アンセフィム襲撃
C1 束の間の王位
C2 アチョ!
C3 忠臣
C1 束の間の王位
ニランゼン城。玉座の間。アンセフィムは王冠を被り、玉座の前に立って両手を頭上にそえる。手前に並ぶ配下の兵達。
アンセフィム『ようやく、ようやく手に入れた…元老院の推した血族に奪われ、蝙蝠に持ちさられ、再び元老院の押したどこの馬の骨ともわからぬ女に献上されたこの王位を…小さな王冠。ロズマールの証!正統の血筋である私こそ相応しい…。』
ダオンはアンセフィムの前に進み出る。
ダオン『失礼ながら、殿。王座に陶酔している場合ではありませんぞ』
アンセフィムは先端のカールした眉を顰め、目を細めてダオンの方を向く。アンセフィムの長く先端でカールした横髪がたわわに揺れる。
アンセフィム『何だ。じい。』
ダオン『諸侯の総意により代表の地位を得られたとして…殿の地盤はまだ安定しておりません。それに…この国が抱える問題は山積みです。』
アンセフィム『そ、そんなことは分かっているわ。』
ダオン『先程の論功行賞、殿はあれほどの功績のあるガグンに対し、その地位を安堵するという褒賞しか与えなかった…。』
アンセフィム『んっ、だから…何だというのだ?』
ダオンはアンセフィムの横に移動する。
ダオン『不満が出ます。殿!よいですか。バブーの塔に一人でよじ登り、一人でオーイー元老院議長、ブレイマン伯爵及びロズマリー派の貴族どもをガグンは倒したのですぞ。』
アンセフィムは手で払う動作をし、前に出る。
アンセフィム『フン、田舎貴族がオーイーを倒したとて、壁を乗り越えたところに運よく奴がいただけではないか。第一奴の死体は発見されていないだろ。』
ダオンはアンセフィムの横に駆け寄り、一礼して顔を上げ、アンセフィムを見つめる。
ダオン『しかしながら我々はそれを見ておりました。その誰から見てもはっきりとした功績を持つ奴を評価しないのは他貴族達に不信を植え付けることになりかねません。それに…ガグンは狂犬にも関わらず、自他の功績を見極める眼だけはしかと持っています。あのような鎖ではたやすく食いちぎられ、瞬く間に主の喉元に飛びかかって来るでしょう。今からでも遅くありません。直ちにガグンを招集し、高い地位を授けて辺境の牢獄に押し込めておくのです。』
アンセフィムは腰に手を当て、景色が一望できる大窓の近くに歩み寄る。ダオンはアンセフィムの後に続く。
ダオン『それに…リシュー。あの男がこの機を逃すはずかありません。オーイーの変心時、奴めはオーイーと一戦交えております。オーイーの暴虐が許せなかったと本人は申しておりますが…バブーの塔は奴の設計物。あわよくばオーイーをその場で殺害し、ロズマリー女王を掲げ、王権を奪取する腹づもりだった節があります。』
アンセフィムは顎をさする。
アンセフィム『それにそれにと…じいは心配性だ。たかが三下の単細胞と女ったらしに何を臆することがあるものか。』
ダオン『殿!単細胞も度を越せば名将とてその動向を見抜くことはできませぬ!!それにリシューの知力と魔力が加わるのですぞ!到底油断なぞできませぬ!』
アンセフィムはゆっくりと玉座に歩み寄り、座って頬杖をつく。アンセフィムは眉を顰めてうるんだ瞳でダオンを見つめる。
アンセフィム『王位についたというのに爺は小言ばかり…。』
C1 束の間の王位 END
C2 アチョ!
