No.367977

天馬†行空 閑話 拠点の一 雲南(とその他)

赤糸さん

 真・恋姫†無双の二次創作小説です。
 処女作です。のんびり投稿していきたいと思います。

※主人公は一刀ですが、オリキャラが多めに出ます。
 また、ストーリー展開も独自のものとなっております。

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2012-01-24 23:27:17 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6327   閲覧ユーザー数:4953

 

 

 

風切羽(かざきりばね)、二枚】

 

 

 

「うわあ……改めて見ると張任さんの一撃の凄まじさが分かるなあ……」

 

「ん? 一刀か。何を見て……む」

 

 朝方からお昼まで街で土木工事(城郭補修&住居建設)をこなして城に帰還。

 昼食を摂った後に城の中庭で張任さんの斬撃を受け止めた木刀(鉄芯が露出している状態)を見ていると、後ろから星に声を掛けられた。

 

「……鉄芯が曲がっているな」

 

「うん、実はよく見るとこの辺りにヒビも入ってるんだよね」

 

「ほう、よく折れなかったものだ」

 

 いや、本当に。中の鉄芯がもう少し細かったらと思うと……うわ、鳥肌立った。

 

「う~ん、これはもう駄目かな」

 

「流石にこの状態ではな、代わりの物を……」

 

 木刀を眺めていた星が何かを思いついた風に口元に手をやり、

 

「ふむ、少し待っていろ。代わりになるかは分からんが、私に心当たりがある」

 

 すたすたと(俺達がそれぞれ使わせて貰っている)部屋の方に向かって歩いていった。

 ……?

 

 

 

「待たせたな一刀、これなのだが」

 

 しばらくして戻ってきた星はそう言って刃の部分を布で巻かれた一振りの刀を取り出した。

 反対の手には同じ刀をもう一本持ってるけど……。

 ふむ、反りの無い直刀で(つか)の部分に鉄の輪っかが付いた……ん? あっ!

 

「星、これってまさか!?」

 

「うむ、張任が使っていた物だ。中々にしっかりした造りだったから持ち帰ったのだが……私は二刀同時に扱うことはないからな」

 

 渡されたそれの長さは大体一メートル位、重さは鉄芯入りの木刀より僅かに軽い程度。

 星に断ってちょっと素振りをしてみる。う~ん……

 

「分かってたけど、両手で持つには(つか)がしっくりこないかな」

 

「まあそうだろうな……とは言え強度は十分だ、持っておくといい」

 

「ありがとう、そうするよ。もう一本は星が使うの?」

 

「ああ、剣はあまり使わんがこれだけの物を捨てるのも忍びない」

 

 にやりと笑うと星は一歩前に出てひゅん、ともう一本を袈裟懸(けさが)けに振り下ろす。

 

「――なにより、奴とは再戦の約定(やくじょう)がある。その時までこれは私が預かっておこうと思ってな」  

 

「へえ、そんな約束をしたんだ」

 

「ああ、…………む? ……おお!」

 

 そこで唐突に怪訝そうな表情を浮かべた星は僅かな間を置いてぽん、と手を打つ。

 

「まだ伝えていなかったが、一刀にも伝言があったのを思い出した」

 

「?」

 

「『次は負けない』だそうだ。ふふ、お前も奴に再戦を望まれているようだぞ」

 

「うわぁ……」

 

 聞きたくなかったなあ……正直、出来ることならもう対峙したくない。

 と言うより俺はあの人に勝ったっけ? ただ良い様にやられただけな気がするんだけど……。

 

 ……にやにやと笑う星と頭を抱える俺の頭上、どこか遠くから鷹の鳴く声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

【片鱗】

 

 

 

「お疲れ様! じゃあ皆お昼にして良いよ!」

 

『アニキお疲れーーっす!!!』「だからアニキは! ……ってもう誰も居ないし」

 

 江州の人達が入る家(長屋)の建設は急ピッチで進んでいる為、戦が終わってからも続いていた炊き出しもそろそろ終わりになる。

 と言う訳で鍋などの片付けも終了してお昼の時間である。

 んー……今日はどこで何食べようかなー。

 

