No.381338

【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 五章:話の三

甘露さん

今北産業
・お芝居
・話術
・口から出まかせ

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2012-02-21 18:24:06 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4901   閲覧ユーザー数:4260

 

仕官を決めた次の日。

俺と霞と風は街で見かけた求人の立て札に従い、城門近くの詰め所まで足を運んだ。

 

「はぁ? 仕官してきた、って、お前等何か推挙状とかあんのか?」

「無いですよ。ですが街で新官吏募集の要項とかが立て札であったじゃないですか」

 

扉を叩き、士官の旨を伝えた俺達を出迎えたのは三十代に届くか届かないか程度の青年だった。

俺の返答を聞き、そして俺、霞、風を順番に見つめると、その青年兵は露骨な嘲笑を浮かべた。

どうやら彼のお目がねには叶わなかったようだ。

 

「ハッ。あれは即戦力を求めてるだけであって、アンタらみたいなガキの遠足ついでに来るような連中は募集してないんだよ」

「なんやと、誰がガキやて?」

 

元服を過ぎている俺達に子供扱いをした所為か、霞の口調は若干の喧嘩腰になっていた。

それを慌てて諫めるも、既に遅く。向こうの兵士は待ってましたと言わんばかりに罵詈雑言を吐き出し始めた。

 

「お前等だよ。アンタらの青臭い臭いとそこのチビのションベン臭いのがこっちまでぷんぷんしてらあ。

 董卓様や賈駆様が若いからってお前等を雇い入れる必要は何一つねーんだよ」

 

対応している兵士がそう言うと、詰所の中に居た十数人がどっと笑い声を上げた。

 

「手前ッ! 許さんで、ブッ殺したる!!」

「なんだよ、やるのか? けっ、女のガキに負ける程ヤワな鍛え方はしてねえぞ」

 

霞が勢いに任せ抜刀し、向こうもそれに合わせ剣を抜いた。

 

「落ち着け文遠!!」

「せやかて、向こうがウチらの事馬鹿にしたんやで!?」

「落ち着け、文遠。三度は言わんぞ」

「……っ、分かった」

 

不平不承ではあるが、霞をなんとか止める事には成功した。

此処で流血沙汰になってしまえば、確実に霞は罪人か賞金首になってしまうからな。

 

「へっ、なんだよ。怖気づいたのかよ」

「ええ。そうですね」

 

敢て下手に出る。ここで向こうから此方を拒絶させる言い分を作ってしまうのは得策とは言い難い。

 

「ならサッサと帰りやがれ。二度と来るんじゃねえぞ」

「そうですね。是非そうさせて貰いたい所ですが、如何せん、私達には稼ぎが必要でして」

「はあ? お前の都合なんぞ俺が知るかよ」

「知ってもらわなくても結構です。貴方の様な末端ではなく、もう少し上の人間にお話がありまして」

 

だが相手を調子づかせる必要は無い。たった一言だけ、もうひとつ、言質を取ればいい。

 

「だからよぉ、お前等みたいなガキはお呼びじゃねえって言ってんだろうが!」

「ふむ、ならば相応の、ガキでは無いという実力を見せればよい。という事ですね」

「けっ、粋がるなよ儒子が!」

 

青年の表情に、侮蔑の中に小さな怒りが生まれた。

正規軍故のプライドか、はたまた言葉通り子供に舐められていることへの怒りか。

 

「そう言われましても、貴方達程度なら私でも如何にか出来てしまうでしょうし、彼女なら数瞬で斬り伏せる事も可能かと」

「んだとコラ! 言わせておけばっ!」

 

待ってましたその一言、その行動。殺気立った連中は一斉に抜刀すると、俺たちに向かって斬りかかって来た。

これだから官は嫌いなんだ。無礼討ちだかなんだか知らないけど、殺す事を簡単に容認してやがるから。

 

目の前の青年も剣を抜き、確実に俺を殺せるであろう剣速で刃を突き立てて来た。

瞬間、霞と一瞬の目配せを交わすと、俺は目の前の青年に、霞は詰所の中に居た十数人へ飛び掛かった。

 

