琥珀の月が俺と華琳を照らす。
「綺麗な月ね・・・・・・・・・」
「そうだな・・・・・・。俺、こんなに大きな月、初めて見たかも」
「そうね・・・・・・。戦っている間は、こんなに落ち着いて月を見たことなんか無かった気がするわ・・・・・・。」
「華琳でも余裕のない時ってあるんだ」
「私だって人の子よ。そうそう上ばかり見ていられないわ」
「あれだけ余裕たっぷりに見えたのに?」
「それはあなたの目が節穴だったせいでしょう?」
「まあ、否定はしないよ。」
「否定なさいよ。俺の見る目は確かだった、って」
「大陸の王をちゃんと見定めて、仕えることが出来たって?」
「それは私の手柄でしょう?あなたが私に仕えられたのは、私が拾ったからだもの」
「ははっ、そりゃそうか。・・・・・・華琳には感謝してもしきれないよ」
「その恩はこれから返してもらえるのでしょう?あなたの天界の知識、むしろ今からの方が意味を持ってくるはずよ」
「だよ・・・・・・なぁ・・・・・・・・・」
月の柔らかい光の中少しずつ消えていく俺の身体。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・帰るの?」
「さてな。・・・・・・自分では分からないよ」
「だけど・・・・・・この間から考えてはいたよ。この国の歴史のことをね・・・。」
「あなたの知っている歴史と、かなり変わっているという話?」
「ああ。今考えるとさ・・・定軍山の時も、赤壁の時も・・・その前に劉備さんと呂布たちが攻め込んできた時も・・・」
「調子が悪くなったのって、歴史の大きな分かれ道にさしかかった時だったんだよな・・・・・・」
「でしょうね」
「気付いてたの?」
「許子将に言われていたでしょう?大局には逆らうな、逆らえば身の破滅・・・・・・とね」
「やっぱりあれ、華琳の事じゃなかったんだな」
「春蘭じゃあるまいし、そこまで大言を吐く気はないわよ。そしてその言葉に従うなら、大局・・・・・・あなたの知る歴史から外れきったとき、あなたは・・・・・・」
「なるほど。そういうことか」
「けれど、私は後悔していないわ。私は私の欲しいものを求めて・・・・・・歩むべき道を歩んだだけ。誰に恥じることも、悔いることもしない」
「・・・・・・ああ。それでいい」
「一刀。あなたは?後悔していない?」
「してたら、定軍山や赤壁の事を話したりしないよ。それに前に華琳も言っただろ?役目を果たして死ねた人間は誇らしいって」
「ええ・・・・・・」
「だから、華琳・・・・・・」
「君に会えて良かった」
「・・・・・・当たり前でしょう。この私を誰だと思っているの?」
「曹孟徳。誇り高き、魏・・・・・・いや、大陸の覇王」
「そうよ。それでいいわ」
「華琳。これからは俺の代わりに劉備や孫策がいる。皆で力を合わせて、俺の知ってる歴史にはない、もっと素晴らしい国を作ってくれ。君なら、それが出来るだろう・・・・・・?」
「ええ・・・・・・。あなたがその場にいないことを死ぬほど悔しがるような国を作ってあげる」
「ははっ・・・・・・そう聞くと、帰りたくなくなるな」
「そう・・・・・・」
「そんなに言うなら・・・・・・ずっと私の側にいなさい」
力が入らない・・・声も上手くでなくなってきた。俺の身体はもう既に大半が消えかかっていた。
「そうしたいけど・・・・・・もう無理・・・・・・かな?」
「・・・・・・どうして?」
「もう・・・・・・俺の役目はこれでお終いだろうから」
「お終いにしなければ良いじゃない」
「それは無理だよ。華琳の夢が叶ったことで、華琳の物語は終端を迎えたんだ・・・・・・」
「その物語を見ていた俺も、終端を迎えなくちゃいけない・・・・・・」
「・・・・・・ダメよ。そんなの認めないわ」
「認めたくないよ、俺も・・・・・・」
「どうしても・・・・・・逝くの?」
「ああ・・・・・・もう終りみたいだからね・・・・・・」
「そう・・・・・・」
「・・・・・・恨んでやるから」
「ははっ、それは怖いな・・・・・・。けど少し嬉しいって思える・・・・・・」
「・・・・・・逝かないで」
「ごめんよ・・・・・・華琳」
「一刀・・・・・・」
力の入らない消えかけた身体に活を入れて俺は言葉を紡ぐ
「さよなら・・・・・・誇り高き王・・・・・・」
「一刀・・・・・・」
「さよなら・・・・・・寂しがり屋の女の子」
「一刀・・・・・・!」
「さよなら・・・・・・愛していたよ、華琳」
その言葉を言い切ると同時に華琳の声も世界の音も消えうせ俺の意識は暗転した。
真・恋姫無双 簡雍伝 序詞 琥珀の月
いくつもの光を携えた星の海のようなそんな場所でおれはゆらゆらと波に漂う漂流物のように浮かんでいた。
そんな中で俺は、ずっと華琳の・・・・・・泣き虫な女の子の事だけを考えていた。
離れたくなんてなかった、ずっとずっと側にいたかった。
彼女を支えていたかった、愛していたかった。
だが運命は残酷に俺達を引き裂いた、それがなによりも悔しかった。
自分のした事に悔いはない、たとえ消えることになろうとも俺は彼女の誇りを守ったと
胸を張ってそう言えるから、それでも・・・彼女を泣かしてしまったことへの悔いは残った。
「きっと泣いているんだろうな、華琳・・・。」
だからだろう、どこからともなく聞こえる悲しげな泣き声に俺は反応した。
「誰かが・・・泣いてる?小さな・・・女の子の泣き声・・・。」
俺はその声がするほうへとゆっくりと進んで行く。そこには他の光より小さな光が悲しげに輝いていた。
俺はその光をそっと覗き込む、そこには少し赤みの帯びた栗色の髪をした少女が誰かの墓の前で蹲って泣いていた。
「お父さん・・・お母さん・・・。うう・・ぐす・・・。」
どこかで見た事がある少女・・・その背中はとても小さく・・・俺はそれを放って置くことなんてできなかった。
そっと光に手を伸ばす・・・。壊れ物を扱うようにそっと両手でその光を包んだ時それは起こった。
輝きが増し俺を包み込む。あまりの光に反射的に目を瞑ったその時、俺の意識は闇に沈んだ。
誰もいなくなった星の空間の中で怪しげな人物の怪しげな声が響き渡る。
「ご主人さま?・・・おかしいわねん。魏のご主人さまがこっちに戻って来たって聞いたのに?」
「あら・・・あらあらあら?産まれたばかりの外史の扉が開いてる?」
「え?これって・・・ご主人さま?まったく・・・どの世界でもご主人さまはご主人さまなのね・・・」
その目はまるで子を見る親のように優しげで、慈しむような声だった。
「がんばってねん・・・。ご主人さま・・・。」
こうして新たな外史の扉は開かれた、その先に何があるのか今は誰も知らない。
これは魏の御遣いである北郷一刀のもう一つの物語
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魏√の北郷一刀のもう一つの物語
初の連載投稿です、仕事も忙しく更新速度はそれほど早くないと
思いますが。完結できるように頑張りたいな・・・と。
思っています!!
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