No.355752

【改訂版】真・恋姫無双 霞√ 俺の智=ウチの矛 四章:話の一

甘露さん

今北産業
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2011-12-31 23:51:11 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:6555   閲覧ユーザー数:5670

 

 /一刀

 

 

 仲徳がやって来てから三ヶ月が過ぎた。

 異様な観察眼を発揮した仲徳はさっそく団の皆に気に入られ、貴重な癒し成分として大人気になった。

 

 霞は俺が居るし、文醜顔良も一般と比較すればとびっきりの美少女だけども団長の娘だし。

 というわけで皆一歩引いて眺めるしかない面子ばかり揃い生殺しな中にぽんと現れた妹系少女。

 

 おまいら仲徳は十歳だぞといってもおっさんお兄さんどもは聞く耳持たずで、文字通りに団のお姫様となってしまった。

 やれ何か喉乾いたりしてないかだの、やれ良いモン拾って(強奪して)きたからいらないかだの。

 そんな大人気妹系美少女仲徳だが、何故か彼女がお兄さんと呼ぶのは俺のみだった。

 

 何か俺にシンパシーでも感じとられたのだろうか?

 確かに懐かれそうな事柄は色々あったけども、だからって妹系キャラが俺だけを兄と呼ぶこの現状は俺に非常に優しくない。

 

 「お兄さんお兄さん、風はですねー」

 「分かった、分かったからさ……って霞!?」

 「……えっと、ウチお邪魔やったみたいやね」 

 「いやあのコレ違っ、霞っ、あ、あのさっ」

 「……っ、ごめん、ウチ忙しいで」

 「あ、……そ、そっか。えっと、引きとめてごめんな」

 「……っ、い、いや。気にせんよ。じゃ」

 

 主に団員共と霞の視線的な意味で。

 団員共の嫉妬の視線と霞の寂しそうな視線が、仲徳が俺をお兄さんと呼ぶ度に降りかかるのだ。

 

 まあ別に野郎共の嫉妬なんぞスルー出来るんだけど、霞はさっきみたいな反応しか返してくれなくて……。

 正直、辛いです。

 

 文醜と顔良に相談してもマトモに取り合ってくれやしないし。

 オッサンに言えば昔語り(小さい頃の文醜は如何に可愛かったか二時コース)だし。

 霞は何言っても取り付く島もないし。

 

 ……なんだか、最近マトモに霞と話せてないよなぁ。

 癒しというか、霞分というか、なんかそんな感じの何かが足りない。俺の中で致命的に不足気味だ。

 

 正直に言おう、寂しくて怖いのだ。

 苦楽を共にするってレベルじゃねーぞってくらい苦楽を共にした霞が離れて行ってしまいそうに感じるのだ。

 

 それを霞が望むなら仕方ないな、と思う俺がいるかと思えば。

 あのときの想いって吊り橋効果でしかなかったのかなと不安になる俺が居たり。

 

 まぁ、結論を決めるのは霞本人しかいなんだけどさ。

 

 

 ……はぁ。憂鬱だ。

  

 **

 

 

 

 今日も一人ブルーに本を読みふける俺の元に来訪者が来た。

 

 「お兄さん? おおっ、やっぱり今日も本の虫でしたか~」

 「だから仲徳、そのお兄さんって呼び方は」

 

 二人きりでそんな事を言われているシチュエーショに何とも言えない気持ちになる。

 元々時代が時代なだけに、女性にやたらと強かったり有能だったりする人間が多かろうと基本スタンスは一夫多妻だ。 

 

 女性優位っぽいのに一夫多妻って意味が解らないかもしれないが、結局は生産性の問題だ。

 有能な女がいくら男を囲っても、身ごもる事が出来るのは一人の男の子のみ。残せる遺伝子も、一つずつ。

 逆に男ならば、下品な表現だけど母体と穴さえあれば幾らでも産めよ増やせよ、囲う女の人数次第で10でも20でも。

 ……つまり、生物としての本能なんだろう。

 生物の基本原則は同種を増やす事だし、未来の様に幼少期からの教育で道徳観に雁字搦め(がんじがらめ)にされさえしなければ、本能を優先しても何の疑問もない。  

 

 なので、霞も例に漏れずその辺りにそこそこ寛容っぽい。

 だが、俺が他の女の子と話している時に霞が遭遇した時、 

 ふと浮かべる霞の悲しそうな、寂しそうな表情が俺の良心的な何かをぎゅんぎゅん締め付けるのだ。

 

