No.413698

そらのおとしものショートストーリー4ht お前が一番動物園のお姉さんを邪魔に思っていたのではないかい

水曜定期更新

何故か些細な指摘が来るので、今回は本作品に出てこないそらおとキャラの紹介にしました。これならツッコミはないでしょうっ!

ちなみに言うまでもないと思いますが、これはそらのおとしもののSSですから。ええ

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2012-04-25 00:03:39 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1947   閲覧ユーザー数:1862

お前が一番動物園のお姉さんを邪魔に思っていたのではないかい

 

拙作におけるそらのおとしもの各キャラクターのポジションに関して その3

 

○イワーク・ブライア:色々な意味でガンダムAGEの顔というべきキャラクター。濃い顔、筋肉ムキムキ、頭身がおかしいと見た目で濃いキャラクターとなることが宿命付けられていた。そして何より『強いられているんだっ!』と集中線はこの番組を象徴している。

 ガンダムAGEが当初子供向き番組を志し、頭身を低くすればという安易な発想に走ったが故の悲劇を基に生まれたスーパーヒーローである。アストレア互換で死の伏線になる。

 

○ユリン・ルシェル:Xラウンダーとしての能力を持っていたが故に悲劇の最期を遂げた第一部の実質的メインヒロイン。何が悲劇かと言えば露骨にララアの最期と重ねられたこと。『生きるのって難しいね』の切ない名言を遺した。ちなみに本作で生きるのが難しいのは大体アストレアのことをさす。言い換えればアストレアは生き残れない。それが運命。

 自分と声が似ているという理由でイカロスはユリンの大ファンである。

 

○フリット・アスノ:気が付くと第二部の大事な山場を息子に代わって掻っ攫ってしまった、無敵のキラ様と化しつつある中年。ジジイになっても孫から主役の座を掻っ攫いかねないある種の危険人物。第二部においては妻と2人の子供がいるのにも関わらずガールフレンドだったユリンのことばっかり考えてた元救世主の現復讐鬼。粛清滅殺大好き。色々な意味でろくな死に方出来ない気がする、智樹や守形同様の刺されフラグ保有者。

 

○アセム・アスノ:優秀であるが天才ではないことに悩む少年。これから真価を問われるという所で主役交代の憂き目に遭ってしまった不完全燃焼スーパーパイロット。彼女の浮気には寛大で、腐女子向け要員の癖に結婚までしてノン気であることをアピールした。

 第二部全14話という枠がなければもっと魅力的な主人公になれたであろうに、シリーズ構成の見通しの脆弱さを指摘せざるを得ない。BL補正が智樹と同期するのは必然。

 

○ロマリー・ストーン:尺の関係でカテジナさんにもニナ・パープルトンにもなり損ねて出番と魅力と存在感に欠ける存在になってしまった薄幸のヒロイン。第一部のエミリー同様に主人公と結ばれる割にはスポットが当てられなさ過ぎた。2代続けてこうだと監督と脚本がもっとしっかりしていればと悔やまれる。3世代にする必要なかっただろうにと。

 二股がけでも割と純な子なのでオレガノよりカオスが近い感じの子かも知れない。

 

○ゼハート・ガレット:アセムのことが好きで好きでたまらない対腐女子用要員にして実質的第二部メインヒロイン。子供向けアニメだった筈がいきなり腐を取り込もうとした方向転換の象徴。実績もないのに総指揮官に任じられ、指揮官の割にはMSで敵陣に突っ込み、その間に自軍が敗退というZガンダムでよく見られたパターンを繰り返した。全てはアセムへの愛ゆえ。鳳凰院・キング・義経を格好良くするとこうなるのか?

