No.413774

アーク・エレメンタール・ブラッド 1話「はじまり」

カーネルさん

高校生、海宁鴻樹はふとした事から命を狙われる。
両親や兄弟と引き離され、友人たちの反対をよそに、闇の組織との闘争に身を委ねていく。

海宁鴻樹 かいね こうじゅーーーー 高校生
新堂門要 しんどう ようーーーーー 高校教師・鴻樹と泪華の担任

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2012-04-25 02:32:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:395   閲覧ユーザー数:382

「なんだって俺を走らせんだよ!」

俺こと海宁鴻樹は全力で走り続ける。

背後には俺を本気でこの世から断絶せしめようとする者が迫る。

「何だってこんな夜中にっ…はあっ」

息をついた一瞬、空を切り裂く音とともに魔弾が頬を裂いた。

魔弾の射手は俺の担任だった男、新堂門要。英語教師、元仏外人部隊、異能者。

そんなタフガイに追われているのが普通の高校生。普通の小中学を普通に卒業し、普通の男女共学の市立高に通う、ちょっと頭の悪いのが欠点だが保健体育と体育の成績はいい方で、それなりに友人に恵まれ…

 

「…いてぇえッ!」

俺はアスファルトに鮮血を散らしながらぶっ倒れた。

足首を担任の弾丸が貫いたらしい。

着弾と同時に魔弾の運動エネルギーが全身を駆け巡ったのだと感じた、頭はガンガンするし、凄まじい脱力感と、吐き気で立ち上がれそうもない。

「あ、うあ…」

足音が近づくに連れ、心臓の鼓動が早まっていくのを感じる。

俺は…。

 

「貴様、海宁鴻樹…俺は生徒である貴様を殺すが、恨むなよ」

鴻樹の背後にはかつての担任教師が右腕と言うには禍々しい、歪な武器を構えて立っていた。

その姿は月明かりと街灯に照らし出され、よりいっそう禍々しい。

肉体の限界まで研ぎ澄まされたギリシャ神話の体躯、フォーマルなスーツが筋肉にピタリと張り付き、たくましい輪郭を隠す事は出来ない。

右腕は一見して無機物であるような金属の鈍い光沢と、長い銃身、ライフルの照準器のようなものが生えてい、しかし呼吸や筋肉にあわせて伸縮をしている。

長身痩躯、そして生命を絶つ為だけに備わった器官は見るものに新堂門要の不破を裏付ける。

 

恨むなよ、だって?

殺して恨むなとは…傲慢な…

勝てない、どうしようもないこの状況。

人生の長き時間を生存闘争に費やし、肉体と精神を磨き上げた殺戮者と、十半ばの俺。

俺は、まだ生きたい。

 

「力を持っているやつは皆この剛腕で捻り潰してきた。欧州にいたときもな。さらに俺は地獄の戦場でこの力を手にした。その時から敵はなくなった。たとえ異能者が世界でも多いこの碧間山市でも俺は頂点に立てる。だが、成人の異能者は少ない。だから教師になり、異能者が生徒にいたら排除してきた。」

 

くっ。

ついてねぇぜ。

昼間上級生に絡まれた時、一瞬俺の能力である紫電をちらつかせ、異能者である事を見せ付け、事なきを得た。

それを担任は気配を完全に消し去り、視ていた。

楽しい事、まだやりたりないのにっ

 

 

「先生助けと」

身体が少し回復してきてやっと声を絞り出し、アスファルトに伏したまま懇願する。

 

「話を聞いてなかったのか?異能者は潰す!スイカみてーに脳漿ぶちまけやがれクソガキ!」

 

チャンバーに弾丸が正確に装填される。その精密な音が妙に心地よい。死を間際にそんな事を考え…

 

 

 

「やめなよ先生、大人が学生を追いかけ回すなんて。」

 

聞き慣れた声が近くでする。それは、その人物が近しい故に思考に先行しイメージの中に能動的に浮かび上がり。

 

「る…い…」

幼馴染の千舎宿泪華だった。

「くるなァッ!」

絶望の黒煙が腹部から広がり、衝動に俺は吠えた。

巻き込めない、見られたからには新堂門要は確実にるいを殺すだろう。

こいつは人間の殻を被ったマシーンに他ならない。

目的のために人間性をあっさりと捨て去り、障害を爆薬で吹き飛ばして突進する。

 

「コウ!あんた“も”異能なんでしょ。動けるなら助太刀して!」

 

「るい!まさかお前も!」

 

千舎宿泪華の白い右手が不定形に歪む。液体のように色を失ってゆく。

 

「気配は感じたが音は聞こえなかった理由はそれか、水精女の水瓶(ウンディーヌ・オブ・アクエス)のアーク、か?

 生徒よ。俺は千の敵をこの剛鎚の昇天(スレッジハンマー・オブ・アセンション)で粉砕し、生まれ持った器官のように違和感なく精密にコントロールするまでになったのだ。能力の有無は俺の境地では問題にならん!コントロール出来なければ意味がない。」

 

「ならそのご大層な力で私たちを殺すのよっ!」

 

「貴様らの軟弱な肉体には過ぎた玩具だからだ、何も苦労もせず得た力など身を滅ぼす。俺がこの腕で滅ぼす。」

 

「老醜を晒してんじゃないわよ!ほっといてよ!」

 

「お前らよせ…」

 

ハッ

そうか、るいは時間を稼いでくれていたのか、手負いの俺を回復させる為に…!

 

 

「水の精霊、曙の靄を現象せしめよ、ミストアウトォーッ!」

 

その時、靄と言うにはあまりに濃く、霧よりも煙や蒸気機関車のポンポンから噴射されるかのようなおびただしい水煙が視界をホワイトアウトさせた。

その後やんわりとした物体(水精女化した泪華の腕だった)に抱きかかえられ、その場を後にした。

先生に脚を撃ち抜かれた場所は超濃霧に覆われ、ミストアウト発動を中心に目測でおよそ1kmは白く覆われていた。

 

「なんてこった。なんて凄いんだ」

 

 

 

抱えられて着いた先は我が家の軒先で、るいは、向かいの我が家から救急箱を取りに行っている。

 

「クソクソクソッ!」

 

昨日まではそれほどバラ色ではないが苦労もなく順調な学校生活を送っていたっ

それが放課後から崩れ去った。

校門から下校し、1ブロック歩き、右に曲がって、ふと振り向くと、密林にいるマウンテンゴリラのような筋繊維を、ソーセージのように怒張させた新堂門要先生が見た事もない灰色の目をして直立不動していた。

そこからハンティングゲームが始まり、深夜まで獲物(俺ね)を追い回し、スタミナを枯渇させ、いつのまにか無骨な重火器に変貌した右腕で脚を撃ち抜き…。

 

命を救われたな(You saving my life)

 

救急箱を持ってきて、俺の脚を治療してくれている千舎宿泪華にそう告げた。

 

「どうして戦わなかったの」

 

「は!」

 

「コウ、あんたの雷鳴の将校(サンダー・ラウドネス・センチュリオン)のアーク。それは、ファッションじゃないのよ!武器なの、身を守る力なのよ!」

 

「それは…、俺は(I am)。」

 

 

 

 

 

 

 


 
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