大振動。
爆発音。
アンセフィム『やん!』
アンセフィムは振動に耐えかね玉座から崩れ落ちる。ダオン、その他の兵士もその場に倒れこむ。
アンセフィム『なっ!!何事っ!!』
アンセフィムは床を這って窓に向かう。そして、窓枠に手をかけ、外を見る。眼下にドラケン級機動城塞5隻によってニランゼン城城壁が轢き壊される。
正面のドラケン級機動城塞甲板に乗り、剣の切っ先をアンセフィム達に向けるガグン専用ヴェイ。その肩部の砲は撤去され、替わりに剣が装着されている。格納庫のハッチが開き、人型機構の大軍がニランゼン城を取り囲む。
アンセフィム『き、機動城塞だと!!』
ダオンはアンセフィムに駆け寄る。
ダオン『あの旗印は…ガグン!!』
アンセフィム軍兵士Aが駆け込んでくる。
アンセフィム軍兵士A『たっ、大変です!機動城塞が!機動城塞が攻め込んできました!!ガ、ガグン軍です!』
アンセフィムは振り返り、アンセフィム軍兵士Aを睨み付ける。
アンセフィム『見れば分かるわ!馬鹿者!なぜ、接近を許した!!見張りは何をしていたのだ!!』
アンセフィム軍兵士Aの顔からは汗が吹き出す。
アンセフィム軍兵士A『そそそれが…機動城塞が…機動城塞が…空から降ってきたのです!!』
アンセフィム『は…はぁ!!!』
アンセフィムは起き上がった兵士達の方を向く。
アンセフィム『何をやっているか!早く迎撃に出ぬか!田舎貴族等一ひねりであろう!!』
アンセフィム軍兵士Aはアンセフィムの傍らに駆け寄る。
アンセフィム軍兵士A『アンセフィム様!それが…敵の起動城塞により、兵舎、武器庫、弾薬庫が全てピンポイントで押しつぶされまして…。』
アンセフィムの眼は大きく見開かれる。
アンセフィム『何だと!』
ダオンはアンセフィム軍兵士Aの傍らによる。
ダオン『して、兵舎、武器庫、弾薬庫を押しつぶした敵陣の機動城塞の被害状況は!』
アンセフィム軍兵士A『は、はい。たいした被害もなく健在です。』
ダオンは顎髭をさする。
ダオン『…リシューがいるな。』
アンセフィムは兵達の前に歩み出る。
アンセフィム『特別格納庫を開けよ!予、直々に相手をしてくれようぞ!』
アンセフィム軍兵士Aはアンセフィムに駆け寄る。
アンセフィム軍兵士B『駄目です。混乱していてそれどころでは!』
アンセフィム『馬鹿者!予は王族ぞ!あのような田舎貴族どもにコケにされてたまるものか!!』
ダオン『アチョ!』
ダオンはアンセフィムの頬を殴る。倒れるアンセフィム。
アンセフィム『…イテッ!い、痛いよ。じい。』
アンセフィムは涙目になり、頬をさする。
ダオン『状況をよく把握なされよ!先程の奇襲で、兵士は既に恐慌状態。しかも、あのガグン軍の勢い…止められるものではございませぬ!もう、包囲網も完成しているでしょう。この様な、敗北必至の場合、とる手段は…。』
ダオンは口笛を吹く。モグラ獣人の傭兵達が現れ、アンセフィムを取り囲む。
アンセフィム『なっ!何をする!!じい…。』
アンセフィムは剣の柄に手を伸ばす。モグラ獣人の傭兵達はアンセフィムを鎖で縛りあげる。屈強なモグラ獣人に担ぎ上げられたアンセフィムはダオンを睨み付ける。
アンセフィム『……ダオン!!きっさま!!』
ダオンは腰に手を当て、景色の一望できる窓に歩み寄る。
ダオン『殿は口うるさくてかなわぬ。あれを。』
アンセフィムは兵士に無理やり猿轡をはめさせられる。
アンセフィム『んご…んぐうううう。』
ダオン『連れて行け!』
アンセフィムは必死に体を左右に動かし、ダオンを睨みつける。
アンセフィム『んんっ!んんんんんっ!!』
ダオンの背の輪郭は窓から差し込む光に照らされる。
C2 アチョ! END
C3 忠臣
特別格納庫。アンセフィム専用ヴェルクークに乗り込むダオン。ヴェルクーク級人型機構に乗り込むアンセフィム軍兵士達。
ダオン『これより出撃する。』
ホログラムに映るアンセフィム軍兵士B。
アンセフィム軍兵士B『はっ!』
