No.396560

仮面ライダークウガ New Hero Unknown Legend[EPISODE04 邂逅]

青空さん

第5話となります。

2012-03-23 01:52:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:797   閲覧ユーザー数:793

目の前の光景に、雄介は混乱していた。あまりの衝撃に心拍のリズムが上がり、不規則になった呼吸の音がいやにやかましく空間に広がっていく。

 

「どうして……!?」

 

体の全てが硬直した状態で唯一働く『考える』という機能をフルに使い、雄介は現状を把握しようとする。

 

 

なぜ、かつてこの手で倒した未確認生命体第6号がここにいるのか?

 

 

目の前のあり得ない事実は、雄介が持つ冷静さを完全に吹き飛ばしてしまっていたのだ。

 

 

 

未確認生命体第6号。飛蝗を擬人化したような姿をしており、その外見通り高い跳躍力を活かした戦法を得意としていた。当時、赤のクウガの力しか持っていなかった雄介を瀕死寸前まで追い込んだが、新しく手に入れた青いクウガの力を使ってようやく倒すことが出来た強敵である。

 

 

今、クウガの前に立ちはだかるその姿は以前のそれと全く変わっていなかった。強いていうのであれば、全ての未確認生命体が腹部に付けている装飾品らしきものを、目の前の6号は付けていないという点ぐらいである。

 

 

「ヴ……ヴァァアアア……!!」

 

うねり声を上げ、第6号が動き出した。それに反応したクウガは思考を停止し、動くようになった体でファイティングポーズをとる。

 

ジリジリと近づく第6号に対し、クウガもジリジリと近づいていく。無闇に飛びかかれば、その跳躍力でたちまち回避されてしまうからである。

 

そして、お互いの距離がおよそ3mまで縮まったとき……。

 

「グァ!!」

 

第6号が右拳をクウガの顔面めがけて繰り出した。その動きに反応したクウガは左手でそれを払い、お返しとばかりに右拳を繰り出す。すると相手はクウガの右腕を抱え込む形でガッチリと拘束し、逃げられなくした相手の右脇腹に右膝を数回たたき込む。

 

「グゥ……!」

 

それに対し、クウガは自由に動く左腕を第6号の腹部に浴びせる。

 

「ガ……」

 

 

解放されたクウガは再び相手から距離をとる。が、第6号が大地を蹴り、その距離は一瞬のうちに詰められ、第6号はその勢いのまま、クウガを蹴り上げた。

 

「ク……!」

 

後退際に後ろへの勢いがさらに加えられ、クウガは後ろに転がってしまう。隙を与えないように第6号は踏みつけようとするが、クウガは両腕を交差することで衝撃を吸収し、その状態から相手の背中に蹴りを入れる。

 

「オリャア!!」

 

第6号が怯んだ隙に体勢を立て直すクウガ。第6号と再び向かい合う形となるが、双方ともすぐに相手に向かって走り出す。

 

「ハァァ!!」

 

「ウォリャ!!」

 

そして、双方とも右拳を相手に突き出す。が、クウガは相手に拳が当たる寸前で勢いを止め、第6号からの一撃を上半身を少し左側に傾けることで回避する。

 

「!?」

そのクウガの行動に、第6号の動きが一瞬停止した。

 

「フッ!!」

 

その一瞬のうちに、クウガは左掌底を繰り出す。一撃をくらった第6号は後ろによろめくが、この隙をクウガが見逃すはずがなかった。

 

「オリャアア!!」

 

クウガは怯んだ第6号に渾身の右ストレートを放つ。直撃を受けた第6号は吹っ飛び、落下した先にあった一台のパトカーの屋根を陥没させた。

 

「今のうちに……!!」

これを好機と見たクウガは、変身する際に見せたポーズを再びとる。すると今まで赤く輝いていたアマダムの色が、水のような青色へと変化した。

 

「超変身!!」

 

 

水の波紋を彷彿とさせる音を発しながら、クウガの体が変化する。アマダム同様、赤色だった部分が青色へと変化し、胴体は筋肉を彷彿とさせたそれをよりシャープにしたものへと変化する。

 

クウガの戦闘形態のひとつ-ドラゴンフォーム。バランスを重視した赤いクウガ-マイティフォームの打撃力、防御力を減らし、機動力を向上させたそれは、かつて第6号を倒した姿である。

 

