No.396621

仮面ライダークウガ New Hero Unknown Legend[EPISODE05 少女]

青空さん

第6話となります。

2012-03-23 07:44:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:521   閲覧ユーザー数:521

時刻不明 場所不明

 

風の吹き抜ける音が、遠くの方で聞こえる。その音に数瞬遅れて、生い茂った木々が揺れ動き、葉を地面にまき散らす。

 

木から地面に落ちたその葉を踏みつけながら、道を歩いていく人影があった。

 

足下まである真っ白のロングドレス状の服に加え、まるで白鳥の羽根のような白色の首巻きと、真っ白なストール。

 

そして、端整な顔の額にバラの刺青を刻んだ女性である。

 

 

 

道とは呼べない道を、立ち止まる素振りを見せず黙々と歩いていく女性。前に進む度に、後頭部に結えた黒い髪や衣服が後ろに靡く光景は、周りの風景に比べて異彩を放っていた。

 

 

そして、陽も完全に沈もうとする直前に、彼女はある場所で停止した。

 

そこは険しい山道ではなく、大きく見開いた荒野であった。

 

視線を下げれば周囲の地形の影響で常に吹きつける風が荒野に積もった砂埃を動かし、また別のところに積もらせている。遠くに向ければ、まるで外界から隔離するために用意されたような数メートルの高さの壁が立ち並んでいる。

 

人影はその壁に向かい、ただただ歩いていく。人影が立ち止まったのは、人一人が余裕で入るほどの風穴が空いた場所だった。

 

「……」

 

人物は、風穴を黙視する。無表情な顔を変えず、静かな空間の流れを変えず、時がただただ過ぎていく。

 

数分が経過した後、人影の背後の空気が変化した。この場所に立ちこめていた風がある一点を中心に、まるで竜巻のように渦巻き始める。

 

「あれが、動き始めたようだな……」

 

壁の風穴を見つめていた人影が、声を上げる。独り言のように呟くが、背後にあるもう一つの気配に対して話しかけているようでもあった。

 

「前の戦いではお前が勝ったが、今のお前では無理だろうな」

 

その言葉に対し、背後の気配は無反応だった。それを女性は肯定したと勝手に判断し、次の言葉をつづる。

 

「しかし、我々の邪魔をした奴が、またも目覚めるとは……」

 

言葉内の対象に敵意を見せながらも、どこまでも冷静に徹する女性。背後の気配は、彼女に意思を伝えているかのように渦巻く風の音が大きくなる。

 

「今のクウガやリントのように、奴も変わっていれば……か」

 

背後の気配の意思を口にする女性は、どこか可笑しそうに言う。しかし、それを表情には出さず、背後を振り返る。

 

そこにいたのは、全身を白い衣服で包んだ青年だった。穏やかな笑顔を浮かべる反面、彼は女性が放つ威圧感よりも濃く、重く、そして恐ろしいものを放っていた。

 

「いずれにせよ、お前のやることは一つだ」

 

その威圧感に怯むこともなく、女性は青年の方へ歩き出す。

 

そしてすれ違おうとする瞬間。「はやく、力のない者を始末しておくんだな。ダグバ」

 

ダグバと呼ばれた青年の耳元でそう呟く。その発言に青年は歯を見せて笑い、女性が一歩踏み出す瞬間青年の姿は消えていた。

 

青年の気配がなくなり、立ちこめていた風がやむ。そのようなことを気に留める様子もなく、女性はもと来た道を再び歩き始めていた。

 

 

 

AM09:07 関東医大病院

 

 

いつも雄介が待たされる関東医大病院の診察室では、彼と椿が今にもひっ付きそうな距離で顔を並べていた。そして二人はあるものを凝視していた。

 

「問題なし、だな」

 

「問題なし、ですか」

 

椿の発言にオウム返しをする雄介。二人が見ていたのは様々な箇所から撮影したレントゲン写真、およびMRIによる診断結果だ。

 

椿いわく、これらの写真の主の身体状況は至って健康であり、内面的にも全く損傷は診られないらしい。

 

ただし、これは雄介の身体を映し出したものではないのだが。

 

「お前の言うことが正しければ、これは奇跡と言ってもいいぞ。未確認に危害を加えられて無傷だったやつなんて見たことがないからな」

 

「えぇ。でも、ほんっとうに安心しました。俺も一瞬、もうダメかと思いましたし」

 

