No.394052

IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第二十五話~赤の最期とそれぞれの思念

二次移行を果たした光輝はシャアと戦わず、話し合う。そしてシャアが……。

2012-03-18 21:40:40 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1744   閲覧ユーザー数:1720

僕とアムロさんはシャアさんと対峙して話をしていた。二次移行したからと言って、僕自身は戦う気はなかった。それはシャアさんも同じだった。

 

[もう、戦う必要はない。君達の輪が少しでも多くの人間に伝えれるのを願っているよ]

「あ、ありがとうございます……。これから貴方はどうするんです?」

 

 さっきまで敵だった相手にそう言われるのはちょっと不自然な気もしたけど、気にしないようにしよう。

 

 いきなりナイチンゲールは光となって消え、中から人が出てきた。金髪の髪をオールバックにしてマントに濃いめの赤の……軍服? にしては派手な気がするけど、けっこう上の人だったのかな? まさか、この人がシャアさん? にしても派手だ。

 

[私は消えるだろうな。心の闇のおかげで姿を保っていたんだから。でもこれは呪縛でもあった。それを解いてくれたんだ。感謝する]

[シャア……]

「はい……でもせっかく分かり合えたのに、すぐに消えてしまうなんて……」

[そう悲しむことはない。私はララァの元へ行くだけだ。そこで君たちを見守っていこうと思う]

 

 ララァって誰? そう聞こうとしたけど

 

[光輝、悪いがララァの事についてはいずれ話す。その時まで待ってくれるかな?]

「え、えぇ。良いですけど……」

 

 と断られてしまいました。この様子だとけっこう隠してることがありそうだね。いつか絶対話して貰いますから!

 

[そう言うことだ。時に光輝君? 握手をしてくれないかな?]

「握手ぐらいなら何回でもいいですよ」

 

 そう言い、ISを解除してシャアさんの手を握る。その手はとても温かく大きいものだった。優しさに溢れた大きな手で安心を覚えるよ。

 

[君の手は小さいが、私には大きく感じるよ。優しさと慈愛を併せ持ったこの手なら誰だって助けられるし、導くこともできるだろう]

 

 意外な答えにちょっと照れてしまう。そう言われたのは初めてだなぁ。

 

 って! シャアさんの手が消えてく……! 

 

[もう消えてしまうか……。アムロ、この子たちを頼んだぞ?]

[任せてくれ、シャア。またいつか会える日を願うよ]

[君とはゆっくり話がしたかったな。専用機持ちのみんなもその力を誤った方向に持っていくなよ? そうすればおのずと自分の為すべきことが見えてくるはずだ」

 

 僕以外の全員も戸惑いが隠せないがその言葉の重みを知り、全員頷く。この間にもシャアさんの身体が消えていく。

 

[さて光輝君。君やエリスのような能力を持つものがまた現れるようだが、絶対に争ってはいけない。絶対に分かり合うんだ。良いな?]

「大丈夫です! だから見ていてください! 人は変わりますから!」

[それでこその君だ。さて――]

 

 シャアさんの身体が完全に消える前に

 

[今行くよ……ララァ]

 

 そう言い残して赤い彗星――シャア・アズナブルは光となって消えていった……。

 

 

 

 

 その日の夜、夕飯も済ましお風呂も入ってゆっくりしているとエリスさんからの連絡で浜辺に来ていた。二人きりで話したいとのことでアムロさんは部屋に置いてきた。

 

 夕方の戦闘から帰って来た時は無断出撃でお母さんに凄く怒られたけど、どこか安心した声で僕達の帰りを迎えてくれた。νガンダムが二次移行したことはまだ話していないけど、まぁ良いと思う。てか戦闘をモニターで見てたと思うし知ってるのかな?