その姿に変化を終えた後、クウガは付近にあった細長い棒を手にする。すると、クウガの体が変化したように、その棒はクウガの体のように青く伸縮自在の棍棒へと姿を変化させた。

このドラゴンフォームは、通常形態のマイティフォームと比べ、打撃力が落ちてしまっている。これをカバーするため、パワーを犠牲にして高めた機動力と、攻撃範囲と命中性に富んだ武器-ドラゴンロッドで相手への攻撃回数を増やしているのだ。まさに攻撃の質を量へと変えた姿である。

 

ドラゴンロッドを持ったクウガは、よろよろと立ち上がる第6号のもとへと向上した跳躍で向かう。それに反応した第6号は右拳を突き出すが、クウガはドラゴンロッドの横でそれを受け止め、押し返す。

 

足下がおぼつかない様子で退く第6号。クウガと第6号の距離が、ドラゴンロッドの最良の攻撃範囲に達した瞬間、クウガはドラゴンロッドを振るう。

 

「ハァ!!」

 

遠心力によってドラゴンロッドの一端が伸び、威力が増したその一撃は第6号に直撃する。二撃、三撃とロッドを振るう度に第6号の体にダメージが蓄積していく。

 

とどめだと言わんばかりに、ロッドの一端で第6号を突き放す。クウガは大きく跳躍し、隙だらけの第6号にロッドの一端を突き立てようとした。

 

「うおりゃああぁ!!」

 

その一瞬、もうひとつの影がクウガ以上の高さまで跳躍した後に、空中で片足を曲げ片足を突き出し-クウガマイティフォームの必殺技、マイティキックに酷似した体勢をとる。

 

「!!」

 

その影に気づいた瞬間、クウガはその影のキックをくらっていた。突然の奇襲にクウガは受け身をとれずに地面に落下した。

 

「ぐぁ……!!」

 

通常の人間よりもはるかに強力な肉体とはいえ、防御力が低いドラゴンフォームでは落下の衝撃を多く受けてしまったようだ。クウガはなんとか痛みをこらえ、その場に立ち上がる。

 

「……っ!!」

 

目の前をみた瞬間、雄介の思考が再び麻痺する。

 

そこにいたのは、第6号の肌をより黒に近づけた第6号に酷似した未確認生命体。

 

未確認生命体第41号の姿だった。

 

「41号まで……どうなってるんだ!?」

 

次々と現れる、倒したはずの未確認生命体。

 

衝撃に次ぐ衝撃により、混乱の渦に飲み込まれるクウガ。その上、二対一という不利な戦況になっているため、クウガにとってこれまでにない危機的状況になってしまっていた。

 

しかし、またしてもその状況は一変する。第41号が第6号に向かい、顎で何か合図をしたかと思った後、二体は彼方へと逃亡していた。

 

「……待て!」

 

やっと体に力が入るようになったクウガが慌ててその後を追う。しかし、そのタイミングが遅れたのか二体が逃げた方向には、それらの姿は見つからなかった。

 

「何が、どうなってんだ……」

 

変身をといた雄介が、呟く。その雄介の心中は未だ、膨大な混乱の嵐が渦巻いていた。

 

 

 

PM03:07 群馬県山間部 事件現場付近

 

 

「倒したはずの第6号と第41号が現れただと!?」

 

『はい……ただ、逃げられてしまいましたけど……』

 

送信されてきた防犯カメラの写真を見た直後の雄介からの連絡によって、一条は先程の経緯を聞いていた。それを聞いた一条は、自身の考えた仮説が当たっていたことに対して大きな喪失感を抱いていた。

 

これまでしてきた努力が全て無駄に、無くなってしまった。

 

そんな、喪失感を。

 

『すいません……』

 

無線機の向こうから、雄介の謝罪の言葉が聞こえた。

 

『次こそ、絶対に倒します』

 

こちら側の意気が消沈してしまったことを感じたからか、向こう側の声も少し沈んでいた。

 

「気にするな。それよりも、第6号と第41号に関してなんだが、何か不審な点は見当たらなかったか?」

 

話題をすり替える一条。責任感の強い雄介には下手な励ましは効果がない。口下手な自分が雄介の思考を切り替えるためには、これが一番有効な方法なのだ。

 

『とくに無かったと思うんですけど、強いて言えば腹にあった装飾品みたいなものがありませんでした』

 

「腹部の装飾品か……」

 

『たぶん、それがあいつらが再び出てきたヒントになると思うんですけど』

 

