いつものようにフォウリィーさんに抱きしめられて迎えた朝。
俺はフォウリィーさんの抱き締める手をそっとはがしてベッドから抜け出すと静かに玄関を抜ける。
朝の静かな空気と、森の緑の匂いを肺一杯に吸い込みながら、俺は毎日の日課としてカイラと共に過ごした日々で培った基礎鍛錬を行っていた。
防御体制からの回避、受け流し、防御。
初めはゆっくり、徐々に早く。
粗が目立っていたこの動きも、カイラとの鍛錬で大分流動的に瞬時に行えるようになっていた。
目を閉じ、カイラを【
格闘戦の基礎攻撃法として習った拳・肘・膝・蹴り。
この基礎もまた、カイラとの鍛錬で大分洗練され、様になってきている。
最近では力も上がってきているので、後は重さとリーチが欲しいところだな、と思いつつ、俺はカイラの動きをトレースして攻守を続ける。
模擬戦で使うようになった肩・背・頭突きなども盛り込み、カイラの動きを追いながらそこからは記憶から仮想敵としてカイラを相手にしながらしばらく模擬戦を続けるが─
【
そして一息深呼吸を行った後は、いつものように【魔力】と【気力】の練磨を行う。
正直言えば【リキトア流皇牙王殺法】を使用して魔力操作・【リキトア流皇牙王殺法】の鍛錬も行いたい所であはるが、人の身である俺が【リキトア流皇牙王殺法】を扱えるというのはまさに規格外であり、ルイの時は対人戦として初となり、尚且つ【
まあ、オキトさんやフォウリィーさん達ならば教えても大丈夫そうではあるが……【リキトア流皇牙王殺法】の掟とかが関わってくると迷惑をかけてしまう可能性がある事から念のために封印してあるのだ。
それ故、今は記憶内でのイメージトレーニングに留め、俺は次の基礎鍛錬に入っていく。
いつものように【槽】を開き【魔力】を循環させていく。
深く吸出し、吐き出す呼気と共に体を巡る【魔力】が、日々不純物をなくし、純度を上げ、磨き上げ力強くなっていくのがよく分かる。
こういう練武・鍛錬・練磨という手法において、【
こうして練り上げ、磨き上げて純度をあげた【魔力】の力が衰えずにその段階で留まってくれるからだ。
なので、毎日【魔力】を使用し、自身の【槽】に湧き水のように湧き出す自分の新しい【魔力】と、外界からしみこむように【槽】に取り込まれる【魔力】を練磨する事によって即座に元の【魔力】の段階まで持っていくことができるのだ。
【魔力】の瞬時発動・放出・操作においても大分流れるように扱えるようになってきていて、呪符を使う際にもこれが役立っている。
呪符を扱う手法として、『お伺い』を排斥し、【魔力】のみを流して呪符を発動する【詠唱破棄】という方法があるわけだが、これは通常の呪符の発動を略称化することによって瞬時発動させる方法である。
このメリットは瞬時に発動できる事、詠唱をしない事で隠密製に優れる事。
デメリットは余分に【魔力】を食う事と、攻撃・精度が半分まで落ち込む事だ。
なので、攻撃呪符で扱う際には接近戦で絡めないと当てるのが難しい。
ルイの場合は【高速呪符帯】と呪符での相乗効果で自分の場を作り上げ、続く呪符を【詠唱破棄】でも詠唱時と同じ効果を得るようにしていたのであり、彼のように氷系特化型の呪符の組み方だったので使えた戦略である。
だが、この魔力操作、呪符の【魔力文字】に直接【魔力】を送る際に、【魔力文字】を発動順になぞるように【魔力】を走らせる事によって詠唱と同じ効果を得られるようになる事が幾度かの練習により分かり、徐々に【詠唱破棄】の錬度と精度が上がってきている。
フォウリィーさんはその俺の【詠唱破棄】の威力と精度に驚き、どうやったらそのような……と疑問を覚えていたようだが……フォウリィーさんにも【魔力循環】を覚えてもらったほうがいいかなあ……。
そんな事を考えつつも、【魔力】をゆっくりと沈めて鍛錬を終え、最近では闘いで使っていない【気力】の練磨に入っていく。
これも俺的考え、感じた事なのだが……。
【魔力】は【槽】……【魔力】を溜め込む器だとすれば、【気力】は発電増幅機のようなものだ。
全身の細胞から【気力】には満たない生命力を集め、それを丹田という発電増幅機に燃料として注入すると……その生命力は燃焼されて【気力】へと昇華される。
いや……生命力という固形燃料を丹田内にある種火のような少量の【気力】で着火し、それが燃え上がり爆発する事で【気力】というエネルギーに変換されるという事だろうか。
