No.356124

本編補足

根曲さん

・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。

2012-01-01 10:36:10 投稿 / 全12ページ    総閲覧数:318   閲覧ユーザー数:314

反逆のメイド

C1 反乱のすゝめ

C2 ヴァルクスの天空“姫”( てんくうき)

C3 ささやかな贈り物

C4 打倒ロズマール共和国

C5 下らない意地

C6 叱責

C7 本腰

C8 派遣行政官を討て

C9 長ネギ

C10 思い、果て

C1 反乱のすゝめ

 

ヴァルクス市、ファーゲンの酒場。扉のきしむ音。酒場の一同、扉へと視線を送る。メイド服に身を包んだキルカニュティスが堂々と歩き、カウンターの椅子に腰を下ろす。隣席の女性が眼を見開いて固まっている。

 

ヴァーテン『ご注文は?』

 

キルカニュティスはヴァーテンの問いに、メニューをさっと眼で追い答える。

 

キルカニュティス『…ミルクを。』

 

奥の席より、酔っ払いが卑下た笑みを浮かべてキルカニュティスに近づいてくる。

 

酔っ払い『おいおい、譲ちゃん。ここは子供がくるところじゃねえんだ。家に帰って自分のおっぱいミルクでも飲んでな。ヒッヒ、けっど、なかなかの巨乳じゃね~か。ここはおいちゃんが子供から卒業…』

 

キルカニュティスはその乳房に延ばされた酔っ払いの手を払いのけ、立ち上がる。

 

キルカニュティス『ゲルイズ殿!ゲルイズ殿はいるか!?元ロズマール王国国王直属天空騎士隊長ゲルイズ殿だ!』

 

張りのある大声に酒場内は静まりかえる。しばらくして、酒場の奥から声がする。

 

ゲルイズ『おおぅ!俺がゲルイズだ!!』

 

キルカニュティスは酒場の奥へ駆けていく。彼女の眼に映えるもの、上着をはだけさせ、7、8人の女を侍らせる浅黒い肌をし、灰色の口髭と顎鬚を蓄える初老の男。彼は両脇の女の胸を揉んでいる。キルカニュティスは顔を赤らめ、眼をそらす。ゲルイズは顎鬚をさすりながらキルカニュティスを眺める。

 

ゲルイズ『ほぅ、これはこれは珍しい。見知った服装だと思ったら、元国王直属のメイドだな。』

 

ゲルイズは顎をあげ、女達は連れだってその場を去る。キルカニュティスの拳は震え、再びゲルイズの方を向く。そして、ゲルイズに近づくと握った拳を手前の机に振り下ろす。

 

キルカニュティス『ゲルイズ殿!あなたはこの様な生活をしていて恥ずかしくはないのですか!!ゴラ殿は仇討ちを決行したというのに!!』

 

ゲルイズは眼を大きく見開き、ソファの背もたれに左のひじをかけてキルカニュティスの方に右手を差し出す。

 

ゲルイズ『威勢のいい嬢ちゃんだな。ま、座りな。』

 

キルカニュティスは立ってゲルイズを睨みつけている。

 

ゲルイズ『おいおい、俺だって好き好んでこんなところにいるわけではない。こういった場所には情報と色々な輩が集まるからな。これもその為よ。』

 

キルカニュティスの表情は解かれ、勢いよくゲルイズに向けて頭を下げる。

 

キルカニュティス『あ…そ、そんな事とは露知らず申し訳ありません!!!』

 

ゲルイズの差し出された右手。キルカニュティスは深く頷き、ゲルイズの傍らに座る。

 

ゲルイズ『ま、気にしなさんな。』

 

キルカニュティスはゲルイズの側へ寄る。

 

キルカニュティス『ヴァルクス市はロズマール共和国が派遣したアクスルッツとハブノーニル兄弟は独自の情報統制により、自分達の気に入らない、罪の無い人々を惨殺しております。』

ゲルイズ『ふ~ん。確かに…そこら中に官憲がウヨウヨいるからな~。ガハハハハ、俺もよく注意を受けるぜ。もっとも、そ…』

 

ソファのきしむ音。キルカニュティスは立ち上がり、腕を振る。

 

キルカニュティス『この様な悪政を許しておいていいのですか!我々は今すぐにでも立ち上がるべきです!共和国の圧政を打ち破り、ロズマール王国を再建する為に!』

 

顎鬚を撫でながら、ゲルイズの瞳はキルカニュティスを捉える。

 

ゲルイズ『ところで嬢ちゃんの名前はなんていう?』

キルカニュティス『キルカニュティスと言います。』

 

