No.361073

真・恋姫†無双~恋と共に~ #64.5

一郎太さん

約束は忘れた頃に守る。それが一郎太。

という訳で、遠い日に某犬と交わした約束を、今こそ果たす時が来たぜ!

どぞ。

2012-01-09 19:33:22 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:7078   閲覧ユーザー数:5464

 

 

 

#64.5 ―――セキトの大冒険―――

 

新都・長安。旧都に勝るとも劣らない歴史を持つ街の城門に、ひとつの影があった。

 

「………………」

 

影はひとつ、溜息を吐く。ここにはもう、戻っては来れないかもしれない。

 

「月殿、詠殿、伯和殿、ねね殿、そして……張々よ、世話になったな………」

 

ひとつ呟き、影は街に背を向ける。彼の言葉の意味を理解できる者は、ここにはいない。

 

 

「何処にいるのですかー!?」

 

宮廷の中庭で、周囲を見渡しながら声を張り上げる少女。

 

「張々も昼寝ばかりしてないで一緒に探すのです!このままでは恋殿が戻ってきた時に――――――」

「ばぅ……(達者でな、友よ……)」

 

少女の愛犬だけは、友の心情を理解していた。

 

 

 

 

 

 

あてどなく荒野を歩く………わけではなく、彼は必死に求める者の痕跡を追っていた。地面に鼻を近づけ、かすかに残った匂いを辿る。彼が追っているのは、主である少女ではなく、彼女の愛馬の匂い。主と共にその背に乗り、大陸を渡り歩いてきたのだ。それを忘れるわけもない。

 

「………とりあえずは東だな」

 

ひとつ呟き、彼は歩を進めた。

 

「――――――むっ?」

 

どれほど歩いただろうか。街から街を渡り、その街に棲む動物たちからエサを分けてもらい、旅を続けてきた彼は、その異変を感じ取った。

 

「南に向かっている……それも、走ってだと?」

 

主たちが任務を終えて戻るのならば、多少の誤差はあれど、東西にその痕跡はある筈だ。だが、荒野のとある場所で、その匂いは南へと進路を変えている。

 

「………」

 

彼は迷う。ひとまず、彼らがいたと思われる街へ向かうべきか、それともこの異変を追うか―――。

 

「よし…」

 

彼は、後者を選んだ。

 

 

 

 

 

 

「む?」

「くっ……!」

 

数日の時が流れ、とある川のほとりに辿り着いたところで、彼は出会った。

 

「………野良か」

 

自身の数倍はあったであろう張々の、さらに数倍の体躯を持つ白虎。彼もまた、川に口を突き入れ、水を舐めようとしていたところだった。瞬時に跳び退り、対峙しようとしていた彼の耳に、その言葉が聞こえてくる。自身を指して野良というならば、彼はきっと、誰かの飼い虎なのだろう。

危険はないと判断し、彼もまた川の水で喉を潤した。

 

「ふぅ、癒された」

 

自分が飲み終えてもまだ水を飲み続ける虎だったが、ようやく飲み終わったようだ。前脚で軽く濡れた顔先を拭うと、地面に腹這いになる。

 

「………お主、名前は?」

「俺か?俺は周々ってんだ。聞くって事は、お前も名前を持っているのか?見たところ、野良犬のようだが………」

「某はセキトと申す。故あって、主を探す旅の途中だ」

「ふぅん…主、か………」

 

セキトの言葉に、周々は眠たそうに呟く。その響きに何かを感じ取り、セキトは問うた。

 

「む?お主は誰かに飼われているのではないのか?」

「まぁ、エサを貰っているという意味では、飼われているがな。だが、俺に主はいない」

「どういう意味だ?」

 

セキトは問いを重ねる。

 

「ふん、エサを貰えるから一緒にいるだけだ。………まぁ、シャオが危険に陥った時は助けてやる事もやぶさかではないがな」

「?」

 

