No.361007

即興話B

青汁さん

Bestrew.

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2012-01-09 17:38:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:386   閲覧ユーザー数:386

 降り積もる雪。白銀の大地。

黒すら飲み込んでしまうそれ。

夢の奥底に眠る現への願望を白に染めて、悠遠と刹那の扉を閉ざす。

 

「濁り嘆く空の心のうた。最愛の大地を犯し穢すしらべ」

 

 軽やかに手を広げて、身に纏う空気の重圧を示す。

囚人の鎖。本来手足の枷になるそれ。しかし今は、その身体全てに巻き付いているかのようで。

望んでいない。望まなかった。

 

「天にある者が天に唾吐く。あらゆる事象の結末と因果を知りながら尚」

 

 そうせずにはいられなかったのだろう。

例え自身で自身を汚すことになろうとも。その結果をようく知っていたのだとしても。

空の向こうにいる「彼」は、あまりにも無責任であるから。

 

「起因する……私は魔王」

 

 いい加減、独白を待つ彼女の相手をしなければならなかった。

彼女はやつれた顔で、片手に剣を握りしめている。けれど瞳だけが、凛と輝いていた。

この世界に於ける存在意義を知っていて、それに疲れていて、けれど果たすことしか知らない。

無知。傲慢の象徴であると同時に、無垢と純粋の証明。

枷を外すという選択肢自体が、内的宇宙に存在しない。

 

「この世界を混沌で満たし揺蕩う海に導く指揮者。奏者はあらゆる存在、音は悲鳴」

 

 きっと無感動な感嘆を齎す。

 

「――終焉の戦いをしよう、英雄の姫様」

 

 雪原に立つふたりを終わらせる戦い。ひとりは死に、ひとりは存在意義が死ぬだろうから。

英雄も魔王もこの戦いが双方を殺すものになると気付いていた。

気付いていたが、英雄が英雄たりえる為には、今いる足場から飛び降りるわけにはいかない。

魔王は、例え何があろうと魔王として座すこと以外の権利を持たない。

ならば。

 

「初めまして、魔王さま。突然ですけれど、死んで下さい」

 

 乱れる呼吸。否。最初から乱れっぱなし。

枷が自律の意志を持って英雄の腕を動かす。銀に濡れた剣の先が、魔王を指す。

 

「この世界が平和である為に」

 

 献身的。

 

 一つ問うてみようと、世界を滅ぼすものは思う。

無垢な娘にひとつの悪戯と、悪知恵を。汚物に塗れた人生の先輩として、

ほんの少しばかり教えてやろうかと。

あらゆる枷の破壊という選択肢を。

 

 魔王にできるのは、それだけ。

 選び取るのは、英雄の役目。


 
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