ゲルイズはアゴをさすり、瞳をカウンターの方に向け、すぐにキルカニュティスの方へ向ける。

 

ゲルイズ『キルカニュティスねぇ、なかなか面白い話だ。』

 

キルカニュティス大きな音を立てテーブルの上に両手を置き、顔をゲルイズと眼と鼻の先まで近づけて彼の瞳を見つめる。

 

キルカニュティス『では!!』

ゲルイズ『ああ、もちろん。』

 

ゲルイズはキルカニュティスに手錠をかける。キルカニュティスは手錠をかけられた自身の手とゲルイズの顔を何度も見る。

 

キルカニュティス『えっ、あ…ゲ、ゲルイズ殿!!な、何をなさる!こ、これは…。』

ゲルイズ『よし、反乱分子の逮捕だ。よし、歩け!』

 

酒場を包む静寂の中、キルカニュティスはゲルイズに引っ張られて行く。

 

C1 反乱のすゝめ END

C2 ヴァルクスの天空“姫”( てんくうき)

 

ヴァルクス市庁、アコビの塔のゲートに大型トレーラーが現れ、警備兵Aが停止するトレーラーに駆け寄る。トレーラーの運転席から顔を出すサングラスをかけたゲルイズ。警備兵Aは眉を顰める。

 

警備兵A『ゲルイズ殿…今日は非番では?』

ゲルイズ『ああ、そうだが。大物を釣り上げてな。』

 

ゲルイズは親指でトレーラーの荷台を指す。警備兵Aは荷台と運転席の間を往復する。

 

警備兵A『…これは人型機構??しかし、この女性を模ったようなフォルムは見たことが無い…。』

ゲルイズ『はは、そうだろ。イレジスト王の性癖だな。前に捕まえたメイドが隠し場所を吐いてな。ムメイサクラ級という名らしい…。』

 

警備兵Aは顎に手を当て、下を向く。

 

警備兵A『サクラ?サクラといえば…シーン皇国の国章の花…。』

ゲルイズ『まあ、俺はこのまま兵舎に行く。後で取りに来ていくらでも調べればいいさ。』

 

トレーラーが少し進む。

 

警備兵A『待たれよ!』

 

ゲルイズは運転席から顔を出す。

 

ゲルイズ『何だぁ?』

 

警備兵Aはゲルイズの方へ駆け寄る。

 

警備兵A『まずは行政官殿に面会と報告を済ませてから!それまではトレーラーはここに置いておいてもらおう。』

 

ゲルイズは舌打ちする。

 

ゲルイズ『大猫ちゃん達は俺に会いたくてたまらないらしいな。』

 

ゲルイズは両腕を広げる。

 

ゲルイズ『それとも俺がこのでかいダッチワイフと何かするとでも?』

 

警備兵Aはゲルイズを睨みつける。

 

警備兵A『ともかく、貴公は…。』

 

銃撃音。警備兵達は左右に首を振り、最後にアコビの塔を見上げる。ゲルイズは警備兵達の方を向く。

 

ゲルイズ『派手に歓迎してくれるらしいじゃねえか。』

 

ゲルイズは荷台に置かれているムメイサクラ級人型機構を見る。

 

ゲルイズ『なぁ、キルカ!』

 

トレーラーからムメイサクラ級人型機構が起きあがる。そして、アコビの塔に飛び上がる。下では反乱軍が警備兵達を取り囲む。

 

アコビの塔最上階。窓の中の耳を抑えたアクスルッツがムメイサクラ級人型機構を指さす。ムメイサクラ級人型機構はそれ目掛け、自機の大艦刀を振り下ろす。大艦刀は弾かれ、アクスルッツを抱えたハブノーニルは窓の外に飛び出た後、ムメサイクラ級人型機構の装甲を蹴る。

 

ムメイサクラ級人型機構のコックピットが開き、メイド服に身を包んだキルカニュティスが現れ、彼らに切りかかるが、ハブノーニルはその剣撃をかわして、屋上に消えていく。上空より落ちる声。

 

ハブノーニル『兄上、そ、空飛ぶ人型機構ですぞ。』

アクスルッツ『み、見れば分かるわ!!』

 

執務室の扉を蹴り破り、ゲルイズの娘アナが反乱軍の者たちを数人引き連れなだれ込む。アナはキルカニュティスの方を見て腕をあげると背後の反乱軍兵士達は静止する。

 

アナ『首尾は?』

 

キルカニュティスはコックピットに入る。

 

キルカニュティス『取り逃がした!すぐに後を追う!』

 

アナは眉を顰めてコックピットのハッチが閉じるキルカニュティス機を見る。

 

アナ『何をやってんだ!』

 

