ペンギンの丸焼き
C1 豪語
C2 王族と兵士
C3 狙う者達
C4 惨禍は黒い雨の涙が覆う
C5 手柄…
C6 盟主即位
C7 焼鳥…
C1 豪語
貴族連合盟主居城シュヴィナ城。各国の王子達が集まる。玉座に座り、彼らを見回す貴族連合盟主エグゼナゾーズ。その傍らには暗黒大陸連邦の外交官トンボ昆虫人のガトンボーとアンドリュー・タカハが居る。
エグゼナゾーズ『貴殿らを呼び寄せたのは他でもない。13年の混迷の続く鮮血大戦にようやく終止符を打つ時がやってきた。暗黒大陸連邦バニシング大統領は我々の思いに答え、参戦要求を受諾し、オンディシアン教国の指揮官プロヴィレンズの積極的な作戦展開により泥沼に光が差し込んでいる!今こそが好機!トロメイア大国を討ち、平穏を取り戻すのだ!』
エグゼナゾーズは息子のエグゼナッセの方を向く。
エグゼナゾーズ『我が息子エグゼナッセよ。前に。』
エグゼナッセはエグゼナゾーズの方に歩み、跪く。エグゼナゾーズは鞘に入った宝剣を取りだし、彼の方に差し伸べる。
エグゼナゾーズ『今回、わしは貴族連合盟主の座を息子であるエグゼナッセに譲ろうと思う。』
各国の王子達の幾人かの喉を鳴らす音が城内に響き渡る。エグゼナッセは立ち上がる。
エグゼナッセ『失礼ながら…』
エグゼナッセはエグゼナゾーズの方を見上げる。
エグゼナッセ『父上はゼウステス98世から実力で盟主の座を握りしめた御方…。』
隊列に加わっているゼウステス99世はエグゼナッセを睨みつける。
エグゼナッセ『ならば、この決戦で多くの功績を上げた国家の王子を盟主となさいませ。』
エグゼナッセは宝剣を鞘から抜くと床に突き刺し、再び跪く。エグゼナゾーズは顎をさすりながら苦笑いを浮かべる。
エグゼナゾーズ『まあよかろう。』
各国の王子達からざわめきが巻き起こる。彼らの目に映えるのは床に突き刺された宝剣。
C1 豪語 END
C2 王族と兵士
テイガー級機動城塞露天艦橋。長い鋼鉄の兜を被ったペンギン獣人プロヴィレンズが腰に手を当て、砂漠を見渡す。背後より現れるエグゼナッセとオルセンド王国国王オルテンド。
エグゼナッセ『作戦の進行状況はどうか?』
プロヴィレンズ『後は首都ナハジュ攻略のみとなります。』
プロヴィレンズは後ろを向く。
エグゼナッセ『13年も続いた戦争を貴公が指揮を取ってから僅か8ヶ月でここまで戦局を転換するとは。流石にアレクサンドル教皇が一兵卒から抜擢しただけのことはある。』
プロヴィレンズは再び前を向く。
プロヴィレンズ『トロメイア大国のほとんどの都市の人口が流民となってナハジュに押し寄せているのです。兵糧が尽き、降伏も時間の問題かと…。』
エグゼナッセは眼を見開く。
エグゼナッセ『流民だと!』
エグゼナッセはプロヴィレンズに駆け寄り、引き寄せて胸倉を掴む。
エグゼナッセ『貴様!いったいどのような指揮をしていた!民を攻撃するとは!騎士道にも劣る。』
プロヴィレンズはエグゼナッセを睨みつける。
プロヴィレンズ『騎士道?これは13年もの泥沼の戦争なのですよ。貴方がたが安全な場所で豪勢な暮しを送る間、我々は民間人にも化ける奴らの得体のしれない恐怖と飢え、疫病、発狂、極限の狂気の中で理性を保たなければならなかった!』
プロヴィレンズはオルテンドの方を向く。
プロヴィレンズ『誰が、何の為に引き起こした惨劇か!』
オルテンドは顔色を変え、顔をそむける。