顔を密着寸前の状態にしたまま、目だけを相手の方向に向けて話す二人。その状態が椿が写真を見ている約5分間続いていたが、椿が写真から顔を遠ざけることによって状態は解除される。

 

二人が見ていたのは、雄介が昨夜目撃した謎の未確認に襲われた女性の診断結果だった。

 

誰がどう見ても殺されたようにしか見えなかった彼女は、虫の息の状態であったにも関わらず生きていたのである。病院に運ばれてきた彼女を見た椿も、絶望しかけるほどの状態であったが、彼女には何の外傷もなく内面にも全く異常が見当たらなかったのである。

 

彼女のような、未確認に直接危害を加えられ、無傷で済んだケースは過去にないため、椿の言う通り、これは奇跡としか、表現のしようがなかった。

 

「じゃあ、もう彼女は退院出来るんですか?」

 

「普通なら、退院させるところなんだが……未確認に関わっていたとなると簡単に退院を許すわけにはいかないな」

 

椿の一言に雄介は同意したような、しかし少々不安げな表情を見せた。

 

未確認によって何か危害を与えられた場合は、通常の検診では安全を確立できないのである。以前の第42号の事件の場合がまさにそれの典型的なケースである。

 

『脳内に刺された凶器が4日間経過した際に脳内で成長し、脳を傷つけて殺害する』というものだったが、その凶器は現代医療の技術を駆使しても発見されなかったのである。

このケースを見ると、今回の被害者の女性にも同様の現象が起きている可能性が考えられる。故に椿は退院させることを容易に許可しようとしなかったのだ。

 

それについては雄介も重々把握していた。把握しているからこそ、胸の辺りがギュッと詰まる感覚が雄介にはあった。

 

 

42号の時みたいに、また何も出来ないのではないか。

 

何も出来ないまま、また笑顔が奪われてしまうのではないか。

 

 

それが、雄介にとってはたまらなく不安だったのだ。

 

 

「すまん、遅くなった」

 

 

空気が重くなりかけた時に一条が診察室に入ってきた。徹夜で捜査に加わっていたのか、目の下には隈が出来ており、いつもビシッと決めているスーツもどこかくたびれた様子だった。

 

「お前また徹夜したな。そのうち身体ぶっつぶれるぞ」

 

「問題ない、徹夜ならもう慣れた」

 

一条の身を心配した椿だったが、一条はいつもの様子で切り返す。チラッと見ただけで相手の状態が分かるのは医者の経験だけでなく、二人の間にある友情が深いからであろう。

 

「それよりも、前頼んでいた件はどうなった?」

 

「あぁ、例の事件の遺体を直接視てきた結果についてまとめてみたんだ」

 

一条の言葉に、椿は机に置いてあった封筒からクリップで綴じられた数枚の書類を抜き取った。それを受け取った一条は、隣からのぞき込んできた雄介と共に書類に目を通す。

 

「例の行方不明事件に関する3つの遺体の傷の状況だが、それぞれが21号、22号、23号によるものだと確信した」

 

資料に掲載されていたのは以前の21号、22号、23号の事件の際の被害者の傷跡について掲載された写真と、今回の被害者の傷跡の写真。見る度に不快感を与えるその傷跡の残虐さは、殺戮を楽しんでいる未確認生命体そのものを現しているようにも見える。

 

「これほどまでに未確認が蘇った理由……やはり五代が昨日見た未確認と関係があるのか?」

 

写真を見終わった一条は、雄介に視線を向けながら訊ねる。訊かれた雄介も悩んでいるのか苦い顔を一条に向けた。

 

「それとだ。少し気になることがあってな」

 

「なんだ?」

 

「蘇った未確認の被害者を診てみたが、過去の未確認と同じ手口によって殺害された被害者は総数の一割にも満たなかった」

 

椿の発言に一条と雄介は眉間に皺を寄せる。

 

「一割にも満たない……?」

 

「正確に言うと、復活が確認された未確認一体につき一人ずつが過去と同じ手口によって殺害されている。41号に至っては同じ手口で殺害された被害者は一人も確認されていない」

 

それを聞いた雄介は以前の第6号との戦闘を思い出す。戦闘の最中、第6号は自慢の脚力を使った戦法を全く行わなかったのだ。

 

第6号だけではない。

 

復活した未確認生命体全体までもが自身の主張とも言える殺し方で、人間をほとんど殺害していないのである。

 