「では……遠慮なくっ」

「ぬあっ!?」

 

言うが早いか、俺は青年の足をすくい地面に倒すと喉元に刃を突き立てた。

 

「貴方は、これで死にました。文遠、そっちはどう?」

「ん、終わったで」

 

どたん、がしゃんと派手な音を立てながら、霞は詰所の中で大暴れしたようだ。

机はひっくり返り、陶器は割れて粉々に。そして十数人もの兵士は皆地に伏していた。

 

「殺してないよな?」

「勿論、峰打ちや。にしても雑魚ばっかやなぁ」

「さて。これでも貴方は、私達をカギだと一蹴し仕官を希望することさえ許されないのでしょうか? まあ、あくまでもそう主張するなら構いませんが。詰め所を破壊され、その詳細を説明してみれば大の大人十数人に大立ち回りをした小娘を取り逃がした貴方の首が無くなる程度でしょうし」

「わ、分かった。降参だ。拘束を解いてくれ、そうすれば華雄将軍を呼びに……」

「その必要は無い」

「か、華雄将軍!?」

 

まるで狙った様なタイミングで、霞ともタメを貼れるレベルの露出の多い衣装を着こんだ人物が現れた。

成程、あれが華雄将軍か。将軍が付くということは、それなりの官位を持っている人物なのだろう。

 

「貴様等、何と言う頽落だ! それでも北方最強の呼び声高い董卓様配下の兵士かっ!!」

「しかし将軍っ!」

「相手の実力も見極められず、挙句戦士を侮り完敗した。貴様等に弁解の余地など無いわっ!」

 

どうやら余程沸点が低いと見えた。そしてプライドが高い。優れた主に仕えているという自負ゆえか。

いや、どちらかと言えば己の武に絶対の自信を持っているゆえだな。

だからこそ、己の配下に多面的な意味での弱卒など要らない、居てはならない。そんなところだろう。

 

「あの、華雄将軍」

「ん? おお、貴様等には私の兵が迷惑をかけた。それで、何故此処に来たのだ?」

「はい。私共は街で立て札を見て、董卓様のその潔白な志に感銘を受け仕官しに来た者です」

「なんと。それはよく来てくれた。我が主董卓様を始めとした皆々は有能な人材を求めているからな。

 しかし、何があればこうまで派手に暴れられるのだ?」

 

どうやら俺と霞が大立ち回りをしている辺りから知っているようだ。

主を褒められ機嫌を良くした華雄は、機嫌の良いまま詰所の惨状を見つめ訳を問いただしてきた。

妙にミスマッチな台詞と表情だ。

 

「御褒めに預り光栄です。それで、此処に来たまでは良かったのですが、

 彼等は我々を子供と罵倒し、挙句抜刀の後斬り伏せようとされた故、自衛のため抵抗した次第です」

「なんだと……っ! 貴様等ァ!! 恥を知れ、切り捨ててくれるわ!」

 

仕官してきた敬愛する主の志に感銘を受け、且つ才能に溢れる青年を、己の部下が罵倒し、挙句切り捨てようとした。

華雄の中ではそんな展開が浮かんでいるのだろう。そして、その物語の中での悪役が己の部下と言うのが許せないのだろう。

人の背丈ほどもある巨大な斧を構えると、怯える兵士を叩き潰そうと両手を上げた。

さて、心象をより良くするためにもう一芝居打つかね。

 

「お、お待ちください華雄将軍!」

「なんだ!!」

「彼等を切り捨てるのはどうかご勘弁を!」

「なんだと? 貴様等はこ奴らに侮蔑されたのであろう。何故庇う」

 

俺も全くの同意見だ。こんなに沸点が低く始めから喧嘩腰の人間を仕官受付に置くとかどう考えても間抜け過ぎる判断だ。

こんな馬鹿がいつまでも此処に居る様じゃ董卓の陣営にゃ若い人材なんて絶対入らないだろう。

だけど、そんなことは決して口に出さない。早速将軍位の人間に出会えて、且つ心象がよろしいと来たんだ。

ここでさらにコネクションを強化しないでいつするのかと。

 