「あ! おーい! 一刀さんこっちこっちー!」

 

 お、蓬命さんに他の二人も。

 

「一刀、今から昼か?」

 

「うん、何食べようか考えてたとこ」

 

「良かったら一緒に昼食にしませんか?」

 

「良いね、行こうか! どこにする?」

 

「僕は東々亭(とんとんてい)が良いな!」

 

「む、酢豚か。悪くないな」

 

「私もそれで良いですよ」

 

「あそこは点心も美味いんだよなあ……う、想像したらもっとお腹が減ってきた」

 

 東々亭は三日前に蓬命さんから聞いたお店で何でも美味しいんだけど、個人的には麻婆と酢豚、点心が美味しい。

 ……むう。麻婆は鉄板として、ご飯と点心かな。

 満場一致、小走りに店に向かう蓬命さんに着いて行く。

 

 

 

「はむはふはぐ!! ――美味しい! やっぱりココの酢豚が一番だね!」

 

「む、すまんが酢豚と白飯を追加で」

 

「蓬命ちゃん、ほっぺたにご飯が付いてますよ?」

 

「あ、店員さん! 俺も麻婆豆腐と白ご飯追加で……あ、あと点心ももう一つお願いします!」

 

「あいよ!」

 

 店に入ると既に蓬命さんが席を確保しており俺を含めた四人とも席に着く前にもう決めていた料理を注文した。

 ちなみに蓬命さんが酢豚と炒飯と点心、竜胆さんが酢豚と白ご飯(先程もうワンセット追加)、輝森さんが炒飯と酢豚、俺が麻婆豆腐、白ご飯、点心(竜胆さんと同じくもうワンセット追加)である。

 午前中からの作業でお腹が減っていたのに加えて蓬命さん、竜胆さんの食べっぷりもあって食が進むこと進むこと。

 

「オウ! 特盛り炒飯と麻婆豆腐! あと点心と餃子を三つずつ頼む!」

 

「へいっ!」

 

 あ、おやっさんも食べに来た。

 注文しながらそのままカウンター席に座るおやっさん……でも珍しいな。

 

「墨水さんですね。あー、やっぱり結構食べられるん――」

 

「今日は食欲無いのかな?」 

 

「――ですねって、はあっ!?」

 

「あれでか?」

 

「もぐもぐ!?」

 

 いつもの半分の注文量だったからふと口に出た感想に輝森さんと竜胆さんが驚……蓬命さんはこっちを向いて驚いてるみたいだけど、どうも食べる方を優先しているらしく口が止まっていない。

 

「ああ、おやっさんはいつもあの二倍くらい注文するんだ」

 

「にばっ!」

 

「凄いな」

 

「もぐ(竜胆さんの言葉に頷く)」

 

「でもホント珍しいな……今日は何かあったっけ?」

 

「……もぐもぐ……ふぅっ。ねえ、一刀さん? ちょっといいかな?」

 

 おやっさんは確か街の外で仕事だったっけ、と思い返してると一息ついた蓬命さんにちょいちょい、と肩を叩かれる。

 

「ああゴメン蓬命さん、何?」

 

「うん。一刀さん、墨水さんや星さん達と雲南に来たんだよね?」

 

「うん、そうだよ」 

 

「おやっさん、って呼んでるのは?」

 

「あー……」

 

 そう言えば蓬命さん達にはその話はしたこと無かったな。

 ……うん、午後の仕事にはまだ時間もあることだし、ご飯を食べながら話でもしようか。

 

 

 

「はあ……。え!? じゃあ一刀さんは戦と言うよりも荒事の経験自体、殆ど無かったんですか?」

 

 以前、星に話をしたのと同じ話(交趾での生活について)をすると、輝森さんは……まあ、吃驚するよな。

 

「うん、片手で数える程も……やっぱり、無いね」

 

「……あれ? じゃあ何で兵の指揮があんなに出来たの? 隣で見ててもすごく自然にやってたけど……」

 

