「げっっ。ま、まさかお父ちゃん………!?」
「ああ、そうや。お前の名前はこの娘からもろたんや。アレ?ゆうてへんかったか?」
「なっっっっっっっっっっっっっ………!!」
ちょっとやそっとの事では驚かないつもりの覚悟をしている夕美でさえ、この変人オヤジの行動や言動にはいつも何かしら驚かされる。しかも、初めて聞かされた自分の名前の由来が、こともあろうにアニメの主人公だとは。
「聞いてへんぞぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「へえ〜。そうだったんですか?なんか、いい話だなあ」
夕美が殺意を込めて睨んだことも気づかず、ほづみは呑気ににぱ〜っと笑っている。夕美にとっては聞き捨てならない不幸で悲惨な事実だが、どうやら本気で親娘の幸福でほのぼのしたエピソードだと思っているらしい。
「し、し、信じられへん。娘にアニメの主人公の名前をつけたやてぇ!?」
「───ゆうても、夕美の夕の字はお母ちゃんの夕里から貰てんねんけどな。お母ちゃんも大賛成してくれてんで?」
「お、おかあちゃんが?う、うそつけえ」
「ウソやないわい。そんだけ、このアニメはええ話で、娘に名前を貰うくらい、このユーミンはエエ娘やったっちゅうことや。」
そうは言われても、アニメオタクやらそーゆー趣味の人間ならいざしらず、平均的一般人レベルでしかアニメや漫画を認識していなかった夕美にとってこの事実はあまりに寝耳に水、青天の霹靂(へきれき)だった。
自分の名前として17年も付き合ってきた以上いまさら異論を唱えても仕方ないのだが、夕美は思う。果たして、親がファンだったという理由でタレントや有名選手と同じ名前をつけられた子供は、その事実を知ったとき、今の自分ほどに最悪な気分になるものかどうか?
「むうううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
しょっちゅう夕美に怒られている耕介だが、さすがに今回の夕美の怒り方はレベルが違うことを本能的に悟って身構えた。
だが、予想に反して夕美は「はああああ」と大きな溜め息をひとつ吐き出しただけだった。
「あっ…………アホくそうて、泣くに泣けんわ。」
夕美はがっくりと肩を落とし、耕介の横をすり抜けて自分の部屋へと向かった。
「あれっ、ちょ、ちょっと」
耕介は夕美がその手にスクランブル・ユーミンのフィギュアを握ったままだということに気づいていたが、夕美の背中から立ち上る負のオーラに気圧されてしまい、結局それ以上は言い出せなかった。
「あああああああ。たのむから八つ当たりして壊したりせんとってくれよ…!?」
ぴしゃりと閉められた夕美の部屋のドアに祈る耕介だった。
「夕美ちゃんはそんなことしませんよ」
「え。そうやろか…?」
「ええ。だって7千円ほどしたんでしょ、アレ。………そんなもったいないこと、彼女の進化した経済感覚が許すはずありませんから」
「あ。そーゆー意味かいな」
「壊すくらいならネットで転売するでしょう」
「………はう…。ほづみ君、今夜も夕美の晩飯は期待でけへんから、なんぞインスタントのもんで済まそか」
「はい。僕、ラーメンさえあればオッケーですから」
「あ……そ。」
「それよりも先生。さっきなんですけど………」
一方、夕美もベッドへ転げ込もうとして、フィギュアをしっかり握っていたことに気づいた。
「あれ。こんなもん、持ってきてしもたんか…」
ほづみの予想通り、夕美の性格上投げ捨てることもできず、結局勉強机の上にそっと置くしかなかった。
(お母ちゃんも娘に名をつけることに賛成したスーパー・ヒロイン………)
あらためてしげしげとフィギュアを眺める。
(お母ちゃん…あんまり覚えてへんけど…フツーの人やったよなあ?お父ちゃんみたいな変人…とはちゃうはず…やよなあ?)
だが、あることに思い当たった。
(けど、変人なんかと結婚してんから、やっぱし変人やったんかなあ)
最悪に情けない気分で首をかしげた夕美は、かしげた頭がとてつもなく重いものでも詰まっているかのように、そのままベッドへと横倒しに倒れ込む。
下から見上げる構図になると、フィギュアは夕美が照れくさくなるくらいにセクシーな眺めになった。(な…生々しいお尻やなあ。こんなん作ってるヒトって、やっぱしヌードデッサンとかすんのにモデルとか使てるんやろか)
「スーパー・ヒロイン………か…」
がば、と起き上がると、夕美はパソコンの電源を入れた。
〈ACT:18へ続く〉
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