No.350287

真・恋姫無双~君を忘れない~ 七十七話

マスターさん

第七十七話の投稿です。
桃香と一刀の会話を覗き見してしまった愛紗。彼女の心は大きく動揺して、塞ぎがちな日々を送っている。そんな中、思わぬ訪問者が現れ、彼女は自身の気持ちを知り、それを一刀に伝えようとするのだが……。
今回は予定を変更して、愛紗のみを結ばせます。駄作なのはいつも通り
それではどうぞ。

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2011-12-21 02:34:10 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:11010   閲覧ユーザー数:5124

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*注意*

 

 

 

 

 この物語は愛紗と一刀が結ばれる話となっています。

 

 

 

 

 紫苑さん以外と一刀くんがいちゃつくのが嫌という方、また本編をさっさと進めろと思っている方にとっては不快な思いをするかもしれませんので、そういう方は進まずに「戻る」を押して下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛紗視点

 

 あの出来事から数日――私は未だに精神的に不安定だった。

 

 胸が痛んだ原因も、逃げ出した理由も、何もかもが曖昧なまま、私は日常を過ごす。幸いなことに、兵士たちの調練も私の担当する日がなく、仕事は自分一人でこなせるような政務ばかりだったから、誰かに迷惑をかけるわけではなかった。

 

 だが、あの日から桃香様と御主人様とは会話していはいない。

 

 朝議などがあれば、勿論、顔を合わさざるを得なかったが、それ以外で個人的に話すことはなかった。意識的に二人と会話するのを避けていたのだ。

 

 別にやましいことがあったわけではない――二人の会話を盗み聞きしてしまったことには、罪悪感を覚えているが、別にそれ以外は何も問題はない。ないはずだったのだ。

 

 しかし、二人の顔を――親しげに話しているところを見ていると、とてつもなく胸が苦しくなる。医者になど見せるまでもなく、私は健康体なはずなのに、お二人を見ているだけで、心がズタズタに切り裂かれるような心地がした。

 

 その正体も分からない。

 

 どうしたら良いのかも分からない。

 

 星が言っていた通り、御主人様に相談しようとも思ったのだが、こんな些細なことで御主人様を煩わせるわけにもいかず、政務とかこつけては自室で塞ぎこむことすら度々あった。そうして退廃的に過ごしていると、少しずつ何かがおかしくなっていくような気がした。

 

 寝台に座りながら、青龍偃月刀の刃に映る自身の姿を見つめる。とても酷い顔をしていた。そんな顔では表だって出歩けはしないだろう。一体、私はどうしてしまったというのか。刃に映る自分が儚げに笑う。

 

「これが今の私か」

 

 ――そうだ。

 

「醜い。吐き気がしそうだ。どうして私がこんな顔をしているのだ」

 

 ――理由を教えてあげようか?

 

「知っているのか?」

 

 ――お前が桃香と御主人様が親しくしているのを嫉妬しているからだ。

 

「まさか。そんなことが……あるわけない」

 

 ――憎いんだよ、桃香のことが。ご主人様の笑顔を一人占めにするあの女が。

 

「ふ、ふざけるなっ!」

 

 ――良い娘ちゃんぶるなよ? それがお前の本音だろ?

 

「わ、私は――」

 

 ――壊しちまえよ。

 

「やめろ」

 

 ――ご主人様をお前のものにしちまえよ。邪魔な女は全て殺せばよい。

 

「やめろっ!」

 

 ――くくく……、いつまで我慢できるかな?

 

「はぁ……はぁ……。私は……」

 

 自分が怖かった。その内、何かとんでもない過ちを犯してしまうのではないと、自分を制御出来なくなってしまうのではないかと、自分の中にもう一人の自分がいて、そいつが何もかもを奪ってしまうのではないかと。

 

 そう思う一方で、それに身を任せてしまえばどれ程楽であるかと思う自分がいた。そんな自分が憎くて、頭の中がごちゃごちゃになっていく――そんなときだった。

 

 不意に扉がこんこんと叩かれた。

 

 そんな事をする人物は一人しかいない。

 

「まさか……御主人様?」

 

