No.361601

真説・恋姫†演義 仲帝記 第二十羽「雄雄しき華は虎とその牙を交え、徒に時を流れさせんとするのこと」

狭乃 狼さん

ども。

似非駄文作家こと、狭乃狼です。

今回は氾水関における、その戦いの様子をお届け。

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2012-01-10 21:33:56 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:11973   閲覧ユーザー数:7326

 当時、未だ仕えるべき主君を見出せずに居た彼女は、武者修行を兼ねた傭兵のようなものを生業にしつつ、大陸各地を渡り歩いていた。

 

 幼い頃より親から受けたその教育の賜物か、彼女の心根はただひたすらに真っ直ぐだった。生まれ持った己がその剛力を、世のため人の為に活かすその為に、武人としての道を何の躊躇も無く選んだ彼女。

 

 そして、彼女がその剛力と供に持って生まれていた、天性の才という物もその後を押し、気がつけば故郷においては既に敵無しの、一流と言っていい腕の達人の域に達していた。

 

 さらに、傭兵家業の道にその足を踏み入れて以降、大陸中の何処へ行っても、彼女に勝る武の腕の持ち主が現れる事無く、連戦連勝、無敗の常道を歩み続け、その結果、何時しか彼女は己が武天下一のものと、自惚れ、そして慢心してしまっていた。

 

 「この葉孟蓮(しょう・もうれん)の金剛爆斧、叩き折れる者など、この世にはどこにも居らぬわ!」

 

 葉孟蓮。(いみな)は雄。

 

 大陸の西端は涼州の産にして、漢人の父と羌族の母を持つ、薄紫色の髪をしたその彼女は、その時完全に、己のその武に酔いしれ、有頂天になってしまっていた。

 

 だが。

 

 ある時傭兵として請け負ったその仕事において、彼女のその自信と誇りは、ついに打ち砕かれてしまう。

 

 そう。

 

 当時。既にその名を世に広く馳せていた、江東の虎こと孫文台との、邂逅。それは、彼女にとって決して忘れられない出来事となった。

 

 悪徳商人や金満貴族を襲い、その彼らから奪った金品を貧しい者たちに配って回っている、世間的にはすこぶる評判の良かったとある江賊に、彼女はある時雇われた。葉雄自身も、その江賊たちのしている事には共感が持てたと言うこともあり、暫くの間、彼女らはまるで始めの頃からの仲間だったかのように意気投合して、日々仕事を行なっていた。

 

 そんなある日の事、どうやって知られたのか、その江賊の本拠地が官軍によって急襲された。その時、その官軍を率いていたのが、荊州は長沙の太守として赴任したばかりだった、孫堅その人だった。

 まさにあっという間の出来事だった。

 葉雄も江賊の棟梁であるその人物にと供に、無勢の中善戦こそしていたが、(プロ)江賊(アマチュア)の差は如何ともし難く、仲間達は次々と、討たれるか捕縛されるかして、その数を確実に減らしていった。

 

 「おのれ!こうなったら貴様のその首を挙げて、この場を一気に逆転してくれる!我が名は葉孟蓮!官軍の大将、孫文台!我が金剛爆斧を受けてみろ!!はあーーーーーーっ!!」

 「……ふん。その意気は良し。けれど、残念だったね、葉孟蓮とやら」

 「なにいっ?!」 

 「……世の中にはな、上には幾らでも上が居るんだよ……!!ましてや、お前みたいな未熟者の上ならなおさらねえっ!!」

  

 それから暫くして、葉雄がその意識を取り戻したとき、彼女は、かつて仕事仲間だった者たちの亡骸に囲まれるようにして、倒れ臥していた。

 

 「……手も足も出せなかった……う、く、く、うあああああああああああっっっっっ!!」

 

 それから後。

 

 様々な紆余曲折を経て、葉雄は真にその武を捧げる主君と出会い、それを機にかつての姓と字を捨て、己が真名をもその戒めとして封印した。

 

 董卓軍、第三攻撃大隊隊長、華雄。

 

 それが、現在の葉雄(彼女)のことである……。

 

 

