古びた雑居ビルの最上階にある萌えっ娘♪メイド☆カフェ。
派手なピンクの看板とはうって変わって内装は落ち着いたクラシックスタイル。
そのギャップに唖然としながら、真央は現在の自分の姿に溜息を吐いた。
「なんでこんな姿に……」
数分前まで、ジーパンにTシャツのラフな服装だったのに……。
すべては一時間前に遡る。
店内に入り、席に案内された際に真央は店長に会わせて欲しいと告げた。
もちろん取材の許可を取り付ける為だったのだが、何を勘違いしたのか店長は面接を始めた。
ちなみに真央はれっきとした男性だ、見かけは女性っぽいけども。
店長にもちゃんと説明した。
説明、したのだ。
「いや、別に女性じゃないとダメって訳じゃないし」
店長はむしろ女性客大量獲得の夢が広がったらしい。
働く気はないという真央を押し切って、ポンと真央の肩を叩いて店長は言った。履歴書はあとでいいから♪と・・・・・・。
こうして男性スタッフの更衣室でメイド服に着替え、フロアに立っていたりする。
真央の悩ましげな溜息に間近な男性客の鼻の下が2センチほど縦に伸びた。
まさか、睨み付けるわけにもいかず手にしたトレイを胸に抱いてそっと目を伏せる。
今日のところは見学兼雑用なので他のメイドさんより遥かに暇なのだ。
客がなかなか帰らないので見送りもテーブルの掃除も無い。
仕方なく真央は客の無遠慮な視線に晒されながら立っていると、
すると待機していたメイドの会話が聞こえてきた。
「あの隅っこの席にお客なんていたっけ?」
「やばい、見落としてたかも。ちょっと行ってくるね」
パタパタと少し慌てた様子で隅っこのお客のもとへ歩いていく。
そして席に着いたお客となにやら話している。
会話は真央には聞こえないが幸いトラブルは無いっぽい。
メイドが戻ってくる、手には伝票を握り締めて。
ちょうど真央の目の前に差し掛かったとき、そのメイドがお客に呼ばれた。
「ごめん、キッチンにコレ渡しといて!」
伝票を手渡される真央。
その伝票にはまるっこい字でオムライスとだけ書かれていた。
唐突に与えられた仕事に真央は喜びを隠し切れずにスキップでキッチンへ。
キッチンスタッフに伝票を渡して任務完了、再びホールへと戻ろうとした矢先。
業務用冷蔵庫の扉を開けたままのスタッフが目についた。
冷蔵庫の扉、その取っ手を握り締めて驚愕の表情で固まっている。
ややあって、悲鳴。
冷蔵庫から弾けるように離れるスタッフ。
開きっぱなしの冷蔵庫に真央やその場に居合わせたスタッフ達の視線が集まった。
皆が注目するなか、冷蔵庫から何かがひとりでにゴロリと転がり出た。
重力に引かれて落下したソレは、床にぶつかって鈍い音を鳴らした後に二転三転と転がった。
その様子を固唾を飲んで見つめていたスタッフのなかから悲鳴が上がる。
その瞬間、全員が床に転がったモノの正体に気付いた。
慌てて我先にキッチンから逃げ出すスタッフ達。
真央ひとりが取り残されたキッチンには冷気を吐き出し続ける扉の開いた冷蔵庫。
その眼前に転がっていたのは、長い黒髪を振り乱した女性の生首──
「いやぁ、参っちゃうなぁ。真っ昼間から怪奇現象なんて」
臨時閉店した萌えっ娘♪メイド☆カフェの事務室で店長が苦笑した。
「びっくりしたでしょー。いやぁ、ボクも雇われ店長だからね。わかるなぁ~……」
やけくそ気味に喋りまくる店長。
先程の怪奇現象のせいで数人辞めてったのだからそれも仕方ないのだろうけど。
「頻繁に起きてるんですか?その…、さっきみたいなの」
目付きが怪しくなってきた店長に真央が恐る恐る聞いた。
「もしかして、こういう怖い話に興味ある?じゃあね、ボクが聴いた話でこんなのがあるんだよ」
真央の返事を待たずに店長が嬉々として語り始めた。
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いつの間にやら怪しげなメイド喫茶で働くことになってしまった真央。そして再び怪奇現象が・・・・・・ 原案:デカ猫 作:グラムウェル
前編 http://www.tinami.com/view/411426