 恐る恐る扉を開いてみたが、そこには誰もいなかった――いや、正面を見たままではその者の姿を見ることは出来なかったのだ。

 

「こっちだよぉ、愛紗お姉ちゃんっ」

 

「璃々?」

 

「うんっ!」

 

 そこにいたのは璃々だった。おそらく御主人様とずっと過ごしていたから、御主人様が日ごろから無意識的にしている『のっく』を真似しているのだろう。

 

「江陵に来ていたのか?」

 

「うん。ずっと永安じゃ寂しいもん」

 

 確かにそうだろう。この年頃の娘は母親や父親に甘えたがるだろうから――特に璃々には父親がいない。ご主人様も紫苑も最近はずっと各地を飛び回っていたから、一人で留守番していることにも限界があったのだろう。

 

 永安と荊州を結ぶ国境線は既に安全地帯となっている。近頃は頻繁に伝令の行き来もしているから、護衛を多少付ければ来ることは可能だ。まだ江陵には滞在し続けるだろうから、璃々をこちらに招き寄せたとしても不思議ではない。

 

 璃々は無邪気な瞳でこちらを見つめている。その無垢な瞳は桃香様のもののようで、今まで自分の脳裏に浮かんでいた邪な思考を見透かされているような気がして――そんな穢れたものを璃々には見せたくはなかった。

 

「どうしたのだ? 私に何か用か?」

 

「うん」

 

「ふむ、ならばここではあれだから、中に入れ」

 

「ありがとっ」

 

 きちんとお礼を言ってから、璃々は私の部屋の中に入ってきたのだ。璃々を見ていると、自分が本当に汚い人間であると思えて、無性に自虐的な気分になっていたのだが、そんなところを璃々に見せるわけにもいかないだろう。

 

 

「まずは茶でも飲め」

 

「わぁ、ありがとう」

 

 私から茶を受け取ると、美味しそうに飲む璃々。心が荒んでしまいそうなときに、こやつの無邪気な笑顔は私には眩し過ぎるような気もするが、それでも自分の気持ちが少しだけ晴れやかになるような気がした。

 

 だが、それも一時的なものに過ぎないだろう。何としても、自分がどうしてこうなってしまっているのか、原因を探らないといけない。曹操軍との決戦の前に、私だけ腐っているわけにもいかない。

 

 これまでこんなことは一度もなかった。私は常に桃香様の一番槍であり、誰よりもあの方を敬愛していた。御主人様に対しても同様である。お二人のためならば、自分の命を投げ捨てる覚悟すら出来ていたのだ。

 

「それで璃々、どんな用なのだ」

 

 寝台に座る璃々に視線を合わせるため、屈みながら質問した。

 

「うーんとねぇ、今日の朝にねぇ、お母さんとお兄ちゃんが愛紗お姉ちゃんの心配してたの。だからねぇ、璃々が愛紗お姉ちゃんを元気づけようと思ったの」

 

「む、紫苑と御主人様が……?」

 

 やはりご主人様の目は誤魔化せなかったのだな。おそらく桃香様にも伝わっているのかもしれない。結局、私はお二人に心配をかけてしまったのか。それに璃々にまで気を使わせてしまうとは、本当に情けない。

 

「そうか。ありがとうな、璃々」

 

 璃々の頭をそっと撫でる。

 

 まさかこのような幼子に慰められる日が来るとは思わなかった。それだけ今の私は、傍から見ればおかしくなっているのだろう。

 

「だからねぇ、愛紗お姉ちゃんが何か悩んでいるなら、璃々が話を聞いてあげるよ」

 

「ふふ……、璃々みたいな子供に相談か」

 

「うぅっ! 璃々、子供じゃないもんっ! それに七乃お姉ちゃんも、困った人がいれば助けるようにって言ってたよ」

 

「ふむ、そうか」

 

 あのとき私は星に話すことで少しだけ心が楽になったような気がした。相手が璃々であれば――他人に漏らしはしまいし、正直な話、私の話を聞いたところで、その内容を理解することなど出来ないだろう。

 

「分かった。璃々、私の話を聞いてくれるか?」

 