 ……まあ、だからと言ってそれを理由に他の女の子を傷つける訳にも行かんのだけど。

 文醜や顔良は、それこそ機会さえあれば真名を預けるに足りる親友だし、

 仲徳は何だかんだで俺が助けた命だから責任をとる義務が俺にあるのだ。

 

 その辺りは霞だって理解しているだろう。だから賀状な反応に出る様な事もないし、普段は平常にふるまっている。

 俺にはもったいない位の文字通り“良い女”だ。

 そんな霞を俺は愛しているし、霞に愛されている自信もある。

 たまに、仲徳を連れて来た時の様なniceboatもあるけど。

 

 ……だからこそ、俺にはどうにも出来なくて。

 情けないと言うか、優柔不断というか、それどこのどこのエロゲ主人公というか……。

 

 「ふふっ、お兄さんが風を風って呼んでくれたら止めてあげるのです」

 「……ったく、俺も大概だが仲徳は相当だな。女の子が真名をそんな軽く扱いやがって、淫売だと思われても文句は言えんぞ?」

  

 この大陸の風習上、真名を神聖なものとしている分誰かに名乗る場合には命や身の純潔を預けるのと相応の覚悟がいるのだ。

 尤も、真名を持たない未来人だった俺には理解しがたいが。

 

 「淫売ですかー。十そこそこの年の女の子にそんな事を言うお兄さんも相当だと思うのですよ」

 「はぁー……あのなぁ、大体異性間の真名交換は求婚と取られても可笑しくないんだぞ」

  

 そして真名を許可なく呼ぶとは相手の尊厳を最大限に傷つけるもので、異性に勝手に呼ばれようものなら、精神的な屈辱度合いは陵辱されたことにさえ値する。

 逆に言えば、己から異性に名乗る場合は関係を持っても良いと言っている様なもので、最も良く異性への真名の譲渡が使われるシチュエーションが、求婚なのだ。

 男女間の友情が芽生え……という事が無いわけでもないが(俺と霞の様に)結局はそれだけ親密にすると言うことで、男女間の情事に繋がる訳だ。  

 あと、例外的というか異常な例ではあるが、主と配下の関係でも真名を交換する人間がいるらしい。

 その場合は主か絶対的なカリスマを持っているか、配下が狂信的な忠誠を持っている場合に限られるが。

 

 それ以外は精々精神疾患を患っているか池沼か俺みたいな前提条件から可笑しい人間だ。

 

 「くふふ、風は覚悟はできてるのですよ? 霞お姉さんには叶わなくても、側室として愛してもらえればそれで満足なのです」

 「側室て……あのなぁ、俺は別に……ん? おい、仲徳。お前もう一回今の台詞言ってくれ」

 「んー? えっとですねー。 側室として愛してもらえれば……」

 「じゃ無くて。もうちょいと前だ」

 「えと……今夜は文醜お姉さんを寝かしませんよー? でしたっけ」

 「色々突っ込みどころ満載だがそれは一体何時の話だよ。そんな前じゃ無くて良いんだ。側室云々の一文前で」

 「くふふ、覚悟はできてるのですよ?」

 

 仲徳の表情が完全にニヤニヤ笑い顔になった。

 こいつ、俺で遊んでやがる……。

 

 「お前、わざとやってるだろ?」

 「おや、ばれてしまいましたかー」

 「頼むよ、俺割とお前の発言とかのお陰で割と余裕ないんだわ」

 「お兄さんは割と紙めんたるなのですね」

 「煩い。ってかお前メンタルって……」

 

 中国4000年の中にゃねーだろ、カタカナ語。

 

 「むむむ、大いなる意志的な何かを宝慧が受信したのです」

 『ようよう風よ、太○の塔は電波の受信はしねーぜ?」

 「なんとっ」

 「なんと、じゃねーよ。漫才してたらいつまでたっても話が進まないし、その辺でな」

 「仕方ないのです。えっとですねー、霞お姉さんには叶わなくても~、の下りですよね?」

 「そうそう、そこそこ。なんでお前霞の真名を……いや、そりゃ別に良い。けどお前、まさか……」

 「くふふ、お兄さんはやっぱり察しが良いのです、頭の回転も風に負けず劣らずとは、侮りがたいですねー」

 

 いや、侮りがたいって仲徳は何者だよ、と。

 もしかしたらコイツも名を残した武将だったのか?

