No.335731

真説・恋姫†演技 仲帝記 第九羽「歯車は噛み合い、運命は動き出す」

狭乃 狼さん

ども、仲帝記の第九羽、更新です。

今回はここまでのプロローグ的流れの〆となります。

一部に二番煎じどころか十番煎じ位の部分もありますが、

続きを表示

2011-11-17 16:46:17 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:10775   閲覧ユーザー数:8225

 歯車。

 

 それは、それ一つ、単体のみであっても動きはする。たとえ他の歯車達と噛み合っていなくとも、それぞれがそれぞれに独りでも回り続けはする。

 

 しかし、それだけの事。

 

 たとえいくつの歯車がそこに存在しようとも、それぞれがそれぞれに、ただ動いているだけでは、彼らの本当の意味と役割を果たすことは無い。

 

 ではどうすれば良いか。

 

 答えは至極単純。それら独自に動き続ける歯車たちを、同じ役目の為に、同時に動かす事の出来る、その要となり全ての歯車を繋ぐための、中心的歯車を噛ませてやれば良い。

 

 これまでは、己が意思のままに独自に動き、他の歯車と噛み合おうとすらしなかったそれらを、ただ一つの目的の為に最も効率よく動かす事の出来る、そのたった一つの歯車によって、全ては漸く動き出す。

 

 歯車とは人。

 

 袁術と言う名のその少女のためにとは思いながらも、いま一つ思惑が噛み合わずに居た者たちや、中には動く事すらしなくなっていた者ですらも、たった一人の人間がそこに組み込まれた、ただそれだけで、全てが一つ所を目指して動き始めた。

 

 動き出すは運命。

 

 袁術と言う名のたった一つの歯車だけによって、ただ転がり続けるだけでしかなかった運命(それ)が、北郷一刀と言う名の歯車がそのかけた部分にかみ合わさったことによって、ついに自らの意思によって進むべき道を選び始めた。

 

 運命が自ら道を進み始めたことにより、世界もまた大きく流転を始める。

 

 滅びと言う名の終着点を避けるため、彼ら彼女らは自ら運命を動かし始めた。その先に辿る道と結末は、今だ濃い霧の中なれど、その先には必ず、希望と未来という名の終着点にして始発点があることを信じて……。

 

 

 

 第九羽「歯車は噛み合い、運命は動き出す」

 

 

 「これはまた見事、ですねえ」

 「ええ。まさに、一糸乱れぬと言うのは、こういうのを言うのでしょうね」

 

 大きく広がる鶴の翼。それを射抜かんとする矢。そしてそれらを構成するのは、白い鎧をその身につけた、それぞれ青と赤の旗を掲げた五百人づつの兵卒たち。その時々の状況、相手の陣形や動きにより、大将の号令一つで瞬く間にその形を変えるその様は、それを見物していた諸葛玄と紀霊の二人の目にも、これ以上無いくらいに鮮やかに映っていた。

 

 「左翼そのまま!右翼は向こうの横腹を突け!」

 「甘いです!左翼部隊は後方に反転!右翼部隊、敵右翼に対し矢を射掛けなさい!」

 「うわっ!?ここで弓兵を使って来るかよ!?」

 「今です!左翼部隊反転!混乱した敵右翼に突撃!そのまま本隊と分断!」

 『いえす、まむ!!』

 

 自軍の横腹を着き、本隊と両翼の分断を図ろうとしていた相手の手を逆手に取り、赤軍を見事に壊乱させたことで青軍は相手に降伏を勧告。赤軍の指揮官はそれにがっくりとうな垂れて頷き、本陣の旗がゆっくりと倒された。

 

 「おや。どうやら勝負がついたみたいだねえ。僕達も行ってみるかい?巴ちゃん」

 「そうですね。それに、もうすぐ朝議の時間ですからね、秋水殿」

 

 練兵場を十分以上に見渡すことの出来る地点で、先ほどからその様子を見ていた諸葛玄と紀霊は、演習に決着がついたのを確認すると、それを行なっていた部隊の指揮官達の下へと、笑顔で向かい始めた。

