No.413750

One

星 倫吾さん

タイトルは某エロゲーからじゃないんだよ、ミュージカル「コーラスライン」のナンバーからだもん! 4月24日は島村さんのお誕生日と聞いて、遅れ馳せながらSSを書いてみたり。巷では無個性コンビと噂される(失礼!)春香と卯月が、アイドルの先輩後輩という関係だったら……と、お話を考えてみたり。面倒見が良い春香さんはアニマスの影響ですね~。

2012-04-25 01:42:24 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1259   閲覧ユーザー数:1244

「急遽キュートチームの君たちに招集をかけたのは他でもない」

十数人の少女達が詰めかけたスタジオに、プロデューサーの声が響く。

「“急遽(きゅうきょ)”と“キュート”って……。プロデューサー、楓さんのオヤジギャグが伝染したのかな?」

「シッ、聞こえるよ……」

「これから、次回フロントメンバーの選抜オーディションを行う。各自着替えて15分後にレッスン場に集合!」

 

シンデレラガールズで活動して早5ヶ月経ち、

同期かつ同い年のメンバー何人かはフロントメンバー入りし、ソロCDデビューを果たしているというのに、

私はまだ一度もフロントメンバーになったことがない……。

このオーディションで今までの努力の成果を見てもらって、今度こそフロントメンバーになるんだ!

卯月は早々と着替えを済ませ、準備運動を始めた。

 

 

オーディションが終り、流した汗が上気した熱気と緊縛した空気とが、板張りのスタジオを満たす。

「今から名を呼ぶ者は、起立。島村、今井、柳瀬、長富……」

やった! 私の名前が呼ばれた!

プロデューサーが無機質にメンバーの名を読み上げる。

しかし、その数は合格者枠のよりも多く……。

「……以上の者、ご苦労さま。残った者、おめでとう! ミーティングを行うのでこのまま待機すること」

 

ゴクロウサマって、私、また選抜メンバーになれなかったんだ……。

 

トレーニングウェアを丸めるようにバッグに詰め、足早に更衣室を出た。

ある者は悔しさを押し殺し、ある者は憤りをそのまま声に出してまき散らし、

負の感情が渦巻く空気に飲まれる前に抜け出したかったからだ。

 

「それでは、お疲れさまでした~って、きゃあああ!」

どんがらがっしゃーん!

出会い頭に卯月がぶつかったのは……

「あいたたた、今日は全然転ばなかったのに、ここでコケちゃうなんて~。

 あ、大丈夫ですか、怪我はありませんか?」

「大丈夫です、こちらこそよく前を見てなくて……って、天海春香さん! 

 あ、スイマセン、スイマセンっ!」

「あなたは……シンデレラガールズの島村卯月さん、ね」

「……!」

「あ、膝、すりむいてる。ちょっと待ってて、絆創膏持ってくるから!」

「その、お構いなく。たいした怪我じゃないし、天海さんだってお忙しいでしょうから」

「ダメだよ、私たちアイドルなんだし、人に見られるお仕事しているんだからさ、

 かすり傷でもちゃんとケアしないと……」

「いいんです、私に仕事なんて……」

言葉に詰まり、その代わりに涙が出て来ちゃって……。

「どうしたの? 私で良かったら、話、聞くよ?」

 

 

 

「すいません、こんなつまらない話しちゃって」

「そんなことないよ。身体の傷も、心の傷も、ちゃんとケアしないと痕が残っちゃうから。

 泣きたいときは思いっ切り泣いちゃった方がいいよ。

 私も、卯月ちゃんの気持ち、よく分かるから……」

「えっ、春香さんが、ですか……?」

天海春香と言えば、日本中の誰もが顔と名前を知っているほど、今をときめくトップアイドル。

同じアイドルでも、私と比べたら雲の上の人……なのに、

今は膝をつき合わせてお話しているなんて。

「春香でいいよ、同じ年なんだし。

 私が765プロに来た頃は、事務所も今より全然小さくて、

 専用レッスンスタジオもないし、トレーナーさんもプロデューサーさんもいなかったし、

 だから、デビューしても半年は全然売れなくて、お仕事もなくて。

 オーディションに落ちたことだって、何度も」

「春香さ……いえ、春香はアイドルやめちゃおうとか、思わなかった?」

「ううん。やっぱり私、歌を歌うのが好きだし、歌を歌っているときが一番楽しいし。

 私、お家遠いから、レッスンのために東京まで来るのも大変だったし、

 私より歌やダンスが上手い子やスタイルが良い子も周りにいたし、卯月ちゃんのように、私も悩んでた」

「……」

「それにね、卯月ちゃんは気付いてないけど、今ここに、シンデレラガールズにいること自体、チャンスなんだよ。

 今日は残念だったかもしれないけど、プロデューサーさんに今の卯月ちゃんの実力を見てもらった事は、

 決して無駄にならないよ。次のオーディションまでに、歌もダンスももっと上手くなるように努力してさ、

 プロデューサーさんを見返してやろうよ!」

「無駄じゃ、ない……」

「シンデレラガールズ自体、未完成のカタマリなんだから。

 未完成ということはこれから伸びるという可能性のカタマリなんだって!

 ……あ、これはプロデューサーさんの受け売りなんだけどね。

 卯月ちゃんの課題は、『自分はフロントメンバーになれない』とか絶対口にしないこと。

 逆に、私は絶対フロントメンバーになるんだ!って信じる事

 人間って、不思議と思ったり言葉にすることで、それが本当になっちゃうから、だって。

 あ、これも……」

「プロデューサーさんの受け売り、ですか?」

春香と二人で顔を見合わせて笑って、そうしたら、私の心のもやもやはすっかり消えていました。

 

 

 

「おはようございます、プロデューサーさん」

「おはよう、島村。今日は早いな」

「はい。プロデューサーさん、私、精一杯頑張りますから、一緒に夢叶えましょうね♪」

 

 

【終】


 
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