プロヴィレンズ『我々はその為にここに人生の一時を取り残されたのだ!私はどの様な手段を使ってもこの戦争を1日でも早く終わらせ、彼らをこの地獄から解放しなければならないというのに。そもそも貴方方は一回もこの地獄に顔を見せようともしなかった。それが、暗黒大陸連邦が参戦し、名誉と利益が手に入ると分かった瞬間に掌を返したように押し寄せた!なんとあさましいことか!!』
エグゼナッセはプロヴィレンズの胸座から手を離し、肩を落とす。床に落ちるプロヴィレンズ。プロヴィレンズとエグゼナッセの眼が合う。エグゼナッセは眉を顰め、眼を閉じる。
エグゼナッセ『…もう良い。下がれ。』
プロヴィレンズはせき込みながら立ち上がり、艦橋から出ていく。プロヴィレンズの後ろ姿を睨みつけるエグゼナッセ。
エグゼナッセ『無礼な奴!無礼な奴め!!我らは王族だぞ!!』
オルテンド『まあ、良いではないか。奴のおかげでトロメイア大国への積年の恨みが晴れると言うもの。』
C2 王族と兵士 END
C3 狙う者達
貴族連合軍天幕。各国の王子達が並ぶ中、壇上に居るプロヴィレンズ。
プロヴィレンズ『大量の流民がナハジュ一都市に集中しております。このまま包囲を続行しても勝てるかと。』
エグゼナッセが口を開く。
エグゼナッセ『プロヴィレンズの言ならナハジュは攻撃しなくても落ちるということだな。流民となったトロメイア大国の民を傷つけなくて済む。労せずして勝てるということだ。』
ヒート王国王子タルカが勢いよく立ち上がり、エグゼナッセの方を向く。
タルカ『馬鹿な!そう言ってエグゼナッセ殿は手柄を一人占めにするのではあるまいな。』
エグゼナッセはタルカの方を向く。
エグゼナッセ『落ち着け、タルカ王子。大量の流民がいるのだぞ。民草を攻撃したとなれば騎士の恥であろう。』
ゼウステス99世は鼻で笑って立ち上がる。
ゼウステス99世『なかなか良い言い訳だな。我々が戦功を立てるのはこの機会しかないのに、怖気づいたのかエグゼナッセ公。我々の誰かの手に貴族連合盟主の地位が転がりこむのが恐ろしいのか!ならば労せずとも得られるものを初めから手に入れればよいだろう。後になって、つべこべ言いだすとはなんと情けない。それでも騎士か!』
エグゼナッセは立ち上がり、ゼウステス99世を睨みつける。無言の空間が暫し続く。
オルテンド『どうやら決まらぬ様子。さしでがましいことを申しますが、ここは多数決で決めると致しましょう。』
ゼウステス99世はオルテンドの方を向く。
ゼウステス99世『オルテンド王の言うことだ。私に異存はない。』
王子達は頷く。
オルテンド『では力攻めに賛成の方は挙手を。』
エグゼナッセ、ロズマール王国イラストテ王子及びアレス王国マール王子以外の王子達は挙手をする。
オルテンド『では、力攻めで決まりだ。先鋒は暗黒大陸連邦ということではいかがか?』
王子達は頷く。
オルテンド『よろしい!では決まりだ。これより、ナハジュを攻める!』
C3 狙う者達 END
C4 惨禍は黒い雨の涙が覆う
テイガー級機動城塞艦橋。プロヴィレンズは窓から堅固な壁に囲まれたナハジュを見る。壁の上からは幾隻のガニメデ級機動城塞の艦橋がはみ出している。プロヴィレンズの背後には王子達。
プロヴィレンズ『もうすぐ暗黒大陸連邦による空爆が開始されます。』