 こっちはさほど驚いていない、と言うよりも不思議そうに聞いてくる蓬命さん。

 

「あー……その、皆怒らない?」

 

「「「?」」」

 

「いいから話してみやがれ」

 

「ふむ、内容にもよるな」

 

「おわっ!!? おやっさんは店の中に居たから良いとしても星はいつの間に!?」

 

「ははは、気が付かなかったか? 一刀達が来る前からそれ、そこに」

 

 笑いながら星が指差す先は俺達のいる卓から見て丁度おやっさんのガタイに隠れて見えなかったカウンター席だった、って……分かるか!!

 

「オウ、で、さっきの続きはどうしたよ?」

 

 ……そして輝森さん達よりもおやっさんの喰い付きが凄いのは何故だろうか。

 

「ええっと、戦の前に補給物資の積み込み作業やったのは覚えてる?」

 

「む、確か一刀にアニキと言う称号が付いた時の事か」 

 

「あれ称号だったの!?」

 

「ちなみに輝森にもかし――」「それはもういいですっ!?」

 

 一時脱線。

 

「ああ、輝森が困ってたら一刀さんがいきなり兵に混じって作業を始めたんだっけ?」

 

「む、確か一刀が兵糧袋を二つ運び、三つ運べる兵を捕まえて付き合わせたのが始まりだった」

 

「それを確か四回程往復して、戸惑い気味だった兵士さんと一緒に私の所に来て『一台目、出来ましたよ』って。……それがちゃんと数が合っていて」

 

「成る程な、……ってそりゃ補修や灌漑(かんがい)なんかで新入りが入るといつもやってるやつじゃねえか」

 

「墨水殿、詳しく話して頂けぬか?」

 

「オウよ、っても単純な話だぜ星? 北坊は数字が絡む面倒な作業があるとな、新入りにも出来るように先ずはそいつと一緒に作業するのよ」

 

「ふむ」

 

「んで一区切りがつくと『答え合わせ』をやる」

 

「ふむ?」

 

「さっきの作業で自分がどんな作業をしていたかって事なんだが。その『答え合わせ』はな、そいつには『なんだ、こんなに簡単なものか』って思わせるようになるべく単純に解り易く話すんだよ。コイツは」

 

「えっと、どんな感じにですか?」

 

 星に話していたおやっさんの語りに興味を引かれたのか輝森さんが質問する。

 

「北坊、さっきのやつの『答え合わせ』はどういう風に言ったんだ?」

 

 いやそこまで話していて、ここで俺にパスですかおやっさん!? あー……。

 

「いやその人には一台目が終わった後で、二つ運べる人と組んでさっきと同じ様にすればいいよ、って言っただけなんですけど」

 

「あ、あはは。それはまた……」

 

「な、なんというか……」

 

「む、確かに解り易いな」

 

「ふ、はははははははははははははは!!」

 

「で、上手く行った訳か北坊?」

 

「はい」

 

 どこか引き()った笑いの蓬命さん、困惑する輝森さん、頷く竜胆さん、突然笑い出す星、結果を聞くおやっさん。

 いや、本当はその後になんで四回の運搬で一台分(二十袋)になるかの正の字や小石を使った説明をするつもりだったんだけど、説明するまでも無く何故か皆出来るようになるんだもの!!

 それまで数が合わずに四苦八苦してた(ついでに頭の称号を得た)輝森さんのことを思うと「何で!?」と突っ込んだ俺は悪くないと思う。

 その後、作業を見てた皆にアニキと呼ばれるようになったのもこの時からで…………どうしてこうなった。

 

「ははははははははははははは! ……か、一刀……ぷっ、くく……それが怒るなと言った理由……くく……か?」

 

 星、笑うか聞くかどちらかにしようか。

 

「いや、そのやり方が戦場で通用するなんて普通は思わないよね!?」

 

「……それでなんとかなっちまった訳か」

 

 少し呆れた様におやっさんが相槌を打つ。

 

