No.338768

外史異聞譚~外幕ノ四~

拙作の作風が知りたい方は
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2011-11-24 03:28:01 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2460   閲覧ユーザー数:1480

≪陳留/夏侯元譲視点≫

 

時を無駄にせずに陳留に戻った我らは、華琳さま指揮の元、大規模といえる移住の準備に取り掛かっていた

 

華琳さまに追従するのは、軍だけでも2万を数える

その家族や真桜の指揮下にある職人、待遇の向上を約束したことで共に移住する農夫や鉱夫、流民等を含めると、その数は相当数に及ぶため、秋蘭と桂花は寝る間もない程に忙しい状態だ

 

私はといえば、華琳さまと秋蘭が計画した移動予定に従って先鋒として街道の安全を確保するのが仕事といえるだけで、現在はやる事が多い訳ではない

 

むしろ私の仕事は出発してからが本番なのだ

 

ま、難しい事は秋蘭に任せておけばよいのだし、私はこれでよいのだろう

華琳さまにも別にお叱りを受けたりはしていないしな

 

そんな感じで数日が過ぎ、交州着任に関する概要が出来上がったとの事で軍議が開かれた

 

「そんな訳で、今から幾人かを漢中に送ろうと思うのだけれど」

 

???

どうして漢中に人を送らねばならんのだ?

これから人手はいくらあっても足りないような気がするのだが?

 

私が首を傾げていると、そっと秋蘭が耳打ちしてくれる

 

「姉者には後で説明するからおとなしくしててくれ」

 

「お、おう……」

 

秋蘭がそういうのなら、私は考えなくてもよい、という事なのだろう

だったら考えるだけ無駄だよな

 

「桂花の事前調査だと、交州は少数民族が多数出没する無法地帯に近い状態のようね

 だとしたらまずは治安の回復が急務といえる

 だから春蘭と秋蘭は私と共に来てもらうわよ」

 

『御意!』

 

華琳さまに言われるまでもない

私や秋蘭がお側を離れるなど、考えたこともないのだしな

 

「同様に桂花も来てもらう

 さすがに私だけじゃ手が回らないでしょうからね」

 

「御意!」

 

むう…

桂花のあの勝ち誇ったような顔がなんとなくムカつく

ちょっと頭がいいと思って調子に乗ってるんじゃないだろうか

華琳さまのお役に立つから仕方がないが、そうでなければ七星餓狼で膾に刻んでいるところだ

 

「姉者……」

 

「判っている

 個人的には気に入らんが、あれでも華琳さまの寵臣だ

 さすがの私でも個人的感情で切り殺したりはせん」

 

「だといいのだが」

 

どうしてそう心配そうな顔をするのだ?

私とて、自重(?)という言葉くらいは知っているというのに

 

「なので漢中に赴いてもらうのは、まずは真桜ね

 技術者としての貴女の見識に期待させてもらうわ」

 

「はいな

 ウチもいっぺん漢中には行ってみたかったとこなんで、むしろ有難いですわ」

 

まあ、これは妥当だろう

いてもいなくても、賊の討伐という点から見ればあまり関係ないしな

 

「あとはそうね…

 さすがに3人も送る余裕はないだろうから、誰を選ぶかなんだけど…」

 

???

別に誰でも構わないような気がするのだが、何か問題でもあるのだろうか?

個人的な事を言えば季衣がいなくなるのは寂しい気がするくらいなもので、沙和のやつなら残るのならこれを期に徹底的に鍛えてやってもよいな

 

そんな事をぼんやりと考えていると、華琳さまが軽く頷いた

 

「やっぱり選択の余地はなさそうね

 凪、お願いできるかしら?」

 

「御意!」

 

妥当だろうな

凪がいないのは軍としては少々痛いところだが、別に私がいればいくらでも埋まるしな

 

「季衣は親衛隊として、沙和は警備隊として私と共に来る事

 よいわね?」

 

「はいっ!」

「はいなの…」

 

???

沙和のやつ、不満でもあるのか?

 

「おい、沙和

 返事に力がないぞ!」

 

私がそう言うと、沙和はかなりびっくりしたように背を伸ばす

 

「えっと、あの…」

 

「まあ、そう責めてやるな

 大方今まで一緒だった二人と別行動となるのが寂しいのだろうさ

 本当は3人一緒にと華琳さまもお考えだったのだが、交州全域となるとどうしても3人を、という訳にもいかぬのだ」

 

すまんな、と声をかける秋蘭に首を大仰に振って沙和が応えている

 

確かに、急に離れるとなれば寂しいのは仕方ないか

私が秋蘭と、と考えるとやっぱり寂しいものな

 

「二人には半年を目安に漢中を探ってきて欲しいのよ

 詳しいことは後で桂花から聞いてちょうだい

 二人には準備ができ次第、漢中に旅立ってもらうからそのつもりで」

 

『御意!』

 

華琳さまの言葉に二人が応諾したところで、軍議は解散となった

 

 

まあ、相変わらずよくわからん事が多かったのだが、私としては別にどうでもいい事だ

 

兵馬を育て、武を磨き、それを華琳さまにお役立てする

 

私にとっての軍議とは、常にそれを再認識する

ただその為の場でしかないのだから

≪漢中/李曼成視点≫

 

しっかし、うちの大将も思い切ったもんやなあ…

 

ウチは凪と桂花たんとの打ち合わせをぼーっと思い返していた

 

 

「真桜、貴女が選ばれた理由は解っているわよね?」

 

「漢中で使われている技術やらなんやら、できる限り盗んでこいって事でっしゃろ?

