『三大騎士クラスのアーチャーを恐れる必要はないとは』
『……ギギギ。ミ、視タナ』
『アレを……恐れる必要は無い……だとぉ!!!?』
『アサシンが排除されたもの油断しきっているマスター達の背後に、我ら影の英霊は今度こそ、本当の影になる』
『ギッッッ!?キ、貴様ァァァ!!!』
『素晴らしい!それならば魔術師殿の病気もたちどころになおりましょう!で、どうすれば虎聖杯はてに入るのですか?』
『与えられた試練から逃げない……それが私の信条です』
*
「はっ!!」
私は身体中から嫌な汗が流れている感覚と共に目を覚ました。私の記憶の夢のようでしたが、なんというか……私ではない誰かの記憶も混ざっていたような。それに虎聖杯とは一体なんなんでしょうか?
コンコンッ
「ハサンさん、開けてもよろしいですか?」
夢の中身について考えていると、入口から刹那殿の声が聞こえた。私はどうぞと声をかけると、刹那殿は失礼しますと挨拶をして入ってきた。その手には茶色い封筒と、黒を基調としたスーツを持っていた。
「学園長からハサンさんにと渡されました。封筒の中身は身分証と学園のIDカードが入っているそうです。それと、『着替え終わったら学園長室に来るように』だそうです」
「そうですか。刹那殿、わざわざありがとうございます」
そう礼を言うと、刹那殿はうつむいたままいいえと答える。よく考えてみると、こんな仮面の男に礼を言われても嬉しくないだろうと思い、着替えるから少し廊下に出てくれと頼んだ。
刹那殿が部屋を出た後、急いで着替えた。『なぜ採寸もしていないのにスーツがピッタリ』なのかは疑問だったが、魔術とは違う魔法、バカデカイ樹、妖怪のような姿の人間がいるこの状況を考えたら、不思議と疑問を抱かないようになった。
「残るは仮面……ですか」
そう。スーツを着て封筒の中身を確認した後に残ったのは、今付けている仮面だ。学園長にああ言われて頷いたが、私は仮面を外すことに若干の不安を覚えた。
この宿直室には鏡がないため、一番最初に顔を見るのは私ではなく刹那殿である。もし彼女にトラウマを植え付けることになったら私としても残念である。
「ハサンさん、よろしいですか?」
これ以上淑女(レディ)を待たせるのはいけない。私は腹をくくり仮面をはずして刹那殿を呼んだ。
「失礼しま……す?」
ドアを開けた刹那殿は私を見た瞬間文字通り固まった。叫ばれなかったのでどうやら顔がないという事態は回避されたらしい。
私はその事で安堵していたが、彼女はゆっくりと肩に掛けていた刀に手を伸ばして……え?
「はあぁ!!」
いきなり刀を振り下ろしてきたって!?
「何ですと!?」
私は彼女の一撃を後ろに下がってギリギリで回避する。
「侵入者が!!一体ハサンさんを何処へやった!!」
ん……まて。もしや刹那殿は私だと気づいていないのでは?
「刹那殿、私です!!ハサンです!!」
「かくなる上は我が神鳴流……って、ハサンさん?」
*
「申し訳ございません!!私はハサンさんては知らずに斬りかかってしまって……」
先ほどの騒動から5分後、平静を取り戻した刹那殿はいきなり斬りかかってきたことを謝ってきた。……まあ、何も言わずに仮面をはずした私も悪かったのですが。
「いいえ、私も何も言わずに仮面をはずしてしまったのでお互い様ですよ。……いきなり斬りかかるのは今後のために止めておいた方がよろしいでしょうけど」
私に痛いところを指摘され、刹那殿の顔がしゅんとなる。少しは反省してもらわないと困りますからね。
「ところで刹那殿、私の顔を見て不審者扱いしたということは、ひどい顔になっているということですか?」
そう私が聞くと刹那殿は少し考えるそぶりを見せた後、首を横に振った。
「べ、別に顔がおかしいとかそういう訳じゃないんです。顔の形も整っていて落ち着いた感じですて……感じですし。ただ――」
ただ?
「どう言えば言いか迷いますが、その……見た目と魔力の量にギャップがありすぎるんです」
「……はい?」
刹那殿が言うには見た目は特に鍛えているわけでもない、皮膚が少し黒い長身の一般人に見えるのだが、身体から滲み出ている魔力の量が一般人とは比べ物にならないほど多い、と言うことだそうだ。昨日の戦闘で気配遮断を使っていたときは気づかなかったが、それを解くと魔力が常に放出されているらしい。試しに魔力だけを消すようにして気配遮断をしてみると、刹那殿は魔力が放出されなくなったと言った。
「これでひとまず安心ですね。これから私は学園長室に向かいますがあなたはどうなさいますか?」
「私は朝からお嬢様の警護があるのでそろそろそちらに向かわなくてはなりませんので……」
刹那殿は残念そうに呟いてため息をついた。要人の警護が疲れるのはどこも一緒ということですか。御愁傷様です。
「刹那殿、今日の警護は頑張ってくださいね」
私はそっと彼女の頭に手をおく。
「っっ!!!?」
特に意味は無かったのだが、刹那殿は一瞬にして顔を紅くし、宿直室から逃げてしまった。
私はしばし考え、日本では女性の髪は命の次に大切なものであると思い出した。軽率な行為で彼女を傷つけてしまった。後で謝らなくてはいけませんね。
*
なんで私はいきなり逃げ出してしまったのだろうか?恥ずかしかったせいなのか、いきなり頭を撫でてきたハサンさんの行動に驚いたのかは今となっては分からないけど、いまだに私の鼓動はおかしくてすごく辛い。
あの時だってそうだ。ハサンさんがいるとばかり思っていたけど、ドアを開けてみるとなかにいるのは膨大な魔力を放つ男性だった。思考がフリーズしていたからかもしれないけど、私は男性に刃を向けてしまった。ハサンさんがいなくなったら――
私はそこまで考えたとき、思考を切り替えた。何を乙女みたいなことを私は考えていたんだ?私は●●なんだぞ。そんな私がこんな感情を抱く必要は……無い。
これからお嬢様の護衛がある。学園内とはいえ何が起こるのか分からないのだ。
私は自分の顔をパンッと軽く叩き気を引き締めると、護衛任務へと向かった。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
第五話