アナと反乱軍兵士達は窓へと駆けよって上を向く。高速輸送機バガシュが上空を飛んでいく。舌打ちするアナ。

 

ゲルイズの乗るエビ戦闘機がキルカニュティス機の手前に停止する。ゲルイズはキルカニュティス機に向かって、口を動かしながら手で自機の手前のヒレの部分を指さす。キルカニュティス機は頷き、ゲルイズ機のヒレの部分に両足を据える。

 

キルカニュティス機はバガシュに向かい階段状の編隊を組むゲルイズ率いる天空軍のエビ戦闘機のヒレの部分を一機一機蹴って駆けあがり、大艦刀を振り下ろす。大艦刀は格納庫に突き刺さり、キルカニュティス機はその上を駆けて行く。破壊されたバガシュの格納庫から青いパラディンヴェルクーク級人型機構が現れ、格納庫の端を掴むとバガシュの格納庫の上に飛び乗る。

 

キルカニュティス機は腰部の鞘から短刀を抜き構える。剣を構える青いパラディンヴェルクーク級人型機構。両者は切り結ぶ。押されるキルカニュティス機。ゲルイズ機が放ったミサイルがバガシュの右の翼に命中する。バガシュがバランスを崩し、青いパラディンヴェルクーク級人型機構とキルカニュティス機を振り落とす。

 

転落する青いパラディンヴェルクーク級人型機構。キルカニュティス機の背部のブースターから火が噴き出、前進するとバガシュの壊れた格納庫の端を掴む。

 

コクピットから出たハブノーニルはゲルイズ率いる戦闘機部隊の集中砲火を受け、眼球が潰れ、顔面が割れる。引き裂かれた肉体は乗機の爆発によって肉片となり、大気中に四散する。

 

キルカニュティス機はバガシュの上に飛び乗ると大艦刀を引き抜く。そしてコックピットに駆けよるとそれを突き刺す。引きぬかれた大艦刀の切っ先は赤く彩られる。キルカニュティス機はバガシュを蹴って、後ろへ飛び、バガシュは煙を立てながら森の奥へと木々を押し倒しながら進み、爆発する。

 

ゲルイズ機のヒレの部分に両足を乗せるキルカニュティス機。ゲルイズ率いる天空軍はゲルイズ機を先頭に三角形の編隊を組みながらアコビの塔へ現れる。

 

アコビの塔を埋め尽くす人だかり。キルカニュティス機はアコビの塔3階の屋根に降り立つ。コックピットが開き、キルカニュティスが出てくる。

 

民衆達『ヴァルクスの天空姫万歳!!』

 

キルカニュティスは胸に手を当て、顔を赤らめて一歩下がり、コックピットの方を向く。

 

民衆達『ヴァルクスの天空姫万歳!!!』

 

しばらくして、キルカニュティスは頷くと再び大衆の方を向き、剣を鞘から抜くと天に掲げる。

 

民衆達『ヴァルクスの天空姫万歳!!!!』

 

歓喜の声がアコビの塔の庭を埋め尽くす。その後ろに築かれている銃痕が残る血まみれの死体の山。

 

C2 ヴァルクスの 天空“姫”( てんくうき) END

C3 ささやかな贈り物

 

アコビの塔最上階執務室。ゲルイズ、その横にアナとキルカニュティスと兵士多数は窓から下を見る。アコビの塔の庭に15台のトラックと黒いリムジンが止まる。リムジンの運転手が降りてリムジンの後ろに回る。運転手がリムジンの扉を開くとエグゼニ連邦の商業連合代表で蛙人のカエルサルが降り、腰に手を当ててアコビの塔へと入っていく。その後ろを手前のトラックの荷台から数十人の黒い布を被せた台車を引く従者たちがついて行く。キルカニュティスがゲルイズの傍による。

 

キルカニュティス『…あの随分と立派な蛙人は?』

ゲルイズ『エグゼニ連邦からの厄介な客人だ。』

 

ゲルイズは窓に背を向ける。

 

ゲルイズ『文句でも言いに来たのだろう。用心しておけ。』

 

キルカニュティスとアナ、兵士達は頷く。ゲルイズは執務室の椅子に腰かける。キルカニュティスとアナはその両脇に立つ。兵士達数人が隣の部屋に行き、他の兵士達は正面の扉から出て行く。

 

エレベーターの音が鳴り、靴音と車輪が動く音が近づく。執務室の扉が開き、カエルサルが黒い布がかぶせられた台車を引く従者を十数人を引きつれて入ってくる。

 

カエルサル『おお、これは随分と壮麗な。短期間のうちに襲撃した場所をこのように修復する手腕はなかなかですな。ゲルイズ殿。』

 