 解ってまんがな」

 

桂花たんが鼻息荒く言う事に、ウチは軽い感じで答える

 

正直、興味ありまくりなウチとしては気が急いて仕方ないんやけど、ここは落ち着かなあかんところやから、無理やり落ち着いてるいうんが本音やし

 

反乱の際に確保してもろた鉄については解析は終わっとるんやけど、ようもまあこれだけ他に転用しづらいもんだけ寄越してくれたもんや、と逆に感心してもうたくらいや

しかも、敢えて長持ちしないように作られとるのが厳しいところやった

多分なんやけど、殴るのに適しているにも関わらず、使い捨てにするつもりで造られた…

ちゃうやろな、実験を兼ねた代物やちゅうこっちゃ

 

これに関しては予測を一切含まない形で報告書を上げさせてもらったんやけど、多分それが今回の事の決め手になったんやと思う

 

凪が選ばれたんは、多分農業とか治安とかを細かく観て欲しいちゅう事なんやろな

本当はこういうのは沙和のが向いてると思うんやけど、そこは多分、大将と桂花たんに対する信用度の差が出たんやろね

確かに、凪がおらんでウチと沙和だけやったら好きな事だけやってまうやろしな

 

なんや桂花たんがキャンキャン吠えてるけど、そういう訳で今のウチにはあまり気にはならん

 

絡繰を語る上で、材質やらなんやらは切っても切れんモンやし、そういう部分で遥かに先を行ってる漢中に直接行けるとは思ってへんかったのもあるしな

 

「ところで真桜、実際に漢中に行って調べるといっても、何をすればいいのだろうか」

 

当然出る疑問やろなあ…

 

とはいえ、ウチかて行ってみなきゃなんとも言えん

 

桂花たんが言うような方法はとてもじゃないけど危なっかしくてやっとれんしな

いやあ、いくらなんでもウチらが細作の真似して忍び込んでとか、無理やっちゅうねん…

 

大将が絡むとホンマ無茶ばかり言うから困るねん……

 

「そやなあ……

 多少時間はかかるかもやけど、結局漢中に入ってみないとわからへんよ

 無理をして疑われたら話にならへんもんなあ……」

 

 

そんな訳で大将が洛陽から戻ってきて色々とあったんやけど、ウチらは今漢中におる

 

理由は簡単で、俗に言う“技術留学”ちゅう感じやな

とは言ってもウチは許可貰ったりって訳やないんで、実際には間諜に近い立場なんやけど

 

ウチとしては実際に先の反乱で得られた漢中産の金属が“故意に劣化しやすく造られている”という点も含めて、これがわざと外部流出させたもんやっちゅうのには絶対の確信を持っとる

製鉄技術そのものはこういうとなんやけど、今のうちらでも十分なものはあると言い切れるだけに、わざわざこういうものを扱っているという事実は、漢中の技術力の高さを証明しとるようなもんや

 

あれから桂花たんなんかもかなり頑張ってくれとったんやけど、キモになる部分に関してはやっぱり手出しができん状態らしい

割と旅人の間では有名な話でもあるんやけど、漢中は鎮守府を移転した上で、旧鎮守府を一大軍事施設として扱い、一応民間でも入る事はできるけど、その性格はウチらが考えているようなものとは全く異なるようやしな

 

なんで本当は桂花たんや秋蘭さまあたりが行くのがええのやろうけど、さすがにその二人を欠いて南の辺境で、というのは無理がありすぎる

 

そういった点からウチらに白羽の矢が立った、ちゅうわけや

 

本当は沙和も一緒やと心強いんやけど、なにせ南は少数民族やらが跋扈する無法地帯に近い状態で、先の反乱と大差ないちゅうことやから、結果としてウチと凪だけという事になった訳やね

 

 

ほんでまあ、ウチらはさっさと漢中に来たちゅう訳なんやけど…

 

いや、別世界やな、これは

 

まず、街道が圧倒的に違う

異国や言われてもウチは納得すると思うで、これ

ただ、技術的に難しいかと言われると、それほどのものではないやろな

 

基本、ウチらは畑に適した土地を基準に邑を造り、街道を伸ばすんやけど、これはそういう意味では多分逆なんや

将来的に伸びる地域に邑を造り、生活に必要なものを揃えていって、その先に農地を確保しとるんやと思う

 

こういうのは、桂花たんに言われてなかったら、ウチらじゃ気付かなかったやろなあ

 

次に気になったのはご不浄やな

 

