No.411431

エレベーター(後編)

少し変わり者の店長が語るビルで起きた事件――。そして、真央の身にふりかかる更なる災厄! 原案:デカ猫 作:グラムウェル

前編 http://www.tinami.com/view/411426
中編 http://www.tinami.com/view/411429

2012-04-20 18:12:07 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:455   閲覧ユーザー数:455

それは少女の変わり果てた姿だった──

 

建設中のビル。

その剥き出しの鉄骨に括り付けられた赤い紐がギシギシと耳障りな音を振り撒きながら揺れている。

 

地面へと伸びる紐の先は輪になっていて、ゆらゆら揺れる毎に赤い輪に通った白いうなじが覗いていた。

 

白地に紺色の襟とスカートのセーラー服姿の亡骸がぶらりと吊されているのだ。

 

その光景を目撃したビルの設計者と現場監督は嘆いた。

少女の惨い姿をではない。少女の死に場所に選ばれた事をだ。

 

そして彼らは怒った。

彼らの作品を踏み躙った少女の身勝手さを。

 

だから彼らは宙に揺られている少女の足元、そのきちんと揃えられた靴も。

そのうえに置かれた白い便箋も。

そして、赤い紐に吊り下げられた少女も堅く冷たいコンクリートの底に沈めてしまったのだ。

 

唯一、価値のありそうな少女の指輪だけを奪って──

 

 

その後、少女の事は明るみに出ずビルは何の問題もなく完成する。

昼夜に関係無く少女の亡霊が彷徨う曰く付きのビルとして、であるが。

 

少女は探しているのだ。

 

彼女が何よりも大切にし、最後まで肌身離さず身につけていた指輪を……、奪われた母の形見を──。

 

 

 

話し終えた店長はふぅーと、長い溜め息を吐いた。

 

「なんて、前の店長は言ってたけどね。実際、単なる噂なんだよー」

 

「ハァ、そーですか……」

 

真央のポケットの中ではICレコーダーがケラケラ笑う店長の声も録音し続けている。

 

「幽霊かどうかはわかんないけど、ボクはこんな体験したなー……」

 

それまでと打って変わって、店長の声は少し震えていた。

 

 

 

それは、彼が店に来て間もなくの事───

 

営業を終えた店の事務室で、彼は売上の計算や雑事を済ませた。

 

腕時計を覗けば日付が変わろうとする時刻を針が示している。

 

戸締まりの確認を急いで終えた彼は、エレベーターのボタンを押した。

 

「?」

 

もう一度、押した。

 

もう一度、もう一度……。

「故障か?」

 

何度ボタンを押してもエレベーターは動かない。

 

仕方なく、彼は階段で降りる事にした。

日頃、滅多に運動しない彼には相当しんどいのだが。

 

チカチカと頼りなく点滅して蛍光灯が点き、殺風景な階段が照らし出された。

 

コンクリートの階段と猫の額ほどの踊り場を幾度も繰り返して、地上への通路は続く。

 

壁に白いペンキで5Fの文字を見つけて、彼は足を止めた。

 

「あと、半分か」

 

その息は上がり、額には汗が浮かんでいる。

 

大きく呼吸をして、彼が再び階段を降り始めたその時──

 

「なんだ、この臭いは?」

 

僅かに、肉が焦げたような……何とも言えない臭いが彼の鼻腔をくすぐった。

 

何処からともなく生暖かい風が彼の頬を撫でる。

 

彼の脳裏に先輩に聞いた怪談が浮かぶ。

ビルで首を吊った少女の話が。

 

階段を降りる彼の足が早まる。

じわりと吹き出した汗で、背中にワイシャツが張り付く。

 

不意に彼の右足に何かが絡まった。

 

それに構わずに彼は階段を駆け降りた。

 

荒々しい足音がコンクリートの壁に反響する。

 

幾度か転びそうになりながも何とか1階にたどり着くと彼はビルから飛び出した。

 

喉の焼け付くような痛みで我に返った彼は自らの足音を見て愕然とした。

 

彼の右足首には、先が輪になった赤い紐が絡み付いていたのだ……。

 

 

 

「今回もなかなかのネタじゃないか」

 

中年の男性が満足気に読み終えた原稿を、デスクに置いた。

 

相変わらず騒々しい某雑誌社のオフィスに真央の姿があった。

 

萌えっ娘♪メイド☆カフェでの体験や店長から聞いた話をもとに記事を書き終えて、編集長のチェックを受けていたのだ。

 

「しかし、君もよく“あたる”ねぇ。ソレ関係の専門家も真っ青だよ」

 

「別に、探して回っているわけでもないんですケド……」

 

編集長の軽口に唇を尖らせる。

 

「そうだ、次はここなんかどうだ?通好みの心霊スポットらしいぞ」

 

早くも、次の取材先の住所が書かれたメモを押し付けようとする編集長。

 

「好きでこんな記事、書いてんじゃないんですってば」

 

「だって、君の記事は読者のウケが良いんだもん。最近は売り上げ厳しいしさ、ね?」

 

メモを手にして、息を荒げながら真央に迫る編集長。

 

「いーやーだー!!」

 

真央の悲鳴が辺りに響き渡った。


 
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