 ……三国志フリークじゃねえから分からんけど、こんな凄惨な幼少期過ごした武将っているんかね? 

 と、ソレは置いといて。

 

 「……マジかよ。外堀というか最強最難関の壁というか、そっちから攻めるのか」

 「くふふっ、風は石橋を叩いて確かめてから誰かに渡らせた後に渡る人間なのですよ」

 「慎重過ぎるだろ……しかし、仲徳は一体どうやって霞を籠絡したんだよ」

 

 そこが非常に気になる点だ。

 ゆるゆるな俺に比べて、割と世間並みの思考の持ち主だからな、霞は。

 

 「ふふふ、霞お姉さんは感情豊かで感受性も豊かなお方なのです。

  一緒にお話しして、お兄さんへの想いも打ち明けたら教えてくれたのですよ」

 「……おいおい。霞も割と軽いんだなぁ……」

 

 速攻で前言撤回だった。まぁ、そう言う人格者だから筋を通すこととかに拘るのだろう。

 

 「まあ、もし嘘だったら殺すとも言ってましたけどねー。

  それに、文醜お姉さんと顔良お姉さんも霞お姉さんと真名の交換をしてますよー?」

 「まぁあっちは順当だろ。戦友だし、同性同年代だし」

 「おや、おいてけぼりなお兄さんはなにも思わないのですかー?」

 「オッサンに釘刺されてるんだよ。どっちかに真名渡したらそいつと結婚しろって」

 

 げんなりした様相で俺が言うと、仲徳はくふふと笑った。 

 

 「伯父様はそんなことを考えてたのですかー。くふふ、お兄さん、モテモテですね」

 「ご冗談を。大体俺ぁ霞と結婚するんだよ」

 「ほほう、言いきっちゃうのですね」

 「当り前だ。大体だな、あんな素敵な伴侶、よっぽど運が良く無きゃ見つからんぜ?

  それが俺を好いてくれるなんてさらに低い確率になる訳だしな」

 「ふむー、まあアレですねー。お兄さんを愛してる女の子の一人の前でそんなお惚気、ごちそうさまですねー」

 「まだ毛も生えそろってない様なお子様にそんなこと言われるとはねぇ……」

 

 何と言うか、非常に犯罪チックだ。

 未来なら妹じゃない小学生にお兄さんと呼ばせたり愛してるだのなんだの言わせたら確実に通報されかねん。

 最も、この時代ならなんら可笑しいことじゃないけどさ。

 権力者の側室に幼女が居たり、中東世界なら6歳児を嫁にもらう36歳とかも割と普通だし。

 

 「お兄さんお兄さん、流石にそれを女の子に面と向かって言うのはアレですよー、人格を疑っちゃうのです」

 「いーんだよ、どーせ俺ぁ人格破綻者で元薬の売人だ」

 「いやいや、それとこれとは関係がない様な気がするのですよ? ともあれ、良かったですねー、霞お姉さん」

 「へっ?」

 「……ど、どうも」

 

 何故かぺこりと頭を下げ部屋に入ってくる霞。

 その後ろにはニヤニヤする顔良と、腹押さえてひーひー笑い転げる文醜が見えた。

 

 え、なにこれ。

 もしかして……、そう思い仲徳に視線を送ると、こくりと頷いた。

 ……策士め。

 

 「あ、えっと……聞いてた?」

 「う……うん。その、一刀、えっと……あれ、マジなん?」

 「……マジ、だぞ。うん。割と、てかかなりマジだ。それに、前にも霞には言ったと思うし……」

 

 そう。俺は以前にも霞にはプロポーズまがいな事をしてるし、何かと事あるごとに求婚してた。

 ……もしかして、アレ全く本気にされてなかったの? 

 

 「せ、せやけどさ……ウチ……」

 「?」

 

 そこまで言うと霞は俯き口を真一文字に瞑ってしました。

 何やら腕がプルプル震えてコレなんてデジャヴ。

 

 「その、な……? 一刀がウチに飽きてまったんやないかな思うて……」

 「……は?飽きる? 霞に? ……えっ? 