極端な事を言えば、そういうもんは不浄を固める方角に置いたり、物陰に穴を掘っておいたりするもんなんやけど、漢中では徹底管理されとるみたいや

どうも兵士が管理しとるみたいなんで、ウチにしてみたら気持ち悪いだけなんやけど、なんや色々と活用しとるみたいやね

これは機会を見つけてじっくり観察せなあかんわな

なんや絡繰でご不浄を攪拌しとったり、貯水池を攪拌しとったりもしとるみたいで、これは興味があって聞いてみたら、こうすると虫が沸かなくなるんやそうや

確かに水の流れのええところでは虫は沸かんもんな…

 

他には、なんや底の抜けた瓶みたいなんにみんなが水を通してるんで聞いてみたら、浄水器ちゅうもんらしい

詳しい事はみんな知らんようやけど、水は沸かしてからこれを通す事が今では習慣になっとるんやそうで…

 

なんちゅうか、毎日が新しい事ばかりで書き留めるんにも一苦労な状況なんやけど、絡繰ちゅう面から見た場合、そんな難しい事はやってへんように思う

 

凪とも話したんやけど、やっぱりここは、どうにかして潜りこまなあかんやろなあ…

 

肝心な部分は一般の立ち入りが禁じられてる邑やらにあるのは間違いないようやし

 

 

しばらくは鎮守府でおとなしくしながら機会を待つしかないやろね

 

 

大将、堪忍なあ…

 

ちゅうても今は他にどうしようもないねんよ………

 

 

漢中でちょっとしたお祭り騒ぎがはじまるんやけど、それまでウチらは無聊とはちゃうねんけど、もどかしい日々を送る事になる

≪洛陽/劉弁視点≫

 

「それで、驃騎将軍はどうしておるのだ?」

 

相国達を前に、朕の機嫌は非常によかった

本来地に落ちていたといえる漢室の威光を再び天下に示す事ができ、相国達と良好かつ外戚や宦官を排した状態を手に入れられたという事実は、朕にとって喜ぶべき事柄だからである

 

そして、朕にとって現在最大の懸案といえる事も、これを期に確かめられるとなれば、機嫌が悪くなろうはずもないではないか

 

朕に対する相国はといえば、これ以上ないくらいに困り果てている

この困った顔がまた、非常に愛くるしいのがなんともいえぬのだが、それを楽しんだとて朕が責められる事もまあなかろう

いや、大尉なら怒るであろうか

 

しかし、これに関してはどれだけ無茶であっても納得してもらわねばな

なにしろ朕らの未来がかかっていると言っても過言ではない故な

 

「へう…

 ほ、本当におやりになるんですか?

 あの、できれば…」

 

「相国にはすまぬが、これは譲れぬ

 なに、長期という訳ではない

 驃騎将軍が漢中に滞在する、その間だけでよいのだ」

 

朕が考えている事はそういう意味では至極簡単である

 

名を変え身分を偽り、漢中の視察に赴きたい

 

ただそれだけなのだ

 

運のよいことに、朕の素顔を知る者は今ではそう多くはない

相国に大尉、驃騎将軍に車騎将軍、中軍師と天譴軍の首脳部、後は後宮警護に当たっている一部の兵くらいなものだ

 

洛陽の治世も相国達に丸投げしている朕であるから、不在が何かに影響するという事は平時であればまずありえぬ

母上や太后樣が協をこの機に担ぎ出すという事も考えられぬでもないが、こういってはなんだが相国達の尽力により、その生活は外部との接触を断たれているだけで、むしろ今までよりも自由はあるといえる状態にある

漢室に金がないため贅を尽くすのは望めぬが、それとても今までと比べてそう劣るものでもない

 

そうであるならば、協が十分な教育を得られるだけの時間を稼ぐ為に、是が非でも天譴軍をこの目で見なければならぬ

 

これは朕にとって絶対に譲れぬのだ

 

「ん~……

 本当はウチの立場やと何があってもダメちゅうとこなんやけど…」

 

同じように困り果てた顔で、ぽりぽりと頭を掻きながら驃騎将軍が呟く

 

「ウチとしては、いくつか言うことを聞いてもらえるなら、まあええですわ」

 

「ちょっとっ!!」

 

その言葉に大尉が叫ぶ

まあ、当然であろうな

 

「いくらなんでも、洛陽にお忍びでってのとは訳が違うのよ!

 もしも何かあったら一体どう責任とるのよアンタ!!」

 

「まあ、そりゃあそうなんやけど、多分何をやらかしても着いてくると思うで?

 そやったら漢中まで連れてってから、あの最低男に押し付けたろ思たんやけど」

 

「………………多分大丈夫」

 

顔を真赤にして湯気でも噴き出しそうな大尉の顔を眺めつつ、朕はひとり首肯する

 

朕にふらふら出歩かれる事を考えれば、両将軍の言は確かなものであると思うがな

 

この雰囲気であれば、相国と大尉が折れるのも時間の問題であろう

 

さて、後はどうやって協を同行させるかであるな…

 

諦めたように溜息をつく大尉に向かって、朕は笑顔で尋ねることにする

 

「ところで、少年用の衣服はどうやって手に入れればよいであろう?」


 
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