それに加え、一条ら未確認生命体対策本部が都内の防犯カメラに映し出されたそれらのいずれにおいても腹部の装飾品が付けられていなかったことが新たに判明した。

 

これらの相違点が意味するものは果たしてなんなのか。

 

それに答えられる人物はこの場にはいなかった。

 

「今、俺が持っている情報はこんなもんだな」

 

「わざわざすまない。また何かあれば連絡する」

 

椿への話が終わったのか、一条が今度は雄介の方に向き直り、話しかける。

 

「ところで五代、この後時間あるか?」

 

「はい」

 

「少し話したいことがある。椿への用が済んだら、下に来てくれないか」

 

「じゃあ、一緒に行きましょう。もう用事も終わりましたし」

 

言いながら、雄介は立ち上がる。そして、椿の方に向き直ってこう言った。

 

「椿さん、彼女のことよろしくお願いします」

 

「あぁ、任せとけ」

 

その言葉を最後に雄介と一条は診察室から出ていった。

 

 

 

 

「君は、今回の未確認生命体の事件のことをどう思う?」

 

診察室から出て一階に降り立った時に、一条が静かに言い放った。それに対し、雄介は苦そうな顔を向け、一条にこう返した。

 

「なんか、いつも以上に分からない行動をしてますよね……警察の方で何か分かったこととかありますか?」

 

 

「対策班も、現段階では対処方法の立案で手一杯の状態だ。未確認の行動パターンが過去のものと変わっているのなら対処方法もそれに応じて変えなければいけないからな」

 

「そっか……」という小さい声が雄介の口から漏れる。雄介に情報を与えるのが基本、自分であったためか、一条は情報を何も掴めていないことに責任を感じた。

 

「それより昨日、主犯格らしい未確認に遭遇したそうだが、どうだった?」

 

一条は気分を紛らわすために、話を本題へと切り替える。

 

「うまく言えないんですけど、多分今まで戦ってきた未確認とは比べ物にならないくらい強い気がします」

 

「実際には、戦っていないのか?」

 

「なんか変身する前にそいつの体が霧みたいになっちゃって、いなくなっちゃったんです」

 

雄介の発言に、一条は表情を曇らせる。少しは事件を解決する糸口のようなものが手に入るかと思っていただけに、少々期待はずれだったようである。

 

「そうか……しかし、敵の姿を見つけたんだ。何かのヒントにはなるだろう」

 

言いながら一条は胸ポケットから警察手帳を取り出し、雄介から聞き出した未確認の手がかりを記入していく。手帳の中には他にも、行方不明事件の被害者と行方不明者の詳細、復活した未確認生命体の名称とそれを確認した日時、普段の未確認との相違点など現在判っている情報が細かく書かれている。

 

「……どうした?」

 

雄介が警察手帳を覗きながら何かを考えていることに気付いた一条は、雄介に訊ねる。

 

「仮に主犯格の未確認が他の未確認を蘇らせているとしたら、何の目的で他の未確認を蘇らせているんですかね?」

 

その発言に、一条は眉を寄せた表情となる。

 

「どういうことだ?」

 

「奴らがしてるゲームって人を殺すことが大きな目的ですよね。もう倒した未確認を蘇らせたって主犯格の未確認にはなんのメリットも生まれなくないですか?」

 

「確かに自身のゲームの達成のためには、返って邪魔になる可能性もある。仮に、倒れた未確認を蘇らせて何かをするのなら力の強い未確認を蘇らせた方が効率的だが……」

 

「蘇った未確認は、強さがバラバラ……もしも、戦力の頭数を増やすために比較的力のない未確認も蘇らせているとしたら、41号とかみたいにかなり強い未確認はほとんど全員が蘇っているんじゃないですかね?」

 

独り言のように呟きながら行われた二人の会話は、雄介から一つの可能性が示唆されたことにより一度終結する。

 

「しかし、長野で起きた大量虐殺事件には全く逆の意図があるようにしか考えられない。これらの事件が一体何を意味しているのか……」

 

一条がそこまで言いかけた時、雄介のビートチェイサーから無線機に通信が入る音がした。会話を中断し、雄介と一条は無線機に耳を傾ける。

 

『全署員に連絡。復活した未確認生命体に関する緊急会議を行います。関係者の方は直ちに警視庁、未確認生命体合同捜査本部までお戻り下さい。繰り返します……』

 