  どうして飽きるてか何故もう飽きた俺。いやそりゃね10年20年先の事なら有り得るかも知れんがね。

  飽きるも何も俺まだ霞と手を繋ぐとハグとキスまでしか行ってないのにさ。

  まだ霞の事飽きるほど堪能(非常に下品)した訳でもないし、霞の女体の神秘を探求し尽くした訳でもないのに!」

 

 霞の台詞が予想のキャッチャーミットを掠り起動が真下に代わってショートバウンド股間強打並みに予想外だった俺は

 ついつい熱いヤリたい盛り14歳のパトスをぶちまけてしまった。

 後悔はまだして無い。あと30秒後くらいには死にたくなってると思われ。

 

 「で、でもな……言うやん。男の人は女と畳は若い方がええ、って」

 「いや霞さんあんた十四歳で何言うてはるんですか」

 

 トンデモ回答に思わず関西弁っぽい言葉で突っ込んでしまった。

 

 「でも、風は十歳やろ?」

 「俺はどんなペド野郎だと思われてんだ」

   

 あれか。霞の中で俺は小学生までは女、中学生からはババアとか言う未知との遭遇たちと同類カウントなのか。

 

 「ぺど?」

 「ああゴメン、幼女性愛者ってことだ」

 「ああなるほどな。……で、やっぱ一刀的には風みたく可愛い子がええんやろ?」

 

 どうしてそうなった。

 ふと思いちらと天幕の入り口に視線をやればひくひくと痙攣しながら笑い転げる文醜に、『あ、やべっ』という表情を体現して固まる顔良。

 ……なるほどね。

 とりあえず親指を下に向けてストン、と落とすあの動作をしておく。

 と、顔を真っ青にした顔良が笑い転げる文醜になにやら言いかけていた。

 そこで漸く笑いをとめ、俺と目が合う文醜も顔から色が引く。

 

 あははとぎこちなく笑う文醜に、俺も笑顔でサムズアップ。そのまま流れる動作で人差し指で首を掻き切った後サムズダウン。

 土下座を始める文醜を後目に、諸悪の根源を突きとめた俺は再び霞に向き直った。 

     

 「霞、一つだけ言っておくぞ。

  俺の一番は、霞だ」

 「へっ?」

 

 霞はそう言われ、心底意外そうな顔をした。

 一体あの馬鹿2匹に何を吹き込まれたのか、果たして気になるところではあるが今の主題はそれじゃあない。

 

 「霞、お前は俺の命の恩人で盟友で親友で恋人で伴侶で半身だ。少なくとも俺はそう思ってる」

 

 霞が是と言わなければこの過剰だと自覚している親愛の情は捨てるさ。

 何せ一番が霞だから、行動理由も一番は霞の為だ。

 その大切な当人を不快にさせた瞬間に、俺には大切だのなんだの言う権利は無くなる。

 つまりはアレだ。俺がストーカーになったり俺がniceboatで凄惨な方向にゃ分岐させたりはしないってこった。

 だって、それは霞の幸せじゃないじゃん?

 

 「霞は、どうなんだ?」

 「う……ウチは……」

 

 その俺にとって愛らしくて仕方のない顔を一瞬だけ下に向けると、

 顔を上げ決意を込めた瞳を俺に向けた。

 

 「ウチは、一刀んこと大好きやで! 

  その、な……一刀が、風とえらい仲良しやったで、不安になってな?

  それに風かて一刀んコト好きやー言うとったし。

  でな……、斗詩と猪々子が男ん人は若いモンの方がええとかて教えてくれて……。

  やでウチ、一刀が風を選ぶんなら身ぃ引こう、って……」

 「霞……」

 

 俺本当になんなんだ。

 霞に何遍悲しい想いさせたら気済むんですかと。

 俯く霞を抱き寄せる。わっ、と小さく悲鳴を漏らす霞の頭に俺はぽんと手を置いてわしゃわしゃと撫でまわした。

 

 「わわっ、一刀? な、なんで頭撫でんねん」

 「……ごめんな、霞。俺本当駄目駄目だわ」

 

 同じ轍は二度踏みたくないしな。

 ……っしゃ、ここは一丁、一世一代の大勝負と行こうじゃないか。

 

 「霞……あのさ」

 

 俺が真面目な表情と声色になったのを感じ取ったのか、霞が腕の中で小さく身じろぎした。

 心臓がばくんばくんと脈動している。

 俺でさえ煩く感じるんだ、腕の中に抱いた霞じゃあもっと聞こえてるんだろうなぁ。

 

 「十五になったら、元服したらさ……

  俺と、結婚してください」

 

 言った。言ってしまった……。

 腕の中で霞は凍りついたみたいに固まって動かない。

 五秒、十秒と時間が経って、ほんの短い時間なのに一時間二時間と経ったような気までする。

 