 

○アインツベルンの雇われ魔術師:天才魔術師のライバル。その正体は不明だが、天才魔術師曰く、桜井智樹はボサボサな髪の所が似ているらしい。だが雇われ魔術師本人は世界で一番可愛いと思っている愛娘を深く愛しており、娘が心配になって聖杯戦争には参加せずに妻と愛人を日本に残してドイツに帰ってしまった。故に天才魔術師はそっくりさんである桜井智樹を狙うしかないという当然の帰結に辿り着くのである。

 

 

 

 

お前が一番動物園のお姉さんを邪魔に思っていたのではないかい に続く

 

 

 空美商店街のマドンナ、文具屋の一人娘マキコは揺れる恋心に思い悩んでいた。

『あんちゃんは……あの女の人が好きなの?』

 幼い頃から兄貴分と慕っていた魚屋のあんちゃんが動物園のお姉さんと最近仲が良いことに。

『ロード・エルメロイがここに仕る』

 恋に思い悩みながらも日々の仕事は続いていく。

 だが、そんなマキコに対して公民館のバァちゃんは元気付けるように言った。

『まあ、ここはあたしと天才魔術先生に任せておきな』

 その言葉の意味をマキコはまだ知らないでいた。

 そして数日後、事件は起きた。

『虎のマスクを被った若い女が商店街で暴れているんだっ!』

 襲撃者があんちゃんを攻撃していると聞き、慌てて現場へと駆けつけるマキコ。

 現場では虎マスク女があんちゃんを倒し、お姉さんに離縁するように迫っていた。

 そんな脅迫女に対してマキコは先制攻撃を仕掛けて交戦に入る。

『フンッ。アンタにタックルの手解きをしたのは誰だと思っているんだい?』

 戦闘中女からの言葉にマキコはとある可能性に思いが至った。

『アンタまさか…………公民館のバァちゃん、なの?』

 女の正体がかつて自分にレスリングを教えた師バァちゃんではないかと。

 その質問に対して女は覆面を脱ぎながら答えた。

『あたしは……公民館のお姉さん、さ』

 覆面の下には、若かりし日の公民館のバァちゃんの顔があった。

 

 

 

「バァちゃん……姉ちゃんはどうして若返っているの?」

 マキコは驚かざるを得なかった。もう80歳を超えている筈のバァちゃんが自分と同年代の若者に姿を変えていることに。

「天才魔術先生のおかげさ」

 バァちゃん改め姉ちゃんは笑ってみせた。

「天才魔術先生のおかげって?」

「天才の魔術の力で若返ったのさ」

 姉ちゃんは力こぶを作ってみせた。

「何でも、NISOPETHA-MENOS(ニソペサメノス)とかいう秘術を駆使して、心臓を1分間で10万回鼓動させて体の隅々まで多くの血を巡らせて細胞ごと若返らせたんだとさ」

