No.338898

双子物語-20話-

初音軍さん

過去作より。高校生編
雪乃の体力的には弱いけど精神的には母譲りのタフさが
お目見えする回。
だけど、他のことには割と鈍感で弱いところに人間味があるかもです。

2011-11-24 18:17:16 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:993   閲覧ユーザー数:384

 何か知らないが私を敵視している女子生徒が私の家系の暴露をしていた。確かに

人によっては大事かもしれないが、私にとってはそんな家系でも家族である。

 

それで私のことを嫌いになろうが、軽蔑しようが関係ない。ここの生徒たちとは

それまでだったと、軽く考えることができる。私にはここに居場所はないから。

 

 しかし、それからが私にとっては予想外の展開が起きた。一瞬、後方で椅子を

引きずる音がしたかと思えば。そことは違う場所から様々な音が発生した。

 

 興味なく先生が来るまで勉強をするもの。無視して隣の生徒と話しに華を

咲かせる者。そして、私を擁護するように言う者。それもどれもが今まで私に

コンタクトしてきた生徒会の顔とは違う人だった。逆に言えば、それまで数人が

集まってできた仲間たちはバツが悪いのか言い出した生徒を庇わず無視を

決め込んでいるようだ。要するに一人だけに責任をなすりつけようとする気持ち。

 

 私がもっとも嫌いなタイプだ。だから、私はこの軽く騒々しくなった教室を

静めるために、ゆっくり立ち上がって時計を指差して微笑んで何気なく発言した。

 

「もうすぐ先生来るかもしれないよ」

 

 この、先生が来る。その単語は優等生の集まりである生徒にはどんな意味があるか

重要なことだ。少しでも騒ぎに気づいて先生にでもばれる。内申をよくしたいお嬢様

には、そこら辺のいじめられている生徒を擁護するよりはよほど大事なものだ。

 実際、ほとんどの生徒はこの一言でざわめく数分前と同じ体勢で座っていた。

一部の生徒はまだ言い足りなさそうにしていたが、本当に私のためを想って、

というよりは普段のストレスをぶつける良い機会と思っているのではないか。

 私はその生徒とはほとんど喋ったことすらないのだから。それに、クラスメイト

全員にハブられた方の暴露生徒の方が軽くかわいそうだ。私も、相手にされたこと

がないのはしょっちゅうだったし。彼女はそういうことには免疫がなさそうだし。

 発言から数分後。私の言うとおりに担任の先生が顔を出して教室内の気まずい

空気を察したか、先生の顔に?マークが似合いそうな困ったような表情を浮かべていた。

 

「すごかったやん」

「何が?」

 

 同じ部屋で一緒に過ごす瀬南は興奮気味に私に話しかける。何のことだと逆に

聞き返すと先の教室での出来事だった。あ~、と適当に合わせてから寝る準備を

しながら言葉を返す。

 

「慣れてるから」

「慣れてる?」

 

 瀬南がよくわからないとばかりに首をかしげる仕草がどこか、わんこと重なって

可愛いと思いながら今日と関係のありそうな過去を簡潔に話す。瀬南も私の話し方

から申告には受け取らずに、ふ~んと頷いてそれ以降は聞かないでくれた。

 だけど、その後に出た言葉は案外刺さるような言葉だった。

 

「だけどなぁ、もう少し周りを見た方がええよ」

「!」

 

「こんだけの人数や。全員と仲良おなれ言わないけど、あまりに閉ざしすぎやない?」

「カマをかけてる?」

「まぁ、半分はな。でも、ゆきのんの微笑と態度は私にはよぉわかったよ」

 

 演技下手やなぁと囁かれてから、笑いながらベッドに潜る瀬南。私も同じように

布団を掛けると同じような声で一言だけ、私に声をかけてきた。

 

「無理にとは言わんけど、誰かしらには頼ってもええと私は思うで。おやすみ~」

「…」

 

 言うだけ言って寝てしまった瀬南。私はその言葉を今は考えずに心の少し横に

閉まっておいた。何かスルーできない、心に響いた言葉だったような気がするから。

 

 