艦橋の窓は黒く覆われる。王子達は騒ぎ出す。数十分の爆発音とともに色とりどりの閃光が絡み合う。壁は破壊され、燃え盛るナハジュの街を見てプロヴィレンズは立ちつくす。
ガニメデ級機動城塞群が七色に輝き宙に浮かんでいる。トロメイア大国の大量の脱出艇がその下を潜り抜けると黒ずんだ鋼鉄の固まりが鈍い音を立て瓦礫となった廃墟へと落ちる。紅のパラディン・ヴェルクークがその脱出艇の一つを弓で射る。エグゼナッセはテイガー級機動城塞のオペレーターに駆け寄る。
エグゼナッセ『あの人型機構に繋げ!』
オペレーターはエグゼナッセの方を見た後機械の方を向く。
オペレーター『は、はい。』
エグゼナッセ『貴様!脱出艇を攻撃するとはどういう了見だ!』
カルガルト『こちらカルガルト・フォン・リヒトシュターゼイン。あれは脱出艇では無い!偽装された脱出艇だ!繰り返す!あれは脱出艇では無い!偽装された脱出艇だ!』
カルガルトの声が艦橋内に響く。
タルカ『カルガルト・フォン・リヒトシュターゼイン!確かこの地で闘い続けた鮮血大戦の英雄…あの鮮血殿ではないか!鮮血殿が言うのだ…間違いない!』
タルカ王子が率先し、エグゼナッセとイラストテ、マール以外の王子達及びオルテンド国王は艦橋から駆けて出ていく。エグゼナッセは彼らの後ろ姿に手を伸ばす。
エグゼナッセ『待て!正気か!貴様ら!!』
天幕の外に控える王子達の部隊が我さきにと脱出艇に斬りかかっていく。アレス王国の部隊とロズマール王国の一部の部隊のみが他国の部隊を止めようとするが振り払われる。エグゼナッセは無線機を取り、叫ぶ。
エグゼナッセ『全軍に告ぐ!あれは脱出艇だ!!直ちに攻撃を中止せよ!中止せよ!!』
攻撃に加わる王族の部隊はエグゼナッセの部隊も含め、進軍を止めない。煙が立ち上り、次々と落伍していくトロメイア大国の脱出艇群。
マール『何と言うことだ!彼らを止めなくては!!』
イラストテとエグゼナッセは頷き、艦橋から出ていく。プロヴィレンズを照らす戦火の光。
C4 惨禍は黒い雨の涙が覆う END
C5 手柄…
紫色のシュヴィナ王国ロード・ヴェルクークがシュヴィナ王国軍の展開する脱出艇の金属片が散乱している砂地に降り立つ。コックピットのハッチが開き、現れるエグゼナッセ。
エグゼナッセ『止めろ!止めるんだ!そいつらは兵士じゃない!兵士では無い!!聞こえないのか!兵士では無いんだ!』
ブレイマンがエグゼナッセの方を振り返り、笑顔で叫ぶ。
ブレイマン『陛下の為に首級を挙げよ!』
彼の掛け声に歓声を上げ、シュヴィナ王国軍は逃げ惑う者達を切り刻み、人型機構で踏みつぶす。エグゼナッセは青ざめた表情で周りを見回す。カルガルトが泣き叫ぶ赤子を突き刺して、掲げて投げ捨てる。
カルガルト『こいつめ、爆弾め!』
カルガルトは血の滴り落ちる剣の切っ先を逃げ惑う人々に向ける。
カルガルト『民間人の皮を被った敵兵だ!殺せ殺せ殺せ!!』
オルセンド王国オルテンド国王は笑いながら目にしたトロメイア大国国民を切り刻み、帰り血で鎧を赤く染め、討ち取った首を、老若男女問わず方からぶら下げている。
逃げ惑う者達、老若男女限らず子供達も貴族連合軍に切り刻まれ、踏みつぶされる。黒煙をあげる大地に散らばる鋼鉄の瓦礫と無造作に散らばった血糊と死体と肉片。エグゼナッセは自機のハッチからその状態を呆然と眺める。
C5 手柄…
C6 盟主即位
シュヴィナ城の密談の間。傍らに秘書官を付け、椅子に座るエグゼナゾーズ。エグゼナッセが扉より登場。
