拓馬がこの世界にやってくる数日前
それは神殿に似た場所。そこに、狐に似た姿の火のエルロードが錫杖形の武装『天啓のコルサス』を使い、地面に奇妙な図形を描いている。
「……やはりこの世界は異世界。オーヴァーロードとの繋がりも消えてしまった」
そして、地面に描いていた図形から現れたのは亀に似た姿のトータスロードが現れた。
「せめてもの救いはクイーンを除くある程度のロードを作り出せる能力が残っていた事か」
火のエルロードは再び奇妙な図形を描き続ける。そこから現れるのは様々なアンノウンロード。火は破壊と再生の象徴でもある。だからこそ火のエルロードは下級ロードを産み出し使役することができる。
「この世界にも「アギトの力」があるかも知れん。それで無くとも、元の世界に戻る手がかりがあるかも……いや、待てよ? 私がここにいる以上『あの男』もこの世界にいるかもしれんな」
火のエルロードが思い出すのは自分を道連れに自爆したあの男。それを思い出した火のエルロードは元の世界に戻るために「アギトの力」に限らず「様々な特殊能力を持つ者」を狙い始めた。しかし、求めるレベルの存在でなければ殺してしまったほうがいい。下手に逃げられて見つかれば面倒なことになる。それに、恐らく殺し続けていればあの男もいずれ目の前に現れるだろう。火のエルロードはそう考え指示を出した。
そして、数日後から人間が木のウロに押し込まれた形で殺される「不可能犯罪」が関東地方で起こるようになった。それは、拓馬がこの世界にやってきた数日後。
そして、その数日後拓馬がこの世界へとやってきた。拓馬はこの世界を見て廻る途中に立ち寄った街で一人の少女に出会った。
「助かった。コレで通貨規格も違えば、確実に死んでた」
とりあえず、先立つ物は金なので履歴書や文房具を調達し、喫茶店でそれを必死に書いていた拓馬。だが、ふと気付いた。この世界に自分は本来存在しない。なので戸籍は無い。一応、運転免許などはこの世界と変わらないので下手な行動を取らなければバレはしないだろうが、恐らく定職に就くことは難しいだろう。
「さらに言えば……魔法使いが居るらしいから下手な行動はできないな」
旅をしている途中に立ち寄った森で魔法使い同士の戦いを目撃した。その時は隠れていたがそれを目撃した事で元の世界に戻れる希望も見えた。魔法使いなら元の世界に戻る術を知っているだろうと思ったから。でも、下手に接触するのは難しい。自分たちのいた世界と同じように異端は表に出ていない。つまりは、金を稼ぎつつ上手く接触しなければならない。
「……ならフリーターしかないか」
時間を取るためにはフリーターしかない自分の将来を痛感し、少しブルーになった拓馬。そして、履歴書を書き終え喫茶店を出てどこかバイト募集の張り紙が無いか探していると突然、脳裏にアンノウンに狙われている少女の姿が映った。それは拓馬がアンノウンと戦う前からあった現象。このおかげで、アンノウンからも逃げられたし、アンノウンに襲われそうな人を助けることができた。
「(マジか!? 女の子はまだ気付いていないが……どこだ?)」
バイクに跨り、その場所へ走り出した。しかし、この世界に来たばかりの上知らない土地では思うように移動する事ができず、アンノウンはどんどん少女に近づいていく。
「間にあえよ?」
その叫びと共に拓馬の中に巡る「アギトの力」が活性化し、アンノウンの場所までの大まかな道筋が頭に思い浮かんだ。
「ッ!? 何だコレ……って、細かい事は後で考える!」
そして、その場所に到着するとその場にはトータスロードとその足元に気絶している黒髪の少女が倒れていた。少女が気絶しているのは恐らくトータスロードを見てしまったためだろう。まだ死んではいない。
「調子乗ってんな!」
拓馬はそのままバイクでトータスロードに体当たりをするが、簡単に腕で止められる。しかし、それこそ拓馬の狙い。
「よっとぉ!」
トータスロードがバイクを受け止めている隙を狙い、バイクから飛び降りると足元に居る少女を抱え「アギトの力」で強化した脚力を使い、一気に後ろに飛びのいた。
「さて……仕切りなおしっておい!」
腰に変身ベルト『メタファクター』を出現させ、両腕を顔の前で交差させギルスに変身しようと構えるとトータスロードは地面にもぐり離脱した。周りを探ってみても気配を感じる事ができない。
「逃げた? いや、見逃されたのか?」
構えを解いたことで『メタファクター』も消滅し、なんともいえない不快な空気が拓馬の周りを漂っていたが、後ろに居た少女がうめき声を上げたことで気持ちを切り替えることになった。
「うぅん……あれ? ここは……」
「気がついたか?」
とりあえず、少女がどこまで見たのかが理解できないため下手に話を振る事が出来ない。もし、アンノウンを見たらトラウマどころの話ではない。
「えっと……確か……あれ? ものすごく怖い物を見たような……」
少女の言葉でトータスロードのことを忘れていることに気づいた拓馬は無理に思い出させる必要もないと考え、適当に貧血で倒れたのかも知れず、たまたま通りかかった自分が介抱していたというようにしておいた。
「あ、そうなんですか。ありがとうございます」
「いやいや。別に気にするな」
そして、少し話をしていると自分が宿無し金なしの人間である事がばれてしまい、せっかくだし介抱してもらったお礼にと家に招かれた拓馬。最初は断ったがぜひにと言われたので折れることになった。
「(……アンノウンに狙われたという事はまた狙われるかも知れない。だから、一緒に居るのは好都合。決して、この子の俺を見る『可哀想な人』みたいな視線が心に刺さったからじゃない!)」
ちなみに、少女の名前は大河内アキラというらしい。そして、母親から礼を言われたのだが父親からは凄く睨まれた。
「娘が世話になったようだね(娘に変なことしたら殺すぞ?)」
「いえ……当然のことをしただけですし(怖えぇー!)」
このときの父親の殺気はアンノウン並だったらしい。そして、夕食を頂いたときにアキラの宿題を見たときに母親から今度から学園都市のほうに転校することを聞かされ、せっかくならと家庭教師の真似事をかってでることにした拓馬。
「……」
「あの……その……」
父親は二割増の殺気を拓馬にぶつけていた。その殺気はアンノウン以上だったらしい。
「(はぁ……でもまあ……何とかやっていけるのか?)」
コレが拓馬が異世界に来て初めて紡いだ絆。この絆が強くなるのか切られるのかはまだ分からない。
「そうか……やはりこの世界にあの男が……」
そして、拓馬と同じようにこの世界に流れ着いた火のエルロードはトータスロードからギルスが現れたという報告を受けていた。
「……『AGITΩ』は可能性の力。うまくいけば元の世界に戻れるかもしれない」
火のエルロードは嬉しそうに目を細めて口角を釣り上げた。それは正しく狡猾な狐そのものだった。
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第3話でございます。