地下修練場にて、【呪符】・【灯火】を発動させたあの日から一週間。
ー頁 捲 流 読ー
「……飛ばすわね~……」
「もちろんです! 【呪符】覚えるの楽しいですし! こっちはささっと詰め込んで【呪符】一本でいきたいですからね~!」
俺はひたすら書庫の本をパラパラとページを捲って読み進め、【
そう、言葉に出した通り周辺の地域や国の歴史、【
「楽しい、か。ふふ、なんだか懐かしいわね」
ー柔 軟 抱 擁ー
「……なんで、俺は後ろからフォウリィーさんに抱きしめられてるの……?」
「決まってるじゃない、その一生懸命に横に積んで本を読む姿がかわいいからよ!」
「……そう、ですか……」
「そうよ~♪」
『楽しい』という言葉を聴いて懐かしそうに俺の言葉を反芻しつつ、にっこにこしながら後ろからフォウリィーさんに抱きしめられ、それに困惑していると……可愛いからだというフォウリィーさん。
その『可愛い』という言葉に男としてやや落ち込みつつも……俺はひたすら本を読み進めていた。
そして俺は既に書庫二階の本を読み終え、今は一階奥にある最後の本棚に差し掛かっている所だ。
時折フォウリィーさんが入れてくれる紅茶を飲んで一息つきつつ俺はラストスパート! とばかりに残りの本を読み進めていき─
ー本 閉 勢 良ー
「おっし、終わり~!」
「……本当に一週間で読みきっちゃったわね……まったく、刃には驚きを通り越してあきれちゃうわ」
読み終わった書庫最後の本を勢いよく閉じ、充実感を感じながら丁寧に本を本棚に戻す。
多種多様なこの世界の歴史・常識などの知識を得られたことに満足しつつ、ふと俺を照らす日差しが気になり、窓から青い空を見上げる。
そこから覗く空は燦々と輝く太陽が頭上高く照らしており、それはつまり時間がお昼になっていくという事だった。
俺とフォウリィーさんはお昼ご飯の時間を過ぎてしまったかなと顔を見合わせる。
「むむ、ちょっとお昼すぎちゃいましたかね?」
「大丈夫よ。お父様も今は書類整理でそれどころじゃないし、問題はないわ」
「……そうですね」
互いに微笑み、室内の本を読み終わった書庫に別れをつげ、お昼の準備のためにキッチンへと二人で移動していく。
「さてと、じゃあそっちは任せるわね? ジン」
「はい、フォウリィーさん」
フォウリィーさんと一緒にキッチンに入った俺達は、各自調理を分担し、自分の料理を作るために分かれていく。
早速とばかりに流し台の前に立って野菜を洗い、皮をむき始めるフォウリィーさんと、朝に練り上げて作っておいたパン生地に濡れ布巾を被せ、発酵させておいたその生地の具合を確認し、ほんわか暖かく膨らんだ生地を棒状にこね、捻っていく。
こうして見ると……カイラと一緒に過ごした【リキトアの森】では、調理器具や調理場、調味料も無く、たいした料理も調理も出来なかったのだが、さすが【
きちんと一通りの調味料に鍋やフライパンと言った調理器具も一通りそろっており、以前お湯を沸かすときに使った薪式の釜戸や、最近パンを焼くために使い続けている石釜など、この世界においては高水準な調理器具のある贅沢っぷりだった。
当然電気・電化製品等の便利器具はないものの、ここまで調理器具がそろっていれば一通りは料理ができるというもの。
フォウリィーさんの手伝いをするようになってから、メキメキと料理の腕前もさらに向上し、以前話した通りに最初は火加減を誤って料理を焦がしたりしていた俺も、今ではサラダからパン、そしてメインディッシュに至るまで、一通りの料理を作れるようにになったのだ。
さらには主婦なフォウリィーさんに付き合い、日中に掃除や洗濯等も手伝った事、そして尚且つ俺の【
(一家に一人って……まあいいけど)
「本当に腕を上げたわね……。これならいつどこにお嫁に─」
「せめて婿っていってください……」
「─もう、いいじゃない。かわいいんだから~」
「ほめてません!」
「もう、照れやさんなんだから♪」
そんな事やりとりをフォウリィーさんとしながら、ちょっと寝かせておいたパン生地をねじり、空気を含ませて鉄板に乗せ、船のカイトのような形のヘラに乗せて石釜に入れ、火加減を調節してじっくりと焼き上げる。
狐色の焼き色と共に膨らんで行くパン生地が、いい具合になったところで─
「さ、こっちはできたわよ~。ジン、そっちはどう?」
「はい、こっちも……クロワッサン、完成です~!」
外はカリカリ、中はふわっふわやぞ! と、あっつあつなパンの出来栄えに満足しつつ、出来上がったクロワッサンを木の皮で編み上げられたバスケットに乗せ、テーブルにバターと一緒に添えた後、早速とばかりにホクホクとした顔で書斎にいるオキトさんを呼びにいき─
「オキトさん、ご飯ですよーって……また増えとる……!」
ー書 類 山 積ー
「ああ……ジン君かい? ありがとう、今いくよ」
ようやく傷も癒え、自由に動くことができるようになったオキトさんではあったのだが……ここしばらく体の療養のために時間を取れずにいた【
