No.382203

【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 五章:話の四

甘露さん

今北産業
・嘘
・欺
・本物と紛い物

2012-02-23 17:45:31 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4517   閲覧ユーザー数:4001

 

 

/賈駆

 

月の一言が発端で始まった大規模な粛清も漸く落ち着きを見せ、日々の政務へと主題が変化し始めた頃。

董卓陣営でも指折りの実力と月からの信頼を受ける華雄がボクの元へ一報を運んできた。

 

「文和、気になる人材が仕官しに来たぞ」

「気になる? それってどういう……て言うか後ろの娘は誰?」

 

でもボクはその知らせより、先ず華雄の連れて来た見慣れない娘に目が行った。

理由は割と単純で、華雄も大概痴女一歩手前の服装だけど、その娘も中々に露出の多い衣装を着ていたから。

へそ丸出しに加え胸を覆うのはサラシ一本だけ。その上に陣羽織を羽織っただけの簡潔な上半身に、下着がちらちらと窺える袴だけという下半身。

……何だか言葉にすると卑猥さが三割増しね。

でも華雄も後ろの娘も自分の肌が男目に晒される事に抵抗は無いのかしら?

って、そんな無駄なコト考えてる場合じゃ無かったわ。華雄の持ってきた要件とやらを聞かなくちゃ。

 

「ん、ああ。彼女の名は張遼文遠だ」

「名前じゃなくて……。まあ良いわ。その娘が面白い人材?」

「いや、面白いのは文遠のツレだ。何と言うか、ああいうのを人を食ったような性格というか、いや違うか……。とにかく会話して違和感を感じさせないんだ。まるで旧知の部下と話している様な気にさせられてな。

 あれが本性でない事は朧気に分かったのだが、ならば何が違うのかと言われれば旨く言葉に出来ない」

 

華雄が会話で違和感を感じる様な相手……、駄目ね、名士の知り合いだけでも両手足の指で足りないくらい思い浮かぶわね。

でも本性でない……ってどういう意味かしら。華雄はなんだか野生の勘みたいなものがあるし、気に留めておいて損は無いわよね。

 

「……何だか要領を得ないわね。端的にまとめてみるならばどんな感じになるの?」

「うむむ……端的に……。済まぬ文和、私では上手く言葉に出来ない」

「まあ良いわ」

 

割と武官の模範みたいな思考構造の華雄にはあまり的確な答えなんて期待してないしね。

武官は武官で戦働きさえすればそれでいいもの。華雄を信頼しているのもその点が優れている事と人柄だし。

 

「で、その人はどこに居るの? 華雄がそこまで言うのなら人を向かわせるわ」

「この部屋を出て直ぐの場所で待たせている。それで、だがな。文官志望と言う事だったし、文和に見て貰おうと思ってな」

「ボクに見て貰うって……ボクもそんなに暇じゃないのよ?」

 

一応ボクは月の右腕ってことで政務関連では一番上の人間だもの。勿論仕事も相応量あるし。

華雄はその辺を分かって……うん。無いわね。

 

「いや、先程も言ったがな。とにかく違和感が無いんだ。違和感が無い事が違和感に感じる程に。文和ならそれが何か分かると思うし、奴は能力はあるのだろうがそれが董卓様へ有益になるかは恐らく並大抵の人間では理解できないと思う。だから、頼む」

 

華雄がこんなに長い文章を言うなんて相当ね……。まあそれほど有能な人材ならボクが直接様子を見ても良いかな。

尤も、華雄の人を見る目がどうかは微妙だけれど……、まあ月への忠節は本物だし、悪い様にはならないわよね。

 

「分かったわ。貴女がそこまで言うなら見てみるわ。それと、その文遠さんはどうするの?」

「頼んだ。ん? ああ、文遠は武官志望と言う事でな、とりあえず私が様子を見る」

 

華雄が様子を見る、って……あの娘、無事で済むかしら……。

 