 第二十羽「雄雄しき華は虎とその牙を交え、徒に時を流れさせんとするのこと」

 

 

 華雄の戦闘スタイルは、その膂力を活かしての力押しを主軸にした、パワーファイトを基本としている。かといって、彼女がスピードやテクニックに劣っていると言うわけではない。武人である以上、そういった要素もある程度もって居るのは、当然といえる。

 

 しかし。

 

 「おおりゃああああっっっっ!!」

 「なるほど!確かに前よりはその力量を上げたようだ!けどねえっ!!」

 

 華雄の振り下ろす金剛爆斧の斬撃、いや、打撃と言っていいそれを、孫堅は悉くいなして見せる。

 

 「おのれっ!のらりくらりと!!何故真っ向からぶつかって来ないのだ、孫文台!!」

 「はっ。そんなの当然だろ?あんたのその一撃一撃、まともに受けようものなら、この南海覇王とてそうは持たないだろうからねえっ」

 「ふんっ。要するに、私の武に恐れをなしたと、そういうわけか」

 「はっはっは!……勘違いするんじゃあないよ、この(わっぱ)があっ!!」

 

 閃光一閃。少なくとも、華雄にはまさに目にも止まらぬ動き、と言う奴だった。目の前にいたはずの孫堅のその姿が一瞬にして掻き消え、気がついたときにはもうすでに、自身の横腹目掛け、凄まじいまでの勢いの白刃が、迫っていた。

 

 「くうっ!?」

 「おらおらおらあっ!!ご自慢の武とやらはどうしたあっ!?反撃すらして来れないのかいっ!!」

 「……っ!!言わせておけば!!」

 

 己の胴を薙ごうとしていた、孫堅の南海覇王による斬撃を寸手のところで防ぎ、挑発めいた言葉を叫びながら次々と連撃を繰り出してくる孫堅へと、改めてその自慢の斧を振るう華雄であったが、それらは全て軽くいなされてしまい、宙を切り続けるばかりだった。

 

 「くそおっ!なんでこうも当たらない!?私の武は、こんな程度のものの筈では……っ!!」

 

 苛立ち。そして、憤怒。肩で大きく息をしだしながらも、華雄は孫堅の事をじっと睨み続け、それらの感情を隠す事無く、目の前の仇敵にぶつける。

 

 「……ったく。ほんとに童だね、あんたは」

 「な、なんだとおっ!?」

 「関の守備を無視してまで、少数の兵と供に飛び出してきた時には、どれほど成長したものかと楽しみにしていたもんだが……期待外れもいい所だったね」

 「くっ……!」

 

 孫堅のその言葉が癪に障ったのか、華雄は再びその手の金剛爆斧を、全力で目の前に立っている赤毛の虎へと、高速で振るう。それは、常人であるならば決して捉えることの叶わない速さ。

 だが、今華雄の前に剣を携えて立っているのは、江東の虎と呼ばれ、人外の域を越えた力量を持つ、真の武人。

 

 「……ふんっ」

 「なっ!?」

 

 その瞬間、華雄は自分の目を疑った。孫堅のその肩口から、袈裟懸けに振り下ろされる筈だった金剛爆斧が、孫堅のその華奢な片腕一本によって、あっさりと受け止められてしまったからだ。  

 

 「……思ったより軽いね。……武器に重みが全く無い」

 「重みが無い……だとおっ!?……おおおおおおおおおっっっっっっ!!」

 「ぐっ?!」

 

 孫堅が発したその一言を耳にしたその瞬間、華雄の中で何かが弾けた。金剛爆斧を涼しげな顔で受け止めていた孫堅だったが、華雄の発したその雄たけびと供に増した重圧により、危うく地に膝を着きかける。孫堅はその手を素早く斧から離し、その場から後方へと飛び退る。

 

 「……我が戦斧に、重みが無いだと!?今のその戯言、決して許すわけにはいかん!!取り消せ、孫文台!!」

 「……取り消さない、と言ったら?」

 「……我が金剛爆斧には、関にて私を見守ってくれている、仲間の想いも乗っているのだ!私の我侭を聞き入れてくれ、尚且つその為に、私などに“この役”を振ってくれたあいつらの想いが、決して軽いものなどでは無い事、貴様のその体に教え込んでやる!!」