 姉ちゃんは自身に掛けられた魔術の概要をよく知らなかった。

 だが、そんな魔術の説明など彼女には問題ではなかった。

「おかげで今のあたしは全盛時の18歳の若々しい肉体を取り戻しているのさ」

 姉ちゃんにとっては若返ったという事実が重要だった。

「そんな秘術を施して……身体に危なくないの?」

 マキコは心配しながら姉ちゃんに尋ねた。

「フン。そんなことは知ったこっちゃないね」

 姉ちゃんは鼻を鳴らした。

「そんなことよりマキコ、自分の身の安全を心配したらどうなんだい?」

「えっ?」

 マキコは油断していた。

 襲撃犯が知り合いだと分かったので、つい警戒を緩めてしまっていた。

 その隙をついて姉ちゃんは突っ込んで来た。

「小蒙古覇極道っ!」

 姉ちゃんの鋭い肩からのタックルがマキコの鳩尾に決まる。

「ブッ!」

 攻撃をまともに受けて吹き飛ばされる。

 5mほど飛ばされて受身も満足に取れずに地面に激突。二転三転と身体が転がされる。

「まったく、戦いの最中に隙を見せるなんてあたしはそんな柔な戦いを教えていないよ」

 姉ちゃんが倒れているマキコに追撃を仕掛けて来る。

「クッ!?」

 マキコは腹部に感じる痛みでまだ立ち上がれない。

「一気に決めさせてもらうよ。ビューティー・インフェルノっ!」

 姉ちゃんは両足を揃えてジャンプキックを放ってきた。

「うりゃああああああぁっ!!」

 マキコは叫びながら身を右に転がしてキックの直撃を避ける。

 そしてキックは

「うわっぁああああああぁっ!?」

 その場に居合わせた美空中学校体育教師の松岡の背中に直撃。脚を背中に付けたまま1m80cmを超える巨体を空中へと軽々と運んでいく。

「チッ! 予定とは違うのを空中に運んじまったけど、まあ良いさね。あたしの技の威力を見て、マキコには恐れをなして逃げ出してもらうさねっ!」

 姉ちゃんは空中で姿勢を入れ替え、松岡の身体にサーフィンの波乗りをするような姿勢をとる。

「食らえっ!」

「うわぁあああああぁっ! 動けない~~っ!」

 そして姉ちゃんは松岡に乗ったまま八百屋へと突っ込んでいった。

「うわらばぁあああああぁっ!」

 松岡はハウス栽培され特別入荷されていたスイカの山に突っ込み、これを粉砕。気絶してしまった。

 

「姉ちゃんっ! 何て酷いことをするのよっ!」

 松岡を仕留め、圧倒的な強さを見せた姉ちゃんに対しマキコは立ち上がりながら怒った。

「フンッ。女に戦いを任せて見物を決め込んでいる奴らがどうなろうと知ったこっちゃないね」

 姉ちゃんの言葉に周囲を取り巻いていた見物人たちが一斉に下がっていく。

「あたしにはやることがあるんだよ。邪魔するんじゃないよ」

 言いながら姉ちゃんは腰を抜かして動けないままになっている動物園のお姉さんの元へと近付いていく。

「さあ、お嬢ちゃん」

「い、嫌です……っ」

 震えるお姉さんに更に近付こうとする姉ちゃん。その意図に気付いたマキコが両手を広げながら姉ちゃんの進路を塞ぐ。

 タックルを受けた腹部はまだキリキリと痛む。

 けれど、そんなことを言っている場合ではなかった。

「何故邪魔をするんだい?」

「そんなの、当たり前でしょ! 人を暴力で脅迫する場面を見過ごせる訳がないじゃない」

 マキコは正義の怒りに満ちた瞳で語った。

「あたしはアンタの為に動いてあげようってのにかい?」

「はぁ?」

 姉ちゃんの意外な言葉にマキコは首を捻った。

「あたしは魚屋の小僧とこのお嬢ちゃんを別れさせてやろうって言ってんだよ」

「な、何で……そんなことを」

 姉ちゃんの言葉に戸惑うマキコ。

「何でって、そうすれば魚屋の小僧はフリー。アンタにもチャンスが生じるってもんじゃないかい」

「…………っ!?」

 あまりの衝撃にマキコは息が詰まりそうになった。

「私はマキコの恋のキューピットになってやろうと言うのさ」

 姉ちゃんはドヤ顔して微笑んでみせた。

 その表情はマキコの頭に血を昇らせた。

「私は、そんなことは頼んでないっ!」

 マキコは大声を出しながら姉ちゃんの言葉を否定した。

「何を言っているんだい?」

 姉ちゃんはマキコの否定の言葉を受けてもまるで堪えない。

 それどころか、より一層皮肉を込めた邪悪な笑みを浮かべてみせた。

 

「お前が一番動物園のお姉さんを邪魔に思っていたのではないかい?」

 

