天子が目覚めたとき、そこは見知らぬ場所だった。
「あれ? ここどこ?」
長く青い髪を梳きながら上半身を起こして辺りを見る。
そこは、緑も土も無い、灰色の壁で覆われた空間であった。
「なんで私こんなところに……」
つぶやき、記憶を漁ってみる。
「たしか神社で宴会をやってて、それから……」
と、記憶を漁っていた天子の背後から、小さな爆発音が聞こえた。
そちらのほうへ振り返ってみると、まず見えたのが大きな建造物。
灰色の塔を中心に、複数の管のようなものが見える。
そういえば、ああいう灰色の物体を鉄って言うんだっけ。
以前かっぱから見せてもらった鉄を思い返しながら更に観察する。
すると、視界に複数の人影が入り込んできた。どうやら爆発音は彼らが起こしたらしい。
まず緑色の服を着た人物が入ってきた。その手には見慣れない物体を持っている。
そして、次に入ってきた人物は、ピンク色を基調とした可愛らしい女の子であった。
走っているために少し呼吸は荒く、それにあわせて綺麗な金髪のポニーテールが揺れている。
そして、その少女のそばには同じピンク色を基調とした小さな妖精がいた。
どことなく似ているな、と天子は思った。
さて、そんな風にぼんやりと天子は部屋に入ってきた人物を見ていたが、向うは天子には気づかなかったようだ。
一直線に鉄の塔へと走っていく。
天子から見て彼女達は鉄の塔の裏側へと回ってしまったために、今何をしているのかは見ることが出来ない。
なので、天子は鉄の塔を回り込んで彼女達に近づいていった。
そして、天子はある光景を目撃する。
天井から差す僅かな木漏れ日の中、緑色の液体にひざまずく赤い男が一人いた。
その男の腕は肘から先は無く、背中からは複数の管が鉄の塔へと延びていた。
しかし、光に照らされた中で静かに眠るその光景は、天子にとって、まるで神聖な光景に見えた。
「うわぁ!」
しばしその光景に見とれていた天子は、ふいに聞こえた悲鳴にはっとする。
「プロテクトが、かかっているわ!!」
「いったいどうすれば…」
と、どうやらお困りの様子。
なんとなく、声をかけたほうが良さそうなので話しかけようとしたのだが、
「ぐわぁ!!」
と、はっきりとした悲鳴が聞こえたため言葉を飲み込んでしまった。
声のしたほうを見ると、別の緑色の服の男が見知らぬ人形に倒されたところだった。
青と白のカラーリングの人形軍団は腕から丸い弾丸を射出した。
その弾丸はまっすぐに少女へと向かっていたが、そばにいた男がかばったために少女に着弾することはなかった。
そうして、持っている謎の物体―――かっぱのところで見たものと同じなら銃という―――から弾丸を発射。人形を牽制する。
彼女達は二言三言会話をしていたが、人形の放つ銃弾に当たってしまい、緑色の服の男が倒れた。
「ミラン!!」
倒れた男のそばにしゃがみ少女が悲鳴をあげる。だが、ミランと呼ばれた男は動かなかった。
そんな一部始終を見て。
天子は疎外感を感じていた。
すっごくシリアスな雰囲気。
基本的にゆるい雰囲気の幻想郷ではまずありえないピリピリとした感覚。
なんというか、彼女達は必死だった。
幻想郷において、あんなに必死になる人はそうそういない。
幻想郷を揺るがす大事件である"異変"が起きても、事の重大性なんかしったことないと言わんばかりに当事者達はゆるく戦っていたりするのだ。
だからこそ、一人展開についていけてない天子は疎外感を感じており、また少々煮え切らない思いも持っていた。
「そもそも、なんで天人である私を無視するのよ……」
基本的に天子は他人を見下している。だからこそ、他人に気にも留められないというのは、あまり良いことではなかった。
それでも未だ眺めているだけに留めているのは、少女達のシリアスな雰囲気に若干戸惑っているからなのだが。
「私の力を使って!! それしかないわ!」
「そんな、それじゃあパッシィが…」
彼女達が会話している間にも、人形軍団はどんどん近づいてくる。
だが会話を聞く限り、どうやら妖精の命を犠牲にして何かをしようとしているらしい。
少女は真剣に悩んでいるようだ。そして、決断を下す。
「わかったわ」
「ううん、ありがとう、シエル。さよなら…」
そう言い残し、妖精は一直線に赤い男に飛んでいく。
てっきり人形軍団に突撃を仕掛けると思い込んでいた天子は軽く驚いたが、少女のほうはもっと驚いたらしい。
赤い男の周りには不思議な障壁のようなものが張られており、それに妖精がぶつかっていた。
本来であればその障壁が取り除ける手筈だったのであろうが、力が拮抗しているためか障壁がとりのぞかれる気配は無い。
「パッシィ…!」
「う…うぅ…」
妖精は必死に力を振り絞っているみたいだが、そうしている間にも人形軍団は近づいてくる。
もう少女と人形軍団の距離は、ほんの数メートルであった。
そんな状況の中、天子は一人置いてけぼりであった。
なぜ彼女達は人形を壊さないのだろうか。
それほど、目の前にいる赤い男が大事なんだろうか。
そして、いつまで私を無視し続けるのだろうか。
ここまで状況についていけなかったがために行動を起こさなかった天子だが、遂に行動に移した。
目標は目の前にいる赤い男。正確に言うならば妖精が壊そうとしている障壁。
別に人形軍団に切りかかっても良かった。そうしなかった理由は特に無く、強いて言えば障壁の方が近かったからである。
そんな、なんということのない理由であったが、ここまでに溜まったストレスを発散させるかのように、
「そりゃぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」
と気合一閃、愛用の緋想の剣で障壁に切りかかっていた。
バチンッ! と音を立てて緋想の剣と障壁がぶつかり合う。
「もうさっきから意味わかんない! でも、まずはこれをブチ壊せばいいんでしょ!」
そう言うと、緋想の剣に力を込める。
突然の乱入者に少女は驚いていたが、妖精は特に抗議の声を上げず、自らの力を振り絞った。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇいいっ!」
振りかぶって切った勢いを障壁によって塞がれようとしていたが、自らの剣に力を込めて振り切ろうとする。
そのとき、緋想の剣を取り巻く気質が、妖精をも取り込んでいく。
妖精の姿が完全に気質に取り込まれたそのとき、眩い光が発生した。
思わず目をつぶった天子はそれと同時に障壁を斬った感覚を感じた。
数瞬の間をとって。
光が収まったであろうことを予測して、目を開く。
そして、見た。
目の前に毅然と立つ男を。
赤き衣を纏いし金髪の男を。
「ゼ、ゼロが…ふっかつした…」
背後から少女の声がする。
ゼロ。
後に天子の運命を握ることになる人物の一人である、伝説のレプリロイド。
今、その彼が目覚めたのであった。
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pixiv小説であげているものを、こちらでも公開することにしました。
東方の天子がロックマンゼロの世界に行って頑張るお話です。
個人的解釈が多いので、ご注意ください。