カエルサルはゲルイズに向かい一礼する。

 

カエルサル『おっと、申し遅れました。私エグゼニ連邦商業連合代表カエルサルと申す者でございます。』

 

カエルサルはゲルイズに近づき、名刺を取り出して彼に渡す。

 

カエルサル『このたびは誠にヴァルクス国設立おめでとうございます。』

 

ゲルイズは眉を顰め、カエルサルを見つめる。

 

ゲルイズ『おめでとうございます?内心不服では無いのですかな。元々ヴァルクス市はそちらエグゼニ連邦港湾23都市の一角。そこを占拠しているのがロズマール王国の敗残兵。それに港は無いが空運に優れた陸上の要所。そちらにとって収益源の一つでは?』

 

カエルサルはゲルイズをしばらく見つめた後、満面の笑みを浮かべる。

 

カエルサル『フヒャヘッ、そんなことはございませんよ。プライド等で商売なぞでませんからな。それより我がエグゼニ連邦商業連合からのささやかな贈り物があります。』

 

カエルサルが手を叩く。台車の布が剥がされ、山積みにされた金塊が現れる。太陽の光に照らされ、それは金色の輝きで執務室を染める。アナは喉を鳴らし、眼を大きく見開いて一歩前に出る。

 

ゲルイズ『これは…。』

 

ゲルイズはカエルサルを見つめる。

 

ゲルイズ『これはどういった腹づもりか?』

 

カエルサルはゲルイズから眼をそらし、天井の右上を見つめる。

 

カエルサル『腹積もり?』

 

カエルサルはゲルイズの方を向く。

 

カエルサル『さあて、何のことやら。我々はヴァルクスの天空姫殿に感銘を受け、祝辞と贈り物を届けに来たものですからな。』

 

カエルサルはキルカニュティスに近づく。

 

カエルサル『この方が天空姫殿ですな。メイド服に身を包んで姫とは…確かに良い容姿と気品に満ち溢れておられる。』

 

キルカニュティスは顔を赤らめる。アナは自分の胸を両手で触り、眼を細め、口をへの字に曲げてキルカニュティスの方を見つめる。

 

カエルサル『この御時世において主の仇討と王国の再興、立派な志をお持ちですな。応援しておりますぞ。』

 

カエルサルはキルカニュティスの手を握り、撫でる。

 

キルカニュティス『あ、ありがとうございます。』

カエルサル『贈り物はこれだけではございませんよ。』

 

カエルサルはゲルイズの正面に立つ。

 

カエルサル『外のトラックの荷台の物も含めてですな。まあ、入りようがあれば今後ともよしなに。』

 

カエルサルは一礼し、従者を連れて扉から出て行く。

暫しの沈黙。

エレベーターの音がした後、ゲルイズが口を開く。

 

ゲルイズ『似ても焼いても食えないぐらい不味そうなカエルだな。』

 

窓の外のリムジンの後ろの扉を運転手が開け、乗込むカエルサル。運転手が運転席に乗り、アコビの塔の庭から出て行く。手前のトラックは従者とトラックの運転手を乗せてそれに続く。

 

ゲルイズ『さて、贈り物の包装を破るとするか。』

 

ゲルイズは立ち上がり、執務室の扉から出て行く。続くキルカニュティスとアナ、その他兵士達。エレベーターの音が鳴り、ゲルイズ達がトラックに駆け寄る。トラックの荷台の扉を開けるゲルイズの眼に大量の武器弾薬が映りこむ。

 

キルカニュティス『…これは。』

ゲルイズ『…あのオトボケ蛙め。この物騒でささやかな贈り物がエグゼニ連邦の意向ということだな。』

 

C3 ささやかな贈り物 END

C4 打倒ロズマール共和国

 

アコビの塔執務室。ヴァルクス国兵士数名と椅子に座るゲルイズ。扉が開き、キルカニュティスが入ってくる。

 

キルカニュティス『お呼びでしょうか。』

 

ゲルイズは椅子から立ち上がり、両手を広げる。

 

ゲルイズ『おお、来たか。客人を待たせてある。すぐに付いてきてくれ。』

 

キルカニュティスは眉を顰め、ゲルイズを見る。

 

キルカニュティス『客人?サージェン軍曹からの情報によれば既にロズマール共和国の偵察部隊が我が領内に侵入しているということ…。それを撃破してからでも…。』

 

ゲルイズは執務室の窓に寄る。

 

ゲルイズ『それには娘が対処する。心配はいらんさ。』

 

ゲルイズはキルカニュティスへ向けて手招きする。キルカニュティスはゲルイズの傍により、窓から下を見る。アコビの塔を取り囲む大量のテレビカメラとリポーターと聴衆達。

 