 

 「……は~、参った。……やっぱまだまだ、君の指揮の技量と言うか、戦術眼には到底適わないな」

 「……だから、そんな分かりきった事をしみじみ言わないようにって、何度言ったら分かるのよ貴方は?……でもまあ、十戦して二~三戦は取られる様になってきたし、良い線…行ってるとは思うけど」

 「……ほんと?」

 「だ、だからって調子に乗ったりしちゃ駄目だからね?!この程度の事じゃあ貴方の事、まだまだ認めてなんかあげないんだから!分かった?!」

 「はいはい。分かっておりますよ、徐元直副隊長」

 

 自身に対し、そんなきつい口調で激励(?)を言い放つ黒髪の少女に、軽く笑いながら少女の名を呼びつつ返す一刀。

 

 艶やかなその黒髪をツインテールにし、少々きつめな雰囲気をその身に漂わせている少女の名は、徐庶、字を元直という。

 

 つい三月ほど前、ここ宛県の街から西にある関の潼関にて、先の騒動で捕らえられた、かつてこの街で乱暴狼藉の数々を働いていた兵卒達を、とある事情によって一刀が徹底的に鍛え直す事になった。だが、戦はおろか人への指導経験そのものが無い彼の補佐として、諸葛玄の推挙によって一時的に客将として迎えられたのが、彼女である。

 

 その時の詳しい経緯については、また次の機会に語るとして。

 

 彼女を副官として潼関に向かった一刀は、まず始めに彼ら兵士達の意識を上昇志向に向ける事から、その手をつけた。

 

 その手始めとして、一刀は彼ら三千人の兵士達を相手取り、一対三千での模擬戦をやってのけて見せた。……元々、武に関しては素養のあまり無い彼。その時の実力としては精々張勲よりもわずかに上、と言う程度の物でしか無かった。しかし、わずかとは言え諸葛玄から教えを受けていたことや、また、その相手である彼ら兵卒達が、とてつもなく弱すぎたことも功を奏した。  

 

 その結果は、彼の圧勝であった。……模擬戦後、体中痣だらけになって、立ち上がることすら出来ずに、自分の周りで倒れて居る彼らに対し、一刀はこう言い放った。

 

 『……悔しいと思いますか?俺みたいな素人に毛が生えた程度の人間一人に、これだけの人数が束になっても勝てなかった事を。もし貴方たちに、すこしでも悔しいと思える自尊心が残っているのなら、これから三ヶ月、俺達の課す特訓に見事耐えて見せてください。……良いですね?』

 

 そうして始まった、一刀と徐庶による彼らへの地獄の特訓だったが、彼らは決して弱音を吐いたりすることもなく、そしてただ一人の脱落者も出さずにそれに耐え、見る見るうちにその実力を上げて行った。一刀曰く、『俺が元々居た世界みたいな、ぬるま湯みたいな環境では無く、熱湯どころか思い切り沸騰している湯の様なこの世界で、今まで生き抜いてきた彼らだからね。その潜在能力は、俺なんか比較にならないほど高いに決まっているさ』……とのことである。

 

 

 

 とにもかくにも、その後、彼らは三ヶ月間の特訓をものの見事に耐え抜き、そして、それと平行して行なっていた、精神面での修養もその一役を買って、かつてごろつき同様だった彼らは、兵としても人間としても、一歩その階段を上がり、南陽袁家の近衛軍としての、それに相応しい実力と矜持を身につけていた。

 

 なお、その時の詳細についても、先の徐庶の経緯同様、また別の機会に詳しくお伝えさせていただく。

 

 それはともかく、そうして兵の矯正を無事終えた一刀は、徐庶とともに彼らを伴い、つい三日ほど前、この宛の街に戻ってきた。城門前で袁術らの出迎えを受けたとき、久しぶりに見た彼女のその向日葵のように明るい笑顔で、彼は一気に自身の鼓動が早まるのを感じた。そして、改めて思った。

 

