深夜、ここ魔帆良学園の学園長である人物――近衛近右衛門は悩んでいた。
「来年度の3年A組の担任はネギ君で決まりなんじゃが……さて、副担任は誰にしようかのう」
先の試験を合格したから問題ないとは思うんじゃが、補佐の副担任がなかなか見つからんのう。タカミチ君は魔法世界から呼ばれることがしょっちゅうあるから任せられんし、しずな先生に頼もうかの。
コンコンッ
「誰じゃ?」
「学園長、夜分遅くに失礼します」
「おお、刹那か。入ってもよいぞ」
「はい、失礼します」
そう言って入ってきた刹那の後ろから、髑髏の仮面をした男が現れた。
*
「おお、刹那か。入ってもよいぞ」
「はい、失礼します」
刹那殿が学園長室と書かれたドアを開けると、妖怪が椅子に座っていた。
「刹那殿……ここの責任者は妖怪なのですか?」
私にはどうみても、日本にいた妖怪ぬらりひょんにしか見えないのですが……
「違いますよハサンさん。こちらの方がこの魔帆良学園の学園長にして、最高責任者の近衛右近衛門です。一応? 人間です」
「“一応”とは、刹那も結構エグい言い方をするのう」
学園長と呼ばれた老人はバル〇ン星人のような笑い方をする。
「それで刹那、そちらの方は? 見たところあちら側の人間《・・・・・・・》には見えんのじゃが」
さっきまでの温厚な雰囲気から徐々に警戒の気を放つ。まあ、こんな姿をしていれば警戒されるのは当然なのですが。
「学園長、こちらの方はハサンさんと言い、危ないところを助けてくれた命の恩人です」
「おお!! 刹那を助けてあげたのかの」
「いえいえ、そう改まってお礼をしてもらう必要はありませんよ。私は人として当然の事をしたまでです」
「人として当たり前の事が出来る人はなかなかいないがのう。……それでハサンという者よ、いかなる理由でここに来たのじゃ?まさかその格好で観光に来たのではあるまい?」
近衛近右衛門の眼が鋭くなる。なるほど、この方は普段は好好爺を装っていますが本質は間桐臓硯(魔術師殿)と同じ匂いがしますね。多少警戒する必要がありますか。
この好好爺に全部話すのは得策ではないと思い、聖杯戦争の事は伏せた上でここに至った経緯を簡単に説明した。
「ふむ、お主の事は今の話で分かったのう」
私の話を聞いて近衛翁は警戒を解いた。私は魔術――この世界でいう魔法のあり方について教えて欲しいと言った。近衛翁が語るこの世界の魔法は、私たちの世界とは違い世界にたいして魔法の隠匿はするものの、基本的に人を助けるために魔法を使っているというのだ。
「それで、ハサンよ。君はこれからどうするつもりなんじゃ?」
「まぁ、お金も住む場所もありませんからね……図々しいと思うのですが、私に職を紹介してくれませんか?」
近衛翁は少し考える素振りをし、何かを閃いたように、手でポンッと音を出した。
「ふむ、それならハサン殿には刹那君のクラスの副担任と広域指導員、それに夜の警備を頼もうかの」
「しかし、私は教員免許など持っていませんが」
むしろ暗殺者が一般生徒を教えるのはどうなんでしょうか?
「なあに、教員免許証(そんなもの)此方でちょちょいとつくってやるわい。大船に乗ったつもりでいてくれ」
若干危ない発言をしていたような気がしますが、此方から頼んでる身なので話さないでおこう。私は黙って近衛翁に頭を下げる。
「ふぉっふぉっふぉっ。それくらいのこと何でもないことじゃよ。身分証明や住居は明日刹那君を通して連絡するから、今日は宿直室に泊まってはくれぬか?
もちろん、そこまで刹那君に案内させるぞ」
「わかりました学園長」
刹那殿が返事をして部屋を出たので、私も続こうとドアを開ける。
「ああ、ハサン殿。一つ忘れておったわ」
「なんでしょうか?」
「その髑髏の仮面は授業中は外してくれんかの。さすがに一般生徒にはちと怖がられるかもしれんからのう」
”仮面を外す”
この世界に来てから自分の顔を見ていない。少なくとも顔のパーツがあるのは確認できるのですが、まともな顔になっているか若干不安です。
「分かりました。それでは失礼します」
「それではまた明日」
学園長は最後までバル〇ン星人のような笑いをしていたが気にしないようにしよう。
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第四話