通常の人間は丹田という発電増幅器自体が休眠状態であり、仮に丹田に燃料が入ったとしても、一番最初の火をつける【気力】という種火がない。
それ故、燃費とエネルギー効率の悪いこの固形状の生命力を、生命力の熱のまま扱う為に使うために力が弱いのだ。
そして、生命力とでしか生み出せない【気力】では細胞の活性化を促す事も出来ず、肉体機能本来の力全てを十全に扱う事はできず、これにより人間はその性能の数~数十%しか引き出せないのだとされている。
ごく稀に聞かれる、火事場の馬鹿力と呼ばれるものは、窮地におかれた肉体が生存本能を呼び起こして咄嗟に細胞を活性化させ、【気力】を外に放出しながら肉体を強化することで発生するものであり、普段使われない【気力】を無理矢理放出させて力を発揮するその反動によって力を使った後はすさまじい筋肉痛に襲われたり、動けなくなる。
それは細胞が普段使わない【気力】の爆発によって損傷するからであり、【気力】を発現したとしてもこの結果の為、やはり元の生命力レベルでしか力を生み出せなくなる。
しかしながら、なんらかの要因で肉体がこの【気力】の放出に耐えられれば【気力】に目覚める可能性もあり、【気力】を目覚めさせるために死中に活を見出して死に物狂いで特訓する姿も見受けられるようだ。
ただし、通常【気力】に目覚めた人々も、力が出し入れが出来るだけ、つまり垂れ流しの状態で【気力】を体外に放出してしまうため、食事や栄養価の高い食事で細胞や肉体のコンディションを整えないとすぐに力が切れ、昏倒・衰弱してしまう。
それを補い、防ぎ、また強化するのがこの【気力】の循環であり、【気力】が丹田から再び肉体に、細胞に還元される際、その細胞の活性化と隣り合う細胞の活性化を誘発し、やがて生命力として生み出していた【気力】が、【気力】そのものとして生産できるようになっていくのだ。
肉体は圧倒的なエネルギーとその膨張する力に耐えうるように【気力】が体内や細胞内に流れるうちに鍛え上げられ、頑健さを備え付けるようになっていく。
【魔力】は異物に対抗するという抵抗力の側面を持って肉体を鍛え上げ、【気力】は肉体・細胞の活性化という側面で肉体を鍛え上げるのだ。
やがて【気力】によって目覚める細胞が多ければ多いほど【気力】は増加していき、丹田において【気力】が燃料としてくべられ、それが再び燃え上がり【気力】となる過程で生命力としての粗が残る【気力】が練磨されていく事になり、さらなる爆発によって肉体・細胞・【気力】が強化されていく。
さらにその爆発とエネルギーを循環・操作する事により、圧縮・収縮することによって【気力】の濃度と力を増大させる事も可能となっていくのだ。
この【気力】もまたイメージによって操作することが可能であり、俺は絶えず【魔力】と【気力】の両方に同じ訓練方法を課している。
以前よりも濃密で純粋な熱い【気力】が俺の体内を巡り、再び丹田において強化され、体を巡り満たしていくのを感じながら……俺は朝日の傾きを察して【気力】を沈め、一度部屋へと戻る。
手ぬぐいで汗を拭きながら部屋へと戻り、ポレロさんの名前を寝言でいう可愛い寝顔のフォウリィーさんを、気が引けつつもゆすって起こし、寝癖を治してあげて早速キッチンへと向かい、これもまた最近の日課となっている朝食の用意をする。
新鮮な野菜を刻んで水に晒しながら、酸味の利いた果物と岩塩をあわせたドレッシングを作り、生野菜へと添え、昨日作ったシチューを温めなおし、スライスした食パンを石釜へ入れて表面が狐色になるまで焼き上げる。
焼きあがったところで食パン中央にバターを乗せ、パンの熱で溶けたバターがパンにしみこんで徐々に広がっていくのを見つつ、皿へ乗せる。
暖めなおしたシチューを木製の深皿へと入れて盛り付けた後、これまた毎朝恒例になりつつある、朝食の呼び出しにオキトさんの部屋へと向かう俺。
ー扉 叩 小 手ー
「オキトさ~ん、ご飯ですよ~。……オキトさん? オキトさ~ん? ……どしたんだろって……うええ?! 大丈夫ですか?!」
「ん……んん? ああ、おはようジン君。はっはっは、いやあ、どうも書類整理をしながら寝てしまったようだね」
ドアをノックしてオキトさんの返事を待っていたのだが……一向に返事はなく、俺はオキトさんの書斎の扉をそっと開けてみると……その山としかいいようのない書類の間から……まるで殺人現場よろしく見える人の手が!