 そして、俺がどれだけ経ったか分からなくなった頃、言い渡された言葉を咀嚼するように頷き、霞が顔を上げた。

 翡翠の大きな猫目が俺を見つめて、薄桃色の柔らかな唇が近づいて──

 

 触れるだけの優しいバードキスだった。

 言葉が出ない俺を見ると、霞は太陽みたいに眩しく微笑んだ。

 

 「……うんっ! 不束者やけど、よろしゅう頼むな?」

 

 綺麗だ。

 

 霞を見て、素直にそう思えた。

 腕の中で嬉しそうに微笑む霞は本当に綺麗で──。

 

 『うおおおおっ!!』

 

 「っ!?」

 「な、なにゃっ!?」

 

 甘ったるくて心地よかった空気をぶっ壊したのは野郎共の野太い雄叫びだった。

 いつの間にやら集まった馬賊の仲間達が、天幕の入り口やら外やらで野太い歓声もとい雄叫びを上げていた。

 目をやると、なんだかふふんと偉そうに無い胸を張る文醜と、苦笑いしながらもどこか嬉しそうな顔良。

 犬も食わねぇぜ、と毒吐く宝慧にいつもの底の見えない頬笑みを浮かべる仲徳。

 

 「幸せにしろよーっ!」

 「文遠ちゃん泣かせたら俺が北郷殺す!」

 「見せつけやがって、けっ!」

 「一人身には辛いな、兄者」

 「死ねばいいのにな、弟者」

 「キィーッ、北郷ちゃん良い尻してたのにっ」

 「諦めるのだ、漢女足るもの、イイオノコの幸せは喜ぶべきだ」

 

 何やら不穏な筋肉達磨が二匹ほど見え隠れしないでもないが、いつも通りの連中の反応に少し頬が緩む。

 本当、良い奴らだよ。

 なんて俺が感慨深そうに見てると、人垣を割ってオッサンが出てきた。

 

 「こほん。あー……先ずはアレだ、婚約おめでとう」

 「お、おう」

 「えへへ、ありがとなおっちゃん」

 

 何だか柄にも無く畏まられどう反応したものかと首をかしげざるを得ない俺。 

 そんな俺を見て、オッサンはにやりと口元を歪めた。

 

 「という訳で祝うぜ野郎共っ! 今夜は宴だーっ!!」

 『うおおおおおっ!』

  

 再びなデジャヴに溢れる光景を前にするとどうも苦笑いしか浮かばない。

 なんだかなー、とぼやきつつも、早速俺から離れて人垣の中心で酒をかっ喰らう霞が心底楽しそうでソレに俺まで流されてしまう。

 居心地が良過ぎるのも、悩みモンだよなぁ、と俺は誰にも聞こえないように一人呟いた。

 

 **

 

 楽しそうに酒を喰らう霞や文醜顔良、その他大勢の野郎共。

 

 主賓である筈の俺は早々にその中心から離れると、一人手酌で酒を飲んでいた。

 

 楽しくて心躍る光景に俺自身が元気を貰う半面、いつか、ここを離れなきゃいけない事を思うと素直に喜べないでいた。

 どうあがいても、国に個人や一つの団体が勝てるわけがない、そんな事は歴史が証明している。

 だからこそ、法の道を外れたこの場所は俺や霞にとってリスクが高過ぎる。

 劉邦とかみたいに盗賊からの成り上がりを果たした偉人も居ない訳じゃあないが。

 それはあくまで特別な例だ。特別だからこそ大きく歴史に残る訳だし。

 

 「……どうしたものかねぇ」

 「おやおやお兄さん、祝儀の席で溜息とは」

 

 独りごちる俺の前に、とてとてと仲徳が歩いてきた。   

 そう言えば霞と同じな碧の瞳が俺をまじまじと見つめて、何となく居心地の悪さを感じた。

 

 「あー、すまん。ただちょっと、なんつーかなぁ……先行き不透明な感じでさ」

 「ふむふむ、つまりここの人達に見切りをつける時期が解らないのですねー?」

 「……こりゃ吃驚だ。仲徳は読心術でも使えるのかよ」

 

 なんてふるまってはみたが、内心は心臓が破裂しそうに鼓動している。

 不意に感情を言いあてられると人間不安と恐怖に襲われるもんだ。 

 

