス級機動城塞なら多数手配できました。が、少し問題が…。』

 

バクゥーガはガギグルスの方を向く。

 

バクゥーガ『その人は?』

ヴロイヴォローグ『前の戦での連れだ。』

 

バクゥーガの後ろに立つマリア。彼女の両肩に手を添えるイシュトリッタール。ガギグルスは眼を見開いてマリアを見る。

 

ガギグルス『マリア…。』

 

マリアの瞳に映るガギグルス。彼女の眼には涙が溜まり、暫くして溢れだす。

 

マリア『お父さん…。』

 

マリアは崩れ落ち、駆け寄り彼女を抱き抱えるガギグルス。彼の胸の中で泣きじゃくるマリア。

 

マリア『お母さんが…お母さんが!うわあああああん。』

 

黒いヴェルクーク級人型機構が現れ、コックピットのハッチが開いて現れる赤猫目のゼオン・ゼンゼノス。傍らには女性のドグラマが居る。

 

ゼオン・ゼンゼノス『赤猫傭兵団の者だ。ゼームス級機動城塞35隻持ってきたぞ。』

 

ヴロイヴォローグは頭を抱える。

 

ヴロイヴォローグ『傭兵団に頼んだのか…。』

バクゥーガ『も、申しわけありません。人手が足りず…。』

ヴロイヴォローグ『…ちっ、仕方ねえ。分かった。俺が何とかしよう。』

 

ゼオン・ゼンゼノスは黒いヴェルクーク級人型機構のコックピットから降り立つとヴロイヴォローグの方へ向かう。紅の改造されたゼームス級機動城塞が現れ、ハッチから赤猫傭兵団団員達が降りてくる。ゼオン・ゼンゼノスの赤い猫目はヴロイヴォローグを捉える。

 

ゼオン・ゼンゼノス『貴殿がここの指揮官か?』

ヴロイヴォローグ『…いや、そうではないが…不在の為に任せられている。さっきの仕事の報酬だが…いい仕事を紹介してやるからそれで報酬の方は勘弁してくれ。あっちに貴族や上流階級の乗る機動城塞がある。傭兵団としての名乗りをあげれば発砲されることも無く受け入れられるだろう。』

 

ゼオン・ゼンゼノスはドラケン級機動城塞やテイガー級機動城塞の立ち並ぶ方を向く

 

ゼオン・ゼンゼノス『どうやらあちらの兵力は事足りているようだ。』

 

ゼオン・ゼンゼノスは人混みの人々を見る。

 

ゼオン・ゼンゼノス『脱出を急がさなければ砲撃の後は突撃してくるぞ。どの道脱出するのは我々も同じだ。我々は彼らに同行しよう。』

 

ゼオンの傍に寄る赤猫傭兵団のザーコと星の眼帯をはめたウルティミュトス。

 

ザーコ『おいおい。無報酬でこんな仕事を請け負うのかよ!前の仕事の報酬も貰っていないんだぜ。』

ウルティミュトス『隊長。絶対にあっちの方が楽して儲けれますって。』

 

ゼオン・ゼンゼノスは腕を組み、赤猫傭兵団員達の方を見る。

 

ゼオン・ゼンゼノス『元々ゼームス級機動城塞は打ち捨てられたものを拝借したものだ。無傷でこれだけの量を売却すれば報酬になる。』

ザーコ『おおっ、確かに!そうかそうか。それはいい考えだ!………えっ?無傷で?』

 

ウルティミュトスはアホ毛を引っ張りながらゼオン・ゼンゼノスの方を向く。

 

ウルティミュティス『まあ、隊長は頑固者だから仕方ない。間違った判断もしないしな。』

 

赤猫傭兵団員達は頷く。

 

ゼオン・ゼンゼノス『では、決まりだ。』

 

ゼオン・ゼンゼノスはヴロイヴォローグの方を向く。

 

ゼオン・ゼンゼノス『こちらの話はまとまった。』

 

ヴロイヴォローグは一礼する。

 

ヴロイヴォローグ『すまねえな。恩に着る。』

 

ゼオン・ゼンゼノスは赤猫傭兵団員達の方を向く。

 

ゼオン・ゼンゼノス『よし、準備に取り掛かろう。』

 

ゼオン・ゼンゼノスの後ろ姿を見つめるイシュトリッタール。ヴロイヴォローグは軍人達の方を見る。

 

ヴロイヴォローグ『ここにいる奴らをゼームス級機動城塞へ手早く誘導させろ!その後はこの街を死守する!いいな!!』

軍人一同『了解!』

 

軍人達は民間人をゼームス級機動城塞へと誘導する。ヴロイヴォローグはガギグルスの方へ歩み寄る。

 

ヴロイヴォローグ『ガギグルス。俺達は奴らの攻撃をここで食い止める。脱出する奴らの事を頼んだぞ。』

 

ヴロイヴォローグを見るガギグルス。

 

ヴロイヴォローグ『貴族領に逃げ込むとしても今の世論ではな…。お前もまだ指名手配中だし、まあ、ともかくガグン公に会え。』

ガギグルス『ガグン公か…。貴族の中では最も信頼のおける人物。しかし、何処に居るのか分かるのか?送還されてからの消息は不明らしいが。』

ヴロイヴォローグ『売春宿で知り合った黒巫女の話じゃ、ロズマリー市の新興宗教導魔教の用心棒をやっているという話だ。信憑性はかなり高い。』

 

ドラケン級やテイガー級機動城塞群がエンジンの唸りと共に動きだす。

 

ヴロイヴォローグ『おおっ、貴族達め、高価な備品を全て積み込み終わったらしいな。』

 

エントのモクジンがヴロイヴォローグの方を向き大声をあげる。

 

モクジン『親父!オンディシアン教国の人型機構の反応多数!数分後にはこちらへ来ます。』

ヴロイヴォローグ『ちっ、誘導はどこまで進んでいる!』

 

ヨーデルが叫ぶ。

 

ヨーデル『もう少しだ!親父!!』

 

ヴロイヴォローグはガギグルスの方を向く。

 

ヴロイヴォローグ『時間がねえ、さ、行った行った。』

マリアは口を開け、眼を見開いてヴロイヴォローグの方を見る。ヴロイヴォローグはマリアの頭を撫でる。

 

ヴロイヴォローグ『心配するな。嬢ちゃん。相手の指揮官はオンディシアンの若獅子とたいそうな異名を持つ野郎らしいが馬上試合しか経験のない青二才よ。おっちゃん達が負けることはないぜ。』

 

ゼームス級機動城塞に乗り込むガギグルスとマリア。ゼームス級機動城塞のハッチが閉じる。人型機構の機動音と銃撃が鳴り響き、ゼームス級機動城塞が揺れる。艦橋に駆けあがるガギグルスとマリア。

 

オンディシアン教国の部隊の攻撃を受けるドラケン級機動城塞艦橋から緑光の輝きが漏れる。ゼームス級機動城塞の艦橋で、それを見つめる人々。

 

市民E『方向を間違えたんだ!馬鹿な貴族め!』

 

ガギグルスに寄りそうマリアの眼には遠ざかる七色に輝き、オンディシアン教国の砲弾と人型機構の斬撃を雨あられと受けるドラケン級機動城塞の姿が映っている。

 

C6 レールからの脱出 END

 

END

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択