「うん。璃々は困った者の味方だもん。七乃お姉ちゃんみたいになるよ」

 

「……まぁ七乃にはあまり近づかん方が良いぞ」

 

「……?」

 

 璃々が七乃に懐いてしまうのは非常に不安――まぁ美羽も懐いているのだから、子供に好かれているだけなのかもしれないが、璃々の健全な成長を妨げるような気がする。後で紫苑には話しておこう。

 

 とりあえず、かなり軽い気持ちで璃々に今の心境を吐露することにした。相手が璃々であるからなのか、素直に内心に秘めていることを話せた気がする。これが別の人間であれば、こうもいかなかっただろう。

 

「うーん……」

 

 璃々は大人っぽく顎に手を添えて考える素振りを見せるが、それがあからさますぎて逆に微笑ましい。

 

「分かったっ。愛紗お姉ちゃんはお兄ちゃんのことが好きなんだっ」

 

「好き? 確かに私はご主人様のことを尊敬しているが――」

 

「んーん、違うよ。そういう意味じゃなくて、愛紗お姉ちゃんは、んーとね、なんだったかな? イセイとしてお兄ちゃんのことが好きなんだよ」

 

 イセイ? 為政? 威勢? ……異性!?

 

「な、ななな何を言っているんだ、璃々っ!? そんなこと――」

 

「えー、だってだって朱里お姉ちゃんが持っていた御本に書いてあったよ。女の人がそういうことを思っているときは、相手のことを、えーと、あいしてるんだって」

 

「朱里のやつ、璃々になんという本を……」

 

「本当はねぇ、朱里のお姉ちゃんはもっとたくさんの御本を持っているから、全部見せて欲しかったんだけど、他の絶対にダメだって。璃々がもっと大きくなってからだって」

 

「うむ、朱里にもあまり近寄らんようにな」

 

「……?」

 

「話の続きだが、私は御主人様の家臣なのだ。その主を私が愛して良い訳が……」

 

 そこまで言って、口が止まってしまった。今、自分が述べようとしていることは、本当に私の気持ちなのだろうか。私が御主人様に対して抱く感情は、家臣だから故の敬愛ではないのではないのだろうか。

 

「お母さんも前に言ってたよ。好きな人が出来るとねぇ、胸が苦しくなって、切なくなって大変なんだって璃々には良く分かんないけどねぇ」

 

 胸が苦しくって切なくって、自分でも何が何だか分からないが、御主人様のことで頭が一杯になっている。自分がどうしたいのか分からず、仕事にも身を入れることが出来なくなってしまう。

 

 ――もしも、その悩みを本気で解決したければ、主に直接訊くと良い。そうすれば、すぐに分かるさ。

 

 星の言葉の意味が分かった気がした。星は最初から私の気持ちを理解していたのだろう。確かに御主人様に直接訊いてしまえば――いや、御主人様と話そうとしてしまうだけで、自分の気持ちに気付いてしまうだろう。

 

「ふふふ……」

 

「どうしたの、愛紗お姉ちゃん?」

 

「いや、ありがとう、璃々。お前のおかげで悩みがなくなったぞ」

 

「本当? 良かったぁ」

 

 まさか璃々に相談して、本当に解決するとは思わなかった――いや、璃々のような純粋な者だからこそ、私も素直な気持ちをぶつけられ、そして、自分を見つめ直すことが出来たのかもしれない。

 

 御主人様、私はあなたをお慕いしているようです。

 

一刀視点

 

「ふぁぁ……」

 

 既にとっぷりと夜も更けてきた。

 

 今日も我ながら政務に精を出したから、疲れてしまったな。集中していたから時間が経ったのも忘れてしまった。明日は朝から雪蓮さんたちと打ち合わせがあるから、今日はそろそろ寝ようかな。

 

 あ、その前にトイレにでも行っておくか。今日みたいに事務作業ばかりしていると、どうしてもお茶などの水分を多めに取ってしまうから、トイレに行く回数が多くなってしまう。外は少し寒いからあまり行きたくないのだけど。

 

「うわっ!」

 

「ひゃっ!」

 