「いずれにせよ、それは重要な手掛かりだ。今回の事件も含めて、未確認生命体の活動を知るきっかけになるだろう」

 

未確認生命体。クウガと同じ時代を生きていた、殺戮を快楽としている集団。桜子の解析により、彼らの民族の名称はグロンギということが明らかになっているが、それ以外のことは全て謎に包まれている。

 

彼らが殺戮ゲームをする際に使用すると見られる遺留品は、使用目的が依然不明なものばかりである。が、最近では身につけている装飾品から武器を生成する光景も戦闘中に目撃されているため、彼らの身に付けていた装飾品にも目を向けるべきだという声もある。

 

そして目撃された、腹部に装飾品のない第6号と第41号。これらの点から見ても、彼らの装飾品を視野に入れての捜査が進むことはほぼ確定であろう。

 

『あと、もうひとつ気になることがあるんですけど……』

 

「気になること?」

 

雄介の発言に、より注意を向ける一条。

 

『さっき第6号と戦っていた時なんですけど、あいつジャンプを使った戦い方を全くしなかったんです』

 

雄介の発言に、一条は眉をひそめる。

 

第6号といえば、高層ビルなどの屋上などから人を落下させて殺害したり、その跳躍力でクウガを苦しめるなど、その跳躍こそが最大の武器のはずだ。

 

それを、現れた第6号は全く使っていないという。

『だから、赤のクウガのままでも十分に戦えたっていうか……とにかく、なんだか違う気がして……』

 

一条は考える。

 

第6号同様の姿を持ちながら、第6号の能力を使わないということを、雄介からの発言を聞くまで一条は想像していなかった。そもそも殺戮ゲームを快楽ととらえる未確認生命体が、快楽の中で自身の能力を使わない必要性はどこにもないため、そのような行動をとること自体が有り得ない、と一条は考えている。

 

しかし、他人の感情に敏感である雄介の並外れた洞察力が間違っているとも考えにくい。そもそも、雄介が嘘をつくことが考えられない。

 

これらの状況から、一条はひとつの結論を出した。

 

「結論を急ぐな。まだ手掛かりが少なすぎる。」

 

少なすぎる以上、調査を進めていくしかない。具体的なことを考えるのは、材料が十分に出揃ってからでないといけない。

 

一条は、そう結論を下した。

 

『そうですね。すいません、変なこと言ってしまって』

 

「それはいいが、君はこれからどうするつもりだ?」

 

『いったん城南大学に戻ろうと思ってます。ジャンに碑文の解析結果の見方を色々教えてもらおうと思って』

 

「碑文?」

 

新しい話題をふった一条だったが、雄介からの返答にさらに聞き返す。

 

「何か気になることでもあるのか?」

 

 

『第6号と第41号が現れた理由について何か出てくるかもしれませんから。それに桜子さんも今いませんし』

 

言われて一条は思い出す。彼女は長野県警の後輩、亀山からの依頼で未確認生命体大量惨殺事件の手助けに向かっていたところだった。

 

雄介の言う通り、第6号と第41号が再び現れた理由のヒントについても碑文に記されている可能性が十分に考えられる。桜子がいない今、解析結果の細かい解釈を聞くことが不可能なのは非常に痛いが、それを閲覧することが出来るだけでも、今回の事件のヒントを手に入れることが出来るかもしれない。

それに、雄介には並外れた『野生の勘』というものを持っていることや、その正確性を一条はよく知っている。碑文の解析結果から、彼が何かを得ることが出来れば、一石二鳥である。

 

一条は、その可能性に賭けてみることにした。

 

「よし、俺もこちら側の状況がある程度まとまってからそちらに合流する。君は解析結果の見方を先に聞いていてくれ」

 

『分かりました!』

 

この発言を最後に、雄介との通信が切られる。

 

 

第6号であり、第6号でないもの。

 

未確認生命体の姿をしていて、未確認生命体の力を使わないもの。

 

それは一体、何を示しているのか。

 

そして、何が起こっているのだろうか。

 

考えることを後回しにして、一条はパトカーに乗り込み、思い切りキーを回した。

 

 

PM05:43 板橋区内

 

夕焼けが街を赤く染めていく時間帯。その時間帯は、学校や勤め先から帰る人達で朝の通勤時の次に人混みが出来やすい時間帯。

 

大勢の人が自分の家を目指して帰路を急ぐ中、流れを邪魔しないような場所に数人の人影が現れる。

 