「ええ、まさか隊の皆が新顔の俺にあんなに協力的になるなんて考えていませんでしたから」

 

「……くくく……隊の結束については分かったが……はあ、ふぅ……指揮についてはどうなのだ?」

 

「あ、僕もそれ気になる!」

 

 ようやっと笑いが治まったのか目元の涙を拭いながら星が尋ねると、しゅたっ、と手を挙げながら蓬命さんも尋ねてくる。

 

「さっきの作業の話の続きから話すよ? 自分がそういった(まと)め役をしているときにはなるべく全体を見るようにしてるんだけど」

 

「全体、ですか?」

 

「うん輝森さん。作業の全体」

 

「ふむ、……確かにあの時のお前は周りの様子を頻りに気にしていたな…………成る程、『それ』もか」

 

「……解説の手間が省けたかな? うん、多分星の考えている通り、戦場でも見ていたんだ」

 

 特に初めの戦の時、味方の隊の動きは事前に聞かされていた夕の作戦通りだったから敵部隊の動きを見るのに専念出来た。

 本陣に揚がった旗、動きの鈍った騎兵への射撃。その後、敵の歩兵部隊がこちらに来る辺りからはずっとそうだった。

 二度目の戦は蓬命さんが灰色の部隊の動きを教えてくれたのと、味方中央の兵の密度が薄くなっていたのが分かったから張任さんの狙いに当たりが付けられたのだと思う。

 戦況を見て推測した結果を元に指揮……と言うより指示を出した。

 残りは交趾で一度だけ見たことがあった威彦さんの指揮を真似しようとした結果だ……まあ、月とスッポンだと思うけど。

 感想を除いて戦場での事を説明すると輝森さん達には感心され、おやっさんには呆れられた。

 

「……」

 

 ――何故か星には鋭い目付きで睨まれた。何だったんだろうか? 

 

 

 

 

 

 

 

【蝶の心】

 

 

 

「よっ! 星、ごくろーさん!」

 

「お疲れ様です、星殿」

 

「おお、獅炎殿に夕か。お二人で巡察ですかな?」

 

「おう!」

 

「はい」

 

 警邏を終えて城の中庭にある東屋(あずまや)(くつろ)いでいた星はその声に振り向いた。

 手を振りながらこちらにやって来る二人を見て星は手にした杯を掲げて見せる。

 

「お、やってんのか……って、そりゃあこの前の勝ち分のやつか」

 

「うむ、墨水殿はなかなかに良い酒を(たしな)んでおられる……ふぅ。いかがかな? お二人も一献(いっこん)

 

「良いねえ! よっし、今日はもう上がりにするか」

 

「お酒はあまり得意ではないですが、ご一緒させて頂きます」 

 

「そうと決まればささ、こちらへ」

 

 

 

 ――しばらく後

 

「ってことがあってな、オレは墨水とおかみさんの二人としばらく一緒に旅をしたわけよ」

 

「おお、そういえば一刀からも話だけは聞きましたな、墨水殿の奥方については」

 

「どのような方なのですか?」

 

 ほろ酔い気分の獅炎が語り、星が相槌を打ち、夕が初めて耳にした人物について尋ねる。

 

「ああ、そうだな……墨水もオレも頭が上がらない人さ」 

 

「ほう、それはぜひともお会いしたいですな」

 

「星は墨水達と交趾に帰るんだろ? なら多分会えるだろうぜ」

 

 獅炎は星に向かって楽しそうに微笑んだ。

 

 

 

「…………そう言やあ、星は一刀とは付き合い長いのか?」

 

 話が一段落つき、ふと獅炎は星に尋ねる。

 

「いえ、交趾からこちらへ来る時からですので、さほど長いという程では」

 

「へえ、そいつは意外だったな。なあ、夕?」

 

「はい、そうですね獅炎殿」 

 

「ふむ? それはまた何故に?」

 

 不思議そうに顔を見合わせる獅炎と夕に星も意外そうな顔になった。

 

「いえ、これは星殿に限った話ではないのですが、従軍していた兵から戦場で隊長の方達の様子について聞き取りを行ったのですよ」

 