 扉を開けると誰かが立っていたので、思わず驚いてしまった。

 

「あ、愛紗……?」

 

「あ、その、こ、こんばんは」

 

「え? あ、こんばんは」

 

 それは愛紗だった。そういえば愛紗としてこうして面と向かって話すのは少し久しぶりだった気もするし、昨日の朝くらいだったか、愛紗がどうしているかを紫苑さんに訊いたこともあった。

 

「まぁとりあえず寒いだろうから中に入りなよ」

 

「は、はいっ。失礼します」

 

 いつも軍人らしいきびきびとした動きをする愛紗だったが、今日はあまりにも不自然だった。普段と同様に背筋をぴんと伸ばし、素晴らしい姿勢で歩いているのだが、手と足が揃ってしまっているのだ。

 

「はい、まずはお茶ね。温まるよ。熱いから気を付けてね」

 

「はい。んぐっ! けほっけほっ」

 

「だから熱いって言ったじゃん」

 

「あぅぅ」

 

 言ったそばから熱々の茶を一気飲みしようとしてむせる愛紗。冷静な愛紗らしくない行動である。ここ最近、姿を見せなかったことと関係あるのだろうか。何か抱え込んでいるのなら、俺が解決してあげたいな。

 

「それで、俺に何か用かな?」

 

「えっ? あ、はい。そうなんですけど……」

 

 とても言いにくいことなのだろう。愛紗は顔を赤らめながら言い淀んでいる。あまり人に相談したくないことを、敢えて俺に相談したということは、俺にそこまで信頼を寄せていることになるのだから、ここはじっくり話を聞こう。

 

「大丈夫だよ。焦らないで。愛紗が落ち着くまで俺はずっと待っているから」

 

「あう……」

 

 愛紗に安心してもらうために頭を撫でる。きっと何か重大な悩みを抱えているに違いない。だとしたら、愛紗が話しやすい雰囲気を作るのが、聞き手の俺の役割であろう。

 

 愛紗は強い女性の象徴である。

 

 軍神と皆から畏怖の存在と知られ、戦地に降臨すれば一騎当千の働きを愛紗であるが、精神的には非常に脆く、精神面に関して言えば、義姉の桃香の方が一枚も二枚も強かである。そして、一度内面が崩れかけてしまうと、それを立て直すには時間がかかる。

 

 おそらく今もそうなのだろう。付き合い自体はそれほどに長いわけではないのだけれど、愛紗が何かに悩んで、とても苦しんでいるくらいは分かる。そして、その救いを俺に求めているのだろう。

 

 ゆっくりで構わない。彼女が俺に打ち明ける決意をするまで――ここに来るまでに一度はしたのだろうが、やはり俺を目の前にすると、心情を吐露するのに躊躇してしまうのは仕方のない話である。

 

「ふぅ……、御主人様、あのですね……」

 

 愛紗が深呼吸してから、徐に俺に話し始めようとする。しかし、まだどこか躊躇っている部分があるのか、言い出しの言葉が出て来ない。一旦話し始めてしまえば、きっとそのまま話せるのだろう。

 

 頑張れ、愛紗。

 

 愛紗が何を言っても、俺はそれを受け止めるさ。

 

 心の中で愛紗を応援する。人に相談することすら憚れるような内容なのかもしれない。だが、俺は愛紗のことを大切な女性だと思っている。だから、どんなものであれ、彼女のためならば力を尽くそう。

 

「……私はずっと桃香様をお慕い申し上げておりました。それは今も変わりはありません。私にとって、桃香様は掛け替えのない家族であり、桃香様の幸せのためならば、私は全てを捧げる気でおります」

 

「うん」

 

「しかし、これは――これだけは桃香様といえども、ただ見ているということだけは出来ませんでした」

 

「うん」

 

「……御主人様、私は御主人様を……お慕い申し上げております」

 

「うん……え?」

 

「御主人様のことが好きなのです。誰よりも、その……と、殿方として愛しております」

 

 

 えーと、落ち着こう。

 

 愛紗は何と言ったのだ?

 

 俺のことを慕っている? 君主としてではなく、男として? 誰よりも愛している?