「これなら療養していたほうが楽だったね……」
そう疲れた様子で苦笑しながら笑いかけるオキトさんの顔に、机の上の書類や書簡の山を見て同意する俺だった。
そんな会話をしながらオキトさんと食堂に入り、テーブルに配膳をしていたフォウリィーさんと一緒に席に着き、食事をはじめる俺達。
「─うん、これはいいね。これなら……すぐにでも嫁に─」
「なんでオキトさんまで?! 婿でしょ! 婿~! と、いうか俺まだ7歳だよ!?」
「─……この過剰反応……ふふ、またからかったね? フォウリィー」
「ええ、だって……可愛いんですもの♪」
「そうだねえ、はっはっはっは!」
「あ~もう……!」
とても良い感じにフォウリィーさんとオキトさんにいじられながら、食事を続ける俺だった。
「……そうね、もう【
「ええと、通常の【呪符】・【
「はい、正解! まあジンならこれぐらい余裕で答えられるわよね~」
食事と後片付けを終え、午後の練習とばかりに地下訓練場に移動した俺とフォウリィーさん。
訓練場中央で、片手を腰に当てて、もう片方の手の人差し指を立てながら俺にクイズ形式に問題を出してくるフォウリィーさんに、俺が答えを言い、その答えに満足げに微笑みながら頷くという会話を続ける。
そう、【
これから先は、【灯火】のように灯りになるといったような、日常で使う【呪符】だけではなく、より実戦的な……より攻撃的な【呪符】を扱う事になる。
その危険性と使用する制限・用途による使い分け等、それらを熟知していなければ有益な効果・効能を得られない可能性もある為、【呪符】の取り扱いに対する知識をより深く学ぶのは必須事項といえるだろう。
そして……前述の通り、【呪符】には三種類の種類がある。
まずは普通の【呪符】。
【
基本的には【呪符】単体で発動して使うものではあるが、個人の実力差・精神力によっては同時起動で数十・数百・数千といった数を起動させることもでき、術式の規模・範囲・威力を大幅に広げることが出来る。
次に【
これはその名の通り、対軍・大戦のような多数な相手に対して有用に働く【呪符】である。
【呪符】がパスポートサイズならば、【
この大きさ故、巻物状に巻いて背や腰に備え付ける必要があり、敵に対しての秘匿性にかけるという欠点もあるが、それを補って余りある威力を誇る。
この【呪符】が発動されれば、戦いが終わる……いわば決戦兵器のような意味合いが強い【呪符】だ。
最後に、【高速呪符帯】。
これは帯の名の通り帯状の呪符であり、襷状および帯状にあらかじめ体に巻きつけたりして使用する【呪符】だ。
高速呪符の名の通り、これは【呪符】の起動キーである『お伺い』を立てる事なく、一定化の条件の下に自動的に発動する【自動起動呪符】である。
この【高速呪符帯】は基本、【守護障壁】などの主に術者自分の身を守る為の【呪符】として扱われる事が多い。
また、【呪符】の起動方法も複数あり、基本的な『お伺い』という起動ワードを唱える事で直接起動する、主に攻撃方法に多い起動法と、設置型という特定条件化に反応して起動される【呪符】、そして前述の【高速呪符帯】のような自動起動という起動方法もある。
「ん、やっぱり座学は問題ないみたいね。じゃ、次は──」
そういってフォウリィーさんが、【呪符】の束から【呪符】を二枚抜き取り、そのうちの一枚を渡してくる。
「いい? 刃。これが尤も基本的な攻撃呪符で、名を【炎刃】というわ」
そういって俺に向けて見せてくれた札には、漢字に似た文字で【炎】・【風】・【刃】・【死】・【魔】という具合に【魔力文字】が刻んであった。
そう、基本的に【呪符】に刻まれている【魔力文字】はこの漢字に似たものであり、その組み合わせ次第で【呪符】の威力・形状が変わるのだ。
そんな【炎刃】の説明をしながら、地下訓練場中央に位置する場所にある、鉄製の胴鎧が案山子の十字になった杭に被せられて的として置いてある所まで歩み進める俺とフォウリィーさん。
「いい? まずはお手本ね? ……フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う。答えよ、其は何ぞ!」
ー【発動】ー
❝『我は炎 赤き炎』❞
フォウリィーさんが『お伺い』を立てながら【炎刃】に【魔力】を流すと、【炎刃】がその【魔力】と『お伺い』に反応して赤い光を放つ。
ー【魔力文字変換】ー
❝『真紅に燃える赤い刃となり』❞
やがて赤い光は【魔力文字】に吸い込まれ、【魔力文字】が光り輝いてその姿を炎へと変えていく。
そして、フォウリィーさんが【炎刃】の【呪符】を振りかぶり─
❝『貴公の敵を切り裂く者也』❞
ー【呪符覚醒】ー
ー炎 符 斬 刃ー
振りぬくのと同時に、【呪符】から薄くバーナーのように炎が噴出しながら鉄案山子へと襲い掛かり、【炎刃】の当たった鉄案山子が炎に包まれる。
「ふう、どう? これが【炎刃】の使い方。基本的に【~刃】という【呪符】は、あまり射程がないから近接戦闘向けなの。次に─」