顔の一部に特殊なメイクを施しているように見える顔。自己主張しているような、統一性のない独特な服装。

 

そして、服に覆われていない肌の部分に刻まれた、個々に異なる刺青。

 

帰路を急ぐ人々とは何もかもが違う、異形の集団だった。

 

「……バヅーとバダーが動いているようだな」

 

まるで軍隊の司令官が着るような服装の男が、妙に威厳のある口調で語る。

 

「他にも、見た。ザインにビラン、ギイガ、ベミウもいた……」

 

それに続くのは、黒のコートに黒の帽子、黒の傘を持った男だ。太陽の光を避けるかのように傘をさしているが、向かいのビルの硝子に映った太陽の光の方が彼に相当なダメージを与えているように見える。

 

「どいつもクウガに殺されたはずだ……なぜ生きている……」

 

「どーでもいーじゃない。そんなことー」

 

間延びした話し方をするのは紫色の上着を羽織り、革のミニスカートを履いた女だ。前の二人の会話の内容など気にしない様子で、左手に持った扇子を扇いでいる。

 

「ゲゲルに失敗した奴らなんて、どーでもいいしー。あたしのゲゲルに楯突くんなら、殺すだけだからー」

 

物騒な言葉を平然とつぶやくが、周囲の人々はそれを気にせず足を進めていく。その流れに便乗するかのように、一人の男が現れる。黒いニット帽に黒いマントのような衣装、首には真っ白なマフラーを巻いている彼もまた、周囲から浮いて見える存在だった。

 

「ねぇー、あたしのゲゲルはまだー?」

 

「バルバがこちらに戻るまで、ゲゲルはおあずけだ」

 

女性の発言に対し、やってきた男はそのように応える。その発言に、女性は眉をひそめた。

 

「一体、なにしにいってんのー?」

 

「我にも、考えが浮かばない」

女性の発言への応えは、女性に何の解決の手がかりも与えないものだった。男性も言うつもりがなかったためか、悩む素振りも見せない。

 

「クウガに殺された奴らが再び動いていることを、バルバは知っているのか?」

 

「どうだろうな……」

 

軍服の男の威圧感の前にも緊張しない様子で応える男。本当に何も知らないように見えるが、ゲゲルの進行を管理する立場故にそれを隠している様子さえも窺える。

 

「いずれにせよ、我々の活動の邪魔になるものは、排除される……それだけのことだ」

 

話を勝手に終わらせ、再び人ごみの流れに消えていく男。その様子を見届けていた他の男女も、男同様に人ごみの中へと消えていった。

 

 

PM06:14 東京都西文京区

 

雄介は一条との会話の後、城南大学に戻っていた。まだ大学に残っているであろうジャンに碑文の解析結果の閲覧方法を教えてもらうためである。

 

しかし、実際に行ってみれば研究室に灯りはなく、ジャンの影も見えなかった。未確認生命体の警戒態勢が解かれたこともあるだろうが、何よりも彼なりに多忙なのだろう。今度余裕がある時に教えてもらおうと考え、ビートチェイサーをポレポレに向かって走らせていた。

 

ポレポレにあと数分で着くであろう交差点の赤信号に引っかかり、雄介は交差点手前に引かれた白線の前に停車させる。

 

「……」

停車している間、雄介は今日の出来事をぼんやりと考えていた。

 

突如として蘇った未確認生命体第6号と第41号。彼らが一体何故蘇ったのかが雄介を悩ませていた。

 

雄介が身につけているアークルに組み込まれたアマダムは、確かに傷の回復力を増強させる役割を果たし、雄介はその力で一度死んだ状態からの蘇生を体験している。それと似たようなものが未確認生命体の腹部にも埋め込まれていることから、未確認生命体にも同様の効果が現れていても不思議ではない。

 

しかし、ここではその説は成立しない。なぜなら雄介がクウガの力を使って倒してきた未確認生命体は、全員が爆散している。すなわち、アマダムに似た石も爆散していることになるため、回復を増強させる手だてはなくなっていると考えた方が良い。

 

別の可能性としては、第26号の時と同様の現象が発生したことが考えられる。

 

未確認生命体第26号は白色のクウガ-グローイングフォームによって爆散した、きのこの能力を持っていた未確認生命体だ。爆散した影響できのこの生殖細胞である胞子が飛散したことと、未確認生命体独自の強い生存本能が組み合わさったことにより第26号のクローン体という異種が誕生したことがあった。