 「客観的に観察すればさほど難しくないのですよー」

 「だからってなぁ。主観と客観の問題は人類の永遠の課題だぜ?」

 「その時点で主観に縛られてるのですよ。尤も、風みたく己ですら客観的に観測しなくちゃ難しいでしょうけどねー」

 「でもさ、そうやって己は客観的だと言った時点で主観的な始点が働いている訳でだな……って、哲学してる場合じゃない

  仲徳は俺の意見に何も思わんのか?」

 

 と、俺が尋ねると仲徳は、何を馬鹿な事をとでも言いたげな目で俺を見てきた。

 

 「ふーむ、お兄さんは恐らく勘違いしているのでしょうが、風は別段この環境にも愛着は無いのですよ?」

 「……っ、それで?」

 「風の興味対象はお兄さんだけなのです。壊れた風の本質を見抜いて、なおかつお兄さん自身が致命的に壊れている。

  なのに、お兄さんは局所的にですが人を慈しみ親愛の情を持って、さっきみたいに霞お姉さんと愛をはぐくんでいる。

  つまり主観と客観を両立し、なおかつ危ない平衡感覚ではありますが保っているのです。

  ということはです。お兄さんはこの客観的な視点に縛られる呪いに掛けられた風の、唯一の答えなのです」

 

 仲徳は、つまり俺から答えを見出そうとしているのか?

 語る浮かべる表情はいつもの底の見えない微笑みだが、その影に何処か泣き腫らし助けを求め項垂れる女の子の面影を見た……気がした。

 

 「そして風がお兄さんに恋慕の情を向けるのもそこが所以なのです。

  答えを持つ者と持たない者の間にある壁と、壁の向こうに居るお兄さんへの憧れ。

  あとはお兄さんは腐っても命の恩人、恩義が高まって恋慕の情へ発展したというのも良くある話ではないでしょうかー?」

 「それは、客観的な仲徳の判断か?」

 「もちろん。風の中に居る泣き虫臆病な女の子の風の主観で、それを観察する風から見た客観的判断なのです」

  

 そう言う仲徳は、完全に感情の読めない微笑みに戻っていた。

 先程一瞬だけ窺えたあの悲しげな雰囲気など元から無かったかのようだ。

 

 「なるほど、な……」

 

 壊れた女の子は、そう簡単に直る訳無いか。

 同情は彼女を侮辱すると分かっていても、俺の手は自然に仲徳の頭を撫でていた。 

 

 「お、お兄さん? くすぐったいのですよぅ」

 「んー、我慢しろや。何て言うかなぁ、俺さっき霞と婚約したばっかだから明確な事ぁ言えんけどさ。

  仲徳を助けたんは俺だし、その責任はちゃんととるさ。そっから先の関係になるかは分からんけど」

 「おおっ。初めて幸先良さそうなお返事がっ」

 「まあ、そう先走るな。大体賊崩れなこんなことしてる内は二人も女の子養えないし。

  つまりアレだ、期待せずに待っててくれよ、“風”」

 

 ……何となく、真名で読んであげなきゃいかない気がした。

 俺も、大概どうしようもねえ男だなぁ……はぁ。

 

 「! ……ふふっ、お兄さんは照れ屋さんですねー」

 「煩い」

 

 何となく座りが悪くて、風から目線を逸らし頬を掻いていると、反対の頬に柔らかい感触が一瞬だけ当った。

 

 「……ちゅっ」

 「な、ななっ!? お、おま」

 「おま○こ?」

 「違ぇ! 十歳児がそんな事言ったら俺お縄にかかっちゃうから止めて!? お前っ、風っ! い、一体何やって!?」

 「ふふっ、風は霞お姉さんの次、って証明ですよ」

 「あ、あのなぁっ! ……ったく、お子様が盛りやがって」

 「お兄さんお兄さん、風は、待ってますからね?」

 

 そこで、風はにこり、と微笑んだ。

 あの感情の見えない仮面みたいな笑顔じゃあない。本当の笑顔だった。 

 

 「……あんまり期待しないでくれよ?」

 「さぁ、どうでしょう?」

 

 悪戯っぽく笑うその姿は、壊れた女の子じゃ無くて──

 

 

 

 

 **

 

 「かーずとっ!」

 「わっ!? って霞か」

 「うんっ、一刀んお嫁さんの霞やで~」

 

 一人黄昏る様に……なんてことは無く。

 いつの間にやら力尽き眠った風に膝を貸しながら一人酒をしていると、後ろから霞の声が掛った。

 

