No.36684

SF連載コメディ/さいえなじっく☆ガールACT:16

羽場秋都さん

毎週日曜深夜更新!…のはずが、先週うっかり忘れてました。
でも誰も気にしてないですよね…
 orz....ええわい。フン!

フツーの女子高生だったアタシはフツーでないオヤジのせいで、フツーでない“ふぁいといっぱ〜つ!!”なヒロインになる…お話、連載その16。

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2008-10-20 01:15:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:650   閲覧ユーザー数:620

 夕美はあまり年代を経た家には住んだことがない。父親の耕介が実験で大なり小なり破壊してはその都度修理してきたからだ。

 いわば、年がら年中リフォームしているようなものである。

 常に新しい家と聞くと羨ましがる人もいるが、実際にはまるでモデルハウスにでも住んでいるようなもので、いつまで経っても自分の家に懐かしさを感じることが少ないのは寂しい限りだった。

 

 

 ただいま、と何回目かの新しくなった玄関のドアを開けるが早いか、これまた真っさらになった廊下を耕介が走ってきた。

「ほづみくん!ほづみくん!来たで、来た………って………あっ。」

 耕介が上がりかまちで急ブレーキをかけるのと、その手に持っていたものを後ろ手に隠すのが同時だった。

 

 

「な、なんや。夕美か。お、おかえり。あ、ほづみ君とも逢えてんな。な、なんか、えらいことになっとったみたいやな」

「そうや。けど、そんなことより。いま、何隠したん?」

「い、いや、その。お前には関係ないやっちゃ。」

「やあ、先生。僕と入れ違いに届いたんですね、宅急便」

「あっ。あほ、シー!」人差し指を口に当てる耕介。

「なにがシーや。わかってるわい、昨日の不在通知の“着払い6,980円”。たっかい高い、おもちゃの人形やろ。しかもエッチなやつ」

 

 夕美のこのひと言が耕介のオタク魂に火をつけた。俄然、抗弁を始める耕介。

 

「オモチャとちゃうわい。フィギュアや。だいたい、エッチなヤツとはなんや。フィギュアは彫刻芸術やぞ。ほれ、大理石で出来たギリシャ神話の彫像あるやないか、アレと同じ感覚や」

「なにが大理石や。プラスチックやんか」

「レジンや。プラスチックちゃうわい。」

「いや、先生、ソフビ製ですよ。塩化ビニールとかです」

「お、おう、それそれ。」

「材質なんかなんでもええわい、問題はその値段や。6,980円やで!?」

「安いもんやないか。こんなもん、ちょっとやそっとでイチから作られへんで。色かて、こお見事には塗られへん。それをこの値段で売ってくれるんや。有り難いやないか。よお見てみい」と、後ろ手に隠していたフィギュアをぐいっと夕美の鼻先へ突き出した。

 

「あたしはぜっんぜん、アリガタないわ。ほんまに、もったいないだけやわ。だいたい、なんやこれ。このスケベな人形、これのどこがギリシャ彫刻や!」

 たしかに、それは耕介が言うような、ギリシャ神話の彫刻レプリカと同じ感覚で片付けるのは無茶もいいところだった。ピンクと黒をあしらったハイレグレオタード状の衣装を着けた女の子の人形は、明るい藤色の髪に妙な形のヘッドギア、そこにしつらえられた赤い色のバイザー越しに見えるアニメならではの独特の形状をした大きな目、鼻孔のないこぢんまりした鼻、現実にはありえない三角形のクチなど、どう見てもアニメの顔だ。

 

 しかし、等身数こそ大袈裟ではあるが全体にバランスの取れたプロポーション、ちゃんと肉体に骨格と筋肉の存在を意識させる彫像の活き活きした表現力は、並外れて優れたデッサン力に裏打ちされていなければできる芸当ではない。

 今にも動き出しそうなポーズや肉感は、なるほど、ダフニスとクロエとか、アポロンとダフネの大理石彫刻に見られるような躍動感にあふれていて、若い娘ならではの生命感さえも感じられる。

 しかも、ぴんと伸ばされた指先は、おそろしく小さいながらも一本一本の指までも丁寧に作り込まれていたし、よく見れば衣装も、布やエナメルもどきの各部ごとの素材や質感までもしっかりと再現されている。

 

「お…………ほお…す…ごい…かも」

 

「な?な?綺麗やろ。なんともいえん、美しさがあるやろ?な?」

 そうは言っても、パッと見の姿は漫画キャラクターそのものとはいえ、かなりセクシーな恰好をした人形である。それだけに耕介やほづみの下心を疑わずにはいられなかったが、絶対に耕介の目に宿っているだろうと確信していた筈の助平な光はどこにもなく、単純に美術品や骨董品に鼻の下を伸ばしているコレクターと変わらなかったのは意外だった。

 

 もっとも、これまで耕介が買い込んだとおぼしき数々のフィギュアがどうだったかは判らない。

「う〜ん…美しいとは思わんけど…。まあ…、たしかによおできてる…カモなあ」

「そやろ!そやろ!お前らフィギュアの魅力を知らん者がゆうとるよーな、やましいとこは、なあんもあらへんわい」

 それはどうやろか、と夕美は即座に心の中で突っ込んだ。

 

「ところでこれ、何の人形やのん?」

「え、知らんか。あー、そうやな。もうお前が生まれる前の作品になるもんな。もうずいぶん再放送ってしてへんもんなあ。なあ、ほづみ君。」

「いや、先生、僕もこのアニメは見たことありませんよ。先生はよく話してくれたから事こまかに知ってるけど…ほら。ちょうど僕も旅に出てたから」

「あっ。───そうか、そやったなあ。」

「これはなあ」と耕介は遠い目になる。「スクランブル・ユーミンゆうてな。それこそ、一世を風靡したアニメやったんやでえ。俺らの世代でこのアニメ知らん奴はおらん。」

「俺らの世代って…えらいまた、古い話やなあ…はあ。正義の味方ってやつね。」

「まあ、無敵の変身ヒロインやな。いわゆる超能力で何度も人類の危機を救った。んでもって、この通りめっちゃ可愛い。ちょっと顔立ちはきっついめやけど、心根は優しいて、ほんまにエエ娘でなあ。グッズもいろいろ買うたなあ。なけなしの小遣いはたいてやな、下敷きやろ、ペンケースやろ、ポスターやろ、ムック本に音楽集にイベントに。それこそ当時スクランブル・ユーミンのこんなフィギュアなんかあったら、祭壇でも設けて仏さん代わりに拝んでたやろな」

「ゑ?」

 あまりにあほくさい話に夕美は適当に聞き流していたが、トウトウとしゃべり続ける耕介の演説のある一点が引っかかった。

「ちょっと待って。すく…スクランブル?スクランブル…なんやて?」

「ユーミン。ヒロインの本名が由美やからな」

 

 

〈ACT:17へ続く〉

 

 


 
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