キルカニュティス『これは…。』

ゲルイズ『ロズマール共和国への宣戦布告の演説だ。』

 

ゲルイズはキルカニュティスに背を向ける。

 

ゲルイズ『ついて来い。キルカにゃ手伝ってほしいことがあるんでな。』

 

アコビの塔3階の屋根に降り立つムメイサクラ級人型機構。大艦刀の柄の上に乗るマイクを持つゲルイズ。

記者と聴衆、テレビカメラは総じて上を向く。

 

ゲルイズ『ロズマール王国復興を願う我らヴァルクス国にキルカニュティスという女神が降り立った!』

 

キルカニュティスはコックピットを開け、顔を真っ赤にしてゲルイズを見る。

 

キルカニュティス『ゲ、ゲルイズ殿…。わ、私はただの国王直属のメイドです。それを女神等とは…。』

ゲルイズ『いいんだよ。パトロンと協力者を得るためにはこうする宣伝の方が手っ取り早い。』

 

ゲルイズは記者達の方を向く。

 

ゲルイズ『我が故郷に蝙蝠が降り立ち、各地に内政干渉と腐敗をばら撒いている!現にヴァルクス市はエグゼニ連邦にもかかわらず行政官が送られ、その暴力的な政治により何人もの罪のない者が殺された!共和国は驕り、各地へとその権力を拡大させている。これでは対ロズマール大戦の時と同じではないか。あの悲劇的な戦争を再び引き起こさせない為にも我々はロズマール共和国を討たなければならない。加えて、貴族の虐殺。もはやロズマール共和国に正義は無い。我々は共和国を王国として正すことにより、不正と不徳、増長に染まった我らが故郷を正す!!』

 

聴衆からの歓声。

 

C4 打倒ロズマール共和国 END

C5 下らない意地

 

ヴァルクス国シュヴィヌの森。バロタ級輸送艇3機を真ん中に編隊を組むロズマール共和国軍戦闘機。

 

ゲルイズ『サージェン軍曹の情報は確実だな。よし、これより奴らを攻撃する!』

 

ヴァルクス国兵士達はエビ戦闘機に乗り込む。木の葉が舞い散り、ムメイサクラ級人型機構が飛び上がる。バロタ級輸送機の高さまで飛び上がると大艦刀を振り回し、護衛の戦闘機数機とバロタ級輸送艇全てを破壊する。

 

ロズマール共和国軍の残りの戦闘機はムメイサクラ級人型機構に向け、方向転換するが飛来したエビ戦闘機の攻撃を受け、森林を破壊しながら進み、爆散する。

 

木の葉と鉄屑が舞い落ちる中にムメイサクラ級人型機構がエビ戦闘機のヒレの部分に着地する。ムメイサクラ級人型機構は腕組みをして落ちた輸送機に群がる仲間のエビ戦闘機の方を向いている。

 

キルカニュティス宅庭に降り立つムメイサクラ級人型機構。コックピットが開き、キルカニュティスが現れる。駆けよるメイドと執事達。

 

メイドA『キルカニュティス様。お仕事お疲れ様です~。』

 

メイドAはキルカニュティスの腕を掴む。

 

キルカニュティス『あ、ああ。』

 

メイドBが門の方を指さす。

 

メイドB『あの、キルカニュティス様。アンセフィムからの使者と名乗る者が先程から門の所で…。』

 

キエウカニュティスは門の方を向く。

 

キルカニュティス『アンセフィムからの使者…。』

 

門の前に立つホビットのトルバドルはキルカニュティスの方を向き、一礼する。キルカニュティスは彼の方へ近づく。

 

キルカニュティス『アンセフィムの使者が私に何用だ?』

 

ホビットのトルバドルは書簡を取り出す。

 

キルカニュティス『それは?』

トルバドル『アンセフィム様から託された書簡であります。どうぞ、お読みを。』

 

ホビットのトルバドルが書簡をキルカニュティスへ渡す。キルカニュティスの眼は大きく見開かれ、書簡を持つ両手は時が経つにつれ酷く震える。キルカニュティスは立ち上がり、トルバドルの方を向く。

 

キルカニュティス『貴様!!アンセフィムはイレジスト王がオンディシアン教国の暴挙を抑えるために出陣要請をしたというのによりにもよってガギグルスや元老院と手を結び、王を攻撃した逆賊ではないか!!それが今更何を!!今更!!!』

 

キルカニュティスは書簡を破り、トルバドルを睨みつける。トルバドルと従者の顔は青ざめ、汗が顔中から噴き出す。キルカニュティスは敗れた書簡を握って丸め、トルバドルに投げつける。