「……まぁ、程ほどにね?」

「勿論。さ、着いて来てくれ文遠」

「あ、はいな」

 

独特の訛りのある言葉だったわね……。并州辺りの生まれかしら。

まあ、何にせよ、無事で終わる事を祈っておこう。華雄の様子を見るは間違いなく様子を見るだけでは終わらないものね。

 

「それとあと一つ。彼は義妹を連れているが気にしないでやってくれ」

「義妹? まあ分かったわ」

 

義妹同伴て、余程妹を一人にするのが不安なのかしら。それとも妹が頑として離れないのかしら。

まぁいいわ。さして問題じゃないし。

 

「……さて」

 

愛用の筆をコトリ、と筆置きにおいた。

凝った肩をぐりぐりと解すと、幾分か仕事でたまった鬱憤が消えた気がした。

 

華雄にああまで言わせた彼は、どんな人物なのだろうか。

願わくば月の為になる人材であって欲しいけれど、知り合いの名士達の中で誰かが仕官しようとしているなんてことはこれっぽっちも耳にして無いし、精々一山いくらの人材だろう。

まあ、気分転換をする良い機会になったと思っておくことにしよう。

アタリなら儲けもの、外れならまぁ、順当な結果だと思えば何も痛くないしね。

 

等と考えながら華雄の行った場所へ向かっていると、一組の男女の話し声が聞こえてきた。

 

『……見劣りしない程度に取りたてて貰わんとなぁ』

『ふむ、お兄さんは此処を足がかりに県令さんにでもなるお積りですか?』

 

片方は如何にも普通な青年と言った感じで、片方は幼さの残る女の子だろうか?

それにしても舐められたものね。それとも大した野心家だと思えばいいのかしら。県令への足がかりなんて。

でも目標が県令程度なら、その人物のタカも知れたものだわ。適度な野心で逆に御し易いかもしれないわね。

華雄の判断はある意味当りだったかしら?

 

そんな事を思っていた私の思考は、続いた言葉で吹き飛ばされた。

 

 

「……俺が目指すのは“軍師”ってとこかな」

 

 

軍師。古より王者を支え、そして戦場を智謀で我物の如く支配した人物へ与えられる称号。

一騎当千の武将と同等、いや、ある意味ではそれ以上に名を残す戦の華。

 

だけど、大事なのはそこじゃない。

彼が今この世で軍師を志す、そう言ったこと。それがボクの心を一手してに捕えた。

 

軍師が活躍しそして史実に華を添え名を残す場面が訪れることは、つまり世が相応に乱れ戦乱の幕が開いているということだ。

古の項羽と劉邦の代にそれぞれ智を奮った張良や陳平。光武帝の元才と武を奮った馬援。彼等が名を残した時、天下は総じて乱れていた。

仮に、彼が大多数の人間と同じように天下が乱れていない、と思っているのならばただ為政者として仕え名臣として名を残せばよい。

 

しかし、彼は軍師と明言した。

それはつまり、彼は感じとっているのだ。

 

──乱世が訪れる、ということを。

 

ボクの所属する涼州の名士団の中で、ボクは彼と同じ発想に至り、それを公言し、そして糾弾された。

ならば、とボクは説を他州へと名士どうしの情報網を通じ発信した。

結果、形はどうあれ同意を示したのはたった4人だけだった。

 

遥か南方の周公瑾殿、中央の荀文若殿、郭奉孝殿、荊州の司馬徳操殿。

 

そして、五人目が、今、ボクの前に居る。

彼は月を主と仰ごうと、ボクと同じ主に仕えようとしている。

 

その事実はやがて歓喜となって、ボクの全身を駆け廻った。

この広大な漢の世で五人しか理解し得なかった事を感じ取った、正しく天才かもしれない人物が居るのだから。

 