 「二人とはもう飲まないの?」

 「えへへ。二人も悪ぅ無いけど、やっぱちょっとは一刀と二人で居りたいし」

 「そっか……えっと、なんだ。済まんな、風に膝貸してるんだわ」

 

 そう言って膝元を指差す俺。

 寝ている風は、霞の声にちょっと吃驚したのか、軽く唸った。 

 

 「へぇ、一刀も風んコト真名で呼ぶようになったんや」

 「うん。まぁ……理由は特にないんだけどな」

 「相も変わらず軽いやっちゃなぁ」

 「俺も自分でそう思うよ。ホイホイ風に良い様にされちまった」

 「ったく、色仕掛けに弱いなぁ」

 

 呆れたように笑う霞。

 何だか申し訳ない様な気持ちがせり上がってきた。

 

 「あー……その、婚約早々にスマン」

 「ん、えーよ。今日一度突してみやって言ったんウチやし。で、どやった?」

 「霞の差し金かよ……。ん、風が慕ってくれるのは素直に嬉しいぞ。男冥利に尽きるって奴だ」

 「ふんふん。で、続きは?」

 「あー……そだな。取り合えずは保留、ってことにしといた」

 「なんや、逃げたんか」

 

 悪戯小僧みたいなニヤニヤが、露骨にやれやれといった感じに変わる。

 

 「悪かったな……。そりゃ嬉しいけどよ。

  ついさっき霞に求婚した身だぜ、俺。それが早々とお妾作る算段してるってどうなのさ」

 「ま、確かにせやね。でも、ウチは構わんで?

  そりゃな、一刀が四十とか五十とか女の子囲うんなら話は別やけどな?」

 「流石にそりゃねぇ……よ。多分」

 

 なんだか猛烈に申し訳なくなったぞ。俺何かしたっけ?

 五十人も囲った事は無いと思う、ってか無い筈だけどなぁ……。

 

 「なんや多分て……まぁ、ウチを愛してくれるんならええけどさ……

  あんまり会えん様なると、流石に寂しいで?」

 「あはは……面目ない」

 

 だから俺はなんで罪悪感に蝕まれているのかと。

 流石に五十も囲ったら身が持たないって言うか、イベントシーンが無い娘が出ると言うか……。

 って、イベントシーンってなんだよ、エロゲかよ。CG回収ちゃんとしろよ俺。

 

 「なんて、冗談は置いといてやな……冗談やよな?」

 「いや俺に聞くなよ」

 「なんかそんな未来もありそうな気ぃするんねんよ、無性に」

 「無い事を信じよう。俺の腰関節擦り切れそうな気するし、死因腹上死になりそうだし」

 「腹上死嫌なん?」

 「普通に看取られたいです」

 

 まあ、この生活してたら戦場で死ぬのでほぼ間違いないだろう。

 

 「まあ、そないなアホな未来予測は置いといて。

  ウチはホンマに構わへんで? それなりに優秀な人やったら妾の一人二人は当たり前に居るやろし」

 「俺が優秀とは思えねーんだけどなぁ……それこそ、こんな強くて可愛い霞が俺の事を好いてくれてるってだけでもよっぽど幸運やし」

 「謙遜しとるん? マジでいっとるん?」

 「マジだよマジ。霞に見る目が無いなんて言わないけどさ、俺、アレだぜ? 欠陥商品で犯罪者で州牧殺しだし」

 「確かにせやねー。でも、一刀はウチが惚れた男なんやで? 北方四州で、同年代なら敵無しのウチが惚れた男や、つまらん訳あるかい」

 「お、おう……でも」

 「でももクソもあらへん。それこそ、こんな賢くてかっこええ一刀がウチに惚れてくれてるってだけでもよっぽど幸運や」

 

 褒めちぎられるとどうもむず痒くていけない。

 何となく照れ臭くて霞の顔もまともに見れない。

 

 そのままどちらともなく黙ってしまい、沈黙が辺りに漂う。

 こてん、と横に座った霞が頭を俺の肩に預けて、そのままくっ付かれた。

 そんな霞の肩を抱くと、益々嬉しそうに鼻息をならしてすり寄って来た。

 

 「……なあ、一刀」

 「ん?」

 「ウチを選んでくれて、ホンマに、おおきにな」

 「……礼を言われるこっちゃねーぞ。俺こそ、受け入れてくれて、ありがとな」

 「えへへ。やっぱな、ウチはわかっとる事でも、言われたほうが嬉しいわ」

 「そっか……」

 「うんっ」

 