 姉ちゃんの言葉にマキコの身体が激しく震えた。頭が正常には働かなくなっていく。

「なっ、何を言っているのよ……」

 反論する声が弱弱しくなる。

「このお嬢ちゃんは恋敵。しかも今魚屋の小僧の最も近くにいる存在。邪魔でない訳がないさね」

 姉ちゃんは魔女のような不気味な笑い声を奏でる。

「このお嬢ちゃんさえいなければ、アンタの夢は叶うんだよ」

「夢……?」

 マキコがぼぉ~とした視線で姉ちゃんを見る。

「マキコは魚屋の小僧のお嫁さんになるんだろう? その夢をあたしが叶えてやろうって言うんだよ」

「私が……あんちゃんのお嫁さん」

 心臓が高鳴る。

 この心臓の高鳴りは何なのか……。

「そう。あたしはあんたの恋敵を排除してあんたに幸せをもたらす恋のキューピットさ」

 震える体でゆっくりと動物園のお姉さんへと振り返る。

 お姉さんは震える体で目には大粒の涙を溜めていた。

 だが、その瞳は死んでいなかった。

「さあ、お嬢ちゃん。もう助けてくれる味方はいないよ。さっさとあの小僧と別れるって言いなっ!」

「いっ、嫌ですっ!」

 お姉さんは泣きながら首を横に振った。

 その光景を見て、屈しないお姉さんを見て、涙に濡れる彼女の瞳の内に宿る力強さを見てマキコは大きく体を痙攣させた。

 気持ち悪かった胸の高まりが収まっていく。

「私、何をやっていたんだろう?」

 口から感想が漏れ出た。

 それと共にマキコの瞳に再び闘志が燃え上がっていく。

「ほんと、何をやっていたのかしらね?」

 四肢に力が漲って来る。

『お前が一番動物園のお姉さんを邪魔に思っていたのではないかい?』

 姉ちゃんの言葉が頭の中で繰り返して流される。

「ふざけんじゃ……ないわよぉ~~っ!」

 マキコは大声で叫んでいた。

 そして、後ろから脅迫を続けようとする姉ちゃんの肩を掴んだ。

「汚い真似はもう止めろっ!」

 ドスの利いた声だった。

「あたしゃアンタの為に動いてやっているのにそんなことを言うんかい?」

 姉ちゃんが黒い表情で振り返る。

「私はそんな姑息なやり方を取られても嬉しくない」

 マキコは大きく息を吸い込み

「私は正々堂々その人に勝ってみせるってのっ!」

 自分の想いを最大限の音量で吐き出した。

 

 

「私は……卑怯なやり方に頼らずとも勝ってみせるっ!」

 マキコは吼えた。

「ふん。ここ一番で踏ん張れないマキコにゃ無理だね」

 だが姉ちゃんはマキコの言葉をあっさりと一蹴した。

「何ですって!」

「悔しいかい? なら、自分の言葉が正しいことをあたしに力で分からせてみなっ!」

 姉ちゃんはレスリングの構えを取った。

「昔から、あたしたちの物の伝え方はこうだっただろ?」

 姉ちゃんが指を動かしながらマキコを挑発する。

 それに対する彼女の答えは……

「久しぶりに……ガチバトルって訳ね」

 戦うことだった。

 マキコは戦闘の構えを取った。

 

「本気で戦うのも随分と久しぶりだねえ」

 姉ちゃんはニヤニヤしながらマキコとの間合いを計りながら回っている。

「そうだね。最後のガチバトルは……中学2年の文化祭の時だったかな?」

 あんちゃんのことを好きだと気付いたあの日の文化祭。マキコのアマレスの相手だったのは元バァちゃんで現姉ちゃんだった。

「でも、アンタ……あの試合の最後にわざと力を抜いてあたしに勝ちを譲っただろう?」

 姉ちゃんがマキコを無表情に見た。

「何の、こと?」

 マキコは姉ちゃんとの間合いを計りながらとぼけようとした。

「しらばっくれてもあたしには分かるんだよ。あの日のアンタは、終盤のあたしの体力の減退ぶりを見てもうこれ以上戦うのは無理だと判断したのさ。で、敬老精神であたしに勝ちを譲った」

