No.373091

天人型神姫比那名居天子

実を言うと、武装神姫が好きです。なので今回は武装神姫で書いてみようと思いました。とはいえ、天子も好きなのでこちらも何か書きたい。なら一緒にしちまえ、天子かわいいし。かわいいは正義。ということで天子を神姫化してみました。気分的には手乗り天子なのかな。あと、ここで出てくる天子の性格設定は自分なりに天子の性格を分析したものを使ってます。「俺の考えてるのと違う」という可能性もありますが、ご容赦ください。【2/11】えー、風邪引きましたーorz。今回は長引いてしまいそうなので、またしばらく投稿休もうかと思います。

2012-02-04 23:13:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:779   閲覧ユーザー数:772

大崎正人は少々、いや、非常に後悔していた。

武装神姫。それは全長15㎝ほどの美少女フィギュアロボットに「心」と「感情」を持たせたものである。世間ではこれに各種武装を着け、ゲームセンターにてバトルを行ったり、神姫とのコミュニケーションや衣装の着せ替えで楽しむ人々がいる。

大崎も最近、そういったものに興味を持ち出したのだった。

生まれてから20年以上経つが未だに恋人はおらず、浮ついた話の1つもない。その心の隙間を埋めてくれる存在があるなら……。

そう思って、アルバイトで貯めた貯金の大半を費やし、「新商品」と謳われたこの神姫を買ったのだ。

だが……。

「欲望は人の本質なれど、振り回されれば獣と同じ。物欲に負けてちゃんと制御しないからこういう目に会うのよ。わかる?マスター」

 緋色の剣を教鞭のように振り回しながら、青い神姫「天人型比那名居天子」はテーブルの上を歩く。

TOHOプロジェクトによって開発されたこの神姫は、性格設定をかなり自分勝手でワガママなものにした、いわゆる「上級者」向けのセッティングがなされている。

本来なら初めて神姫に手を出す彼にとって、荷が重過ぎる性格と言えよう。しかし、彼はあろうことか「新商品」という言葉だけで天子の購入を決めてしまったのだ。

開封し、マスター登録をした以上、返品など出来るはずもない。大崎は現状、天子の話をため息混じりに聞く以外になすすべを失っていた。

「わかってるよ。わかってるから黙っててくれ」

 顔を覆い、うなだれる大崎。それを呆れた表情で見やった後、天子は薄い胸を張り、マスターである大崎を睨みつけた。

「わかってないわよ。わたしに黙れだなんてよく言えるわね。その根性から叩き直さないといけないかしら」

 天子は、一見バールのように見える緋色の剣をかざす。そして、乗っていたテーブルから飛び立つと、大崎の膝めがけて振り降ろした。

「そぉい!」

「あだっ!?」

 所詮全長15cm程の人形が使う物とは言え、その形状は鋭く尖っている。それの直撃を受ければ、当然痛みも一塩である。

「なにするんだ!」

 膝をさすりながら怒鳴る大崎に、天子は涼しい顔をして応えた。

「隙だらけなのが悪いんでしょ。わたしのマスターならしゃんとしなさい」

「しゃんと、て……はぁ」

 思わず、ため息が漏れる。

 なんで人形相手にこんな扱いをされなければならないのか。

 彼は単に、独り身の寂しさを紛らわすために神姫に手を出したにすぎない。決してこのように罵倒をされたいわけではないのだ。

 彼のアルバイト先に勤める、品川という先輩も神姫を持っている。むしろ、その先輩と神姫ののろけ話を聞いて、神姫に興味を持ったのだ。

聞いた話とずいぶん食い違いがある。こんなのは、彼の欲するところではない。

 大崎は刺された膝をさすりながら無言で立ち上がると、天子の存在を無視するように布団を敷き始めた。

「きゃあ!?」

 危うく天子は布団に押しつぶされそうになるが、急いで身をかわすと、再び大崎を睨みつけた。

「ちょっと、危ないじゃない。なにするのよ」

「隙があるほうが悪いんだろ。俺は寝る」

「なんでよ。まだ起動したばかりじゃない。まだわたしはもの足りてないわよ」

「おまえのセットアップにどれだけ時間かかったと思ってるんだ。見ろ」

そう言って時計を指さす。時刻はとうに夜中の1時を過ぎていた。

「その上でおまえみたいなのと付き合ってられるか。わかったらおまえもさっさとクレイドルに戻れ」

「いや」

「はあ?」

 天子の思いがけない拒否に、大崎は声を一段と荒げた。

「わたしはまだ遊び足りないの。もっと楽しませてちょうだい」

「なに言ってるんだ。マスターがもう寝るっていってるんだぞ」

「マスターならわたしを満足させるくらいしなさいよ」

 これではどちらがマスターかわかったものではない。いい加減に苛立ちを覚えてきた大崎は、天子を無理矢理に掴み上げると、クレイドルへと乱暴に押しつけた。

「ちょ、痛……」

「いい加減にしないと明日売り飛ばすぞ」

 そう言って大崎は電気を消した。かすかに「え……」という声が聞こえた気がしたが、もう彼にはそれを気にする余裕はなかった。

暗闇に包まれた部屋は瞬時に賑やかさをなくし、静寂と眠りの世界へと落ちていった。

 

                              †

 