まさかと焦りながらオキトさんに声をかけつつ、恐らくはオキトさんであろう(むしろここでオキトさんじゃなかったら怖い)机の上にあって書類に埋もれている手の持ち主の場所に駆け寄る。
すると恐らくは書類作業の途中で力尽きたのだろう、オキトさんが机の上につっぷし、死んだように眠っていたのを発見したのだ。
慌てて声をかけながらゆすると、その意識を覚醒させて起きたオキトさんが、大きく伸びをしながら起き上がった。
ほっと一安心しつつ、ご飯ですよと声をかけ、所々跳ねた髪の毛をなでつけながら、俺の後に続いて食堂へと入ってくるオキトさん。
互いに朝の挨拶を交わした後、いつものように三人で朝食の食卓を囲みながら……ようやく意識が覚醒してきたオキトさんが、フォウリィーさんに対して俺の修行内容の進み具合を尋ねてくる。
順調というよりも圧倒的速度で進んでいるフォウリィーさんとの修行に深く頷くオキトさんが、今日の修行内容について尋ねてきて─
「フォウリィー、今日のジン君の修行予定はどうするんだい?」
食パンについたバターを広げながら、オキトさんが俺とフォウリィーさんを見ながら尋ねる。
「う~ん、そうねえ。前ジンには説明したのだけれど……ジンには【
俺を見てじっと考えた後、オキトさんのほうにそう言葉を投げかけるフォウリィーさん。
(……俺の……【
食パンをハムハムと食べながら、俺は考えを巡らせる。
(まあ、最初は練習がてら、普通の【呪符】を複数枚作るのが妥当だよな)
オキトさんからのオーダーで、シチューのおかわりを盛り付けて渡しながらも、俺は自分の覚えている呪符の構成と照らし合わせながら新しい【呪符】の構成・効果等を至高する。
そんな俺の様子を伺いつつ、オキトさんとフォウリィーさんが【呪符】作成用の道具一式や【呪符】束等、【呪符】を作成するためのものをどのぐらい用意するかを話し合っていた。
そして概ねの方針が決まったところで、後はゆっくり食べましょ? というフォウリィーさんの提案によりゆっくりと食事に入る俺達。
和気藹藹と他愛もない話をしながら、朝食の時間は過ぎていく。
そして食事の後片付けを行い─
「ジン、【呪符】作成の手順は当然覚えているわね?」
「うん、大丈夫だよフォウリィーさん」
オキトさんが再び俺達の修行に後ろ髪を引かれつつも、
そしてその後、早速とばかりに準備してもらった【呪符】作成用の道具をもって地下へと移動する事になった。
「ん、そうね……はい、私は近くで見ているから、刃の好きなようにやってみなさいな」
「うん、わかったよフォウリィーさん」
そういいながら俺に呪符作成用の道具一式と、無地の呪符を渡してくれるフォウリィーさん。
そうして少し離れた地下の柱に背を預け、俺を優しく見守るフォウリィーさんの視線の中……俺は早速ばかりに墨磨りと硯に魔力を通しながら、自分の血を混ぜた墨を硯に垂らし、墨磨りから墨の面に浮かび上がる【魔力文字】を見つめる。
満遍なく墨に魔力がいきわたった所で、俺は……つけてもらった真名での呪符作成に挑む事となった。
❝ジン=【ルーナ】=ソウエンが真名において結晶す❞
少し離れている私……フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーの目の前で、私の初めての弟子となるジンが、墨磨りと墨に【魔力】をしみこませ、硯に【魔力】をいきわたらせていく。
❝上天御願❞
ジンの耳辺りのよく、透き通った声が地下に響き渡る。
❝昊天御願❞
溶け出した【魔力】が硯を輝かせ、やがて墨磨りを置いたジンがその手に筆を取る。
❝蒼天御願❞
筆にも筆先まで【魔力】がいきわたり、同質な【魔力】同士が引き合うかのように空中へと【魔力】の通った墨が踊りだす。
❝旻天御願❞
空中で文字が踊り、それはイメージしされた力の形として確定され、ジンの持つ札へと集約されていく。
❝魔力文字結晶❞
呪符に刻まれた文字が輝き、白紙で意味を成さなかった呪符はその力の意味を持ってジンの手に顕現される。
ー【呪 符 完 成】ー
ぱっと完成された呪符がジンの手へとつかまれ、出来た事に満足げに微笑むジンの笑顔に癒されて思わず微笑み返してしまう自分を自覚する。
「うん、完璧ね。さ、どんどん作っていきましょ?」