「彼等は職務に誠実であっただけで御座います。考えても見てくだされ、戦や政に携わる人間が子供であった時に起こり得る不具合を」

「む、むぅ……確かにそうであるが……」

 

意外にも納得するのが早かった。沸点が低い代わりに、冷静に戻るのも早いのだろうか。

そうすると、この人は実は優秀な戦場指揮官なのかもしれん。

 

「粋がりたい儒子が無理を通し仕官しようとした際に、彼等が此処で阻むことで多数の人間を無駄に動かさずに済むのです。

 彼等が我々を子供と侮ったことは事実でありますが、ですがそれは私情故では無く職務に誠実であった故。

 それほどに勤勉な人間をここで一刀の元切り捨てる。その行為が産む損失は、果たして小さな物と言えるでしょうか? 否。華雄将軍ならばご理解頂けるでしょう」

「なるほど……よかろう。貴様の心意気、十分に伝わった」

「聡明なご決断、痛み入ります」

 

どうやらこの将軍、熱血系でも阿呆でも無いらしい。筋は通しつつ、だが理解力の無い人間相手ならば言葉で趣旨を煙に巻ける程度には難しく。

そんな話術を展開したつもりだったが、しっかりと要点を押さえ理解したようだった。

華雄なんて人物を俺は知らないが、実は三国志でもそこそこ活躍していたのではないだろうか。

攻勢に出る際は先頭に立ち味方を鼓舞し、引く時は冷静に引ける。指揮官の行動がイコールで現場の士気に直結するこの時代の戦闘なら、実に活躍出来るだろう。

 

「貴様等、今回の失態は見なかったこととする。今後はより一層調練と職務に励むように」

「御意! 御慈悲、感謝いたします」

「それを私に言うのは筋違いだ。感謝をするのならば……えと」

 

ちらり、と将軍が此方を窺う。成程、空気の読めるところもしっかりと主張する良い機会だ。

 

「申し遅れました。私、高順、高北郷と申します。そして彼女が張遼、張文遠です」

「そう、礼を述べるのならば北郷に述べよ」

「っ……済まなかった。感謝する」

「いえ。先輩方ばかりに非がある訳でもございません。

 私からも、若輩の身で調子づいた言動、申し訳ありませんでした」

 

この阿呆共に逆恨みされてもたまらないからな。

ちゃんとフォローと謙虚さのアピールも忘れない。

 

「いや……こちらこそだ」

「ふむ、和解出来た様だな。では行こう、二人ともそれなり以上の実力がある様だし、着いて来てくれ」

「御意」

 

掴みは十分。さて、もう少し頑張ってステキな労働環境、ゲットしちゃいますかね。

しかし霞よ、いくら俺の言動と態度がいつもとかけ離れているからって、その信じられない物を見る表情はどうなのさ。

風もだ。面白がってんじゃねー。他誰も気付いてないから良いけど、こちとらとんだ羞恥プレイを現在進行形なんだぞ。

 

**

 

 

「……ところで、二人とも武官志望、と言う事で良いのだな?」

「あ、いえ」

 

城門をくぐり、中庭らしき場所を本城に向かい歩いていると、華雄将軍が振り返り尋ねて来た。

後ろを向いたまま歩くとは器用な人だ。

等と関係の無い事を考えながら俺が短く答えると、補足するように霞が言った。

 

「ウチは武官やけど、北郷は文官志望や、です」

「そうなのか? しかし身のこなしは素人では無かったが」

 

どうやらあの一連の動作の事を言っているようだ。

確かにああ言った動作は慣れたものだけども、一騎当千を地で行くこの時代には不向きだと思う。

と、目上の人物に直接そう言う訳にも行かず軽くオブラートに包み口を開く。

 