 夜明けと共に携帯電話が鳴り響いた。

昨夜のこともあり、微睡みから突然に叩き起こされ、大崎は乱暴に電話を取り上げた。

「はい、もしもし?」

『ああ大崎?品川だけど』

 電話の主はアルバイト先の先輩である、品川であった。寝ぼけた頭を掻きながら、大崎は電話へと集中した。

「品川先輩?なんだってこんな時間に……」

『いや、すまんな。おまえが神姫を買うみたいだ、てさっき五反田から聞いてな。いても立ってもいられなくなって電話しちまった』

「はあ……」

『で、買ったの?』

「買いましたよ。一応」

『一応……?なんか歯切れ悪いな。何買ったん』

「ええと、天人型……」

『天人型って、おま、まさかてんこ買ったのか』

「てん……?そうですけど」

『なんでよりにもよってそんな扱いにくい……俺みたいにアーンヴァルにしておけばよかったものを』

 品川の嘆く気配が伝わる。それは昨晩大崎も実感したばかりのものであった。

『まあ、なにはともあれ彼女がおまえの最初の神姫なんだ。大事に扱ってやれよ』

「ははは……」

 思わず苦笑いがこぼれる。昨晩の天子へしたことは到底「大事」とは思えない行為であった。

 ふと、天子のいるはずのクレイドルを見る。昨晩の騒々しさはなりを潜め、ただの人形であるかの様に眠っていた。

ーー黙っていれば、かわいいものなんだけどなーー

『そういえば天人型比那名居天子の性格設定って知ってるよな』

「ええ。それはイヤと言うほど」

『じゃあちゃんと構ってやれよ。あの子かまってちゃんだから、構ってやらないと問題起こしてまで構ってもらおうとするからな』

「え、そうなんですか?」

『そうなんですかって……知らなかったのか?』

「ワガママで自分勝手なのは実感しましたけど、それは初めて聞きました」

『おいおい。外箱の説明書きにも書いてあるだろ、強気の態度は「構ってほしい」という気持ちの裏返しだって』

「え?」

 あわててゴミ箱に入れた外箱を取り出してみる。そこには「天人型比那名居天子の性格は非常にワガママで自分勝手ですが、それは「構ってほしい」という感情の裏返しでもあります。構って欲しくて時折突拍子もない行動を起こすこともありますが、根気強く付き合っていくことが必要です」と書いてあった。

『説明書や外箱ぐらいちゃんと見とけよ。そんなんだから店長から軽率だって言われるんだぜ』

「いや……それは」

 反論しようとして、言葉に詰まる。今回はそのせいで扱いの難しい天子を買ってしまい、昨夜から苛立たしい思いをしているのだ。

『彼女達もフィギュアロボットとはいえ、「心」と「感情」を持ってるんだ。ちゃんとそれに合わせて扱ってやらないと可哀想だろ。その点は現実の女の子と何も変わらないぜ』

「……」

 大崎は何も言えなかった。

所詮ただの人形ごっこの延長線としか考えていなかった彼にとって、天子のことなどこれっぽっちも考えに入れていなかったのだ。

潰された箱の表面に、要石に座る天子のイラストが描かれている。そのイラストの天子は、ただ意味もなく大崎を見上げているだけであった。

『ま、そういうわけだから、ちゃんと構ってやれよ。ちなみに素体は頑丈に作ってあるみたいだから、多少乱暴にしても大丈夫らしいぜ。むしろ痛いぐらいがいいらしいとか。じゃ、あとはまたバイトで会ったときに話そうか。わからないことがあればいくらでも聞くから、今度ライドバトルしようぜ。じゃなー』

 そう言うなり、品川は電話を切った。

大崎は携帯をテーブルに置く。すると手元から「マスター」と小さな声が聞こえた。

いつの間に目覚めたのか、天子はクレイドルから起動していた。しかし、その顔には昨夜見られたような勝気な様子は見られなかった。

「どうした、天子」

「ん……」

 いい辛そうにもじもじとしている天子だったが、やがて意を決したように大崎を見上げた。

「わたし、売られちゃうの?」

「え?」

 きょとん、とする大崎であったが、ふと昨日の言葉を思い出した。

 ――いい加減にしないと、明日売り飛ばすぞ――

大崎にとっては思わず放った言葉であったが、天子にはかなり堪えたらしい。両手で服の裾を握りながら、泣きそうな顔でじっと大崎を見つめている。

――彼女達もフィギュアロボットとはいえ、「心」と「感情」を持ってるんだ――

「なあ、天子」

「なによ?」

「今日、バイト午後からなんだよ」

「……はぁ?」

 予想外の言葉に、天子は一瞬意味を図りかね、目を丸くして素っ頓狂な声をあげる。そんな天子を無視するように、大崎は言葉を続けた。

「だから、今日は午前中空いてるんだよ。で、今電話でバイト先の先輩からライドバトルの誘いが来た。だから……」

 言葉を区切ると、大崎は天子の目線に合わせる。それは自らと相手を対等にして話すものであった。

「一緒にゲーセン言って、ライドバトルの特訓やろう。どうせロクに装備も整ってないんだ。これからも付き合ってもらうぜ」

「……!?」

 驚きのあまり声も出ない天子だったか、やがて「うん!」大きく肯いた。そして、昨夜のように偉そうな顔をして、緋色の剣で大崎のことを指し示す。

その表情には、すこしも憂いはなかった。

「じゃあ、せいぜいわたしを楽しませなさい。あなたはわたしのマスターなんだから」

 


 
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