 そしてまた沈黙。

 それが心地良いのは、多分霞との距離が本当に近いからだと思う。

 

 「……ななっ、一刀」

 「ん? どした、霞」

 「ちゅーして欲しい」

 「そか。じゃあ顔こっち向けて」

 「うんっ……っ、ん……」

 

 瞬間、近かった距離が零になった。

 最初は触れるだけのバードキスから始まって、いつの間にか、どちらが先に始めたかも曖昧なまま舌を絡め合う。

 ぴちゃぴちゃ、と淫らな水音が脳味噌から理性を溶かしつくして、口の中が霞の味で一杯になった頃には、霞のことしか考えられなくなる。

 

 「ちゅ……る、ん…む、ぁふ……んっ、んぅっ……ぷぁ」

 「霞、満足した?」    

 「んー……もっかい」

 「了解」

 「ぅんっ……、ちゅっ…ん、んむっ、ちゅぷ……んっ、ぢゅぱっ…んぷっ、ぅんんっ……ぷぁっ」

 「ふぅ……満足?」

 「んんー……やっぱ足らん。もっかい、して?」

 

 と、霞に求められるままにキスを交わす俺達。

 とっくに理性と知性は蕩けて無くなり、求め求められるままに唾液を交換し続けた。

 

 何度目だったか、数えることさえ億劫になって止めてから暫くした頃。

 

 「ちゅる……ぷぁっ。……なぁ、一刀」

 「ん?」

 「あんな……その……、さっきから気になっとったんやけど……足に、堅いモンが当って……」

 「……あー、スマン。でもこればっかりは勘弁してくれ」

 

 我が息子は自制知らずの愚息だし。

 なんて言うと、霞はくすくすと笑った。

 

 「一刀、苦しいん?」

 「……正直、ヤバい。今にも暴発しそうです」

 「そっか……。んじゃ、ウチがすっきりさせたるな?」

 「え……ええっ!? ちょ、ま、マジで?」

 「うん。こんぐらいしか、ウチ、嫁さんっぽいことしてあげれんもん」

 「……本当にいいの? 俺、一旦始まったら止まらんぜ?」

 「うん。それに嫌やったら一刀ん求婚受けへんわ」

 「そっか……じゃあ、そのなんだ? えっと、宜しくお願いします?」

 「くくっ、なんやそれ。まあええけど。 よろしくされますわ」

 

 くすくす笑いながら、俺に抱きつく霞。

 そんな霞が愛おしくて、霞の何もかもが欲しくなって、霞の何もかもを征服したい衝動にかられた。

 

 そして俺は──……。

 

 **

 

 「(けっ、惚気なんぞ犬も食わねーどころか消化不良になっちまうぜ、なあ風よ)」

 「(良いではないですかー。お兄さんもお姉さんも色々思う所があったんでしょうしー)」

 「(そう言うもんかねぇ)」

 「(そういうもんですよー。風はいつか愛してもらえばそれでいいのです。それにしても……)」

 「(こいつ等そのままおっ始めやがって、だろ?)」

 「(はいー、風は一体どんな顔してこの空間を耐えればいいのでしょうか?)」

 「(とりあえず寝るしかないんじゃねえか?)」

 「(ですねー)」

 

   

 ・・・・・・

 ・・・・

 ・・

 

 「(どうしましょうか、あんあんぐちゅぐちゅやられてる横じゃ寝られる気がしないのです)」 

 「(いっそ参加しちまえばどうだい?)」

 「(流石にそこまで野暮じゃないのですよ)」

 「(……どうしたもんかねぇ)」

 「(諦めて睡魔が訪れるのを待ちましょう)」

 「(だな。あーあ、さっさと終われ)」

 

 

こんばんわ。

そしてあけましておめでとうございます。

 

甘露です。

 

 

新年に入ってから読む方が多いであろうこの時間にこんな砂糖塗れのssうpしてサーセン

描いてて苦痛というか、三度程窓からアイキャンフラーイってしたくなりました。

 

それではみなさま、良いお年をー

 

 

アンケ

 

・次話から思春さんと明命ちゃん編になります。

 そこで

 

1、二人もぬっこぬこでくっちゃくちゃになっちゃえ

2、普通に加入させてやれよ偶には・・・

3、その他

 

どれか一つ選んでください


 
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