特別格納庫のハッチが開き、一斉に駆けだすダオン達の搭乗する人型機構群。後ろを振り向くダオンの眼には炎上するニランゼン城、城壁から投げ落とされる兵士、人型機構の剣に貫かれる兵士達が映る。
ダオン『殿!どうか御無事で。』
森をかき分け進むダオン率いる部隊。アンセフィム軍兵士Aのホログラムがダオンの前に現れる。
アンセフィム軍兵士A『た、大変です!高速でこちらに向かってくる反応が!!』
ダオン『馬鹿な。ガグン軍の大半はヴェイ級人型機構のはず…ヴェルクーク級人型機構の機動力には勝てぬ筈…。こんなに早くは…。』
ホログラムに映ったアンセフィム軍兵士Aは横を向く。
アンセフィム軍兵士A『も、目視できます。これは…ひっ、人型機構が戦闘機に乗っている!ああああれはガ、ガグン機です!!』
ガグン機が低空飛行のエビ戦闘機に乗り、現れる。
ダオン『せ、戦闘機にヴェイを乗せているだと!なんたるガグン…。』
アンセフィム軍兵士Bのホログラムが映る。
アンセフィム軍兵士B『ここは我らにお任せを!』
アンセフィム軍の人型機構達は壁を作る。
ダオン『…何を言っている。こうなってしまえば奴と一戦交えるのみ!!』
アンセフィム軍兵士B『我々の目的は悪魔で時間稼ぎということをお忘れですか!』
ダオンは下を向いて目を閉じ、口を閉ざす。そして喉を鳴らす。そして、再び目を開け、口を開く。
ダオン『かたじけない!』
ダオンの搭乗するアンセフィム専用ヴェルクークは後ろを振り向くとブースターを全開にして去る。
ガグン機に突撃していくアンセフィム軍人型機構達。切り捨てられた一騎のアンセフィム軍人型機構の上半身が地面に落ち、コックピットに残された下半身から大量の鮮血をほとばしらせる。ダオンは目をつむる。
ダオン『すまぬ。』
ダオンは目を開け、木々をかき分けて進んでいく。しばらく進み、モニター越しに確認できるガグン機。
ダオン『もう…追いついたのか。しかし、戦闘機がおらぬようだな。ならば!』
ダオンはもう一度ブースターに点火する。
ガグン機のコックピットが開き、ガグンはその胸部に飛び乗り、自身の剣に呪文を唱えながら指でなぞる。ガグンの剣は巨大で長大な炎を噴き上げる。ガグンは自機の胸部を踏み台にしてアンセフィム専用ヴェルクークに飛び掛かり、炎の巨大で長大な魔法剣で真っ二つにする。アンセフィム専用ヴェルクークのコックピットから転がり落ちるダオン。大木に正面から激突するガグン。
ガグン機は木々を勢いよく押し倒しながら転がり、立ち上がるとガグンのいる方へ向かう。炎が森を包む。
ダオンは眼を閉じて剣を鞘から抜き、よろめきながら立ち上がる。そして眼を見開くと剣を振り上げ、立ち上がった額から血を流し、鼻血を出している顔中血だらけのガグンに向かい駆けていく。
ダオン『アンセフィム様万歳!!』
ガグンの剣の一閃がダオンの両腕と生首を飛ばす。剣は地面に突き刺さり、それを握っていた右腕は地面に落ちる。上空に弧を描いて飛んだ首は地面に落ち、転がり再び正面を向く。ガグンの前で血しぶきをあげて倒れる自身の体がダオンの眼に映る。
ガグンは目を細め、振り返ると地面に剣を突き刺す。
モグラ獣人A『ギャー。』
ガグンは脳天に剣が突き刺したまま地面からモグラ獣人Aを引き上げる。モグラ獣人Aの脳天からは血が地面にしたたり落ちる。モグラ獣人Aの死体から無線機が落ち、2、3度バウンドしてダオンの生首の耳元に転がる。
アンセフィムの声『じいは…じいは予をあやつらに引き渡そうとしたのか…そ、そんな…。』
モグラ獣人Bの声『そ~うでごんす。まことでごんす。その通りでごんす。』
アンセフィムの声『おのれ!!おのれダオン!予をガグン軍に売り渡そうとしていたなんてなんたる逆臣!!』
ダオンの瞳は収縮し、目は丸く見開かれる。
C3 忠臣 END
END
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。