「はい、フォウリィーさん!」
呪符が作れた事と、褒められたことが嬉しいのか……満面の笑みで次の呪符の作成に入るジン。
(……ぁぁ、可愛いわ~……っと、あぶないあぶない)
鼻から愛が溢れ気が遠くなるのをどうにか我慢しつつ、再び【魔力】を流し始めたジンの様子を眺め続ける。
呪符とは、イメージを元にして呪符に刻まれる【魔力文字】の力を、『お伺い』という手法で呼びかける事によって【魔力文字】を力へと変換し、術者及び敵に対して影響を及ぼすものだ。
たとえば、基礎攻撃符である【炎刃】であるならば、【魔力文字】として刻まれるのは【炎】【風】【刃】【死】【魔】となる。
『【炎】【風】を【刃】に変えて敵に【死】をあたえる【魔】呪符』
という意味合いになる。
この【魔力文字】が構成する意味を考慮して呪符の構成、発動後のイメージを練ることが大事であり、これにより【魔力文字】がイメージを汲み取って結晶化され、呪符に刻まれる。
ジンが作り上げた【炎刃】符を地面にそっと置いて再び硯と墨磨りを手にとるのを見ながら……ふと、ジンに出会ってからの日々に思いを馳せる。
うん……正直、ジンが私に対して抱いていた第一印象は最悪だったのではないだろうか。
お父様の無事を確かめる為とはいえ、出会った瞬間に飛び蹴りでぶっ飛ばされたのと同義の事をされたのだから。
もっとも、それに関してはすでにお父様にこってり絞られてしまったのだけれど……。
出会いはともあれ、ジンはひどくアンバランスな少女……じゃない、少年だった。
7歳という歳で、どういう手を使ったのかはわからないが、【
そして、その戦闘能力にも関わらず、この世界における一般常識的かつ、闘士として重要な情報が皆無であったり、その年齢にはありえない……狩人的思考、命を奪い、命を糧とする覚悟まで持っていた。
確かに、この国では小さい頃から闘いや戦争で村や町を失うことを余儀なくされることも少なくない為、こういう子供が戦災孤児として存在することもあるにはあるのだが……それにしても精神的に早熟であることは否めないだろう。
さらには、書庫での出来事。
まるで読めない本の頁を捲って遊ぶ子供のような動作だったのにも関わらず、それが彼の読書のスタイルであるという事であり、その一瞬でその本の全てを記憶したという言葉。
思わず呆然としてしまった私に、彼が理由を説明してくれたのだが……それが完全記憶能力による恩恵だという。
生まれてから死ぬまで、片時のエピソードも忘れずに記憶している……せざるを得ないというのが、彼が早熟な精神になる要因なのだろうか。
かと思えば、なくした家族を思い……食事時に涙をする歳相応の姿もあり、ちぐはぐで可愛い彼から、目を離すことが出来なくなっていった。
……もし、私に子供が出来たら、この子と同じように暮らすことができるのだろうか。
私の旦那様であるポレロもまた、私と同じ思いを抱いているであろう事を思いつつ、次の呪符を作ろうとしているジンを見守り続ける。
ジンは、自身ではまったく自覚がないが、その圧倒的吸収率・成長率で他の【
10年以上の鍛錬・修練の果てに今の実力にたどり着いた私たちにとって、そんな自分達の実力に並びつつあるジンの成長速度は、日々どころか秒単位で驚かされている。
心構えは既にもっているし、対人戦も行えるようなので……後は【
段々教える事がなくなっていくのを寂しく感じつつも、日々楽しそうにしながらも成長していくジンを嬉しく思う自分もいる。
(……お父様も私を見守ってくださっていた時は……こんな気分だったのかしらね)
真剣な表情で真名からの呪符作成詠唱を続けるジンを見続けながら、私を見守ってくれていたお父様の温かく柔らかい視線を思い起こし、恥ずかしい思いに包まれる。
それでふと思い立ったのは……この子、ジンを、こんな可愛い子を残して逝かねばならなかった親御さんはどれほど無念であったろうか。
子供が欲しいと願い、未だ子をもっていない私たちには……その絶望がどれほどのものかは流石にわからない。
しかし、今目の前にいるジンが……その命を散らし、この世から消えてしまうと考えた時点で、私の背筋は冷水を浴びせられたかのように悪寒が走る。
(ダメよ! それは絶対許せることじゃないわ!)