 

キルカニュティス『出て行け!ここから出て行け!!!!』

 

トルバドルは床に散らかった書簡をかき集め拾い上げると駆け去っていく。

 

トルバドル『お、覚えていなされよ!きっと後々この事を後悔することになるでしょうぞ!!』

 

キルカニュティスはトルバドルの方を向いて立ちつくすが、暫くして崩れ落ちる。

 

キルカニュティス『イレジスト国王…。』

 

キルカニュティスはポケットから写真を取り出し、それを見つめる。彼女の頬から一筋の涙が煌めきと共に落ちる。

 

C5 下らない意地 END

C6 叱責

 

アコビの塔執務室。机に座るゲルイズ。その側にアナ、ヴァルクス国兵士多数。ゲルイズの前にキルカニュティスが立つ。

 

ゲルイズ『昨日の件についてだが、なぜ呼び出されたか分かるな。キルカ。』

 

キルカニュティスは一歩前に出る。

 

キルカニュティス『アンセフィムは逆賊です!そして我が主の仇敵の一人!到底…そんな輩と手を組むことは到底できません!』

ゲルイズ『俺達の第一の目的は王国の復活だ。仇敵だろうと何だろうと利用しなくてはいけない。ロズマール共和国とヴァルクス国の規模は天と地の差だ。分かるな。』

 

キルカニュティスは口を噤み、ゲルイズを見上げる。

 

ゲルイズ『…不服そうだが、俺たちは俺たちに付いてきてくれる部下の命を預かっている身なんだぞ。』

 

キルカニュティスは眼を開き、口を開けて小刻みに震えると俯く。

 

ゲルイズ『問題はお前がアンセフィムからの使者が来たというのに俺を呼ばなかったこと。そして、アンセフィムとの関係をどうするかを皆の意向を無視して勝手に決めたことだ。もし、襲撃でもされたらどうする。』

キルカニュティス『申し訳ありません…。』

 

ゲルイズの傍らに立つアナは腕組みして口を開く。

 

アナ『謝って済む問題では無いわ!』

 

キルカニュティスは顔を上げ、ゲルイズの方を向く。

 

キルカニュティス『どのような処罰でも受けます。』

 

ゲルイズは顎髭を触り、キルカニュティスの方を見る。

 

ゲルイズ『よし、暫くはここで本業をしていろ。』

 

アナは組んだ腕を開き、口を開け、眼を見開いてゲルイズの方を向く。

 

ゲルイズ『今後はそういった話があれば必ず俺を呼び、指示を仰げ。』

アナ『それだけ?それだけでよろしいのですか!?お父様!!この女は重大な局面でアンセフィム殿からの友好関係の構築を蹴ったのですよ。』

 

ゲルイズは口髭を触り、アナを見る。

 

ゲルイズ『うむ…。確かにその通りだがこうなってしまった以上は仕方あるまい。』

アナ『お父様はこの女に甘すぎる!』

 

アナは頬を膨らませ、ゲルイズ達に背を向けると執務室から出て行く。

 

C6 叱責 END

C7 本腰

 

執務室の椅子に座るゲルイズ、正面にアナ隣にキルカニュティス。

 

アナ『エグゼニ連邦が我々との取引を自粛してきています。おそらくアンセフィムとの同盟を蹴ったことが露見したと…。』

 

アナは眼を細めてキルカニュティスを睨みつける。キルカニュティスは肩を落とし、下を向く。

 

ゲルイズ『しかし、元老院とブレイマンとの約束は取り付けた。問題はあるまい。』

 

ヴァルクス国兵士Aが扉を開き、息を切らして入ってくる。

 

ヴァルクス国兵士A『た、大変です!テレビでロズマール共和国が!!』

ゲルイズ『何?』

 

ゲルイズはリモコンのボタンを押し、テレビを付ける。演説台に立つ、ガギグルス。聴衆は黒い服を着て遺映を持つ女性と子供達。

 

ガギグルス『…だと!!ヴァルクス市にこれより行政官と軍隊を送る!諸君らに誓おう!必ずこの仇を取ると!!』

 

泣き崩れる黒い服を着た女達、子供はその手を握る。ヴァルクス国兵士Bが扉を開け、駆けこんでくる。

 

ヴァルクス国兵士B『報告です。サージェン軍曹から通信。25機のゼームス級機動城塞がロズマール領から出撃した模様です。』

 

アナの顔から汗が垂れる。

 

アナ『小型とはいえ25機も投入してくるなんて…。』

 

ゲルイズは腕組みして立ち上がる。

 