 

 先ほどまで愛紗の言うことは全て受け入れると思っていたのだが、愛紗の発言が斜め上を行き過ぎて、残念ながら俺の思考力が追い付いていないようだった。愛紗にリアクションを上手く返すことが出来ない。

 

「……申し訳ありませんっ! 武人として、仕えるべき主にこのようなことをっ!」

 

 愛紗がすぐに頭を深々と下げて、いかにも申し訳なさそうに謝罪した――その瞬間、俺の思考は完全に止まり、一つの結論が紡がれた。

 

 愛紗はそのことでずっと悩んでいたのだ。武人としての忠誠か、女性としての思慕か、その板挟みになって、その想いをどうしようかひたすらに悩んできたのだ。そして、それを俺に素直にぶつけたのだ。俺が拒絶しようが、受け入れようが、そんなことすら考えずに、ただ俺のことを想って。

 

 何を考える必要があるんだ。

 

 一人の女の子が、俺のことを一心に想い続けて、苦しむまでになっているんだ。

 

 拒絶されるのが怖くて、だけど、その気持ちを抱き続けるのにも耐えられずに、こうやって今にも泣きそうな表情を浮かべているんだ。

 

 俺がすること一つしかない。

 

「……愛紗」

 

「あっ……」

 

 俺は愛紗を優しく抱きしめた。

 

 その行為が予想外だったのだろう、愛紗の身体が硬直したのを感じた。それを解すように背中を何度も摩ってあげると、少しずつ緊張がなくなっていった。

 

「ありがとう。本当に嬉しいよ」

 

「……しかし、私は武人として――」

 

「そんなこと言わないで。俺にとっては、愛紗だって可愛い女の子なんだから。家臣だろうが、君主だろうが、関係ない」

 

「御主人様……」

 

 愛紗と見つめ合う。

 

 潤んだ瞳からとうとう一筋の涙がその頬を伝わった。

 

 俺はその涙をそっと拭い去ると、頬に優しく触れた。俺を想い続けてくれた彼女が、愛しくて堪らない。

 

「……いいかな?」

 

「はい」

 

 愛紗の髪留めをそっと外す。

 

 豊かで美しい黒髪が、愛紗の背中にさっと落ちた。美髪公と呼ばれる程だから、愛紗の髪はとても綺麗で、腰まで垂れるその髪を何度も梳いてあげる。愛紗の甘い匂いが俺を包み込むように香り出して、さらに彼女を愛したくなる。

 

「ご、御主人様、恥ずかしいです……」

 

 無意識のうちに、俺は愛紗の髪に顔を埋めて、その香りを思う存分に楽しんでいた。

 

 それが恥ずかしいのか、愛紗は顔を真っ赤にしながら、視線をあちこちへと彷徨わせる。

 

「ダメ。もっと愛紗の匂いを嗅がせて」

 

 そんな初心な愛紗に、俺の悪戯心が刺激されてしまい、もっと大胆に愛紗の匂いを嗅ごうとする。最初は恥ずかしがっていた愛紗も、徐々に俺に身を任せるようになっていった。

 

 俺はそのまま愛紗を寝台の上に押し倒すと、彼女の上に覆いかぶさった。

 

 額同士をこつんと当てて、愛紗の瞳をそっと覗きこむ。

 

 やはりまだ恥ずかしさは残っているのか、愛紗は俺の瞳を見つめようとしない。だけど、顔を動かすことが出来ないので、目だけが泳いでいる。

 

「愛紗、俺の目を見て」

 

「そんなぁ。もう恥ずかしくて――」

 

「ダメ」

 

「うぅ……」

 

 観念したのか、愛紗が俺を見つめる。俺はそこから何も言わずにずっと愛紗を見つめ続けた。その沈黙がしばらく続くと、愛紗が辛抱出来なさそうに顔を赤くする。

 

「ふふ……可愛いな」

 

「か、からかわないでください」

 

「うん。ごめんね。愛紗のことが愛しくて、ちょっと意地悪したくなっちゃった」

 

「もう、酷い御人です」

 