「まあ、色んな話が聞けたんだけどな。……輝森の称号とか、竜胆が戦の最中に奇声を上げてたとか、蓬命の足が光ってたとかな」

 

 人差し指を立てて話す夕の横で獅炎は杯を傾けながらその内容を語り出す。

 

「んでな? 一刀が張任にやられかけた時の星と一刀のやり取りを聞いたんだよ。……確か『後を頼める?』だったっけか? 一刀はよっぽど星を信頼してんだなあと思ってよ」

 

「戦の後に意識を失った一刀殿が起きられるまで足繁(あししげ)く通われたとも聞きました。ですので、言われる程浅い付き合いではないのではと」

 

「それを言うなら獅炎殿と夕も真名を交換したその日からまるで姉妹(しまい)のようではないですか」

 

「しっ!? 私と……獅炎殿が、姉妹? ……獅炎殿がおねえ、ちゃん?」

 

「おっ、良いなそれ。ほら、夕、お姉ちゃんに甘えても良いんだぞ~」

 

「……し、獅炎……おねえ……ちゃん……」

 

 星の言葉に耳まで真っ赤になった夕は微笑みながら両手を広げる獅炎の胸に、

 

「はっ!? ……ではなく! 今は星殿の話ですっ!!」

 

 飛び込む寸前、びくりと体を震わせ頭をぶんぶんと振ると、にやにやしている星に振り返り、びしりと指を差した。

 

「むう、あと少しだった――」

 

「――何か、(おっしゃ)いましたか、星殿?」

 

「いや何も」

 

 視線を逸らしてぼそりと呟いた星はいつになく()()えとした夕の声音に即座に(かぶり)を振る。

 

「で、実際のところはどうなんだ、星?」

 

「ふむ……正直、私自身も何故そこまで信頼されたのか分からぬのですよ、獅炎殿」

 

「んー……じゃあよ、星はどうなんだ?」

 

「私ですか?」

 

「ああ、(はた)からだとお前も一刀のことは結構買ってるように見えるんだが」

 

「む…………そうですな、確かに私は一刀のことを認めております」

 

「さっきのオレと墨水の話じゃ無えが、その辺り聞かせてくれねえか?」

 

「ふむ、切っ掛けは獅炎殿に助力することを決めた日のことになります。……夕もその場に居合わせておりましたが――」

 

 杯を卓に置くと、星はその時の事を語りだした。

 

 

 

「へえ、じゃあ一刀もお前と同じ理由で参戦したのか」

 

「少なくとも私はそう感じました」

 

義憤(ぎふん)……ですか。復讐や打算で動いていた私とは――」

 

「――それは違うぞ、夕」

 

「星殿?」

 

「あの時のお前の瞳には濁りが無かった。墨水殿も一刀も、当然私もだが、それが判ったからこそ同志として受け入れたのだ」

 

「あ……」

 

「良かったじゃねえか、夕」

 

「はい!」

 

 目を合わせてはっきりと言い切った星の言葉に夕の目に涙が浮かぶ。

 獅炎は優しく声を掛け、星は穏やかな表情でそれを見守る。

 

「しっかし、これでやっと謎が解けたぜ」

 

「はて? 謎、ですか?」

 

 穏やかな空気の中、すっきりした顔で呟いた獅炎の言葉に耳を止め、星は尋ねた。

 

戦前(いくさまえ)だよ。竜胆があの時『一刀』って呼んだ直後にお前機嫌悪くなったろ? あの時点で一刀を認めてたからこそ、それが気に食わなかったんじゃないか? 何で自分達よりも先に他の奴に真名を許してんだ! って」

 

「ふ、はっははははは…………全く、獅炎殿には敵いませぬな」

 

「あれはそういうことだったのですか……私も獅炎殿を見習ってもっと見る目を養わないといけませんね」

 

「今の夕なら大丈夫さ。すぐにオレなんか追い越しちまうだろうぜ……っと、酔いが醒めちまったな。すまねえな星、なんか詮索しちまったみたいでよ」

 