ゲルイズ『うむ。ガギグルスのあの演説だ。よほどの自信があるに違いあるまい。共和国軍の出鼻をくじくぞ。あれで負け戦ならばガギグルスの立つ瀬は無くなるからな!』

アナ『しゅ、出撃準備します。』

 

執務室から駆け出るアナの腕をゲルイズが掴む。

 

ゲルイズ『アナ、留守を頼む。』

 

アナは振り向き、ゲルイズを見つめる。

 

アナ『えっ!?いえ、私も出撃します!決戦となればなおさら…。』

 

キルカニュティスは口を開く。

 

キルカニュティス『ゲルイズ殿、先に行っております。』

 

ゲルイズは頷き、キルカニュティスはアコビの塔の廊下をかけて行く。

 

ゲルイズ『これは決戦となる。かなりの消耗戦となる筈だ。キルカも俺も生きて帰れぬかもしれん。』

 

ゲルイズはアナの両手を掴み、彼女を見つめる。キルカニュティスはエレベーターに乗り、閉じる扉から二人を見つめる。

 

C7 本腰 END

C8 派遣行政官を討て

 

シュヴィヌの森。高台に登り、無線機を片手で持つゲルイズ。シュヴィヌの森を進む30機のゼームス級機動城塞。

 

キルカニュティス『見えました…。30機のゼームス級機動城塞です!!』

 

ゲルイズはキルカニュティスの方を向く。

 

ゲルイズ『30機だと!!』

サージェンの声『30機だと!?しょうー…情報筋の奴め…。お、俺も出陣する25機確認している。どこかで合流したのかもしれん。ともかくだ指揮している行政官はウルティミュトスという少々功績のある程度の怠惰な男だ。』

 

ゲルイズは双眼鏡をのぞく。

 

ゲルイズ『星の眼帯してフランクフルトのケチャップとマスタードを舐めて余裕ぶっこいている野郎か?』

サージェンの声『ああ、その変人ぶりなら間違いないな。』

ゲルイズ『フン、余裕をかましていられるのも今のうちだ。』

 

ゲルイズは空を見上げる。

 

サージェンの声『どうだ?仕留められそうな天気になってきたか。』

 

空には分厚い雲がかかる。

 

ゲルイズ『どうやらこの闘いは俺たちに分がありそうだな。』

 

シュヴィヌの森から木の葉を舞い散らせ、ゲルイズ率いる天空部隊はキルカニュティス機をヒレの部分に乗せたゲルイズ機を先頭とする編隊を組んで雲の中に消えて行く。

 

動きを止めるゼームス級機動城塞群。艦橋に立つウルティミュトスは背後に向かい手招きする。

ウルティミュトスの横に現れる百眼族の女空間術士ドメキが手を振り上げる。

 

分厚い雲が取り除かれ、ゲルイズ達の周りの空に黒い穴が多数開く。ゲルイズ率いる天空軍のパイロット達の多くが首を左右に振る間に砲弾、速射砲の玉がゲルイズ率いる天空軍に降り注ぐ。

ゲルイズ率いる天空軍は瞬く間に壊滅する。

 

ゲルイズ機はムメイサクラ級人型機構の正面に垂直に立つ。多数の砲弾を受け、爆散する。落ちていくキルカニュティス機のメインカメラには艦橋のドメキの隣に現れる銀の義手をはめ、満面の笑みを浮かべるイシュトリッタールが映える。

 

C8 派遣行政官を討て

C9 長ネギ

 

ロズマール共和国辺境ジバンの村、時計台のある家を正面とする広場にムメイサクラ級人型機構が降り立つ。コックピットのハッチが開き、キルカニュティスが現れる。

 

ムメイサクラ級人型機構をよじ登り、キルカニュティスの前に現れるアナ。キルカニュティスはアナの正面に立つ。アナは拳銃を抜く。キルカニュティスは眼を大きく見開く。アナはキルカニュティスの胸部に弾丸を撃ち込む。もんどりうって倒れるキルカニュティス。アナは倒れたキルカニュティスに背を向け、笑顔を作る。

 

アナ『死んだ…。ハハ、死んだ。死んだ、死んだ。ああ、これで安泰。これで生活が安泰。共和国が保証してくれる。ハハハ。』

 

立ち上がるキルカニュティス。その懐から歪んだ乾パンの缶詰が落ち、コックピットのハッチを転がって地面に落ちる。振り向くアナの胸座を掴むキルキカニュティス。

 

キルカニュティス『アナ殿!これはどういうことだ!!』

 

アナは暫く首を左右に振る。

 