「すまないが、俺は本部に戻る。何か決まり次第、報告させてもらう」

 

「じゃあ、俺は碑文の結果を見てきます」

 

雄介の発言の後に一条は一度頷く。パトカーに乗り込み、道路に出ていく様子を見届けると、雄介はビートチェイサーのミラーにかけていたヘルメットを被ろうとする。

 

「五代!!」

 

その瞬間、椿が非常に慌てた様子で病院の入り口から飛び出してきた。余程のことがあったのか、服装が乱れ、額に大量の汗を浮かべている。

 

「ここに彼女が来なかったか!?」

 

椿の言う彼女。それは昨日未確認に襲われた少女のことであると、雄介は一瞬の内に理解した。

 

「彼女がどうかしたんですか?」

 

「病室からいなくなった!」

 

椿の言動に雄介の表情は緊張感が張り詰めたものへと一変する。

 

「今手の空いている人に捜してもらっているが、未だに見つかっていない!もしかしたら、彼女は病院を出て行った可能性もある!」

 

「何時頃からいなくなったんですか?」

 

「朝食の時には病室に居たのを確認している。居なくなったとしたら、7時半から9時半までの間だ」

 

「分かりました、俺は外を捜してみます」

 

「頼む!」

その言葉を最後に、雄介はヘルメットを被ると、勢いよくグリップを捻る。加速していくビートチェイサーが、そのほんの数秒後には椿の遥か彼方を疾走していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深呼吸をする。水分に含まれた塩分の匂いが胸に広がり、それをまた吐き出す。

 

潮の香りを運ぶ風を心地よさそうに浴びる。彼女の黒く長い髪が空中を泳いでおり、太陽の光を反射させ輝く様子は、まるで絵の中のモデルのように一層際立たせて見せるに違いない。

 

「……」

寄せては帰っていく波を凝視する。何度も何度も繰り返し、何度も何度も帰っていく動きは、自分が知っている海そのものだった。

 

「……」

 

自身を支える両足に鈍い痛みが走る。自分が目覚めた、白い壁で囲まれた部屋からここまで休むことなく歩いてきたのだから、疲労が蓄積されたせいだ。そう解釈する。

 

解釈すると同時に、彼女は歩いてきた道程を思い出していた。

 

 

 

見上げれば、首が痛くなるほど高く積み立てられた建物。

 

人の歩みを止める、三色の灯りの物体。

 

耳障りな音を発しながら走行する箱状の物体。

 

大音量とともに道端で踊り続ける男女の集団。

 

どれもが、自分の知っているものではなかった。自分が知っていたものや大切に思っていたものは、とうの昔に消え去っていたのだ。

 

結局、昔のまま残っていたのは、海だけだった。それでも、彼女は嬉しかった。昔と変わらなかった場所があったのだから。

 

「……」

 

ふと視線を右に向ける。そこには、腕を組みながら歩く男女がいた。楽しそうに話す二人の表情は本当に幸せそうで、見ているこちらまで幸せになってしまうほど、二人の笑顔は輝いていた。

 

 

 

 

その光景に、自分の思い出が重なる。

 

セピアトーンの光景の中で、幸せそうに微笑む男女が互いに手を握り合う。そして男女は言葉を口にする。

 

『……』

 

『……』

 

 

しかし、二人は無言だった--否、聞こえているはずの言葉を思い出せないのだ。

 

その思い出を浮かべる少女の表情が不安げに歪む。そして確信する。

 

 

--自分は、また記憶を失ってしまったのだと。

 

「……リク……」

 

呟くように、想い人の名を口にする。

 

すがるように、首にかかった貝の首飾りにそっと触れる。

 

--会いたい。そんな儚い祈りを込めながら。

 

 

「キャアアア!!」

 

突然聴こえた女性の悲鳴に彼女はハッとし、悲鳴の方向を見る。

 

彼女の視線の先には、先程のカップルがいた。しかし、浮かべていた笑顔は跡形もなく消え去り、今は恐怖一色に染まっていた。

 

「来るな……来るなぁ……!」

 

後ろを向き、そう叫びながら女性の手を引き、走っていく男性。

 

 

ーーその二人の背後には、二つの異形の存在が歩いていた。

 

一方は紫色の肌を持ち、人間でいう頭部から生えた髪のような物は背中まで伸び、胸部と腰には黒い水着のような衣類を着用しており。

 