「なんの、こちらも貴重な話やまた美しい光景を見せて頂いた。なかなかに楽しい一時でしたぞ」

 

「おう、オレもさ!」

 

「美しい光景と言うのが気になりますが……星殿、お話を聞かせて頂き有難うございました」

 

 んじゃまたなっ! と手を振りながら東屋を出て行く獅炎。

 夕は一礼すると、獅炎に続いて歩いていく。

 二人の姿が中庭から消えると星は僅かに中身が残る杯を傾け、

 

 

 

「だが、あの時はそれだけではなかった……なぜああも心が乱れたのか……私は」

 

 

 

 誰にも届かぬ程の小さい声で呟くと東屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

【盟友よ、また会う日まで】

 

 

 

 うだる様な熱気と湿気、照り付ける夏の太陽、そんな雲南の近郊に位置する丘陵地帯でも一際傾斜のきつい丘。

 ――そこには、

 

『にゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!』

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!???』

 

 黄色い声を上げながら斜面を滑り降りる猫、もとい南蛮の少女達と、悲鳴に近い叫び声を上げながら斜面を転げ落ちるように走る雲南の兵達の姿があった。

 

「むっ、みぃについて来るとはなかなかやるにゃ! ほーめい!」

 

「へっへー! 他の皆と同じだと思ってもらっちゃ困るよ! 僕こーいうのは得意なんだっ!!」    

 

 先頭を走るのは陽の光を受けて鮮やかに輝く緑髪の少女、南蛮大王孟獲こと美以ちゃんと、いつも通りの韋駄天(いだてん)ぶりを発揮している蓬命さんである。 

 

「にゃ!? カシラいがいと速いにゃ!?」

 

「だいおーとおんなじくらいはやいほーめいにまけるのはしょうがないにゃ! けどトラ、カシラにはまけないにゃー!!」

 

「誰ですかこの子達にその呼び名を広めたのはぁーーーーー!!!!!!」

 

 二番手にはミケちゃんとトラちゃん、そして意外にも俊足(しゅんそく)の輝森さん…………何も言うまい、どうせ犯人は輝森さんの隊の人達かあの人しかいない。

 

「にゃ、りんどーしゃんよそ見してるとあぶないにゃん」

 

「大丈夫だ、問題ない……ほぶっ!?」

 

 三番手を走るのはいつもの眠そうな表情とは違いキリッとした顔のシャムちゃん、そしてキリッと返事をした直後何かに足を取られて転げ落ちていく犯人候補筆頭の竜胆さん。

 なんかやけに幸せそうな顔で転がっていったんですけど…………あ、シャムちゃんが追い着いた……おお、止まった。

 

「皆は速いなあ」

 

「伯岐の(あね)さんのすぐ後ろを走ってるアニキが言っても説得力ありやせんぜ」

 

『あにもはやいにゃーー!!』

 

「良かった、『アニキ』は(まぬが)れた……」

 

 色んな意味で気合が入ってる皆の後ろで呟くと、斜め後ろを走っていた人に即座に突っ込まれ、南蛮の子達に便乗(びんじょう)される。 

 

 さて、太陽が空の真ん中にあるこの熱い時間帯に、何故こんなことをしているのかと言うとズバリ、兵の皆の訓練である。

 戦の後処理も大概(たいがい)片付き、ここしばらく剣や槍を持つ手に(くわ)やシャベルを持って作業に当たっていた兵士さん達には久々の訓練、何をしようかと考える獅炎さんに夕がマラソンを提案した。

 起伏のある地形で隊の機動力を上げる為と説明していたその場に美以ちゃん達がやって来ていつの間にか南蛮の子達も一緒にやることに決定。

 近々交趾に帰る俺も何故か参加することになっていた(ちなみに全員が集まって参加して街を空にする訳にもいかず、おやっさん、獅炎さん、夕、星は居残り組である)。

 

 っと、そろそろ麓に着くな。

 

「にゃーーーーーーー!! ほーめい、もう一回やるじょ!!」

 

「引き分けのままじゃスッキリしないしね。いいよ! もう一回だ!」

 

 下から聞こえてきた声に思わず足を止め……うお!? 凄い勢いで横を通り過ぎていった!?