 「っ!」

 

 その時、孫堅はその場において、初めて彼女に気圧された。先ほどまでとは全く異質な、それで居てどこか凛とした気を纏い、その雰囲気を一瞬にして一変させた華雄に。

 

 

 

 それとほぼ同時刻。華雄と孫堅が戦っている場から遥か後方、連合軍の本隊よりもさらに後方に控え、輜重の防備を担当している袁術の天幕にも、汜水関前面での様子が逐一届けられていた。

 

 「では、伝令の方は間に合ったのじゃな?」

 「はい、お嬢様。さっき届いた知らせによると、現在文台さまとその華なんとさんって人が、“こちらの指示通り”に、見事までの激闘を演じておられるそうです」

 「華雄、でしょ、ったく。それにしても、やはり棗の配下を細かく配置しておいて正解でしたね」

 「そうですねえ。これだけ早く前線の状況が掴める状態にあれば、いざ何かあった時に対応が取りやすいですからねえ」

  

 棗こと魯粛がこの戦の為に選んだ草達は、まさしく優秀な者揃いであった。総大将である袁紹はもとより、他の連合参加諸侯にも一切気取られる事無く、前線と袁術の本陣とを素早く行き来し、刻一刻と変化する戦場の様子を、途切れる事無く報せて来るのである。

 

 「……裏社会を纏めるためには、情報の速さと正確さが何より一番大事な武器じゃと、棗の奴が前に言うて居ったが、この事がそれを裏付けておるの」

 「そーですねー。棗さんだったら、お嬢様を初めとしたみんなの、私も知らないような秘密を握っていたとしても、全然不思議じゃあないですねー」

 「……もちろんそこには、七乃ちゃんも含まれているでしょうね」

 「だーいじょうぶですよー。例え調べようとしても、私ほど裏表の無い人間は、大陸中何処を探しても居ませんからー」

 「……どの口がそれを言うのやら……」

 

 実際のところ、魯粛が袁術軍の個々人の秘密を、本当に握っているのかどうかについてはさておき。実は張勲、その草を通じて前もって汜水関の守将を務めている将達に、わざと少数で単独出撃をして孫堅の部隊と戦い、その彼女らが直接関攻めに参加しなくてもいい口実を作ってくれる様、そう依頼をしていたのである。

 

 その連絡を汜水関の張遼たちが受け取ったのは、遠眼鏡によって孫堅の顔を見た華雄が、頭に血を上らせて独断で出撃をしようとしているのを、楽就と周倉も合わせた三人がかりで、必死に押さえ込んでいるときだった。

 

 「……つまり、わざと文台殿の部隊に真っ向から喧嘩を売り、先鋒の中で一番数の多い孫軍の足を一点に留めることで、関の攻略を遅延させられるって言うことか」

 「さらにそうする事により、我らの繋がりが連合参加諸侯にばれる、その可能性も薄める効果も期待できる、と」

 「まさしく一石二鳥と言うやつなわけだ。ただその代り、そうと知らない劉玄徳と公孫伯珪の部隊には、少々気の毒な事にはなるが、まあそれも仕方ないことか」

 「……せやな。全部が全部、関攻めの手を緩めていたら、幾ら“あの”袁紹でも、不自然さに気付くかも知れへんしな」

 「……本当に、悪知恵が良く働くのだな、お前達の所の大将軍どのは」

 『……』

 

 華雄のその一言を否定することも出来ず、ただ顔を僅かに引きつらせながら、乾いた笑いをこぼす事しかできない、楽就と周倉の二人であった。

 

 

 

 とにもかくにも。

 

 そうして張勲から送られて来たその指示は、華雄にとって渡りに船だった事には違いなく、また張遼たちも、そういうことならばと華雄の出陣を認めることになり、関の守備兵一万五千の内、三千の騎馬隊を率いて華雄は関から出陣。孫堅の部隊に向かって一直線に進み、その戦端を開いた。