 姉ちゃんの表情がムッとしたものに変わる。

「敬老精神は悪くない。けどね、真剣勝負の最中に変な仏心を加えるんじゃないよっ!」

 姉ちゃんは大声でマキコを叱責した。

「あんたのその優しさは、マキコが真の戦士となることを妨げてしまった。おかげで見なさい。あんたは女子プロレスの入門テストに悉く落ちてプロになれなかった」

「いや、あれは記念受験しただけだから……高校でたら文具屋手伝うって決めてたし」

「フン。プロの目から見れば、あんたが戦士に徹し切れない性格であることぐらい一目で分かるよ」

 姉ちゃんは鼻を鳴らした。

「そんな優しいあんたが、こんな立派で強いライバルを前にしてあの小僧に告白なんか出来るもんかい」

 姉ちゃんは動物園のお姉さんを横目で見た。

「出来るわよっ!」

 マキコは大声で子供っぽく反論した。

「ならっ、あたしを倒して戦士としての覚悟を示してみせな」

「倒してみせるわよっ!」

 マキコが闘志を燃やす。

 だが、そんな戦意に溢れるマキコを姉ちゃんは更に鼻で笑った。

「そんな程度の気迫で全盛時のあたしに勝てるなんて思わないことだね」

 姉ちゃんが四肢に力を込めてその隠された力を解放させていく。

「公民館ダイナスティー秘技、メイルストロームパワーッ!」

 姉ちゃんの体が青白く光り輝く。

「うっ、嘘っ!?」

 姉ちゃんの変化に驚き口を半開きにしてしまう。

「マキコが知っているあたしは年金暮らしを始めてからのあたしだろ? 全盛期のあたしが同じな訳がないだろうよ。今のあたしの力はこんな感じさっ!」

 姉ちゃんが襲い掛かってきた。

「へっ? きゃぁああああああぁっ!?」

 どんな攻撃を仕掛けて来たのか。それすらマキコには分からなかった。

 気付いた時には吹き飛ばされていた。

 吹き飛ばされた方向から姉ちゃんがどの攻撃から仕掛けて来たのか判断する程度だった。

「まだまだ行くさねっ!」

 姉ちゃんがマキコの目の前で消える。

 そうとしか表現できない高速連続攻撃がマキコを襲った。

 成す術も無く、つむじ風に舞う木の葉の様にただ吹き飛ばされていく。

「くぅうううぅっ!」

 必死に顔と腹部をガードするもののダメージの累積は著しい。

「さあ、降参したらどうなんだい?」

 4、5人に分身したように見える残像を残しながら姉ちゃんは攻撃を続ける。

「マキコとあたしとじゃ、戦士としての出来が違うのさっ!」

「私は、こんなことで負けたりなんかしないっ!」

 マキコは必死になって堪える。

 逆転の方法はまだ見出せない。

 だが、勝利を信じて耐え続けていた。

 

 

 

 