 ……その後、美以ちゃんと蓬命さんの勝負は二度行われ、結局引き分けで終了した。 

 

 

 

 そんな事があってから二日後、美以ちゃん達が南蛮に帰る日。

 俺達は総出(兵の皆や街の人達も含む)で城門に集まっている。

 

「しえん、おやじー、せー、カシラ、りんどー、ほーめい、ゆー、(にぃ)、皆、また来るにゃ!!」

 

「またにゃー!」

 

「またにゃ!!」

 

「……またにゃん」

 

『まったにゃーーーーーーー!!!!!!』

 

「む、また来るぞ」

 

 ばしゅっ 

 

「く!? 網を弩で打ち出しただと!? (はか)ったな輝森!!」

 

「はいはい、竜胆ちゃんはこっちですよー。一緒に美以さん達を見送りましょうねー」

 

「ぬをーー!! はーなーせー!!」

 

「……蓬命さん」

 

「何も聞かないで一刀さん……僕は何も見なかったんだ……」

 

 美以ちゃん達に紛れてごく自然に着いて行こうとした竜胆さんは、輝森さんが撃った網付き矢(当然だけど(やじり)は付いてない)にあっさりと絡め取られた。

 あまりに自然な一連の流れに思わず横にいた蓬命さんを見るが、視線を逸らされる。

 

「おう美以! ミケ! トラ! シャム! 皆! またなーー!!」

 

「オウまたな……じゃねえ!? おやじ、で止めろ! 伸ばすな! 爺さんみたく聞こえるだろうが!?」

 

「うむ、ではまた。元気でな!」

 

「皆さんお元気でー! ……ふふふ、先ずは隊の再教育から始めないといけませんね。竜胆ちゃんも含めて……」

 

「にゃんこおお――」

 

「――(やかま)しいですよ竜胆、ちゃん!」

 

 こきゃっ

 

「おおお、おふっ!?」

 

「あ、あはははは……こほん。美以、またねー! 今度はちゃんと決着付けよー!!」

 

「美以殿、有り難う御座いました! また、いつか必ず会いましょう!!」

 

「皆、元気でね! また一緒に訓練したり飯食ったりしようなーー!!」

 

『オッス、皆さんお元気でーーーーーー!!!!!』

 

『今度来た時はもっと美味い飯食わしてやるからなーー!!』

 

『またおいでよー! 饅頭一杯用意しとくからーー!!』

 

『ねえちゃん達、またねーーーー!!!』

 

 俺達の声。そして一緒に戦った兵の皆、短い間だけど触れ合いのあった街の人達の声。

 

 ――それらが響く中、美以ちゃん達と俺達はお互いの姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

【程徳枢の荊州書店巡り ひとコマ】 

 

 

 

 ――荊州、襄陽。太守劉表が儒学を奨励している為、学術都市としても有名なこの街の一角。

 雑多に店が軒を連ねる大通りの片隅で路地裏を覗きこんでいる二人の少女の姿があった。

 

「そうですね……例えば向こうの方に見える小さい店にこそ、掘り出し物が埋まっていたりするのです」

 

「そ、そうなんですか。勉強になりますっ」

 

 眼鏡を掛けている少女、程徳枢に頷くのは片眼鏡を掛けた少女。

 眼鏡の種類、髪と瞳の色を除けば顔立ちは似ているものの、その服装は逆の印象を受ける。

 徳枢は上が半袖で下は脹脛(ふくらはぎ)までの長さの旗袍(チーパオ)(チャイナドレス)、片眼鏡の少女はやや大きめの帽子と上が地面に届きそうな程長い袖、下は両サイドに深いスリットの入った太股の半ばまでしかない旗袍である。

 二人の少女はしばらくすると路地の方にある書店へと歩き出した。

 

「では入ってみましょう」

 