 一方その孫堅の方であるが、華雄の単独出撃を確認したその時には、彼女のその行動をただの暴走だと考え、適当にあしらえば良いだろうという風に考えていたのだが、そうしていざ行動に移ろうとしたまさにその瞬間、汜水関の張遼たちに届いたものと同じ内容の書簡が、孫堅の下にももたらされたのである。

 

 「なるほど、そう云う事なら納得いくか。蕈華、冥琳、さっきの通り、華雄(アイツ)の相手はあたしがしておく。その間、あんた達は奴の部隊を寄せ付けないようにね?」

 「はい、文台様」

 「分かりました、伯母様。上手い事、梃子摺って見せます」

 

 孫堅の姪である孫皎は、無類の用兵上手として、近年その名を高めつつある。曰く、『孫叔朗の部隊は精鋭である』、もしくは『孫叔朗の率いる兵こそ最強である』、という風評が、揚州を中心に広く囁かれている。

 そしてその風評に偽り無く、孫皎は周瑜とともに二万の部隊を手足の如く操り、僅か三千しか居ないはずの華雄の部隊を相手に、自軍に被害が出ないように気を配りつつ、それでも、誰の目から見ても負け戦にしか見えない風を、見事に装って見せていた。 

 

 一方の華雄隊の方であるが、孫堅との派手な一騎打ちを、文字通り演じて見せている華雄に代わり、隊を直接指揮しているのは、下士官の鎧を身につけ、華雄の部下としてこの場は振舞っている、張遼その人であった。

 

 孫堅と一対一で戦い、派手にその他の目を引きつける役目を負っている華雄に代わって部隊指揮に専念し、孫皎と周瑜の指揮下で見事に立ち回って見せている孫軍を相手に、彼女もまた見事な演技を兵たちに行なわせていた。

  

 「孫叔朗言うたか、あちらさんの指揮官は。いや、ほんまに噂に違わぬ用兵の手管や。負けを兵に演じさせるなんてこと、普通はなかなか出来るもんや無いやろうに、見事に演じてくれてるわ。……こりゃ、ウチも気張っていかんと」

 

 本音を言えば、張遼とて真っ向から相手に勝負を挑み、出来ることなら華雄の様に派手な一騎打ちを()っては見たい。

 だが、今の自分はあくまでも、華雄の部下の一下士官として、兵に損失を出さずに、二万の部隊と互角にやり合っている風を演じるのが、今の自分の役割なのだと。

 彼女は自分に、さらにそう言い聞かせつつ、部隊指揮へとその意識を集中し直す。

 

 己が胸中に燻り出している、武人としてのその本能を、自らの内へと強引に押し殺し、自分の本当の出番が待っている筈の、虎牢関撤退後のその瞬間だけを、ただひたすらに心待ちにして。

 

 そうして、水面下における董卓軍と孫堅軍の共闘作戦により、汜水関攻略は、当初連合側…というより、袁紹ただ一人が想定していた以上に遅々として進まず。

 袁紹以外の、裏で董卓軍と誼を通じている袁術は勿論除いた、残る参加諸侯であるところの曹操と馬超は、まあそれも当然のことだろうとは思いつつも、それでも、董卓軍のその予想していた以上の粘りぶりに、大きく感心をして居た。

 しかしそれと同時に、最前線にて関を果敢に攻め立てている、劉備と公孫賛、そしてたった三千の部隊に足止めをされている孫堅軍のその余りのふがいなさに、さしもの曹操も徐々に苛立ちを見せ始め、馬超にいたっては何時自陣を飛び出してもおかしくないほどに憤慨し、それを従姉妹の馬岱の制止によってどうにか押し留めていた。

 

 

 

 「おりゃあっ!!」

 「つっ!なんのなんの!!どれだけ気勢がマシになろうが、お前さん如きじゃああたしの相手にはまだ、百年早い!!」

 

 汜水関前面にて、未だに激しく武器を交し合っている、華雄と孫堅。一度はその大きな変化を見せた華雄の気勢に、思わず気圧されてこそしまった孫堅だったが、流石は江等の虎と呼ばれる希代の武人。それすらものともする事無く、先ほどまでとは打って変わった雰囲気を纏い、その動きにも鋭さの見え始めた華雄を相手に、まるで子供でも軽くあしらうかのような、余裕のようなものすら見せていた。