そういって【呪符】の束から再び一枚の【呪符】を抜き出しつつ、鉄案山子から少し距離をとり、俺にも少し離れるようにと指示を出すフォウリィーさん。
「逆にこっちは中距離向けね。─フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う。答えよ、其は何ぞ!」
ー【発動】ー
❝『我は炎 熱き烈火となりて』❞
再び【魔力文字】が形となり、【呪符】に炎が纏われる。
ー【魔力文字変換】ー
❝『貴公の敵を焼き尽くす者也』❞
「はっ!」
ー呪 符 投 擲ー
火の玉と化した烈火の【呪符】を、フォウリィーさんが鉄案山子へと投げると、【呪符】は寸分たがわず真っ直ぐ鉄案山子へと直進し─
ー【呪符覚醒】ー
ー烈 火 炎 上ー
ボッっといった音を立て、的の鉄案山子に【呪符】が当たった瞬間に鉄案山子を炎が包み込む。
「まあこんな感じね。どうかしら?」
「すごい……」
ふふ~んと、ちょっと得意げに俺を振り返るフォウリィーさんに微笑みつつも、鉄案山子を包む炎……【呪符】の威力に驚く。
『炎』『氷』等、自然現象を【呪符】の一枚で自在に操り、武器や防御に使う術……【
その奥深さを目の当たりにしつつ、【
「さて次は……うん、そうね。刃? さっき貴方に手渡した【呪符】で、私を攻撃してみなさい」
「……え?」
唐突に言い放ったフォウリィーさんの言葉に思わず呆然としてフォウリィーさんを見つめる俺。
「ふふ、大丈夫よ。今度は攻撃じゃなくて防御の【呪符】を見せてあげる。だから少し攻撃呪符にも慣れておきなさい」
「あ、はい。フォウリィーさん」
鉄案山子が燻って煙をあげるその前に立ち、腰を手に当てたフォウリィーさんがこちらに笑顔を向ける。
俺はそれを見つつ─
「ジン=ソウエンが符に問う。答えよ、其は何ぞ!」
ー【発動】ー
❝『我は炎 紅蓮の炎』❞
俺が【魔力】を流すと、【魔力文字】が赤く輝き、炎が【呪符】を包む。
ー【魔力文字変換】ー
❝『陽炎の如く沸き立ち 貴公の敵を焼き尽くす者也』❞
【魔力文字】が変換され、【呪符】が火柱となり、俺はそれをフォウリィーさんめがけて─
「はっ!」
ー【呪符覚醒】ー
【呪符】を持った手を振りぬくと、俺の【呪符】から炎が迸り、地面をフォウリィーさん目掛けて炎が一直線に疾走する。
ー紅 蓮 燃 焼ー
その炎がフォウリィーさんに直撃し、燃え上がっと見えたその時─
ー【発動】ー
❝『我は障壁 不可視の障壁』❞
フォウリィーさんの体を、【魔力】で出来た膜のようなものが覆い、その炎を遮った。
ー【魔力文字変換】ー
❝『全ての者より 貴公の命を守る者也』❞
炎に照らされたフォウリィーさんの顔には不適な笑顔が浮かび、まるで炎をなぎ払うかのようにその手を振ると─
ー【呪符覚醒】ー
ー紅 蓮 散 火ー
火の子となって散らされ、消えて行く【呪符】・【紅蓮】。
「!!」
「ふふ、どう? これが防御【呪符】、【守護障壁】よ。この他にも、弓矢等の飛び道具を複数回防ぐ【飛撃障壁】や、対炎に特化した【対炎障壁】、より強固な【守護防壁】、そして、周囲に被害を出さないようにする意味合いもある、より広域な【守護防壁】の強化版、【結界】というものもあるの。【結界】のほうは、この地下に張り巡らされているのがそう」
「なるほど……」
元々【
その他にも、外部に音を漏らさない為の【消音】、【結界】の特性であるの外と中を切り離し、閉じ込める意味合いを強化した【隔離】、近寄ってくる人々に警戒心を持たせ、近寄らせないようにする【人払】等、まさに組み合わせ次第では様々な効果が得られるのを実感できるような話が続く。
分類的には、自分自身を守るのが【障壁】、自分を含め、他者も守るのが【防壁】、より複数を広範囲に包むのが【結界】といったところだろうか。
用途上、【結界】の場合は余人交えぬ状況を作り上げ、尚且つ他に被害を出さないという意味合いが強いように思えるが。
「それで、【呪符】も持たずにどうやって起動したのか……わかったかしら?」
こちらにウィンクしながら、両手を広げて何も持っていないことをアピールしつつ、俺に問いかけてくるフォウリィーさん。
「すっごい隠行で解りにくかったですけど……その腰の帯が【高速呪符帯】なんじゃないですか?」
「ふふ、正解! 【
よくできました! といいながら腰に巻いている帯を解き、【高速呪符帯】・【守護障壁】を広げてみせるフォウリィーさん。
二メートルはあるだろうか……その【高速呪符帯】にはびっちりと【魔力文字】が刻んであり、攻撃を肩代わりしたせいなのか、端の部分が少し焦げていた。
「【高速呪符帯】は、【呪符】の何倍もあるその長さ故、耐久性があるの。耐久性は、この【高速呪符帯】が示す通り、受けた攻撃によって【呪符】が破損するまでね。この【守護障壁】も【烈火】や【紅蓮】なら後数回は耐えることができるわ。まあ、この【高速呪符帯】がどれだけ耐えられるかというのも、相手の攻撃の威力次第でまちまちなのだけれど……これはいわば緊急用だしね」