「フム。あの老婆、一般人にしてはなかなかやりおるではないか」

 商店街のとある商店の屋上から青い服を着た金髪碧眼の青年がマキコと姉ちゃんの戦況を見守っていた。

 彼の名はケイネス・エルメロイ・アーチボルト。ロード・エルメロイの称号を冠する天才魔術師。

 彼こそが姉ちゃん、いや、公民館のバァちゃんに若返りの秘術を施した張本人だった。

「時計塔の愚か者どもとアインツベルンの雇われ魔術師、そして私以外に天才を自称する恥知らずな拳法家よ。私を侮ったことをたっぷりと後悔させてやるぞ」

 若き天才魔術師は歪な笑みを称えながら手元の懐中時計を見た。

「予定では残り、1分か」

 天才魔術師は時計の進み方と姉ちゃんの様子を交互に見ながら気にしている。

 一見すると彼は秘術の被験者である姉ちゃんを心配しているようにも見える。

 だが、実際はそうではない。

 彼は自身が施した秘術が予定通りに効力を発揮するかどうか気になっていたのだった。

「残り30秒。どうやら予定通りの効力は得られると思って間違いないな。やはり私は天才。どんな魔術も誰よりも早く習得出来てしまう」

 天才魔術師が口から息を吐き出し自身の魔術の完成度の高さに悦に浸ろうとしたその瞬間だった。

「なっ、何だ? あの途方も無い力の渦は一体何なんだ!?」

 天才魔術師は自身の目を信じることが出来なかった。

 マキコから突如巨大な炎のオーラが吹き上げ始め、姉ちゃんを圧倒し始めたのである。

「あれがあのマキコとかいう娘の潜在能力とでも言うのか?」

 天才魔術師は神童と呼ばれた自身の分析能力をフルに発揮して力の正体を探る。

「あの力はやはり、自身で潜在能力をフルに開花させたのではない。誰かに開花させられたのだ! 私があの老婆の能力を最大限にまで引き出したようにっ!」

 天才魔術師は周囲を懸命に探る。

「こんなことが出来るのは天才であるこの私以外にいない筈。いや、だが、同じく天才を自称する奴ならあるいは……」

 天才魔術師は顎に手を当てて考える。

「だが、そんな筈はない。奴は私に代わり天才枠で時計塔の講師に納まっているのだからこんな極東にいる訳がない」

 と、天才魔術師は青いパーカーを着た羽の生えたピンク髪のショートカット少女の後姿が見えた。

「あれは、あの忌まわしき男の弟子の一般人羽付き少女っ! そうか、マキコとやらが強大な力を得たのは奴の仕業かっ!」

 天才魔術師には全ての合点がいった。

「ヤツめ。このロード・エルメロイの栄光に泥を塗ろうというのか!?」

 ロード・エルメロイは魔力を発動させて、少女の言動をチェックに入る。

 そして、少女の独り言を捉えた。

『……う~ん。間違ってしまいました』

 少女はそう呟いたきり振り返りもせずに商店街を出て行った。

「間違えたとはどういうことだ?」

 天才魔術師をもってしても少女の呟きの意味は分からなかった。

 少女は謎に満ちていた。

「フム。やはりあの娘……そらのおとしものの登場人物ではないオリキャラ臭を感じる。部外者が参戦しようなどまったく困ったものだ」

 天才魔術師は羽の生えた少女にそう評価を下した。

「さて、もう時間だな」

 ロード・エルメロイは懐中時計を懐へとしまい商店街のメインストリートに背を向けた。

 姉ちゃんとマキコの戦いの行方など彼にとっては聊かの興味も惹かない。

 彼が求めるものはただ一つ。

「私の求める究極の魔道はまだ遠い。フッ」

 天才魔術師は空を見上げながら呟いた。

 

 

 マキコは姉ちゃんの猛攻に晒され続けていた。

 反撃の契機はどこにも見出せない。

 だが、降参することなど出来ない。不屈の闘志をもって攻撃に耐えていた。

「いい加減に降参したらどうだい?」

「冗談じゃないわよっ!」

 既に全身はダメージの蓄積によりダウン寸前。けれど、それを補う闘志で彼女は立ち続けていた。

 そんな時だった。

 マキコの頭の中に声が届いた。

『……力が欲しいですか?』

 少女のものと思われるその声は姉ちゃんには聞こえていないようだった。

 不思議に思いながらマキコは更に話を聞くことにした。

『確かに力なら欲しいわ』

『……何の為に?』

 マキコは考えた。何の為に力が欲しいのか。

『恩返しの為かな』

『……恩返し?』

『そう。いっつも私のことを心配してくれる公民館のバァちゃんに大丈夫だよって所を見せてあげたいのかな』

 マキコは自分が力を欲している理由を会話を通じて明確に悟った。

『……なら、私が貴方の潜在能力を最大まで開放させます』

『そんなことが可能なの?』

『……貴方なら可能です。ではいきます』

 次の瞬間、マキコは背中に3点、強烈な痛みを覚えた。

『……これで貴方は潜在能力を120%引き出すことが出来ます』

『本当っ?』

『……力を引き出すことを強く念じて下さい。そうすれば想いのままに操れます。……あっ』

『あって何? 最後のあって何?』

『……それでは健闘をお祈りいたします』

『ちょっと待ってってばっ!』

 それを最後に不思議な脳内会話は断ち切られてしまった。

「何だったの、今の?」

 マキコにも意味が分からない。

 でも、それはただの幻聴と思うのはあまりにも惜しいものだった。

「やってみますか……パワー全開っ! 火事場の馬鹿力ぁ~~っ!」

 マキコが体内の力を爆発させるイメージを取った瞬間だった。

 巨大な力の放流がマキコを包み込んだ。

 

「なっ、何だって!?」

 姉ちゃんがマキコの体に起きた異変に気付き驚きの声を上げる。

 マキコの体からは炎が噴出すような熱い闘志が漲っていた。

「クッ! そんなこけおどしにあたしは屈したりしないよっ!」

 姉ちゃんは先程よりも早い動きで8人分の残像を残しながらマキコへと突っ込んでいく。

 だが──

「見えたっ! そこっ!」

 マキコに動きを補足されて肘打ちを決められてしまった。

「舐めるんじゃないよっ!」

 姉ちゃんは更に速度を上げてマキコの背後から襲い掛かる。

「その動き、見え見えだよっ!」

 だが、伸ばした腕を捕まれて背負い投げの要領で放り投げられてしまう。

「ど、どうなっているんだい!?」

 姉ちゃんは焦っていた。絶対的優位が突如崩されたことにより激しく動揺していた。

「いっ、いけるっ!」

 一方でマキコは突如大きな力を得たことでそれが大きな自信へと繋がっていた。

 それはマキコの力を更に大きくさせていた。

 今、戦局は逆転していた。

 