思わず自分を抱き締めて恐怖を押し殺す。
だから……だから【
「…………え?」
顔をあげた私の目の前で、私達【
ー複 作 呪 符ー
我々、【
それは呪符に対して込めるイメージと、それを元にして刻まれる【魔力文字】を固着させるのに集中力と相応の【魔力】がいるからであり、それ故【
それが……今、ジンが目の前で複数同時作成という、【
正直、ジンでなければ体裁も気にせず発狂して叫んでいた可能性もあるだろう。
恐らく、私がジンとの思い出に浸り考え込んでいる間に徐々に増やしていったのだろう……床に重ねられている呪符の束から察するに、自分の限界を探るために倍々で増やしていったのが見て取れる呪符の作成枚数。
今では空中に16枚の符を浮かべ……真剣なジンの手にもつ硯から筆によって中空に舞う墨は、寸分たがわず【魔力】の線に沿って呪符へと向かい、それらはまったく絡み合うことなく、正確・精密に見事に各呪符へと【魔力文字】を刻み付けていく。
❝魔力文字結晶❞
そして16枚の呪符全てに刻み込まれる同じ【魔力文字】。
ー【呪 符 完 成】ー
文字列から見て【呪符・治癒】の呪符だ。
「出来た~。でもこれ以上は精度的に無理かな~……おっし、次々~!」
(いや、ちょっとジン? 二枚でも驚きなのに貴方……しかも疲れていないってどんだけなの?!)
そうつっこもうと思ったものの、にこにこと自分の呪符の出来栄えに満足しているジンを見て戸惑ってしまい、声をかけそびれてしまう。
ジンの性格を現しているかのように、攻撃系はやや少なく、防御・治癒系に偏った感じに作られていく呪符。
本来ならば一日でなくなる量ではないその無地の呪符は、次々とその数を減らし、慣れてきたのかジンの呪符を作る速度もあがっていく。
(……この子、一体どれだけの才能を秘めているっていうの? ……ふふっ)
その才能に嫉妬や憧れが混じるのには時間がかからなかったが……一生懸命になって呪符の扱い方をマスターしようとする彼の姿勢に、その思想も霧散していく。
ただ才能だけの天才というのは以外に多い。
しかし、そこから地道な能力の底上げや繰り返す修練・鍛錬に絶えうる精神力があるか否かにより、一人前、そして一流という位に届くかどうかが決まるのだ。
この場合はルイがいい例になるかもしれない。
彼は、私から見ても氷系の呪符においては一流の【
ただ、その段位に届いたと認定された瞬間から自己鍛錬を怠るようになり、自らの力を過信・増長するようになっていったのだ。
結果、彼は暗殺者・殺し屋などと言う【
元々、【
その道に進まない精神、もしくは進んでも自我を保てなければ……力におぼれた愚か者として、今度は討たれる存在に成り果てるだろう。
額に汗して呪符の作成を行うジンを見て、ふと不安になってしまう私。
(ジンなら、大丈夫……よね?)