そういって屈託なく笑うフォウリィーさん。
相手の攻撃の瞬間が完全にわかり、避けれるのであれば避ける、避けれないのであれば、【呪符】を使って防御障壁を張るなりして、こういう切り札はあまり使わないほうがいいのだとか。
「……ルイの場合は、自らの力を慢心していた……いい結果だったのでしょうね。【
そういって、少し自嘲気味に笑うフォウリィーさんを励ますように手を握る。
「……ふふ、ありがと! まあ、いつ何時そういう命の危機があるか分からないから……できるだけ自分の切り札となる【呪符】の使用は避けるべきなの。そして……出来れば自分だけの一……とっておきを一つ作っておく事。それがあれば、最悪命の危機に直面したとき、生き残る力になってくれるはずよ」
俺と目線を合わせるようにし、言い聞かせるように俺に語りかけるフォウリィーさんが、俺の頭を撫でながら微笑む。
「さすがに【
そうして再び【呪符】の束を取り出すフォウリィーさん。
「後はそうね……こういうのかしら? フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う。答えよ、其は何ぞ」
ー【発動】ー
❝『我は呪縛 石の呪縛』❞
フォウリィーさんの持った【呪符】が【魔力】を帯びて輝き、その輝きが【魔力文字】へと集約される。
ー【魔力文字変換】ー
❝『石塊の姿を泥へ変え、貴公の敵を縛る者也』❞
【魔力文字】が形を変える中、フォウリィーさんがその【呪符】を地面へと投げつけ、石畳に【呪符】が張り付く。
張り付いた【呪符】が発動と共にその光を押さえ、その【魔力文字】が鈍い光を放つようになる中─
「よし、さて刃? この【呪符】の近くに来て見て頂戴」
「? はい」
言われたとおりに、フォウリィーさんに招かれるまま、今起動した【呪符】の傍へと足を運ぶと─
ー【呪符覚醒】ー
「っ!!」
ー石 床 泥 化ー
範囲内に入った証なのか、突然【呪符】が再起動をして地面の石畳が泥沼のようにぬかるみ、俺の両足が沈んでいく。
ー泥 化 凝 固ー
咄嗟の事でリアクションが取れず、両膝まで埋まったところで石畳が元の硬度を取り戻し─
「と、まあこんな感じでも【呪符】は使えるのよ?」
「……フォウリィーさ~~~ん!」
「あはは、ごめんごめん。何事も経験だから、怒らないの!」
そういって頭を撫でながら、【呪符・石泥呪縛】を解除し、俺は石畳から足を抜いく。
「もう! フォウリィーさんってば!」
さすがに急にこういう罠にかけられたので、怒ってフォウリィーさんの頭に拳骨を落とさんと拳を作り、フォウリィーさんに飛びかかるが─
「へ?」
ー【発動】ー
❝『我は鏡 銀の鏡』❞
ー虚 像 空 振ー
スカっという音がふさわしいぐらい、俺の拳はフォウリィーさんの体を
ー【魔力文字変換】ー
❝『貴公の姿になりかわり 貴公の虚影を作る者也』❞
ー【呪符覚醒】ー
ー幻 影 散 消ー
「っふふ、引っかかった引っかかった」
「む~~~~……」
思わず地面にしりもちをついて座り込んでいると、その幻影の影から現れたフォウリィーさんが、口元の笑みを手で隠し、片方の手で俺のほっぺたをつつく。
その行為にさらに頬を膨らませる俺。
「まあ、今のも【高速呪符帯】による起動ね。まあ……自動起動というよりも瞬間起動といったほうが正しいのだけれどね。さすがにいくら【高速呪符帯】といっても起動の為の【魔力】がなければ意味の無いものだし……って、あれ? ジン? まだ……怒ってるの?」
さすがに面白くなかったので顔をフォウリィーさんから背け続けると、フォウリィーさんが徐々に慌てたように俺に声をかけはじめる。
「……まあ、だまされたのは俺の未熟だけど……これからはちゃんと教えてくださいね!」
そっぽを向きながらも、俺がそう答えると、安心したように溜息を吐くフォウリィーさんが、今度は俄然やる気を出して宣言する。
「……ええ、もちろんよ! きちんと一流の【
「……や、そこまで気合を入れなくても……」
「ダメよ! やるからにはきっちりとやるんだから!」
嬉々としたいい表情のフォウリィーさんに若干引いて危機を覚えている俺に対し、じゃあ次は~と、次々と【呪符】を発動させて教えて行くフォウリィーさん。
やる気満々の熱血指導は……夕飯の時までみっちり続いたのだった。
そうして更に一週間ほどたち、今日の【呪符】の修練も終わり、夕飯を食べている団欒の時。
「ジン君、修行のほうはどうだい?」
「はい! 楽しいですよ! 毎回色々な使用方法がわかりますし、種類もいっぱいありますし!」
じっくり煮込んだシチューに食パンを浸しながら食べていると、オキトさんがそう話かけてきたので、素直に今の現状で思っていることを話す。
攻撃・防御・治癒・結界・幻影など、一通り問題なく発動でき、今はその用法をもう少し増やすことが出来ないかをフォウリィーさんと試しているところだ、と話すと、オキトさんはその言葉に満足げに笑顔を浮かべて頷いてくれた。