「チッ! もう時間が全然残ってないってのにね!」

 姉ちゃんは貴金属店に飾られている時計の針を見て舌打ちをした。

「こうなったら、最後の勝負だよっ!」

 姉ちゃんは今までで最大の12人に分身しながら、一斉にマキコに向かってドロップキックを放つ。

「クッ!」

「ビューティー・インフェルノ~~っ!」

 マキコの体を空中へと放り上げ、一気に波乗りの体勢に移る。

「さあマキコっ! あたしからの最後の試練だよっ! 乗り越えてみせなっ!」

 姉ちゃんはマキコの上に乗ったまま電信柱に向かって突っ込んでいく。

 顔から当たれば命はない。

 そして、その瞬間は一瞬先へと迫っていた。

「バァちゃん……今までありがとうね」

 下から声が聞こえて来た。

「何だい。藪から棒に」

「私、これからはもっと強くなるから。バァちゃんに胸を張れるくらいにさ。だから、その決意表明と今までのお礼」

「そうかい。まっ、頑張りなよ。相手は手強いだろうけど」

 姉ちゃんがそう述べて短く息を吐いた次の瞬間、姉ちゃんはロデオ馬にまたがった騎手のように上空へと吹き飛ばされた。

 そして──

「ビューティー・スパークッ!!」

 自身がマキコに教え込んだ最強の必殺技を決められた。

「本当……頑張るんだよ」

 薄れ行く意識で、孫にも等しい愛情を注いで来た愛弟子の成長を見届けていた。

 

 

 

 姉ちゃん……いや、肉体が元に戻って老婆と化したバァちゃんを抱きながらマキコは地面へと降り立った。

 意識を失ったバァちゃんを地面へとそっと横たえる。

 若返りの秘術を使った反動だろう。

 バァちゃんの老化は更に進行したようだった。

 おそらくはもう二度と元気に町内を歩き回ることも出来ない。それを予見させる老衰の仕方だった。

「ふぅ」

 マキコは息を小さく吐き出して目を瞑った。

「凄かったな、マキコちゃん」

 よく知った声が聞こえて目を開く。

 目の前には電気屋の店主に肩を貸してもらいながらよたよたと歩いてきた魚屋のあんちゃんの姿があった。

「あんちゃん、無事だったんだね」

 あんちゃんの体は満身創痍。傷だらけだった。

「う~ん。無事だったとは言い辛いけれど、まあ死なずにいるよ」

 あんちゃんははははと笑ってみせた。

「俺よりもマキコちゃんの方が傷だらけに見えるけどな」

「大したことないわよ」

 不思議なことに痛みは無い。

 きっと先程から続くこの高揚感がそうさせているのだと思った。

 そして、この高揚感が続いている内に言ってしまおうと思った。

 バァちゃんとの約束を果たすために。

 動物園のお姉さんを横目でチラリと見る。

「……私は今、貴方を越える」

 誰にも聞こえない様に呟いてから大きく息を吸い込む。

 そして、一気に吐き出そうとしたその時だった。

「痛ったぁああああああああああああああああぁっ!!??」

 マキコの全身を落雷に打たれたような激痛が襲った。

「マッ、マキコちゃんっ!?」

 あんちゃんが慌てて駆け寄ってマキコに触れる。

「きゃぁああああああああああぁっ!?」

 あんちゃんに触れられた箇所からまた激痛が走る。

「ちょっ、今は、触れないで。む、む、無理ぃいいいいいいいいぃっ!」

 マキコは地面に崩れる。

 そして地面に触れた部分がまた激痛を発する。

「だっ、誰かすぐに救急車を呼ぶんだぁ~~~~っ!」

 あんちゃんが頭上からレスキュー要請をする大声が聞こえて来た。

「こ、こんなんじゃ……告白なんて無理ぃ……」

 どうしてこうなるのとマキコは動かない体で脳の中で頭を掲げた。

「ハァ。いまいち頼りにならない子だねぇ」

 マキコの横に寝そべっていたバァちゃんが大きな溜め息を吐いてまた気絶した。

 

 

 了

 

 

 


 
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