再び、できたー! と笑顔を浮かべるジンを見ながら……そうならない事を願わずにはいられない私だった。
(よっし、大分慣れてきたな~っと)
残り少なくなってきた無地の呪符を手に取りながら、俺は出来上がった呪符に目を向ける。
フォウリィーさんが見守っていてくれる安心感から、ガンガン呪符を作り続けていたが……別段フォウリィーさんが声をかけてこないのでやり方的には間違っていないのだろう。
呪符を作る際に魔力操作の応用で、固定イメージを分割させ、並列で呪符を作ることを思いついて実行してみたのだが……思いのほかこれがうまくいってくれたので、短時間で大量に呪符を作ることが出来たのだ。
(【高速呪符帯】と【
硯に墨を足し、墨磨りと硯に【魔力】を注ぎつつ精神を集中する。
今回、作り上げるのは先ほどまでとは違い、一枚だけ。
練習として今まで作り上げてきた呪符とは違い、フォウリィーさんに言われた通り、自分の切り札となる一枚、オリジナル呪符を作ることにしたからだ。
十分に【魔力】がいきわたった墨に筆を浸し、【魔力】を通し─
❝ジン=【ルーナ】=ソウエンが真名において結晶す❞
❝上天御願❞
魔力が墨磨りから墨にいきわたり、墨の中を文字が泳ぐ。
❝昊天御願❞
思い描くイメージは、自分の名前から描く炎。
❝蒼天御願❞
赤い炎は約3000度、太陽は約6000度、そして……俺の名のイメージ、蒼炎は……18000度。
❝旻天御願❞
【焔】・【蒼】・【閃】・【死】・【魔】……【焔】【蒼】炎となりて【閃】光と化し、敵に【死】をあたえる【魔】呪符。
❝魔力文字結晶❞
純白を文字に重ね、文字は魔力を集め、無地の呪符がその意味をもつ呪符に生まれ変わる。
ー【呪 符 完 成】ー
空中に浮かぶ、蒼白く輝くその呪符……名前は俺の名からとって【呪符・蒼焔】。
俺はそれをそっと指で挟みこむ。
「……できた!」
(……きた……キタキタキタキタァ、できたどーーーーぅ! 俺だけの……オリジナル呪符!)
「できたよ!フォぐほふ」
ー強 引 抱 擁ー
そして、なんとなく予想通りに抱きつかれ、呼吸困難に……。
「まさかとは思ってたけど……呪符を作り始めた初日でこんな……しかもオリジナルの呪符を作るなんて、ジン、あなたは本当にすごい。天才……いいえ、そんな言葉では生温いわね。鬼才といってもいい」
俺が指で挟んだ呪符をみつつ、真剣な顔でフォウリィーさんが俺に語りかける。
「……まずは、これをお父様に見てもらいましょう? ジン」
ゆっくりと抱擁を解除し、俺に右手を差し出して手をつなぎ、そのこわばった表情を崩して笑顔になるフォウリィーさん。
(……いきなり……やりすぎたのかな……)
作れる事が嬉しくて調子に乗っていた自分を省みて反省し、やや落ち込み気味に地下からオキトさんの部屋を目指す俺達。
そんな頭垂れる俺を見たフォウリィーさんが慌てたように俺を褒めちぎり、必死にフォローしてくれてはいたのだが……微笑み返したものの俺の心は晴れず─
「お父様! ジンが……やり遂げたわ!」
「おお……そうかそうか。 いや~、流石はジンだね~!」
あの山のような書類のほとんどを片付け終わり、机の上の書類のみになっていたオキトさんが、俺達を見て微笑む。
「ん? ジン君、その手に持っているのは……?」
「お父様……ジンはこの歳にして
「なっ……それならこれは……ジン君のオリジナルなのかい?! ッ……なんていう呪符力が篭った符……」
俺から呪符を受け取り、驚愕で息を呑むオキトさん。
「さすがオリジナル。見たことがないね……一応、資料に残しておきたいから、この魔力文字呪符式を書き写しておいてもいいかな? ジンくん」
そうオキトさんが至極真剣な表情で聞いてくるのに、俺は先ほどから感じていた不安を表面化させる。
「はい、かまいませんが……あの、俺なんかまずい事しましたか?」
「?! あ、いや! 違うんだよジン君! 別にジン君が悪いわけではないんだよ?! ただ、ここまで強い呪符力のこもった呪符は【
折角作れたのに、あまり歓迎されていないようでやや涙眼になって目元を拭いながらそう訪ねると、あわあわと慌てながらオキトさんとフォウリィーさんがフォローに入ってくれる。
そして……やがてオキトさんとフォウリィーさんが互いに視線を交わして頷くと、二人が俺の前にしゃがみこんで俺と視線を合わせ、真剣な表情になる。
「やっぱり伝えておいたほうがいいわね……。ジン、貴方の実力は既に普通の【