「御褒めに預り光栄至極では御座いますが、アレはあくまでも昔取った杵柄といいますか、精々自衛止まりの技能です」

「ふーむ、まあ貴様のあの技能は部隊指揮官には向いてはいないか」

「この不肖の身、多くの人々を鼓舞する才は持ち合わせておりませぬ故」

「はっはっは、貴様ならば口で誰も彼も言い包めて指揮できそうだがな。それに比べ文遠は軍を率いる人物と為るべくして生まれた様な人材だな。存在感も武力も、この短い間だけでひしひしと伝わって来る。これで指揮力も備わって居れば、董卓様にとってもとんだ拾い物だろう」

「あ、えっと、ありがとございます?」

 

霞が不慣れな敬語をしどろもどろに使いつつ揖礼をした。

ぎこちない動作に華雄将軍の頬も何となく微笑ましい物を見る感じに緩くなった。

……とても声に出し聞く気にはなれないがこの人って一体何歳くらいなのだろうか。

三十代と見るには若すぎるが、二十代と見るには纏う雰囲気の重厚さが違う。

うむむ、自主的にサバを読むとして二十二歳辺りと見つくろっておこう。若く見られ怒る女性は居ないし。うん。

 

「……と、さて。この中に主である董卓様が居られる。が、目通り叶うのは正規に仕官が決定してからだ。

 北郷は此処で待っていてくれ。文遠は私に付いて来て、と、その子どもは……」

 

ちら、と華雄将軍は風の事を見た。

そう言えば今まで何一つ咎められなかったから此方も気にしなかったが、風が此処に居るのって果たしてどうなのだろうか?

 

「彼女は私の義妹でして、宿に一人置いておく訳にも行かず連れて来た次第です」

「いや、それは別段構わぬ。寧ろ家族の面倒をしかと見る貴様の心意気には感心するほどだが、その」

「問題さえなければ私と一緒に連れておきたいと思うのですが、どうでしょうか?」

 

テンプレートな言い訳をすると、何故か存外高評価を貰った。

良く分からないが向こうがそれでも良しとする姿勢を見せているのならば是非乗っからせてもらおう。

 

「むむ……まあ、いいだろう。担当者には私が話を付けておく故、気にせず待っていてくれ」

「御意。御心遣い感謝いたします」

「うむ。ではまた後ほど。次に会う時は、願わくば同じ主を仰がん事を」

 

将軍の揖礼に、俺も揖礼で返す。

霞とは一瞬視線を交わした後、きびきびとした歩調で将軍に続いてゆく後姿を見送った。

そうして丁度霞と将軍の姿が見えなくなった時、今まで人形の様に押し黙り表情一つ変えて見せなかった風が小さく声を上げた。

 

「お兄さんも大概役者さんですねぇ」

「役者じゃ無くて処世術とでも言ってくれ」

「くふふ、ちゃんと華雄将軍には気に入られたみたいですし、第一段階はばっちり、と言ったところでしょうか」

「まだ気ぃは抜けねーけどな。このあと何が起こるか皆目見当が付かんが、霞は間違いなく立派な地位貰ってくるだろうから、せめて見劣りしない程度に取りたてて貰わんとなぁ」

「ふむ、お兄さんは此処を足がかりに県令さんにでもなるお積りですか?」

 

成程、そう来たか。風の発言に思わずうむむと唸ってしまう。

俺としては霞のサポートと立場を兼ねる意味合いでの回答は一つしかなかったが……成程、それもありかもしれん。

尤も、ぽっと出のどこの誰ともしれんガキにそんな都合の良いポストが空席で残っているとは思えんからなぁ。

俺の答えはこうだ。

 

「……俺が目指すのは“軍師”ってとこかな」

「へぇ、その“軍師”って言葉を出した真意、ボクに聞かせて貰える?」

 

声のした方へ振り返ると、おさげと眼鏡が特徴的な女の子が居た。

なんだこの娘。先程の華雄の登場と言い、この僕っ娘眼鏡と言い、まるで物語の登場人物みたいに芝居がかったタイミングと台詞。

董卓配下の人間は皆役者でも志してんのかねぇ。まあそんな事はどうでもいいや。

 

どうやら偉いさんらしいこの人に、口から出まかせ嘘八百でも売り込もうかね。

 


 
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