 

 「……ところで華雄。あたしらは、いつまでこうしていれば良いんだろうね?」

 「……張勲とかいう腹黒女の話では、適当に時間を稼げさえすれば、後は虎牢関で全てにケリを付けられる、との事だったが……私も、撤退の合図が何時送られてくるかは、聞き及んでおらん。判断は関に残っているあいつらに委ねてあるからな」

 「そうかい。ならもうちょいとばかり、お前さんに稽古をつけてやるとしようか……ねえっ!!」

 

 戦いの最中、鍔迫り合いの様な形を取ったところで、二人は小声でこの先の展開について短く言葉を交わすと、再び距離を取って戦闘を再開する。

  

 「稽古、か。……であるならば、その最中に何が起こっても、恨みっこ無しに出来るな、孫文台!!」

 「はっ!そいつはこっちの台詞さね!そっちこそ、なにがあっても化けて出てくるんじゃあないよ!!華雄!!」

 

 十合、二十合、と。何度と無く交わされていく、華雄の金剛爆斧と孫堅の南海覇王。もはや完全に、周囲の状況はお構いなし、といった風になりつつある二人。

 

 そして、それからさらに幾度か、二人の得物が交錯した、その時。

 

 「そこまで!そこまでや二人とも!!」

 「霞か!?撤退の合図が出たのか!」

 

 孫堅の部隊と戦う兵たちを指揮していたはずの、下士官鎧を着けた張遼が、突如として二人の間に割って入って来た。

 

 「そうやない!!いや、結果的にはそうなるんやけど、それよりもっと拙い状況になった!!」

 「なんだと?!一体何が……っ!?」

 「関を攻めてた劉と公孫の部隊が、消耗を理由にして後退したんや!けど、それより厄介なんが……っ!!」

 

 張遼が息を切らせつつ、現状をそう説明していたちょうどその時。華雄たちの耳に汜水関の方から、大音響で響き渡る鬨の声が聞こえてきた。

 その声を聞いて慌ててそちらを見やる彼女たちの目に飛び込んできたのは、関の上に高々と上がる『曹』と描かれた旗と、制圧した関から再び討って出て、華雄たちの方へと土煙と地響きを上げながら進んでくる、曹操軍のその姿だった。

 

 「なっ!曹孟徳の旗だと!?劉と公孫の二部隊がさっきまで梃子摺って居たのに、何でこうも容易く関が落ちる!?」 

 「それについては、後で樹と椛に直接聞き!それより、このままやったら逃げるに逃げれんくなる!!樹と椛が先行して、黄河の桟橋に船を用意してる!うちらも早うそこに合流するで!!」

 「ちっ!孫文台!この勝負ひとまずお預けだ!次に会う時までその首、預けておいてやる!!」

 「応ともさ。……そっちこそ、それまでに死ぬんじゃあないよ?」

 

 突如としてあっけなく曹操軍に制圧されてしまった汜水関を、忌々しげにその眼差しで見つめながら、華雄はそんな台詞を孫堅に対して叫び、張遼が乗る馬のその背にひらりと跨る。

 

 「おっしゃ。振り落とされんよう、しっかり掴まっとき?!せや、えっと、孫文台はん……やったな?この場でもう一つ、ウチから頼まれてくれへんか?」

 「ん?なんだい?」

 「ウチらのこと、曹操の軍に“混じって”、追っかけたってくれな?」

 「孟徳の所に混じって……かい?……!ああ、そういう事か。……分かった、うちの軍師と姪っ子にも、しっかりそう厳命しておくよ」

 

 に、と。白い歯を見せながら笑いつつ、孫堅に対してそう伝える張遼のその意図を、孫堅はすぐさま汲み取り、その様にして追撃すると返した彼女の顔は、どこか悪戯でもこれからするかのような、そんな子供じみた笑顔だった。

 

 

 