 

「まぁいいか~。しかし恐ろしく長い一日だった……」

 

 束さんの登場、箒さんの専用機「赤椿」、銀の福音の暴走、そして赤い彗星――シャアさんとの二度目の戦い、対話。こんなことが今日一日での出来事なんて思い返してみると疲れがふっと出てくる。せっかくお風呂に入ったのに。

 

「でも、なんか不自然な気がする……」

 

 束さんが箒さんへ赤椿をあげた直後に福音の暴走。これって本当に偶然なの? 束さんの目的って一体……。

 

 止めようか。当の束さんもいつの間にか居なくなったようだし、いつかまた会った時に聞きだそう。凄く不自然過ぎる……。

 

「こ、光輝くん?」

 

 夜の風を浴びながら砂浜に座って考えていると後ろから聞き覚えのある声がする。振り向けばなぜか水着姿のエリスさんが顔を赤くして僕を見ていた。うん、やっぱりいつ見ても似会ってるよね。

 

「僕も水着で着るべきだったの? 泳ぐわけでもないし浴衣できちゃったけど」

「そこは気にしないでっ! 私が勝手に着てきただけだから……」

「なるほど、できるだけ気にしないようにするよ」

 

 僕がそう言うとエリスさんは何か決心したのか、僕の横に座ってくれた。なんか緊張してるようだけど大丈夫なのかな?

 

 それから数分は二人ともだんまりだった。僕は夜空や海の音を楽しみながら座っていたけど、エリスさんは常に顔は赤いし、髪を指にクルクル巻いたり手を無意味に動かしたり、なんか不安定? って言ったら失礼だけどそんな感じだ。

 

「さっきから――」

「あ、あのさ!」

 

 いきなりの声にちょっとビックリしてしまう。今のエリスさんおかしいよ……。

 

「光輝くんは、す、好きな人って……いる、の?」

 

 これは異性がって意味なのかな? しかし、どこか脅えているような声。原因は分からない……。

 

「そうだね……。そういうこと聞かれること自体が初めてだから戸惑うけど、そういう人は居ないよ。僕は友達がいてくれるだけでいい。でも、もし僕を好きでいてくれる人がいるなら僕はその人を一生好きで居続けたい」

 

 だって途中で別れるなんて寂しいんだもん。だったらずっと一生に居たいよ。僕は一人が怖いから……。

 

「そう、なんだ……。えっとね、わたしは――ひゃっ」

 

 そうエリスさんが続けようとした時、どこからか激しいプレッシャーを感じた僕は岩陰に隠れるが、エリスさん押し倒すような格好になってしまった。しかもお互いの鼻が付きそうなぐらいの近距離だった。

 

「エリスさん、ご、誤解しないでね。激しいプレッシャーを感じたから咄嗟にこうしただけで……」

「うん、分かってるけど、光輝くんにならこうやって、ご、強引にさえてもいいよ?」

 

 エリスさんは目を閉じ、何かを待っているような感じだ。これは……引き込まれそうだ。そのまま僕はエリスさんの唇に――

 

――ガシャン

 

 ……その音が僕を現実に戻してくれた。この音はまさか……

 

 顔を上げるとISを装備したセシリアさんにスターライトMarkⅢ、ラウラさんが右肩のレールカノンで僕を捕捉していた。しかも結構な近距離で……。激しいプレッシャーはこの二人からだけど、ここまでの怒りは……。僕はここでやられてしまうのか!?

 

「あら、光輝さん。こんなところでなにを! してらっしゃいますの?」

「ふん、夜に抜け出して何かと思えば……お前はそういう奴だったのか?」

「ち、違うよ! 二人とも落ち着いて! エリスさんも何か言ってよ!」

「二人とも……これで私が一歩リード? じゃないかな?」

 

 その言葉に二人がキレた。あ、死んだな僕。

 

「光輝、立て」

「さぁ光輝さん? あちらでゆっくりお話を聞かせて下さいな?」

 

 僕は背中から二人にホールドアップされ、歩いて移動した。こんなことならISを持ってくるべきだった……! 