 次の日。人間、本当のことを言っても相手にされないと見事に浮くもので。

それまで一緒につるんでいた仲間にも見放された彼女は思いつめた表情で学食に

来て道を見失った人みたいに呆然と立っていた。

 いつもの特盛級の定食を持ちながらその子の横腹に肘で軽く突く。それが

彼女の弱い箇所であったのか意識とは関係なく体をびくんっと跳ねさせる。

それでようやく私が近くにいることに気づいた彼女は睨みを利かせてくる。

 そんな孤独な女子生徒に私は声をかけた。

 

「一緒にごはんたべよう?」

 

「何が狙いなの?」

「はにふぁ?」

 

 混んでいた席がちょうど良く空いたところを素早く取ってから食事を始めたところで

彼女に声をかけられる。ちょうど、口いっぱいにおまけでもらったミートソースパスタ

を頬張ってるときだったから言葉がまともに発せられなかった。

 

「あなたのことを陥れようとする女と一緒に食事をするってことについてよ」

「さぁ。考えたこともないわね」

 

「ふざけないで」

「だって、独りで食事なんてつまらなそうじゃない」

 

「はぁ…?」

 

 私の言葉が心底理解できないという顔で疑問の声を私に投げかけてくる。

彼女に解らなくても私にとっては重要なことだ。フォークを下ろして彼女の目を

見る。威勢の割りに怯えている目をしている。

 

「ごはんは美味しく楽しく食べなくちゃもったいないでしょう」

「…」

 

 軽く首を傾げる。だが、解らなくても私は構わず話を吹っかける。それは、他愛の無い

世間話のようなもの。楽しく話しながら食べれば美味しさも倍増。そんな些細なこと

でも幸せを再確認できたのは、それを言葉でなく雰囲気で教えてくれた彩菜と

離れているからかもしれない。大勢の中で雑談を交えている人が多いから私と彼女の

ことを見ている暇人はいなかったからいつもより多めの会話ができた。

 

「そもそも、なんで私なの?」

「何が?」

 

 最初こそ、ぎこちなかった彼女の喋りが食事の後、廊下で気になっていたことを

聞き出そうとした。彼女は私の問いに一瞬何のことを聞いているのか分からなかった

みたいだが、数秒後に思い出して急に口が重くなる。う~ん、いい流れだと思ったけど。

 

「…美沙先輩に近づくから」

「へ?」

 

 自分でもわかるとても間抜けな声が出た。思い当たる節はあれど、あれを近づくとか

言われても困る。だって、向こうから近寄ってくるのだから。でも、ファンからしたら

そういう風に見えるのかもしれない。

 

「あれは、先輩から話しかけられてきてるんだよ」

「嘘だ」

 

 嘘だとか言われても。話を聞けば聞くほど信者的な内容に感じる。だが、信じている

からこそ、否定的に捕らえられないこともある。だから、可能性は低いが約束とは

遠い言葉で彼女を宥める。

 

「わかった。なるべく近寄らないようにするから」

「だったら、いいわ」

 

 しかし、もう彼女に戻る場所は残されていないかもしれない。それに、私と一緒に

いたところを万一にも目撃されていたら復帰は絶望的であろう。強気でファンとして

振舞っていた彼女の顔からは明るい顔を見受けることができない。

 

「私たち、友達にならない?」

「な、なによ。同情でもするつもり?」

 

「違う違う、ただおしゃべりするだけの相手だとでも思ってくれればいいよ」

「そう…」

 

 そもそも、相対する立ち位置の私たちだ。仲良くなれるとは端から思っていない。

だけど、今から卒業までそんな調子だとあまりにも寂しすぎる。これを同情かどうか

私には知らない。だけど、こういう思いをしている私には彼女を見捨てることは

できないのだ。知り合いが近くなってきたところで私はわざと後ろに下がり彼女を

見送ってから後で教室に入った。

 

「ちぇ、一緒にゆきのんとおしゃべりしながらごはんしたかったのにぃ」

 

 入ったところで、近くにいた瀬南に拗ねられて私は苦笑するしかなかった。

 

 