もう一方は赤いマフラーのようなものを首に巻きつけ、黒色に近い濃い緑色の身体をしていた。頭部からは昆虫の触角のようなものが生えており、紫色の異形が女性のような体格をしているのに対し、こちらは男性のような体格をしていた。

 

 

--視線が、二つの異形のそれらと混ざり合う。その瞬間、少女の全身が金縛りにあったかのように動かなくなる。それらの存在が危険と無意識の内に理解しているのにも関わらず、足がガクガクと震え出し、動かなくなる。

 

逃げていた男女が自分の横を通り過ぎる。助けを求めようにも、恐怖に支配された身体は言うことを聞かなかった。

 

 

動けない彼女を格好の標的と認識した異形らはじっくりと近づき、そして目の前に立ちはだかる。

 

「……っ!」

 

緑色の異形が腕を軽く振るう。その一撃で彼女は数メートル吹き飛び、地面に落下した。ダメージを受けた左腕の痛みが、立ち上がらせることを邪魔し、少女はもがき苦しむ。

 

そうこうしている間にも、お構いなしといった様子で異形らが再び近づく。しりもちをついたままなんとかその場を後退るも、徐々に距離は詰められていく。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおりゃあああぁ!!」

 

空間に絶叫が木霊した。

 

五十メートルは軽く越える距離を、勢いをつけた鉄の固まり--ビートチェイサーが軽々と跳躍していた。その勢いのまま、ビートチェイサー全体を異形らに向けるように身体を捻ると、異形らは抵抗も出来ないまま吹き飛ばされ、海面に叩きつけられる。

 

「大丈夫?」

 

それを確認した運転手--雄介は、座り込んでいる少女に話しかける。彼の心配している様子が伝わったのか、少女は首を縦にふった。その様子を見た雄介は安堵の息を静かに漏らす。

 

しかし、海面付近で立ち上がった異形ら--復活した第38号と第41号を黙視すると、表情を険しいものへと一変させた。

 

「早く逃げて!」

無理やり少女を立たせて走らせる雄介。身体の自由を取り戻した少女は雄介に従い、車道に向かって走り出す。

 

その様子を見届けた雄介は、未確認の方へと向き直る。

 

腹部に両手を翳すことにより、アークルが出現する。左前方に突き出した右手を右の方へ、アークルの右側へと移動した左腕を左の方へと移動させる。

 

「変身!」

 

右腕を左へと移動させた左腕に重ねる。アークルに埋め込まれたアマダムが赤く輝くと同時に、雄介の身体が赤いクウガへと変わっていく。

 

そして、赤いクウガへと変身を遂げた雄介は未確認の方へと走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

避難したはずの少女は、その光景を見ていた。

 

自分を襲っていた二つの生命体が、新しくやってきた人間に吹き飛ばされたこと。

 

そして、その人間が二つの生命体と同じような生命体に変化したこと。

 

今もその二体と一体は戦い続けている。数では不利なはずの一体は、二体を相手に怯む様子もなく果敢に闘っている。二体のうちの一体を遠くへ吹き飛ばし、もう一方の相手をするという戦いに慣れた戦い方だった。

 

「……っ!」

 

その光景をみて、再び脳裏に映像が再生される。

 

 

 

--山の谷のような場所で、多くの人影がある。

 

そのどれもが、異形。

 

先程、自分を襲った異形に酷似した大量の生命体全員がある一点を凝視していた。

 

そこには一人の人間が立っていた。異形全てから放たれる異様な殺気をものともせず、堂々と佇んでいた。

 

生命体がその人間に向かって一斉に動き出す。人間を軽く超越した能力を持つ生命体の行動に、その人間の死が容易に脳裏に浮かぶ。

 

 

 

しかし、一瞬にして生命体の数体が周囲に吹き飛んでいた。それらの生命体に目をくれず、人間がいた場所では、生命体が何かと戦闘を行っていた。

 

その中心にいたものは。

 

 

赤い身体を持ち、同色の赤い複眼を持っており。

 

頭部に生えた巨大な角は天に向かって尖り。

 

腹部には、赤い石をはめ込んだ帯状の物体が取り付けられた生命体。

 

 

その生命体の名を彼女は知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クウガ……」

 

 

脳裏の中で、目の前で生命体と闘う戦士を見つめながら、少女はその戦士の名前を口にした。

 


 
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