真剣な表情を崩さず、俺の両肩を掴んで視線を合わせたまま、そう俺に語りかけるフォウリィーさん。
「精神的に早熟で……大人びているといっても貴方はまだ子供。これから先、貴方には未来という時間を掴み取るのは貴方自身の心次第。だから……だからどうか、手にした【力】に溺れないで。そう……あのルイのように、むやみやたらに力を誇示しようとしないで! 過ぎる力は、時に守るものを見失い、容易に狂気へと走らせてしまう……。だから貴方は自分をしっかり持ちなさい! 命を奪い、糧とする覚悟に、力持つものの【覚悟】も持ちなさい! 今はわからないかもしれないけど、これだけは、これだけはどうか忘れないで……」
最後は懇願するような声で、泣きつくような声でフォウリィーさんは俺に言葉を投げかける。
「……どうかフォウリィーのいった言葉を心に刻んでおいて欲しい。力もつものはいずれ必ず壁にあたる。そこで挫折したり、道を見誤りそうになった時、今いったフォウリィーの言葉は君の行く道を照らす光になるず。これは、私たちの『願い』でもあるんだよ?」
フォウリィーさんの手に手を重ねて、俺と視線を合わせて優しく微笑むオキトさんが、もう片方の手で俺の【呪符・蒼焔】を手渡してくる。
その胸に宿る思いと共に。
「……はい!」
そんな、俺を想ってくれる【
「しかし……ジン君は本当にすごいね。歴代史上最年少にして、稀代の【
そういってフォウリィーさんと視線を交わすオキトさん。
互いに頷いて─
「私 フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーの名において」
ー『呪符魔道師協会記録より完全消去し、隠匿するものとする』ー
そうしてオキトさんが机にあった書籍の一ページ。
【
重要書類に書かれた文章を破り、皆伝を言い渡すというこの行為。
これは宣誓だ。
そして……この行為の裏に込められた思いは……先ほどいった通り、『俺を守る』という一点。
それを理解した瞬間、俺の視界は歪みぼやける。
胸が熱くなり、押さえきれない嗚咽と涙が溢れる。
こんなにも思われていることに。
こんなにも心配されていることに。
こんなにも優しくしてくれることに。
「ありがどう、ございまず!」
「何、当たり前の事だよ」
「そうよジン。弟子を守る。唯……それだけの、そしてとても大事な事を行うだけなんだから」
そう微笑みながら俺を抱き締める二人。
この世界にきてから、前の世界でもないぐらい、心の底から本気で泣いた。
偶然で飛ばされ、悪態をついていた事もあった。
自虐的になっていた事もあった。
でもカイラやオキトさん、フォウリィーさんにここまで思われて……今俺はこの世界にきてよかったと、本当に思っていた。
「す……すいません!」
「いや、何。全然気にしないよ。むしろ嬉しかったしね」
「ええ……本当ねお父様♪」
思い切り泣きつき、二人の服を涙と鼻水で汚してしまったことを恥ずかしく思い、真っ赤になって謝る俺。
二人はむしろ嬉しそうに微笑みながら、俺の頭を撫でてきた。
そして、俺が作った呪符束を渡し、オキトさんが呪符の力、精度、枚数を見て─
「ふぉ、フォウリィー?! これ、本当にこの短時間で作り上げた枚数なのかい?!」
「……ええ、お父様。ジンってば……呪符を
「?! ………………ジン君、君ってヤツは……」
空を見上げて頭を抱えるオキトさんと、その様子に苦笑するフォウリィーさん。
今度は私達が教わる番かもしれないね? とフォウリィーさんと視線を交わして頷きつつ、本来ならば呪符を作るのは一度につき一枚しかできない事だと、【
こうしてようやく場が収まった所で─
「さて……、せっかく作ったんだからこの【呪符・蒼焔】を試してみようか」
「ええ。呪符力……【魔力文字】に込められた【魔力】から相当強いのはわかるんだけど、【閃】の文字がいまいち理解できないのよね……それに蒼い炎なんて見たこともないし。ねえ? お父様」
「そうだねえフォウリィー。実に興味深いよ」
この呪符はよほど強力な意味合いを持つらしく、もし地下の結界になにかあれば大変だという事で、外にある呪符練習場に結界を張ってこの呪符を試すことになった。
土の広場の中央に、鉄の
「フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザーが符に問う。其は何ぞ!」
ー【発 動】ー
