Y氏がこんな話を教えてくれた。
その日は持ち帰った仕事を自室で片づけていた。
休日出勤のいやさに選んだことだったが、少々のんびりとやりすぎたらしく、結局一日つぶされてしまった。
窓の外はいつの間にやらすっかり暗くなり、通行人の喧騒や車のたてる物音もずいぶんと控えめになっていた。
そんな時だった、突然だれかがこちらを見ている感覚に襲われたのは。
漫然と眺めているのではなく、意思をともなった眼差しが一挙手一投足を見張っている。
背が粟立ち全身に震えが走った。気のせいというには、あまりにも視線の存在感は強烈だった。
たまらず、向かっていたPCから顔を上げ、あたりを見回した。もちろんだれがいるわけでもない。
もとよりさして広い部屋でもないし、隠れるようなスペースもない。余分な人影があればいやでも目につく。それでもベッドの下からクローゼットの中、ドアの隙間などを改めて確認し、本棚と壁の間などおよそ人が入れそうにもないところまで念入りに調べた。
ついで監視カメラの可能性を想定し、以前に聞いた話を参考に、改めて壁掛け時計や充電器といった電源のある品をチェックした。
しかし、当たり前の話だが、そこまでしても何一つ怪しいものは発見されなかった。
自意識が強すぎたせいだろう。あれやこれやを動かしているうちに、うっすらと汗すらにじみだし、さすがに馬鹿馬鹿しくなってきた。
釈然としないところはあるものの、残した仕事に戻ることにした。
そうしてPCに向き直った途端、汗がさっとひいた。
時間がきてスリープ状態になったモニタの、暗転して真っ暗になった向こうから、女が一人、黄色い瞳を目いっぱいに見開かせてこちらを凝視していた。
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徒然