 それから暫くして、本隊の袁紹の下に曹操の手による汜水関陥落の報せが届けられると、彼女は一瞬だけ不愉快そうな表情をその顔を浮かべたが、その時そこに同席していた袁術と張勲の、その巧みなまでの誘導によってすぐにいつも通りの上機嫌に戻り、例の高笑いを始めていた。

 

 その後、連合軍は占拠した汜水関に入り、次なる関門である虎牢関を攻めるための、一時の休息を取る事になった。

 

 「……参ったのう。こうも容易く汜水が落ちようとは。予定ではもう二~三日、ここで引っ張るのではなかったかや?七乃よ」

 「そーなんですよねー。孟徳さんてば、一体どんな手を使って、こうもあっさりと関を落とせたのでしょうねェ?」

 

 汜水関は都である洛陽を守るための、関とは名ばかりの要塞とも言って良い、頑強な砦でもある。事実、劉備と公孫賛は中々関を抜くことが出来ずに、相当数の被害だけを出して撤退する羽目になり、連合内での立場をさらに小さなものにしてしまって居た。

 その彼女らに代わって関を攻撃した曹操は、そこで一体どんな手管を使ったのか、劉備と公孫賛があれほど梃子摺った関を、いともあっさりと抜いて見せてしまったのである。

 

 「まあ、孟徳どのがどんな手段を使ったのかは、おいおい樹くんたちから報せが来るでしょうから、この場で詮索するのはとりあえずおいておきまして。……問題は、これからどうするか、ですが」

 「そうですねえー。一刀さんたちが事を上手く運んでいれば、最後の手段が虎牢関に出て来てくれる筈……なんですけど」

 「それを前提にして動くにしても、もう少し、何とか時を稼がないと……。七乃、何か良い手は無いの?」

 

 洛陽の董卓の下に居る一刀達が、戦の前に張勲が立てた、例の策を見事成功させてくれる事を期待するにしても、やはりあと少しの時間が必要になるであろうと。紀霊はそう思って、張勲にその知恵を求める。

 それに対し、その張勲は少しの間その思考を巡らせた後、何時もの様にその右手の人差し指を真っ直ぐに立て、笑顔を持ってこう答えていた。

 

 「……それじゃあ次の虎牢関。私達は麗羽様と一緒になって、最前線へと出て行きましょうか♪」

 『……え?』

 

 ~続く~

 

 

 後書き

 

 ども。作者こと狭乃狼です。

 

 仲帝記の第二十羽、お届けいたしました。

 

 今回の後書き、娘’sたちはみんな揃って近場の温泉に行っているので、久々にボクだけで進行します。

 

 ・・・寂しくなんか無いんだから。くすん。

 

 それはさておき、今回はまず、華雄についての捏造からw

 

 冒頭部分のお話は、いわずもながなすべて、作者めの捏造(妄想ともいう)ですので、深いツッコミはなるたけ、ご遠慮願いたいですwwわがままでどーもスイマセンwww

 

 今回は華雄と孫堅さんの戦いをメインに進行しました。霞が脇役でごめんなさい。虎牢関ではその分、彼女にも活躍してもらいますけどね。

 

 あと、名前だけしか出なかった樹こと楽就と、椛こと周倉の、関防衛の部分に関しては、次回で触れますことをご了承ください。

 

 相変わらず、桃の子とハムさんの扱いがぞんざいですが、その二人も虎牢関攻めでは出番がある・・・はずですw

 

 それともう一点。今まで月と華雄の髪の色を、銀色として表現してましたが、今回から原作に近い薄紫色に変更した事、ご承知くださいませ。

 

 さて、次回は一旦、戦場から離れて洛陽に居る一刀達の話を、ご紹介したいと思います。

 

 都で彼らが何をしているのか、色々予想しながらお待ちください。

 

 あ、先読み出来てもコメしないでくださいね?w

 

 前回のコメで、今回の七乃さんの策、思いっきり読まれちゃって、もう、どうしたものかと悩みましたが、他に思いつかなかったので、そのまま進行としましたwww

 

 それではまた次回、第二十一羽にてお会いいたしましょう。

 

 再見~( ゜∀゜)o彡゜

 


 
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