エグゼナゾーズ『おお、息子よ。おめでとう。』
エグゼナッセは足音を高め、エグゼナゾーズの前まで歩み寄る。
エグゼナゾーズ『今回の働きは見事であった。武功一番はお前の軍だ。これで晴れて盟主として即位することができるな。』
エグゼナッセは机を叩く。
エグゼナッセ『父上!これは戦果ではなく戦禍です!我々は武器も持たない無抵抗の者を虐殺したのです!!』
エグゼナゾーズ『民間人を虐殺したのは暗黒大陸連邦の空爆とプロヴィレンズの残虐な作戦計画であろう。そう報告を受けている。』
エグゼナッセの顔はエグゼナゾーズの顔に近づく。
エグゼナッセ『新興の一国と一介の指揮官の責任問題だけではありません!我々も、いや我々が主体となって行ったことだ!』
エグゼナゾーズは書類に印を押しながら口を開く。
エグゼナゾーズ『報告書にある。あれは敵兵だと鮮血大戦で初期から終戦まであの地で闘っていたカルガルトが言っているではないか。それでよい。』
エグゼナッセ『よくはありません!』
エグゼナゾーズは手を止めてエグゼナッセの方を見る。
エグゼナゾーズ『実際そうだったのだろうし、そうでなければ困るだろう。脱出艇に兵士を潜入させ各地でゲリラ戦でもやられたらそれこそ厄介であろう。お前は敵兵を誅殺した。それでよい。尤も彼らが民間人を装った兵士ではないと誰が証明できるのかね。』
エグゼナッセは眼を見開き、エグゼナゾーズを見つめる。シュヴィナ王国上級兵士が扉から入って来る。
シュヴィナ王国上級兵士『エグゼナゾーズ様及びエグゼナッセ様!各国の王侯貴族様方が首を長くして待っておられますよ。』
エグゼナゾーズは椅子から立ち上がり、扉へ向かう。項垂れてその後ろに続くエグゼナッセ。
扉が開くと華吹雪と共に歓声と拍手の喝采が行われる。エグゼナッセの傍らに付くシュヴィナ王国秘書官が笑顔で口を開く。
シュヴィナ王国秘書官『お喜びください。アレクサンドル法王及び暗黒大陸連邦タカハ大統領を始め多くの方々より祝電が届いております。』
エグゼナッセは顔を上げる。彼の細められた眼には照明に当てられ光り輝く床に突き刺さった宝剣が映える。
C6 盟主即位
C7 焼鳥…
オンディシアン教皇領。オンディシアン神殿。椅子に座る教皇アレクサンドルの前には赤い絨毯が敷かれ、その両脇に並ぶ王侯貴族達の中にいるエグゼナッセ。聖歌隊の讃美歌と共に神殿の扉が開き、赤黒い鎧を身にまとったカルガルトが現れる。カルガルトはゆっくりと足を進め、アレクサンドルの前で跪く。
アレクサンドル『カルガルト・フォン・リヒトシュターゼインよ。このたびの戦争において初年度から終戦までよくぞ闘い抜いた。貴公の武勲を評してここにオンディシアン教皇直属神将として取り立てる。』
カルガルト『ははっ!ありがたきしあわせ。』
カルガルトの戴冠式典が行われているオンディシアン神殿の2階の窓から下を眺めるエグゼナッセ。処刑場では磔にされ黒焦げになったプロヴィレンズの死体が野晒しにされ、それに向かって石を投げる多数の市民。
エグゼナッセは視線をそらし、眼を閉じてアレクサンドルから神将の月桂冠を戴冠されるカルガルトを見る。王侯貴族達の拍手喝采。エグゼナッセは眼を閉じ、片手で頭を抱える。
C7 焼鳥… END
END
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