……いや、まだ喜ぶのは早い。

まだ彼が本物だと決まった訳じゃない。

それに、仮に本物だとして彼が天から才を賜ったからと言って、その人物像までが月に害を成さないとは言えないのだ。

落ち着くのよボク。彼が天才である程、ボクは彼を正しく見抜かなくてはならない。そして、もし彼が月に害を成す人物ならば……この場で消すしかない。

その才は惜しいが、一人の天才と月ならば確実に後者の方へ天秤が傾く。

 

そうしてボクは、震えそうになる声をぐっと抑え、彼へ声をかけた。

 

「へぇ、その“軍師”って言葉を出した真意、ボクに聞かせて貰える?」

 

見極めさせて貰うわ。貴方と言う人物を。

 

 

**

 

/一刀

 

 

はてさて、威勢良く内心で啖呵を切ったは良いが……何故俺はこんなにも熱っぽい目で見られているのだろうか。

はっ……! もしやニコポナデポ系主人公の才能が俺にも……!? 

いや、無いな。大体そんなん持ってたら俺の人生の難易度もう少し低い筈だし。

最近は割とイージーモードだけど序盤は何て言うか、無理ゲー状態だったし、もう一回生き残れって言われたら絶対死ねる自信があるし。

……では何がこの名前も知らないボクっ娘眼鏡に熱いまなざしを向けられる原因だろうか。

 

良く自分の発した台詞を吟味しよう。

恐らくはその中に何かしらのヒントが……というか軍師ってワードがヒントなんだろうな。

ならば、何故彼女は軍師と言う単語にそこまでの熱意を示したのか。

連想ゲームの開始だ。この恐らく偉いのであろうボクっ娘眼鏡が軍師と言う一語から何を想像しどう展開したのか。

それを理解することで俺が彼女へ付け入る足がかりを得られる。

 

先ず軍師という物そのものを考えてみよう。

軍師とは主に仕え才を奮い戦場に置いての戦局を云々。

作戦の立案とそれに伴う物資の総量から価格から何から何まで予想してシュミレートして決行して戦を勝利へ導いて云々。

非戦闘時には内政とかも頑張っちゃって云々。

 

まあ大体こんなところだろう。はてさてこの中に彼女が反応を示す要素が……まあある訳が無いわな。

逆にこんな事に反応してたら一刻も早くここから逃げるべきだ。そこらの盗賊や俺でももう少しマシな支配が出来るだろう。

では次に繋がるのは、軍師という言葉の意味から何を連想できるかだ。

 

先に述べた様に、基本的に軍師と言えば戦場の花形だ。というか戦場あっての軍師だ。まさに水魚の交わり。

しかし……だからなんだろう?

軍師=戦場が成り立って、それがどう喜びに繋がるのだろうか。

 

むむむ。よし、詰まったから次のパターンを考えよう。

軍師と言えば、つまり賢いというイメージがある。勿論頭が良いとか勉強が出来るだけの賢さじゃない。

それはともかくとして、逆に言えば軍師の称号を得るには相応の知力が必要になると言う事だ。

……ん、これが答えに近い気がしてきたぞ。

 

奢り昂る事は宜しく無いとされるこの社会風習の中で、軍師を目指すと自称すると言う事はつまりそれ相応の能力か信念があると言う事ではないだろうか。

そこにこの彼女は期待して……いや。途中までは妥当というかばっちりな感があったが、どうもそれだけじゃこのボクっ娘眼鏡を熱中させるには足らない気がするぞ。

それともこの陣営は致命的なまでに人材不足なのだろうか?