 

 僕はセシリアさんとラウラさんに事情聴取と言う名の拷問を一時間程受け、解放された。終わってからエリスさんが来てくれて、途中まで一緒に帰った。ホント、こういうトラブルが多いというか、災難だ。

 

「ごめんね光輝くん。助けることが出来なくて……」

「だ、大丈夫だよ。それより、今度一緒にこの能力の事を聞かない? アムロさんなら何か知ってるようだし、気になるからさ」

「いいよ。何か知ってるのなら是非とも聞きたいよ」

 

 そんな会話をしながら僕達はそれぞれの帰路についた。さて、あの拷問のせいで疲れ過ぎて眠くないよ……。ちゃんと寝れるかな?

 

 

 

光輝がエリスに呼ばれた同時刻、篠ノ之束は岬の柵に腰を掛けていた。目の前には海が広がっており、高さ30mはあるというのに足をブラブラさせている。

 

「赤椿の稼働率は絢爛舞踏(けんらんぶとう)を含めて42%かぁ。まぁこんなところかな?」

 

 空中投影のディスプレイに浮かび上がったデータを見ながら無邪気に微笑む。

 

 子供のような頬笑みだが、どこか意味深な頬笑みでもあった。

 

 鼻歌を歌いながら別のディスプレイを出す。それは白式の二次移行したときの戦闘映像だった。

 

「それにしても白式には驚かされるなぁ。操縦者の生体再生まで可能だなんて、まるで――」

「――まるで『白騎士』のようだな。コアナンバー001にして初の実験機投入機、お前が心血注いだ一番目の機体に、な」

 

 束の後ろの森から出てきたのは漆黒のスーツを着た千冬だった。音もなく近づき、まるで環境に一体化しているようだ。

 

「やぁ、ちーちゃん」

「おう」

 

 二人は互いの方を向かず、千冬は木に身を預け、束はまた足をブラブラさせている。顔を見なくてもどんな表情かは分かる。この二人にはそのぐらいの信頼がある。

 

「いやぁ、白式も凄いけどνガンダムもナイチンゲールも凄いよね。私でもあそこまでのISは今の私には無理かな」

 

 そう言ってまた別のディスプレイを出す。それはνガンダムとナイチンゲールの戦闘映像に人の心の光が周辺を包み込んだ映像がながされている。この光を見て、束はどう思ったのか?

 

「綺麗だよね。これを見たら人と人が分かり合えるって……ふふっ、面白いね」

「……綺麗だな。だがこれを見たら心が暖かくなる。これがあの子の力か」

「でも、所詮は綺麗事だね。こーくんも甘いよ」

 

 さっきまで明るかった束とは違い、暗い声で喋る束。極度の他人嫌いの束には光は届いてないようだ。束にとって、光輝も信頼できる数少ない人物だが今の束は光輝を否定している。

 

「だがその純粋な気持ちがあの子の最大の強さだ。お前なんかには分からないだろうがな」

「分からいないね。まぁ貴重なデータが取れただけでも良しとしよう♪」

「…………」

 

 千冬は何も喋らない。この時の千冬は怒りに満ちていたか? それとも――

 

「今日は有意義な一日だったよ。いろんなものも見れたし、何より、大好きなちーちゃんにも会えたしね」

「最後のは余計だ、馬鹿」

「相変わらずだね。さて、最後に天才の束さんからのメッセージ! ガンダムはまだまだ現れるから死なないようにね。でも全部が全部、敵じゃないかな?」

 

 強い風が吹き、刹那――束は消えた。

 

「全く……変わらないな」

 

 そう言ってほほ笑む千冬。だが千冬にも束の行おうとしていることまでは分からなかった。

 

「光輝、いつか束を救ってやってくれ……」

 

 千冬はその場を後にした。この数分後、光輝への拷問が始まったのである。千冬はそれに気付かった。

 


 
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