 それからというものの、何故か私の周辺で忙しくなってきた。噂か何かで私が

先輩ファンの一部が私をいじめていたとか証拠もないのに注目されていた。

嬉しくないけど。それに乗じて、クラス内での支持がダントツになっていた

らしく、HRでクラス委員長補佐を任されることになってしまった。

 なぜ、補佐か。私の体調を心配してのことで、余裕があったら参加または

協力して欲しいとのことだった。それについては先生も喜んでいたので

私は拒否することができずに登録されてしまった。

 

「めんどくさい…」

「ははっ、しっかり者の宿命やな~」

 

「あんたは気楽でいいね」

「そんな褒めんといて~」

 

「褒めとらんわ…!」

 

 瀬南との何気ない会話も、ここに来ての生活も徐々に慣れて楽しさも少しずつ

感じてきていたけど。気が抜けたせいか、最近調子よかった私も調子に乗りすぎて

軽めの荷物を頼まれて運んでいた。私の噂も薄れていって彼女も元の仲間の群れに

戻り、先輩とあまり接していない私とも普通に語れるようになった。

 そんな彼女と別れてから職員室に行くまでの間。私は中庭に出てショートカット

しようとしていた。道の途中、良い風が吹いていて意気込んでいた私の気持ちが

緩み、途端に眩暈を起こし始めた。まずい、書類が汚れる…。

 任された手前、ここで倒れるのはまずい。久しぶりの不調に気づかなかった

私の落ち度ではあるが、せめてここだけは乗り切りたい。しかし、私の体は

言うことを聞いてくれずに体のバランスを崩して倒れこんだ。誰かが傍に

いたのか、私は確認できずに意識が閉ざされていった。

 

 目を覚ますと天井が見える。そして、少し消毒臭い独特の匂いがある部屋にいた。

ここは久しぶりで少し前までよくお世話になった保健室の匂いだった。

 そうか、私は倒れて誰かに運んでもらっていたのか。少し日の入り方が変わっていて

だいぶ私は寝ていたことになる。ここに来てから熱とは関係なく倒れたのは

初めてじゃないだろうか。張っていた糸が切れたようなそんな感覚。慣れてきたから

だろうか。それとも、支えがなくなって不安定だったからだろうか。

 すると私の視界に見覚えのある、それでいてあまり好ましくない人間の顔のそれを

捉えることができた。美沙先輩だ。それまでのやんちゃだったりかっこよかったりする

顔と違って私を本当に心配して、家族を見る優しい瞳をしていた。

 そんな目をしていたら、私は逆に寂しく目の辺りがじんわりと視界がぼやけてくる。

何を泣いているのだろう。私は。

 

「大丈夫?」

「…はい」

 

待っていたわけではない。期待していたわけでもない。好きでもないと思っていた

先輩の顔を見ていたら胸の奥から何か溢れてくるようなわけがわからない感情が津波の

ように押し寄せてきたのだ。ここにいては、色々な意味で堪らない。私は、すぐに体

を起こして立ち上がるが立ち眩みをして先輩に抱きとめられる。

 

「無理しないで」

「無理なんかしていません…!」

 

 言葉とは裏腹にまだ上手く体を動かすことができないのは見抜かれていたようで、

そのまま先輩に抱きしめられる。先輩の柔らかさが心地よかった。好きでもない、

その気もない、先輩に対して何も思ってないのに。なんで、こんなに落ち着いてしまう

のだろうか。意識とは逆に体は自然と先輩からの抱擁を受け入れる。

 

「いつもじゃなくていい。いざというとき、私はあなたの支えになりたい」

「先輩…」

 

 悔しい。こんなに巫戯山た、下心みえみえの先輩に支えられるなんて。だけど、

その瞬間は私の意地っ張りも全て包み込まれて溶け込んでいく。先輩も私に気を

使ってくれたのか、それ以上のことはしないでいてくれた。私の状態が落ち着くまで

先輩は傍で手を握ってくれていた。暖かい。手から伝わる温もりに私は再び

眠りに落ちたのだった。

 

 