いや……その線は無いな。大体人材不足な大規模な粛清なんて断行出来ないし。

 

……むむむ、少しばかりヒントが少ないな。上手く情報を引き出さねば。

 

「はて、真意、とはどの様な意味合いで、でしょうか?」

 

定番の反応としてとぼけてみせる。適度なさじ加減で悪ふざけを楽しむ様な声色を乗せるのも忘れない。

こうすることで相手は判別が付かなくなる。果たしてコイツはどんな意図を持ち尋ねかえしたのか、と。

 

「……もちろん、軍師という言葉が出た理由よ!」

 

どうやらボクっ娘眼鏡は遊びには乗ってくれない様だ。

ぴしゃりと手短に答えると、むんすと口を紡ぎ完全に聞きの姿勢に回ってしまった。

しかし理由、と来たか。単純に考えれば『何故、軍師なんて言葉を使ったのか』と言う事になるが……。

案外それで合っているのかもしれんな。

尤も、それじゃあ最初の『真意は?』という質問と得られた情報は何も変わって無いか。

もう少し何とかヒントを手に入れたい。適切な回答を紡ぎ出す必要が俺にはあるんだ。

 

「理由、ですか……そうですね。敢て申すのならば……必要とされるだろうから、でしょうか」

 

霞と共に生きる上で、とは付けない。

そう、敢て主語を指定しなかったのだ。こうすることでこの言葉はどんな風にも解釈出来てしまう。

相手が余程焦っているのならばそれで話はお終いだが……。さて、ぽろっと何か漏らしてくれないかな。

 

「誤魔化さないで! はっきり述べなさい! 何故、アンタは今の世で軍師と言う言葉を出したの!?」

 

ビンゴだ。今の世で軍師という言葉を。最高のヒントをありがとう。

今の世ってのは、恐らくこの漢が統治をしている世界の事だろう。

 

漢の世で軍師と言う言葉が出る意味……。漢の統治下で軍師と言う軍権を奮う人物の固有名詞が出る訳……。

そもそも漢の統治下と言う言葉の意味はなんだ? 確立された治安か? 軍権が中央に集権されている事か?

どれもギリギリボールな感が否めないな……。もっと為政者の側で、広域を見る目で漢を考えてみよう。

漢とは、中華の統治者、劉氏性の者が治める天下。違う、何かもっと根本的な問題がボクっ娘眼鏡には見えている筈だ。

根本的……、根本的な俺と彼女の相違……それは言うまでもなく未来を知っているか否かで……っ!?

 

……成程。此処で先程の軍師の意味と繋がった訳だ。

 

恐らく彼女の質問の真意はこうだ。

『天下は未だ太平の世である。しかし何故アンタは太平の世で必要のない軍師と言う言葉を出したのか』だ。

成程、答えが見えにくい訳だ。

 

俺は知識として既に数年以内に大規模な乱とそれに伴う戦乱を知っているからこ軍師の言葉が出た。

しかし彼女は不穏な空気と天下の流れを感じ取ったが故に軍師という発想が出た。

 

成程、乱を予兆しているってことか。

 

は、はは……つまり、目の前のボクっ娘眼鏡は本物の天才ってことだな。

 

俺はあくまで知ってるが故の盲点となりがちな他人との異差(と言っても例が己しかないので他の場合は分からないが)に気付けたから彼女の言葉の意味を理解できただけであって、そんな天下の流れとか大層なモノを感じ取った訳じゃない。

紛いもの、張りぼて、うそで塗り固められた。そんな言葉が浮かんではぐるぐると俺の中を回る。

 

……尤も、そんな差はこの場に置いて、それだけに限ればだからどうしたと鼻で笑って済ませられる程度の差だ。

この場合に大事なのは乱の予兆に気付いている事。四百年の大樹が今まさに腐り倒れようとしている、と言う事を認めている事だ。

さて……。

 

「そんなの、決まっているじゃないですか。 ……聞こえるんですよ。みし、みし、と。大樹が腐って、今にも折れそうな音が。

 ──勿論、漢と言う、大きな大きな大樹が」

「っ!?」

 

なけなしの勇気がしぼみかけるのと、圧倒的な差にどうしようもない絶望を感じる。

だけど、ヘマはしない。ヘマをすることは許されない。俺自身がそれを許せない。俺と言う存在を形成してきなちっぽけなプライドが、それだけは譲れないと大声でわめいている。

 

今の俺に大切なのは、その天才を演じきること。

ただそれだけだ。

 


 
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