「……そういえばポレロ君はどうしたんだい? フォウリィー」
「……まだ暫く来れそうにないらしいわ。前の時も無茶いっちゃったし……」
ー柔 軟 抱 擁ー
「……そしてなぜに俺は抱きしめられているんでしょうか……」
「決まってるじゃない。ジン分の補給よ!」
「どんな成分だよそれ!」
フォウリィーさんが頻繁にポレロさんの言葉を出し、オキトさんがポレロさんの事を尋ねる。
……まあ、俺分という意味不明なものを補給し始めたフォウリィーさんの中の……要はポレロ分が足りなくなっているに違いない。
もっともその分俺に皺寄せが来ている気しないでもないが……。
食事が終わり、食器の後片付けをしてひと段落した後、三人でお茶を飲んでいると、今後の俺の修行スケジュールをオキトさんがフォウリィーさんと話し出した。
「そうね、大分扱いに慣れてきたし……そろそろ【呪符】を使用しての模擬戦なんかにも慣れておいたほうがいいかもしれないわね」
「……! なるほど……もうそこまでのレベルに達したのかい?」
フォウリィーさんとオキトさんが俺を見ながらそう話を進める中、俺は自分の事なのに自分を除いて進んで行く話を聞きながら、ちびちびとハーブティーを飲む。
さわやかな後味のこのハーブティーは、食後の口の中をさっぱりさせるのに効果的で気に入っている。
「そうか……そうだな……フォウリィー、明日の修行なんだが……」
「ん、どうしたの? お父様」
思案顔で目を閉じ、考え事をしていたオキトさんが、何かを決心したように頷きながら、フォウリィーさんに話し掛ける。
「そろそろ【呪符】の作成を教えてもいいかと思うんだが……フォウリィーはどう思うかな?」
「!……そうね……そろそろいいかもしれないわ、お父様」
「おお?! いいんですか?」
(お~、遂にか~! 毎回修行のたびにオキトさんに作ってもらってたし、これでオキトさんの負担も軽くなるかなあ)
俺がそう思いながら席から立ち上がってオキトさんに近寄って確認を取ると、近くに来た俺を見て微笑みながら俺の頭を撫でつつ話を続けるオキトさん。
以前話した事があるように、オキトさん、そしてフォウリィーさんが俺の使う練習用の【呪符】を作ってくれていたのである。
フォウリィーさんがその役割を受け継ぎ、オキトさんには書類仕事があるからといって遠慮してたのではあるが……命の恩人たる俺に対し、直接教えられない自分のせめてもの気持ちだという事で、忙しい合間を縫って【呪符】を作ってもらっている。
「うん。【
そういいながらフォウリィーさんに目配せをして頷くと、その合図に頷いたフォウリィーさんが書道道具一式と呼べるようなものを自分の部屋から取り出してくる。
「これが……」
「そうよ? ジン。これが【呪符】を作るための道具一式。お父様?」
「ああ、ありがとうフォウリィー。さて─」
そういって黒塗りの箱を開き、【呪符】を作るための道具を取り出すオキトさん。
箱の中から取り出されたのは─
白紙の【呪符】の束。
【魔力文字】を書くのに使うだろう、墨汁の入った墨入れ。
その【魔力文字】が掘り込んである墨磨り。
同じく文字が書き込まれている、墨をうけるための硯。
そしてもち手に【魔力文字】が彫りこんである、柔らかい毛質の筆。
「いいかい? ジン君。これは見ての通り、この真っ白な【呪符】を【呪符】足らしめるために、【魔力文字】を書き込むための道具だよ」
そういってその書道具一式を俺がよく見えるようにと俺の前に置いてくれるオキトさん。
「……触ってもいいですか?」
「ああ、もちろんだよ」
オキトさんとフォウリィーさんの顔を見ながら許可を貰い、俺は道具の一つ一つを手に取ってみる。
そして……手に取った道具の全てに共通するのは、所狭し彫りこまれている【魔力文字】。
それらは、俺が手に取った瞬間に俺の【魔力】に反応してうっすらと輝く。
「……うん、さすがだね。ジン君が今やってみせた通り、その墨磨りと硯には【魔力文字】を作成するために、術者の【魔力】を墨に流し込み、墨を【魔力文字】へと変換する作りになっているんだ」
両手に持った淡く輝く墨磨りと硯が、【魔力】で橋をかけるように持っている手をつなぐ。
「【呪符】を作るにはその墨磨りを通して【魔力】を墨に溶かし込み、溶かし込んだ【魔力】のイメージが【魔力文字】として結晶化し、それが白紙の【呪符】に定着する事で出来上がるんだよ」
そして……と墨入れを指さすオキトさん。
「この墨も少々特殊でね。【神木】と呼ばれる木の枝を燃やし、炭にしたものから出来上がった墨に、【魔力文字】を結晶化させる為の融和性を高めるために自分の血を少量混ぜてあるんだ」
オキトさんの話に聞き入り、頷いていると……ちょっと貸してもらっていいかな? と、硯と墨磨りを指差したので、オキトさんに手渡すと、オキトさんが硯に墨を入れ始め─
「じゃあ、久しぶりに娘の修行の成果を見せてもらおうかな?」
と、オキトさんは墨の入った硯を道具ごとフォウリィーさんに手渡して微笑む。