アナ『げっ、生きてたの!おっ、王家の再興とか、主君の仇討とか親父もあんたも勝手にやってればて感じ。私はいいところに住んで、いい物着て、おいしいもの食べて、いい男に囲まれてさ、皆にちやほやされたかっただけだし!そんなヴァルクス国とかいう糞を残されてもど~するって…。』

キルカニュティス『貴様!!そんな邪な理由で!!』

 

キルカニュティスは周りを見回す。

 

キルカニュティス『他の…他の者達は?』

アナ『ハハッ、み~んな売ってやった。結構な額になったよ。ヴァルクス国再興と私が言えば馬鹿みたいにホイホイとさぁ。後はお前とサージェンだけさ!ガハハハハッ!』

 

アナは周りの施設に目配せする。

 

キルカニュティス『貴様!許せんっっ!!』

 

キルカニュティスはアナをムメイサクラ級人型機構から振り落とす。地面に落ちたアナ目掛けムメイサクラ級人型機構は大艦刀を突き刺す。そして、振り上げる。アナは口から血を吐いてキルカニュティスを睨みつける。

 

アナは周辺の施設の方へ向かい手を伸ばし、口を二、三回開閉する。キルカニュティス機はアナを貫いた大艦刀を時計台のある家に突き刺す。アナの後頭部が時計台のある家のステンドグラスにめり込み、彼女は更に血を吐いて、下腹部からは腸がはみ出る。

 

時計台のある家より声。

 

女の声『何の音?』

男の声『ふぁ~あ、また近所の暴走族じゃねえか。』

女の声『あれ、この長ネギ冷蔵庫に入れたんじゃなかったの!まったくあんたって人は…これじゃあ腐っちゃうでしょ!!世話が焼けるんだから。よいしょっと。』

 

アナの死体の顔が上下左右に揺れだす。ステンドグラスが割れる。割れたステンドグラスにアナの上半身が入る。下腹部は引き裂かれ、家屋の壁についた臓物と血が滴り落ちる。

 

ロズマール共和国治安維持部隊隊員達がわらわらと現れる。剣を振り上げるキルカニュティス、取り囲むロズマール共和国治安維持部隊隊員。

 

女の声『えっ、人????えっ、えっ??何コレ…??何コレ…??きゃあああああああああああああああ。』

 

ロズマール共和国治安部隊隊員はキルカニュティスに向かい銃撃を開始する。キルカニュティスはムメイサクラ級人型機構へ飛び乗り、時計台のある家に突き刺さる大艦隊刀を引き抜くと上空へと飛び立ち、見えなくなる。

 

C9 長ネギ END

C10 思い、果て

 

エグゼニ連邦湾岸上空に陣取るオーゼンデスゲイルズ天空機動城塞を旗艦とするロズマール共和国天空艦隊。甲板には演説台と整列するゼオン・ゼンゼノスを先頭にして並ぶ軍人達。ラッパの音と共に蝙蝠獣人でロズマール共和国代表のガギグルスが巨人血種のドルテンと共に現れる。ガギグルスはドルテンに目配せをして演説台に上がる。

 

ムメイサクラ級人型機構が雲の中からオーゼンデスゲイルズ天空機動城塞の頭上目掛けて突撃する。

ドルテンが剣を構えガギグルスの前に躍り出る。ガギグルスは腰に手を当て、ムメイサクラ級人型機構を見つめ、ため息をつく。

 

ガギグルス『…来たなぁ…。』

 

伏せる軍人達の中で、悠然と立つゼオン・ゼンゼノス。

 

ゼオン・ゼンゼノス『敵襲だ!総員配置につけ、訓練通り攻撃すれば良い!!』

 

軍人達は顔を上げ、立ち上がって頷くと甲板から駆け去っていく。

 

ロズマール共和国天空艦隊の絶え間ない弾幕を浴び、ムメイサクラ級人型機構の四肢の部分は爆発し、千切れる。キルカニュティスはコックピットから這いだし、落ちて行くムメイサクラ級人型機構の腕に握られた大艦刀を取る。

 

彼女は弾幕により左手と右足を吹き飛ばされ、左の眼球を潰しておびただしい血飛沫をあげる。そして、口をつむぎ右の眼球にオーゼンデスゲイルを映すと大艦刀を握る手を振り上げてそれに向けて投げつける。ガギグルスは腕を組み、足を組んで頬杖を付いて演説台に座る。

 

キルカニュティス『勝った………。』

 

キルカニュティスは弾丸を受け踊るようにして海へと落ちる。大艦刀は七色に輝きオーゼンデスゲイルを逸れて海面に消え、海を真っ二つに引き裂いた際の大津波がキルカニュティスを飲み込み、エグゼニ連邦方面へと向かう。

 

C10 思い、果て END

 

END


 
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