「はいっ!」

 

 

 

 店内は日光が入らぬよう締め切っており、昼なのに薄暗く、かび臭い匂いが漂っている。

 客は入ってきた二人を除くと奥の棚付近に小さな人影が二つ見えるくらいだ。

 

「け、結構、暗いですね」

 

「書物を扱う上で日の光は紙に良くないのですよ。ここの店主はそのことを分かっておられるようですね」 

 

 所狭しと書棚が立ち並ぶ所為で通路は狭く、ただでさえ狭い店内を更に窮屈(きゅうくつ)に感じさせる。

 困惑する片眼鏡の少女をよそに徳枢は慣れた様子ですいすいと棚を確認していく。

 

子明(しめい)殿、軍学書関係はこちらです」

 

「わ、もう見付けられたんですかっ?」

 

「はい、意外と近くにありました」

 

 子明と呼ばれた少女は薄暗闇の中を意外としっかりした足取りで徳枢の側に来ると、彼女の指差した棚を見始めた。

 

「ええっと…………うーん…………あ、ありましたっ!」

 

「『三日で覚える海賊の心得』ですか」

 

「はいっ」

 

「…………失礼ですが、子明殿はどういった生業(なりわい)を?」

 

 少し後ずさりする徳枢。

 

「ち、違いますっ!? 誤解しないで下さい徳枢さんっ!」

 

「いや、流石に笑顔でそういった題名の書を(かか)げられると……」

 

「ち、ち、ちがひますっ! これは頼まれただけなんですっ!」

 

「じ、冗談です子明殿、冗談ですから少し落ち着いて下さい!?」

 

 涙目になってぱたぱたと長い袖を振りながら迫る子明。

 この本を頼んだ人はどんな人物なのだろうかと考えながら子明を(なだ)める徳枢。

 

 

 

 収まって後。

 

「子明殿、私も探し物があるのでしばしお待ちを…………お待たせしました」 

 

「ええっ!? も、もうですか?」

 

「はい、私はこの三本にします」

 

 そう言って竹簡を子明に見せる徳枢。

 

「ええと……著者は宋仲子(そうちゅうし)さん、ですか。私は聞いた事がありませんが……有名な方なんですか?」

 

「劉表殿に招かれて儒学の教鞭を執っておられる方です、学者としては有名ですね。私も門人の方に知り合いがいます」

 

「はぁ~」

 

「さあ子明殿、購入して次に行きましょうか。確かまだ幾つか頼まれ物があるのでしたよね?」

 

「ええっ!? 会って間もない徳枢さんにそこまでご迷惑をお掛けする訳には――」

 

「いえ、私の用事にも付き合って頂けたのですから。是非御手伝いをさせて下さい」

 

「あ、す、すみません徳枢さん。あの、よろしくお願いしますっ」

 

「はい」

 

 

 

「お買い上げ、有り難う御座います!!」

 

 

 やたらと大きい店主の声を背に店を出て行く二人。

 

 

 

 

 

 ――その二人の姿を息を殺してじっと見つめる二つの小さな影があった。

 

 

 

 影達は二人が店を出ると入り口に駆け寄り、二人が店から離れた事を確認する。

 

 

 

 ――そして、店に誰もいなくなったのを確認した影達は、店の奥にいる店主へ振り返ると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こ、これをお願いしましゅ!」

 

「お、お願いしまし! ……あう」

 

「はい、有り難う御座います!! 『夜の子房(しぼう)(こう)――」

 

「「題名を読み上げないで下しゃい!!?」」

 

 はわわ、あわわと声を上げながら書物(?)を買い求めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 あとがき

 

 天馬†行空 閑話です。

 今回はゲーム本編に入る前の区切りとしての拠点話を書いてみました。

 輝森達の過去話はまた今度の出番の時に語る事になるかな?

 

 次回は交趾。久し振りの人達の出番となりそうです。

 

 次で雲南のメンバーとはしばらくお別れですね。

 尤も、後でちゃんと再登場しますのでご安心を。

 

 

 

 

 

 


 
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