「もう、お父様ったら……。わかりました。やりますよ~」
急に振られてちょっと動揺するも、オキトさんに子供扱いされた気分になったのか若干すね気味な顔で道具を受け取るフォウリィーさん。
なんか可愛いなあ、と一瞬思ったのは内緒だ。
「あ……そうだったわ。ねえ? ジン。これはいっておかないといけないのだけれど……【呪符】は【
すねた顔を一瞬で戻し、そういえばと思い出したように俺に語りかけるフォウリィーさんの顔が困惑したものとなり、どうしようという感じでオキトさんに視線を向ける。
「うん……でも【呪符】作りには【真名】は必須だからね。……何、私は丁度良い事に【【
一瞬思案したものの、はっきりとそうフォウリィーと俺に微笑みかけながら話しかけ、頷くオキトさん。
「……そうね。そのおかげでお父様は助かったのですし。お父様がそういうのなら何も問題はないわね。うん、じゃあよく見ててね? ジン。貴方なら一度見れば覚えれるでしょう?」
そういって笑いかけたフォウリィーさんが、その表情を引き締め、その両手に【魔力】を集中させ、硯に墨磨りと筆を置きくと、フォウリィーさんの【魔力】に反応した墨磨りが淡い光を放ち、硯で墨を磨りだす。
「フォウリンクマイヤー=【ムージュ】=ブラズマタイザーが真名において結晶す」
墨磨りから硯に魔力が流れ、硯全体にしみこむようにいきわたる。
❝上天御願❞
墨を磨る度に、溶け出す【魔力】が墨の中で【魔力文字】となって溶けていき─
❝昊天御願❞
【魔力文字】が再び形となって墨の中を泳ぐように動く。
❝蒼天御願❞
硯に墨磨りを置き、手に筆を取って墨をつけると、硯から筆を空中に走らせる。
❝旻天御願❞
すると、硯から筆についた墨が、その墨を【魔力】で文字通りに具現化していく。
❝魔力文字結晶❞
筆を硯におき、胸元から取り出した白紙の【呪符】を、空中に浮かび上がる【魔力文字】に重ねるように、貼り付けるように押し当てると、それは、白紙の【呪符】に吸い込まれるようにしみこみ、【呪符】の形となる。
ー【魔力文字結晶】ー
形となった【呪符】が輝くと共に、その【魔力】の光が【呪符】の【魔力文字】に吸い寄せられていき─
ー【呪符 完成】ー
輝きが収まるのと同時に、宙に浮いていた【呪符】を左手の人差し指と中指で呪符を挟みこみ、横一線に【呪符】を振り、余分な【魔力】を散らす。
「ふう……。どうですかお父様?」
息を吐いた後、ちょっと自慢げにウィンクをしながら、オキトさんに微笑むフォウリィーさん。
「ふふ、本当にうまくなったね。もう私が教えることはないだろう。 娘の成長はうれしいものだが……、巣立っていくことを考えると寂しいものだね。 後は……」
その言葉に返事をしながら一瞬チラっとこっちを見て、フォウリィーさんに視線を戻したオキトさんが─
「早く孫の顔が見てみたいものだね」
と、フォウリィーさんに微笑みを返し、その言葉を聴いて目を丸くし、その意味を考えて顔を真っ赤にするフォウリィーさん。
(ああ、そっか。オキトさんの年で、フォウリィーの年齢の子供がいるとなると……俺は孫扱いされてもおかしくないのか)
おじいちゃんにはまったくといって見えないオキトさんを見ながら、そんなくだらない事を考えていると─
「もう! ちょっと! 気が早いわよお父様? でも、そうね……どうしても孫の気分が味わいたいならジンにそういわせればいいじゃないですか?」
「……え?」
そんなオキトさんに困り顔を浮かべていたフォウリィーさんが、ちょっと意地の悪い笑顔を浮かべてこちらに視線を向け、オキトさんに話しかける。
その言葉の意味が分からず、俺がフォウリィーさんの言葉に呆然としていると─
「ッ?! おおそれもいいね! ねえジン君、君さえ良ければ……ちょっと『おじいちゃん』と呼んでみてくれないかい?」
そんな提案に俄然やる気になったオキトさんが、フォウリィーさんの言葉に悪乗りするように微笑みながらこちらをじっと見つめてきた。
(え?! ええ~~~~?! う……あ、でも、いつもお世話になってるし……そのぐらいならいい、のかな……ええぃ……ままよ!)
そんな内心の葛藤を抑えながら少し様子を伺うようにオキトさんを見上げつつ─
「ええと……、それじゃあ……オキトお爺ちゃん?」
大丈夫かな? と疑問に思い、首をかしげながら呼んでみる。
すると─
ー心 臓 直 撃ー
「っグッハアア」
と声をあげ、恍惚とした表情で鼻血を出し、胸を押さえながら椅子ごと後ろに倒れるオキトさん。
「え、ええ~?! だ、大丈夫ですか?! オキトさん!」
「お、思った以上にすさまじい破壊力だわ……」
そんなオキトさんを介抱しようと近づく中、ぽつりとつぶやきながらも鼻から下を手で隠すフォウリィーさん。
(……見えない! 指の間から赤いものなんて見えてないよ!)
フォウリィーさんを視界に移しつつも、オキトさんが頭を打っていないかどうかを確認していると─
「フフフ、これで後10年は戦える……!」
(いや、マジ大丈夫?! オキトさん!)