 この間の先輩との出来事がきっかけか、頑張れていた私もついには元の体調に

戻ってしまい、授業を受けられる回数が少し減ってしまった。むしろ、これが本来の

調子なのだから仕方ないが、またクラスで浮いてしまいそうなのが不安だった。

 ただでさえ、授業が受けられないのに。それプラス、先輩とのことはおそらく

学校で広まっている可能性を考えるとせっかく沈静化していた美沙先輩親衛隊との

確執が深くなりトラブルを引き起こすかもしれないのだ。嫌われるのはともかく

表立っての争いごとはしたくないものだ。保健室のベッドの中でそんなことを

考えている。今回は貧血で眩暈を起こしてここに連れてこられた。

 

 そのファンたちに気遣ってか、ありがたいことに美沙先輩は私の見舞いとかに

積極的に来ないようにしてくれている。しかし、その反面少し寂しく感じる私が

どこかにいて、そう思うたびに否定するように小さく顔を揺らす。

 この状態になってから、やや寝ぼすけ気味だった瀬南がノートを頑張って

とってくれているみたいだから、お礼にみっちり数学の計算式の基礎と応用を

叩き込んであげよう。その様子を想像をしたらあまりにも容易かったのでつい

堪えられず小さく笑ってしまう。この調子なら大丈夫だ。

 私は体を起こしてカーテンを開ける。近くに先生がいたので声をかけた。

 

「授業に戻ります」

「もう大丈夫なの?」

 

「はい、毎度のことですみません」

「昔からこうだったのかしら?」

 

 保健室にいる先生は清楚で優しいイメージをさせるもっともポピュラーな

外見で生徒にかける言葉も予想通り優しい言葉を投げかける。本音かどうかは

さておき、特に裏を感じさせないところがこの場所を心地よい場所にしているみたいだ。

先生の質問に苦笑いしながら私は「はい」と頷いた。

 

「大変ね。具合悪くなったらいつでもおいで」

「すみませんでした」

 

 ここに来てから順調だっただけに、急に訪れる頻度が上がったものだから心配された

のか、疑われたかのかは定かではないが、どっちにしろ気にしてはくれているみたいだ。

話によると毎年のことだがこの場所へサボりにくる生徒もいるみたいでそれで多少なり

とも疑心暗鬼になっているみたいだ。気持ちはよくわかる。先生の方も生徒の方も。

 

 教室に戻っての視線を受けないようにしながら自分の席へ戻る。今はちょうど英語の

授業のようだった。入る前に一言声をかけてから中に入ったので問題はないだろう。

多少授業は遅れてしまうが、瀬南のノートのおかげで予習復習を心がける私としては

さほど問題はなかった。勉強よりも今はクラスとの人間関係が私のもっぱらの課題に

なっている。今まで会話上仲がよかったと思われた生徒たちからも少しばかり会話の

頻度が減っているのに気づいて、やはり先輩がらみなのかと感じていたので。

 そろそろ瀬南に状況を聞いてみようと放課後屋上に一緒に歩いていく。

真剣な表情の私に何事かと思ったと言う瀬南は私の考えに手を叩いて笑っていた。

こっちは真面目に聞いているのにひどい反応である。

 

「そんなこと気にしとったの?」

「そんなことって…」

 

「あれはなぁ…。ゆきのんのこと気にしとってん」

「何を?」

 

「ゆきのんは補佐といえど、がんばってたし。自分たちのせいで無理させたん

じゃないかと気にしてるみたいなんよ」

「へぇっ」

 

 なんだか少しくすぐったい。瀬南は私に嘘の情報は流さないし、ずっと教室にいる彼女

の言葉ならけっこう信用できるから。私はそれを素直に受け止めた。それに、信用できる

のは彼女が私に対しての態度の微妙な変化を感じ取って直接本人たちに聞いていた

みたいだ。その時の私は基本、保健室にいるから嘘で繕うという真似はしないはずだ。

 その中に、親衛隊のあの子も入っていたとしたらこれほど嬉しいこともない。

「それに」と言葉を繋げる瀬南。私は耳を傾けていると1年のファン倶楽部の動きに

多少なりとも変化しているとの情報。

 

「前ほど狂信者みたいなヤツはおらんねん。段々落ち着いてきたんやな。逆にゆきのんと

先輩が一緒にいたのを見た言うやつはお似合いだったとか言う始末や」

「ははっ、ありえない」

 

「ほんまになぁ」

 