 愛紗がふっと苦笑を漏らす。いつも通りの穏やかではっとするほど美しい笑顔だった。

 

 愛紗の頬に手を添えると、俺がこれから何をするのか察したのか、愛紗が緊張したように顔を強張らせた。そんな反応一つですら、今の俺にとっては可愛く思えた。

 

「あ、あのっ、御主人様っ」

 

「どうした?」

 

「わ、私は……その……初めてなので……あの……や、優しくして下さい」

 

 今にも沸騰しそうな程に顔を赤らめて、消え入りそうな声でそうお願いする愛紗。

 

 俺の中でぷつんと何かが切れたような音がした。

 

「ごめん、愛紗、俺もう耐えられないわ」

 

「え? ご、御主人――んむっ」

 

 愛紗が何か言おうとするのを遮るように唇を奪う。完全に虚を付いたものだったようで、愛紗の身体はガチガチに固まってしまったが、唇を吸い上げ、舌で口をこじ開ける。さらに舌を中に侵入させ、舌を絡ませる。

 

「ん……ご、御主人……様ぁ……」

 

 舌を何度も絡ませて、愛紗の濃厚な味を堪能しながら、唾液を交換する。既に俺の興奮は臨界点に達しており、ちょっとやそっとでは収まりそうになかった。

 

 しばらくそうしていると、愛紗も徐々に俺の背中をぎゅっと掴んで、舌を絡ませてくれるようになった。ファーストキスを強引に奪ってしまったのは、少しばかり申し訳ないが、もう止められない。

 

 愛紗から口を離して見つめ合う。既に愛紗の瞳はトロンと惚けており、吐息にも熱いものが含まれている。

 

「愛紗、愛してるよ」

 

「私もです、御主人様」

 

 俺と愛紗は再び唇を激しく合わせるのだった。既に夜も更けており、これからは俺と愛紗の愛し合う時を邪魔するものは何もないのだった。

 

あとがき

 

 第七十七話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、前回まで桃香と愛紗を同時に結ばせる構成を考えていましたが、急遽変更いたしまして、愛紗と桃香を別々にすることにしました。

 

 前回のラストで愛紗が少し病みそうな展開になったので、これはもう別々の方が良いだろうと判断したため、今回は愛紗のみを一刀くんと結ばせました。

 

 愛紗可愛いよ愛紗。

 

 やっぱり愛紗は本当に良いですね。

 

 いろいろと問題的な面もありますが、一途に一刀くんを想う姿には堪らないものがあります。そんなわけで少しばかり力を入れて今回を書いてみました。

 

 さてさて、内容に関して、最初は完全に病んでいます。もう一人の愛紗まで出てきて、少し間違えれば完璧にヤンデレ√に突入します。デッドエンドまっしぐらです。

 

 そんな愛紗の許を訪れたのはなんと璃々ちゃんでした。

 

 前回のコメントで、愛紗が自分の想いに気付く場面を意外な展開で迎えて欲しいとの要望がありましたので、知恵を絞った結果、璃々ちゃんに任せることにしました。

 

 璃々ちゃんがどうして愛紗の気持ちに気付くことが出来たのかは微妙なラインですが、朱里の本――飽く迄も健全なもので、八百一的なものではありませんが、それによってだと思って下さい。

 

 それにより、自分の想いに気付き、一刀くんに想いを伝えます。

 

 後はとにかく甘さを目指して勢いのまま書き連ねました。後悔はありません。

 

 そんなわけで無事に愛紗と一刀くんは結ばれることになりました。めでたしめでたし。

 

 さてさてさて、そういうわけで桃香の結ばれる話をまた一から練り直す羽目になってしまいました。

 

 現在、第三回の恋姫同人祭りが開催されていますが、それ用に単発作品を執筆する余裕はなさそうなので、今回は参加を見送らせて頂き、その代わりに桃香の話で上手くクリスマスを絡ませようかなと思っております。

 

 前回の桃香の拠点が思う以上に好評だったようなので、ハードルが上がり、非常に書き辛いのですが、皆様に満足して頂けるように頑張りたいと思います。

 

 それでは今回はこの辺で筆を置かせて頂きます。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 


 
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