❝『我は壁 不可視の壁』❞
複数の呪符がフォウリィーさんの【魔力】を受けて浮かび上がり、四方に飛び散っていく。
ー【魔力文字変換】ー
❝『内と外とを隔て 透過を遮る者也』❞
呪符と呪符が連結され、【魔力】で繋がって俺達を包み込むように張り巡らされ─
ー【呪 符 発 動】ー
ー結 界 展 開ー
【呪符・遮蔽結界】が完成し、空間が内と外へと隔てられ、もし呪符に何か不具合があっても外に害がないように、また不慮の出来事でこの場に近づけないようにされた空間が出来上がる。
「お父様、一応結界呪符を二重にはったわ」
「ああ、ありがとうフォウリィー。さあ、ジンくん。あの鎧に呪符を発動してみてくれ」
頷きながら鎧を視界に納める。
「はい……いきます! ジン=ソウエンが符に問う……。答えよ、其は何ぞ!!」
ー【発 動】ー
❝『我は蒼焔 至高の極炎』❞
呪符が青白く光輝き、当たりを照らす。
ー【魔力文字変換】ー
❝『汝の目の前の敵全てを─』❞
呪符を鎧にむけて振りかぶると……手にもった呪符から沸き立つ蒼き炎が、炎というよりも光の剣のような形になり、力強く一歩を踏み出すと同時に、より大きくなった呪符の青白い光を─
❝『閃光にて焼き払う者也』❞
鎧目掛けて振り下ろした。
ー【呪 符 発 動】ー
ー蒼 焔 閃 光ー
それは、俺のイメージをはるかに超える蒼い閃光。
その閃光は、攻撃したはずの鎧と、閃光の通る道全てをー
燃焼でもなく、焼失でもなく……一瞬で
煙をあげている地面の砂だったものは、この閃光が抉った部分が
「な……んです……って?」
「…………」
呆然として言葉を紡ぎ、腰が抜けたのかすとんと座り込むフォウリィーさんと、立ちすくむオキトさん。
そして俺はー
「これ……なんてビー〇ライフル?!」
と、今更ながら自分が作ったものに対して驚愕したのだった。
『ステータス更新。現在の状況を表示します』
登録名【蒼焔 刃】
生年月日 6月1日(前世標準時間)
年齢 7歳
種族 人間?
性別 男
身長 121cm
体重 30kg
【師匠】
カイラ=ル=ルカ
フォウリンクマイヤー=ブラズマタイザー
【基本能力】
筋力 BB
耐久力 B
速力 BBB
知力 AAA ⇒AAA+ New
精神力 BBB ⇒A- New
魔力 A ⇒AA New
気力 B ⇒B+ New
幸運 B
魅力 S+ 【男の娘】補正
【固有スキル】
解析眼 S
無限の書庫 EX
進化細胞 A+
【知識系スキル】
現代知識 C
サバイバル A
薬草知識 A
食材知識 A
罠知識 A
狩人知識 A-
魔力操作 A-⇒A+ New
気力操作 A-⇒A New
応急処置 A
地理知識 B-
【運動系スキル】
水泳 A
【探索系スキル】
気配感知 A
気配遮断 A
罠感知 A-
足跡捜索 A
【作成系スキル】
料理 A+
精肉処理 A
家事全般 A
皮加工 A
骨加工 A
木材加工 B
罠作成 B
薬草調合 A
呪符作成 S New
【戦闘系スキル】
格闘 A-
弓 S 【正射必中】(射撃に補正)
リキトア流皇牙王殺法 A+
【魔術系スキル】
呪符魔術士 A- ⇒S New
魔導士 D (知識・【門(ゲート)】解析のみ)
【補正系スキル】
男の娘 S (魅力に補正)
正射必中 S (射撃に補正)
【特殊称号】
真名【ルーナ】 【
自分で呪符を作成する過程における【魔力文字】を形どる為のキーワード。
【ランク説明】
超人 EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS
達人 S⇒SS⇒SSS⇒EX-
最優 A⇒AA⇒AAA⇒S-
優秀 B⇒BB⇒BBB⇒A-
普通 C⇒CC⇒CCC⇒B-
やや劣る D⇒DD⇒DDD⇒C-
劣る E⇒EE⇒EEE⇒D-
悪い F⇒FF⇒FFF⇒E-
※+はランク×1.25補正、-はランク×0.75補正
【所持品】
呪符作成道具一式 New
白紙呪符 New
自作呪符 New
蒼焔呪符 New
お手製弓矢一式
衣服一式
簡易調理器具一式
調合道具一式
薬草一式
皮素材
骨素材
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前回の続きとなります。
呪符魔術士の真名を得たことによる呪符の作成と、オリジナルの呪符を作る話になっております。
今回もよろしくお願いします!