 

しかし、この現象は第26号自身の能力があってこその結果である故に、他の未確認にも適用するとは考えられない。仮にあったとしても、クローン体のようなものが出来るはずだが、あれはどう見ても第6号と第41号そのものだった。

 

 

いずれにしても、情報が少なすぎるのだ。今回の事件に関しても、未確認生命体に関しても、クウガに関しても、だ。結局、今出来ることは足りない頭で精一杯悩むことしかない。

 

「……」

 

ふと、雄介は考える。

 

未確認生命体は一体どうやって生まれてきたのだろうか、と。

 

これまでの検証で未確認生命体は人間によく似た体組織を持っていることが判っている。同じ体組織を持つ以上、体の性質は変身することを除けばほぼ同じである。

 

人類へと進化する過程で、一体何が起きたのか。そこに未確認生命体に近づく重要なヒントがあるはずなのだ。

 

碑文の中にそれに類した文章があるか確認してみよう、と雄介は自分の中で結論を出した。

 

 

『キャアアアア!!』

 

「……!?」

 

その刹那、女性の悲鳴が聞こえた。交差点の信号が青に変わると、雄介はビートチェイサーをUターンさせ、悲鳴が聞こえた場所へと猛スピードで走らせる。

 

走って間もない場所に、両手で口をおさえ、立ち尽くしている一人の女性を発見する。悲鳴の主であると判断した雄介はビートチェイサーを停め、ヘルメットを脱ぎ捨てた後、彼女に話しかける。

 

「大丈夫ですか?何があったんですか?」

 

近くの街灯によって照らされた彼女の表情は恐怖の一色で染められており、ガタガタと震えている。

 

ただ一点を見つめて。

 

「……っ!?」

 

彼女の視線を追い、一方通行となった狭い路地を見る雄介。そこにいたものに、雄介も驚愕していた。

 

人間の身長を遥かに越す巨体。

 

猛獣のようにぎらつく目と歯。

全てを引き裂きそうな鋭い爪と木の幹の用に太い腕。

 

そして、感じたことのない威圧感。

 

 

その謎の生命体が、太い腕で持ち上げている何か。

 

 

 

 

それは、首を鷲掴みにされた女性だった。

 

既に抵抗する力を失ったのか、女性は両手をダランと下げていた。それでもその生命体は手放す様子を見せず、さらに腕に力を込めようとした。

 

「うおりゃあぁ!!」

 

その瞬間、雄介がその生命体に体当たりをぶつける。雄介の存在に気付いていなかったそれは、予想外の敵襲に対応しきれず体当たりを直接喰らい、その衝撃で女性から手を放してしまう。地面に倒れ込む女性を受け止めた雄介は、彼女を抱えたまま生命体の腹部を蹴り生命体との距離をとる。

 

「ビガラ……!」

 

活動を邪魔した雄介の方を向く。女性の安否を確認した雄介は彼女を地面に寝かせ、生命体の方を向き直った。

 

「未確認か……?」

 

生命体の発言を聞き、雄介は確信した。目の前にいる生命体は、雄介や一条らが戦っている未確認生命体の同族ということを。

 

「ジャラゾギダべジレ、ビガランギボヂゼヅグババゲデロザグ」

 

感じていた威圧感を雄介に向けて放つ未確認。その力の大きさに雄介は思った。

 

この未確認は、これまでに戦ってきた未確認のどれよりも手強いと。

 

未確認がこちら側に手をかざすと同時に、雄介も腹部に手をあてる。

 

「グ……ボンバドビビ……!」

 

しかし、対峙していた未確認が苦しそうな声をあげる。すると、未確認の腹部から、周囲の影よりも黒い霧状の気体がもうもうと上がり始めていた。

 

「なんだ……?」

 

発生した事態に雄介もそれに驚く。そんな雄介に目もくれず未確認は、腹部からの霧を抑えようと必死だった。

 

「ビガラゾボソグボザヅギザ……」

 

そう言うと未確認の体に変化が起きた。これまで確かに存在した全て体が腹部から発生した霧のような気体に変わり、周囲の光景へと溶け込んでいった。

 

「……っ!」

 

慌てて走り出す雄介。しかし未確認が立っていた場所にはもう何も残っておらず、そこにあるのはいつもの夜の静けさだけだった。

 


 
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