 屋上の涼しい風に当たりながら二人は笑う。なんか、傍に彩菜がいるような安心感が

少しずつだけど、この場所で感じられるようになってきた。うん、なんとかやって

いけそうな気がする。だが、陽気も徐々に熱を帯びてきたのを感じ取ることもできた。

もうすぐ、季節が移行する。夏が始まるのだ。長かったような、あっという間だった

ような、そんな1年生の春はもうすぐ終わりを告げるのであった。

 

 

 今年の夏は暑かった。まだ始まったばかりというのに、私の体調のことも考えて

あまり良い環境ではなかった。少し先のことだが気になることがあったので寮長に

夏休みに入ったときはどうするのかを予め聞いておくことにした。

 できれば、寮が夏休み中でも使用可能なら居たかった。私は彩菜をもう既に

許しているが彩菜はどうだろう。私を嫌っているんじゃないかといつも以上に

緊張しているのだ。心の整理などする暇もなかったから、逃げたかったのだろう。

 でもそれとは関係なく、この寮は休み中、使用不可能と断言されてしまったので

腹を括るしかなくなってしまった。

 

「うん…私も正面からぶつかるしかないか」

 

 気合を心の中で入れて夏休みまでの間はなるべくしっかりしようと思った矢先

またも視界が暗転してしまったのだった。

 

 保健室で目が覚めると美沙先輩が久しぶりに見舞いに来てくれていた。話すことは

なかったんだけど、なんとなく頭に残っていた気持ちを吐き出すように喋ってしまうと

先輩は好奇心旺盛な子供の無垢な瞳のようにキラキラ輝かせて私の手を握ったのだ。

 

「雪乃の実家を拝ませて!」

「拝むような家じゃないですから結構です」

 

 と丁寧にお断りをしたのだが、一向に取り下げる姿勢をしない上に駄々を捏ねる先輩に

折れて半ばヤケになってしまった私は。

 

「わかりました、来ていいですから・・・!」

「その言葉聞いたよ。もう止められないからね」

 

 上半身を起こしながら話していた私の顔の近くにまでくる先輩の顔。観念したのと

同時にあまりに顔が近いから顔が少し火照ってしまった。その気はないけど、先輩は

顔立ちがモデル並みに綺麗なものだからあまり近いと照れてしまう。

 これで化粧とかほとんどしていないというのだから不思議なものだ。そのことを

瀬南にも打ち明けると瀬南にもせがまれる。そんなに私の家に行くことが重要だと

思わなかったから予想外の展開の連続に私は眉間を押えてため息をついたのだ。

 

「あっ、でもその辺り家の用事があった」

「ほっ」

 

 瀬南が途中で思い出したかのように言うので私は反射的に安堵のため息を漏らす。

 

「なにその安堵の声は~」

「あっ、しまった」

 

 ただでさえいざこざの後の帰宅だからあまり人を呼びたくないという本心のため息が

聞こえてしまったみたいだ。私はそのことを言うと今度は瀬南がホッとしたように

息を吐く。

 

「てっきり嫌われてるのかと思ったわぁ」

「そんなわけないじゃない。私たち、親友でしょ?」

 

 私自身、自分でそういう言葉を出す日が来るとは思わなかったが言った方はけっこう

恥ずかしく感じるものなんだなぁと実感した。すると、瀬南も。

 

「…」

 

 顔を赤くして俯いていた。どうやら聞くほうも恥ずかしかったようだ。だが、この

確認もまんざら無駄ではなかったようで心のどこかで充実感に浸っていた。

 

「来年こそは絶対行かせてもらうからな」

「はい、どうぞ」

 

 先輩と違って気楽だ。まるで彩菜といるような楽しさはある。だが、安心感は逆に

先輩といたときの方が強く感じた。何なのだろうこの感覚は。だが、今はその感覚に

浸っている時間はなくなってきた。まだやることは残っている。勉強にお手伝い。

瀬南に宿題を教えたり、テストも残っている。

 だが、それが終われば夏休みだ。私は楽しみかどうかは別として基本、みんなが

待ち焦がれていることが訪れるのだ。私はすっかり夏の陽気に変わった空を見上げて

心を引き締めるのであった。

 


 
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