Scene4:天宮研究室 PM11:00
天宮研究室の夜は遅い。
定時退出が推奨されているにもかかわらず、天宮博士が毎日のように居残って一人研究を進めているからだ。
所員の中には、「天宮博士は研究所に住んでいる」などとまことしやかに噂する者さえ居るほどである。
既に深夜という時間、電気の落とされた他の研究室の窓の中、唯一煌々と灯りの点る研究室で、今日も怪しげな機械をいじり回している天宮教授。時折機械の端子から、紫色の放電が飛んでいる。
当然、研究室のドアが音も立てずに開いた。
が、手元の作業に熱中してる博士は振り返りもしない。
こそこそーっと低い姿勢のまま潜り込んでくる人影が一つ、二つ、三つ。
戦闘員を引き連れたレミィである。
いつものビキニアーマーを着ているが、むき出しの素肌にあちこちひっかき傷や擦り傷が出来ているのは、先日の逃走劇の後遺症だろうか。
流石に今日はほっかむりや風呂敷は装備していない。
三人は音も立てずに博士の背後まで忍び寄ると、ようやく立ち上がった。
レミィが背後を、戦闘員二人が両脇を押さえるように素早く展開。
が、博士はやっぱり振り向かない。
しばし沈黙。レミィの額に冷や汗が流れる。
博士の背中をちょんちょん、とつつく。
振り向かない。
博士の肩をぽんぽんと叩く。
振り向かない。
思わず戦闘員二人と顔を見合わせるレミィ。
「あのー、でやんす」
「誰じゃーい!」
声をかけた途端、ぐるっと振り返り大声で誰何される。
「ひ、ひぃ!?」
レミィは思わずへたり込む。目尻にちょっと涙。
「ん?まーた妙な格好をしたねーちゃんじゃな」
じろじろと無遠慮にレミィの格好を眺める博士に、ちょっと恥ずかしくなってきたのか身をよじる。
しかし、博士の方はその無駄にメリハリのきいたボディよりもそれを覆う怪しげな装備の方に興味があるらしく、
「ほう、カーボンカーボンとケプラーの複合素材に……ふむう、この金属光沢はチタンか?いや、見たことの無い組成じゃな。一片ほどサンプル提供せんかね?」
などとどこからかルーペを取り出して引っ張ったり押してみたり。
「ちょ、そ、そこはダメでやんす!いーやー!?」
きわどい部分にまで(スケベな意図はまったくないようなのだが)触れてこようとする博士に慌てるレミィ。
その様子をあわあわとしながら見ていた戦闘員がようやく博士を引きはがした頃には、レミィは半べそをかいていた。
「ふむ……察するところ、君たちは今世間を騒がしている『ダルク=マグナ』とかいう連中ではないかね?」
ようやく落ち着いた研究室内。戦闘員が入れたお茶を飲みながら対峙する二人。
こんなフレンドリーに対応してていいんでやんすかねーとか、まだちょっとアーマーを狩人の目で見られつつ思うレミィ。
普通はもうちょっと驚くとか怯えるとかする物じゃないのかと。
「そうでやんす」
「聞けば世界征服を目指していると言うことだが……」
「でやんす」
と、いきなりうつむく教授。肩が震えている。
「どうしたでやんすか?今更怖くなってきたでやんすか?」
心配になってレミィが覗き込むと、
「くっくっくっく……」
笑っていた。
その迫力に思わず後ずさると同時、忍び笑いが哄笑に変わる。
「はぁっはっは!素晴らしい!素晴らしいじゃないか!」
「え、あー?だ、大丈夫でやんすか?」
「大丈夫?大丈夫と聞いたかね?これが大丈夫でいられるものか!
科学者の道を志し、爾来三十余年。儂がこの日をどれほど待ち望んでいたことか!
世界征服を目指す悪の秘密組織!
世界を混乱に陥れる計画!
その計画を推進させる心躍る狂気の発明の数々!
幼き頃より夢にまで見た世界が今、儂の目の前に広がっておるのだぞ!?
人道?倫理?
科学の進歩のためにはそんなもの糞の役にも立たぬと切って捨てる揺るぎなき信念!
くだらぬしがらみから解き放たれた科学の翼のみがたどり着ける真理の扉!
ああ、往年の狂気の知性達よ!
儂も今その栄誉の座に赴かんとしているのだな!」
「こ、これは……ほんとーにこんな人連れて帰っていいんでやんすかねえ…」
高笑いを続ける博士を前に、だらだらと冷や汗を流しながら戦闘員と相談を始めるレミィであった。
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