犬とネコ科の動物の違いであろう。だが、セキトは犬であるが故に、その意味を理解できない。そして至った解が、

 

「なるほど、お主はつんでれという奴だな」

「なんだ、それ?」

 

主たちから学んだ形容だった。

 

 

 

 

 

 

水辺の涼しい風を浴びながら、ただただ休む。そうしてしばらくした頃。

 

「周々ー!どこに行ったのー?」

 

少女の声が聞こえてきた。

 

「呼ばれているぞ」

「そうだな…」

 

セキトの言葉に周々は面倒くさそうにぼそりと零し、そして立ち上がった。

 

「うちの姫様に見つかったら、何かと絡まれるだろう。俺はもう行く事にする」

「そうか。気をつけてな」

「見た目で得をしているからな。俺に挑もうとする奴なんていないさ」

「いや、昔はいたけどな……」

「?」

 

かつて南方の密林で食べた大蛇を思い出す。あれほどの大きさがあれば、この周々とてひと呑みにされるだろう。そんな思考など露知らず、周々は声のする方へと戻っていくのだった。

 

「さて、某も行くとするか………む?」

 

セキトも立ち上がったところで、地面に落ちているものに気がついた。

 

「………肉?」

 

見れば、干し肉の欠片が3つほど地面に落ちている。つい先程まで白虎が寝そべっていた場所だ。

 

「ふん、味な真似を………いつか恩を返しに行かねばな………」

 

そんな事をブツブツと呟きながら1枚を腹に納め、残りの2枚を咥えて、セキトは歩いていく。目指すは西だ。

 

 

 

 

 

 

さらに月日は流れる。人間の定めた地名など知る由もない。ただただ主と愛馬の匂いを追い、4本の脚を動かす。

そうして彼は、ひと際大きな街に到着した。

 

「………ふむ、月殿のいたところにも負けぬくらい栄えているな。この辺りならば、エサも十分にあるだろう」

 

往来は人の通りで溢れ、自分のような小さな身体など、見向きもされないだろう。

彼は道の両脇に林立する家屋や店の建物の壁際を歩きながら、その匂いを追った。そして――――――。

 

「はーっはっはっは!」

「む?」

 

どこかで聞いた事のあるような高笑いに出会った。

 

 

 

 

 

 

「そこの野盗崩れ共!かような幼き少女を人質に取るとは、何事だ!」

「ううううるせぇ!テメェには関係ねぇ!!」

 

視線を上げれば、人垣。どうやら、声の主は人の群れの先にいるようだ。

人々の足の隙間を縫って、彼は前へ進む。そして、見た。

 

「うえぇぇん!おかーさーーん!」

「うるせぇぞっ!」

「あ、あれはっ……」

 

彼の視線の先には、剣を持った大男。その切っ先は、左腕で抑えた少女の首元に突き付けられている。だが、セキトが見ているのはそちらではなかった。

 

「ふん、人質を取らねば行動に移れぬか。だから貴様は賊にもなれぬのだ」

「うるせぇ!いいから金と馬を持ってきやがれ!」

 

そして、男と対峙している女性。白い衣装を身に纏い、手には紅い槍を構えている。うなじで結ばれた青い髪は一筋の軌跡を残して女性の後頭部へとつながり、その顔は、何故か蝶を模した仮面によって隠れていた。だが、セキトが見ているのは、そちらでもない。

 

「璃々殿……」

 

そう、彼が見ていたのは、男に捕らえられた少女だった。彼は覚えている。かつて主たちと旅をしていた頃、彼女と出会い、ヒゲを引っ張られた事を。

 

「………」

 

彼は忘れていない。無垢な少女に尻尾を掴まれ、ぐいんぐいんと振り回された事を。

 

「………………」

 

トラウマにも似た記憶に、彼は思わず後ずさる。だが、彼の矜持がそれを許さない。自分の主たちは、困っている者を見捨てるような人間ではなかった。その優しさに触れ、仕え、だからこそ、こうして長い間旅を続けてきたのだ。

