No.34798

ひだまりに抱かれて。

本城丸腰さん

ボーカロイド二次創作。ミクメインのお話です。かなりの独自要素が入っているので、ご自分の持つ「ボカロ」のイメージを崩したくないという方は読まないことをおすすめします。また、文が稚拙で雑なため、読みにくいかもしれません。よろしくお願いします。

2008-10-08 18:41:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:593   閲覧ユーザー数:562

 

「ひだまりに抱かれて。」

 

 

 春先の天気の良い日。晴天とはまさにこのことで、空には雲ひとつない。ここまでも気持のいい日もそうないだろう。さらにこの日が休日であるために、私も心はより気持ち良い。

 就職をしてから初めての休日は、終始そんな天気だった。

 

 その日はいつもより遅く起きた。ここ一週間は仕事に慣れようと四苦八苦していて、まともな休息をとる暇がなかった。

 休日ということであり、昨日は仕事場で仲良くなった人たちと一緒に飲みに行っていた。羽目を外しすぎる、ということはなかったが、少し飲みすぎた気がする。だからこんなにもぐっすり眠れたのだろう。幸い二日酔いはしていないようだ。

 洗面所で顔を洗い、その後キッチンで朝食の用意。ここのところ簡単なものしか食べていなかったので、少し手の込んだものを作ろうと思い、朝からシチューを作ることにした。

 もともとシチューは得意料理のひとつなので、ミスをすることもなく完成した。ただ一人で食べるには多すぎる量だったので、きっとこれは今日の昼食、夜食、そして明日の朝食になるのだろう。そうなった場合は、私は一週間はシチューと縁を切るつもりだ。

 底の深いお皿を選び、そこに出来上がったばかりのシチューを盛り付ける。これだけではさびしいので、一昨日買ってきた食パンを二枚乗せる。私は食パンにシチューをつけて食べるのが好きだ。今回もその例に漏れない。いつもは一枚だけど、奮発して二枚。ただ単に休日で浮かれているだけかもしれない。

 最後にこれも一昨日買ってきた一リットルの午後ティーのステレートをコップに注いで、準備完了。テーブルの上にもっていき、テレビをつける。画面の中では、タモリさんが今日のゲストと一緒にしゃべっていた。テレホンショッキングの時間だったか。今日は先日公開されたばかりの映画の主演の俳優さん。ドラマの映画化(厳密には違うらしい、と仕事場で仲良くなった人は言っていた)らしい。確か…容疑者なんとかのうんぬん。あまりそういった血の出るような話は好きではないので、ドラマも知らない。ただ仕事場の人に言わせると、あれは原作を殺している気がする。オリジナルの要素を加えず、しっかりと原作どおりにドラマを作ってほしい。とのことだ。あいにく原作である小説も読んだことないので何とも言えなかった。

 話が一通り終わり、例のごとく百分の一をピンポントさせるあれが始まった。残念ながら百分の三という惜しい結果に終わった。明日のゲストは映画で共演している女優さんらしい。

 そんな感じで番組を見ていたら皿は空っぽになっていた。

 

 けだるい午後の時間が過ぎていく。特になにをするわけでもなく、ただベランダにおかれた椅子に座ってまどろんでいる。ポカポカと降り注ぐ春の陽射がとても心地よい。自然と瞼が重くなっていく。

 あぁ。こんな時は逆らうことはせずに、そっと身を預けよう。

 瞼をすんなりと下し、しばらくして私は意識を手放した。

 

『ミク。ほらどうした?泣いているのか?』

懐かしい声。優しい声。大好きだった人の声。

『ほら、泣くなよ。かわいい顔が台無しだ。誰がいじめたんだ?おれたちが懲らしめてやるよ』

そういってその人はいつも私を守ってくれていた。

『ねぇ、ミク。こんど一緒に買い物いかない?服とか見に行こうよ。きっと似合うのあるって』

また別の人の声。懐かしい声。優しい声。大好きだった人の声。

『なに、またいじめられたの?まったく、どこのどいつよ。私の妹分をいじめるなんて。ちょっと懲らしめてくるわ』

そういっていつも私を守ってくれた。

『ミクはさ、将来の夢とかあるのか?』

『それ私も知りたい。ねえ、あるの?夢』

二人が笑っている。私も笑っている。それはとても幸せな光景。

『そうか。なるほどな。それは良い。きっとミクなら大丈夫だ』

『うん、私もそう思う。がんばって夢をかなえな。なに、心配すんな。あんたは、私たちの妹分なんだから』

そうやっていつも笑い合っていた。

今ではない、昔のこと。もう逢うことのできない、愛しい人々との思い出の名残。

『ミク、がんばれよな』

カイにぃ。

『負けるなよ、ミク』

メイねぇ。

やがてそれはセピアに色褪せていく。古いアルバムに閉じ込められた、写真のように。

 

ただ―――確かにそこにあったという、ぬくもりだけを残して。

 

 夢を見ていたのかな。ゆっくりと瞼を持ちあげると、陽はだいぶ西に傾いていて、携帯には4時半と表示されていた。

 何か濡れている。頬に触れると、そこは案の定濡れていた。

 涙――?あれ?なんで泣いているの?

 なにか悲しい夢でも見ていたのだろうか。ごしごしと目頭をこすると、よけいにこぼれてきた。

 おかしいな。おかしいな。悲しくないのに。苦しくないのに。

 なんでこんなにも涙がこぼれてくるんだろう。

 

 落ちかけた陽の光が、溢れてくる涙に反射して眩しいな。

 しばらく私は涙を止める作業に没頭した。楽しいことを考えて、いっぱい考えて。

 

 陽が完全に落ちたころ。ようやく涙はおさまった。こすった部分が少し赤くなって痛い。

 とりあえずシチューを温めなおして食べよう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

そんなことがあった、あるひだまりの午後。

Fin

 

 
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