そんな事をつぶやくオキトさんにいろいろ不安を感じつつ、濡らした布で鼻血を拭いたり、倒れた際にこぶになったところに布を当てたりと、二人が落ち着くまで看病する事になり、ようやく一息ついて落ち着いた頃には、もうすっかり日も落ちて暗くなっていた。
フォウリィーさんとオキトさん、俺で、家の中の灯りが必要な箇所に【呪符】・【灯火】を貼り付けて灯りを作りつつ、再び食堂に戻る俺達。
大分暗くなったのと、鼻血を出してしまったを気にして先にお風呂に入らないと、とフォウリィーさんが話す中。
「あ……そうだフォウリィー、今日のお風呂は私がジンくんと入ってもいいかな?」
(あれ? それ俺に聞くことじゃね?)
そんな事を唐突にいうオキトさんに、心の中でつっこんでいると─
「フフッ、そうね。孫のとスキンシップを楽しんできてくださいな♪」
複雑そうな顔をしていた俺を横目で見つつ、心底楽しいという笑顔で頷くフォウリィーさん。
「そうか、ありがとう。ではフォウリーがあがったらいこうか? ジンくん」
フォウリィーさんに笑顔を返しながら、俺の背を押して部屋へと連れて行くオキトさん。
(え~っと……俺に拒否権は……ないんですね、わかります)
「……はい」
諦めが心を占める中、まあ男同士の付き合いだと思えばいいか、と気を取り直し、しばらくしてフォウリィーさんと一緒に俺のところに顔を出したオキトさんと一緒に、着替えを持ってお風呂場に向かう。
……以前、疲れていて着替えを忘れ、お風呂に入り……後からお風呂に入りにきたフォウリィーさんに着替えを頼んだ際、女物の着替えが用意されてあった事があり、それ以来着替えは忘れないようになったのはまったくの余談だ。
「あ~……いいね、こういう風に……息子……いや孫かな。と一緒にお風呂に入るのがささやかな夢だったんだよ」
「はふ~……あれ、ポレロさんもそんな事いってましたけど……そうなんですか? どちらかといえば【
二人で浴槽につかりながらあーあーと気の抜けた声を出しつつ、ふとオキトさんがつぶやくように話した夢の話につっこむ俺。
「いや~……正直、【
俺がそう話しかけると、【
その話を聞いて互いに苦笑しつつ、そろそろ体を洗おうかと湯船から二人であがり、俺は日ごろのお礼として背中を流す事にした。
「こんな感じですか?」
「……うん、ちょっと上かな……うん、上手だね、ジン君」
「あはは、ありがとうございます」
椅子に座ったところで、ごしごしとオキトさんの広い背中をこすり洗い流す。
俺に背中を擦ってもらえたのが嬉しかったのか、ひどく上機嫌なオキトさんがお返しだとして今度は俺の背中……そして髪を洗ってくれ始めたのだ。
「え? いや……そこまでしてくれなくていいですよぅ」
「あははは、気にしなくても大丈夫さジン君。娘が小さいころはよく洗ってあげたりしていたしね」
そう笑いながら俺の長い髪を、頭は揉むように、そこから腰にかけては優しく擦り合わせるように洗ってくれた。
互いに洗い流し、体も綺麗になったところで再びお湯につかり、再びほっと一息ついた時。
「ああ……そういえば君の真名なんだが」
と、ふと思いついたようにつぶやくオキトさん。
「んん? 何かいいのありますか?」
「うん。今思い出したんだけどね。それこそさっきの話で出てきた、聖地ジュリアネス真下あたりに位置するリキトア遺跡を発見し、発掘作業を行っていた時の話なんだけど─」
そうして語られたのは、オキトさんが発見したという遺跡の発掘作業の話。
中でも、リキトアが聖王国に所属する以前からあったのではないかという寝殿造りの石の建物を発見した際、その壁に書かれていた詩的な言い伝えと、蒼髪・緑目で猫のような耳やしっぽがついている、リキトアの守護女神だったのではないかという美しいの壁画。
それと俺の容姿が、耳や尻尾以外似通っているというのだ。
ジン君の姿をどこかで見たな~と思っていたんだよと、長年の疑問が解けたようなスッキリとした笑顔を浮かべるオキトさん。
「……女神、ですか。男なんで多少思うところはありますが……その壁画の女神の名前はわかるんですか?」
(女神ってのはなあ……俺男なのにな~……)
と、ややへこみつつも、オキトさんに先を促す俺。
「うん。たしか詩的な一文で名前が出ていてね……え~っと」
思い出すためか、額に手をあてるオキトさんがしばし長考し……そうだそうだ、と手を打ちながら、その詩を口ずさんでみせた。
『夜天浮かぶるは月。月には太古より怪物あり。祖は月に君臨する獣の王』
それは遠い物語。
『暴虐無尽に暴るる王。女子を食らいて月の民を亡き者にしようと欲す』
月に人が住み、今、この地に住む人々と同じような暮らしをしていたという物語。
『祖に立ち上がるは猫なりし乙女。我が身をおとりに王と相対す』
暴虐な王と、それと戦った乙女の物語。
『月のかけるほどの激しい戦。王を月から落としたり』
激しい戦いの末、その女神は勝利を勝ち取り、月の女神は月から暴虐なる王を追放する。
『その姿。月に映えるは青い髪。双眸光るは翠。その御姿は女神の如く』
その乙女は神々しく……その姿は女神そのもので、その姿は月に生え……まさに【月の女神】。
「祖の女神。御名前を永遠とせん。祖の名は……え~っと……そうそう!」
そこまで語りながら、一瞬女神の名を忘れたのか、再び思考に入ったオキトさんだったが、すぐにその続きを語りだし─
「『月の女神……獣の守り手。祖の名を【ルーナ】といふ』という内容だったんだよ。うんうん」
「へ~………………ぇ?」
全てを思い出せた、と満足げに頷くオキトさんに頷いてみたものの、一瞬引っかかる名前を聞いてオキトさんを思わず二度見してしまう俺。
「え、えっと……もう一回女神の名前を教えてもらって良いですか?」
「ん? あはは、聞き損ねていたかな? これからジン君の【真名】になる名前だからね。しっかり覚えなきゃだめだよ? 月の女神の名は……【ルーナ】だよ」
(なるほど、月の女神……【ルーナ】……って!?)