 

「ふっ…なるようになるか………」

 

自嘲にも似た溜息を零し、セキトは飛び出した。

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁっ!?」

「ぐるるるる………」

 

少女を人質に取っていた暴漢が、苦痛の呻きを上げる。その足元には、低い唸り声を上げる犬。

 

「よく分からんが、ぐっどだ!はぁっ!!」

「ぐはっ!?」

 

そして、それを機と見た蝶の女は飛び出し、槍の石突で男の顎を跳ね上げた。

 

『――――――――――――』

 

男が倒れると同時に上がる、観衆の声。

 

「ふむ…野良犬の癖に、いい動きだったぞ」

「わふっ………?(それほどでもない。我が主たちに比べたらな………む?)」

 

と、観衆に手を振り、そして先ほどの一助となった自分の頭を撫でるその手に、彼は気づいた。

 

「わふぅ………(この匂い…まさか……)」

「なかなかやるな。どうだ、このまま某と共に、華蝶の道を進まぬか?………と言いたいところだが、某にも待っている人がいるのでな」

「わんっ!(そんなことより!)」

「そうか、残念に思うてくれるか。だがすまない。某は消えるとする。街の警備隊も来たようだしな」

 

最後にセキトをひと撫ですると、仮面の女は屋根の上に飛び乗り、姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――路地裏。

 

「ふぅ……どこの街にもくだらぬ事をする者はいるのだな」

 

屋根からひとつの影が舞い降り、そして言葉を洩らす。

 

「やはり、この仮面は掘り出し物だな。風は五連者などと言っておったが、やはりこの意匠の方がしっくりくる。うむうむ」

 

顔から外した仮面を満足気に眺める彼女は、そこで小さな気配に気づいた。

 

「………おぉ、先ほどの犬ではござらんか。どうした?」

「わんわん!(つかぬ事を聞くが、お主の服から漂う匂いは、一刀殿と風殿のものではないか?)」

「何を言っておるか分からんな……」

「わふっ………(くっ……人間の言葉を喋れない自分が恨めしい………)」

 

犬が洩らす鳴き声の意味を、彼女は理解できない。

 

「――――――ふむ」

 

項垂れる犬を見て、彼女は何かを思いつく。直立のまま腰だけを曲げて、両手にセキトを抱え上げると、その顔を自分の目の高さまで上げ、そして問うた。

 

「ここで出会ったのも何かの縁だ。お主さえよければ、某と共に来ぬか?」

「………わふっ(………一刀殿たちの匂いがあるという事は、お主も彼らと縁があるのだろうな)」

「どうだ?」

「………………わんっ!(………………そうだな。璃々殿と共にいるのもよいが、主がこの街に来るという保証もない。なれば、お主の旅に付き合うのも一興かもしれぬ)」

「そうかそうか。では、参ろうぞ。目指すは益州だ」

 

女性は器用にセキトを肩に乗せ、セキトもまた、その肩の上で器用にバランスをとっている。

 

「どうせ荊州にも戻ってこようが、ただ待つだけを良い女とは言わぬ」

「わふっ(まったくだ)」

「なれば、益州へと馳せ参じ、愛紗と鈴々の見せ場をもらってしまうのも、また面白い」

「わふぅ…(お主もなかなかに歪んでいるな…)」

「では、行くか」

 

こうして、セキトは新しい手掛かりを手にするのだった。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

「セキトを…はなせ………ふっ」

「呂布だとっ!?」

「わんっ!?(あ、主っ!?)」

 

益州へと辿り着いた趙雲が、恋に勘違いされて斬りかかられるのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

はい、予告通り、今日2本目です。

まぁ、あんまキャラが出て来ないので、64.5といった感じです。

 

約束は守ったぞ、ヒトヤ犬!

 

ではまた。

 

バイバイ。

 

 

 


 
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