「んなにいいいい?!!」
「な、なんだい?! いきなり大きな声をあげて」
「あ、いえ……その……」
思わず声をあげ、オキトさんに驚かれてしどろもどろになっていると─
ー音 刻 疾 走ー
ドドドドドドという音を立てて、走りこんできたフォウリィーさんが、唐突に風呂場のドアをあける。
「ど、どうかしたの? お父様、ジン! 大きな声が聞こえたけど!」
「ああ何、ちょっとお風呂に入って昔話を思い出したら、丁度ジン君に似合う【真名】を思いついてね。それをジン君に教えたら驚かれてしまったんだよ」
「あ、あはは……すいませんフォウリィーさん、オキトさん」
「なんだ……よかったわ~……あ、お風呂上りに飲み物を用意しておきますから、その時ジンの【真名】を聞かせてくださいね、お父様、ジン?」
何事もないのに安心したように一息つき、微笑みを浮かべてお風呂場から出て行く際、そんな事をいいながら出て行くフォウリィーさんを見送りながら、のぼせないようにとその足で体を拭き、お風呂から二人で出て行く。
そして俺の【
(ルナちゃん……伝承に残るだなんて……昔はやんちゃしてたのね~)
と。
まあ、別人だろうとは思うけど……。
ーふふ~ん、ブイブイなのです!ー
「?!」
「? どうしたの? ジン」
「どうしたんだい? ジン君」
(い、いやいや……空耳空耳。うん。ちょっと湯冷めがしてきて震えただけだな! うん!)
俺が突然空耳に反応して何かを探すように辺りを見回すのを、疑問を浮かべた顔で見つめてくるオキトさんとフォウリィーさん。
「あ、あはは……体が冷えてきたのかもしれません、そろそろ寝ますね~」
「あら、それは大変ね。じゃあ一緒に寝ましょ♪」
ー抱 擁 拘 束ー
「ちょ、ま!」
そういってがっちりとホールドされて持ち上げられる俺が慌てていると、それを微笑ましいものを見る顔で見守るオキトさん。
「あはは、まあ風邪を引いたら大変だからね。よくあったまって寝るといい」
「はい、お父様」
「あ、お、おやすみなさい、オキトさん」
「ああ、おやすみ」
にこやかにお休みの挨拶をして手を振るオキトさんに見送られ、俺は再びフォウリィーさんの部屋へと連れて行かれ、抱きしめられながら眠るのだった。
『ステータス更新。現在の状況を表示します』
登録名【蒼焔 刃】
生年月日 6月1日(前世標準時間)
年齢 7歳
種族 人間?
性別 男
身長 119cm
体重 29kg
【師匠】
カイラ=ル=ルカ
フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー
【基本能力】
筋力 BB
耐久力 B
速力 BBB
知力 AA ⇒AAA New
精神力 BBB
魔力 BBB ⇒A New
気力 B
幸運 B
魅力 S+ 【男の娘】補正
【固有スキル】
解析眼 S
無限の書庫 EX
進化細胞 A+
【知識系スキル】
現代知識 C
サバイバル A
薬草知識 A
食材知識 A
罠知識 A
狩人知識 A-
魔力操作 A-
気力操作 A-
応急処置 A
地理知識 B-
【運動系スキル】
水泳 A
【探索系スキル】
気配感知 A
気配遮断 A
罠感知 A-
足跡捜索 A
【作成系スキル】
料理 A+
精肉処理 A
家事全般 B⇒A New
皮加工 A
骨加工 A
木材加工 B
罠作成 B
薬草調合 A
【戦闘系スキル】
格闘 A-
弓 S 【正射必中】(射撃に補正)
リキトア流皇牙王殺法 A+
【魔術系スキル】
呪符魔術士 C⇒A- New
魔導士 D (知識・【
【補正系スキル】
男の娘 S (魅力に補正)
正射必中 S (射撃に補正)
【特殊称号】
真名【ルーナ】 【
自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。
【ランク説明】
超人 EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS
達人 S⇒SS⇒SSS⇒EX-
最優 A⇒AA⇒AAA⇒S-
優秀 B⇒BB⇒BBB⇒A-
普通 C⇒CC⇒CCC⇒B-
やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C-
劣る E⇒EE⇒EEE⇒D-
悪い F⇒FF⇒FFF⇒E-
※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正
【所持品】
衣服一式
お手製の弓矢一式
簡易調理器具一式
薬草一式
ルイの呪符束
練習用呪符束
皮素材
骨素材
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オキトさんの具合もよくなり、ポレロさんやフォウリィーさんたちと友好を暖めながらも、様々な知識を教えてもらう日々。
書庫を使わせて欲しいという話から、俺の過去話となり、いろいろとぼかしながら話を進め、俺は書庫へと案内される。
自分の能力を駆使し、書庫で自分に足りない知識を補う俺。
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