 ああ。やっぱり俺は彼女の、美羽の事が好きなんだ、と。

 

 自分が異世界の人間であるとか、償いきれない罪を背負った罪人だとか、そんな事はもう関係の無い事なんだと。たとえ今後、この想いが通じ合う事があろうと無かろうと、自分はこの少女の笑顔を守る、その為にここに居るんだと。

 

 その場にて、己の本当の使命、その片鱗をやっと見出せた一刀であった。

 

 話を元に戻すが。

 

 その後、城に入った一刀は関での詳細を袁術らに報告した後、改めて袁術への臣下の礼をとり、近衛の一隊を任される将の一人としてその幕下に加わることが、その場で正式に決まった。袁術以外の他の将たちとは、その時点で漸く真名を交し合い(一刀自身には真名が無いので、名である“一刀”をそれに相応する物とした)、晴れて南陽袁家の一員となった一刀であった。

 

 なお、袁術がいつ一刀にその真名を預けたかについてだが、関に出立するその日の当日、出発直前の彼を見送る際、『帰ってきたら妾の事は真名で、“美羽”、と呼んでたもな?』と、激励の言葉と共に贈ったことを、この場にて注記しておく。無論、一刀の方もそんな袁術に対し、その時は自分のことを“一刀”と呼んで出迎えて欲しいと、彼女に対してそう応えていた。

 

 話が少々それたが、一刀が袁術への臣下の礼を取った時、この三ヶ月客将として一刀の副官を務め上げ、そして彼と共にこの場に戻ってきていた徐庶も、今後は正式に袁術の配下としてその列に加わりたいと、みなの前でそう申し出ていた。

 

 「水鏡先生には事情をしたためたお手紙を出して、特別に私の早期卒業を認めていただきました。姓を徐、名を庶、字を元直。そして真名は輝里(かがり)。今だ若輩の身にございますが、身命を賭して、我が君袁公路様に、忠を尽くしたく存じます」

 「うむ。妾の真名は美羽、じゃ。徐元直、いや、輝里よ。妾もまだまだ若輩者じゃし、何より年も近いのじゃ。これからは共に色々と学んで行こうな?」

 「はい……美羽様」

 

 ……これでまた一つ、歴史が変わってしまったな、と。袁術と徐庶のやり取りを端で見ていた一刀は、その胸中でそう思っていた。そもそも、徐庶が歴史の表舞台に立つのは劉備玄徳が荊州に入って以降のことだった筈だと、その頭の中にある三国史の知識を基にして、今目の前で起こっている現実と比較しつつ、一人思考に耽っていた。

 

 (……まあ、俺がこの世界に来た時点で、とっくに何がしかの影響を及ぼしているんだろうし、これくらいの事態は瑣末な事かもしれない……かな?)

 

 

 

 それから三日が経った現在。一刀は自身の副長である徐庶相手に、隊を二つに分けての模擬戦と言う形で、朝議の前の早朝の戦闘訓練を行なっていた。とはいえ、流石にその名を歴史に残す戦術家、徐元直である。一刀の今だ付け焼刃な指揮では、中々彼女から勝ち星を奪えていない。先に彼女自身が言ったように、十戦して二本か三本取れれば上出来、といったレベルであった。

 

 「二人とも、朝早くからご苦労様だねえ。それにしても一刀君?この三ヶ月で随分、指揮の腕を上げましたねえ。いやはや、恐れ入りましたよ」

 「そんなことは無いですって。今の俺の力量なんて、輝里はもちろん貴方や巴さん、千州や美紗さんにも全然及びませんから」

 「そりゃあそうでしょう。そもそも踏んできた場数、という物が違いますからねえ。まだまだ甘い所だらけのひよっこですよ」

 「……そーですか」

 「……でも、たった三ヶ月前まではずぶの素人だった事を鑑みても、貴方は本当に成長しましたよ、一刀」 

 「……ありがとうございます、巴さん」

 

 持ち上げておいてあっさり落とす、諸葛玄のその言葉にがっくりと肩を落とす一刀であったが、紀霊のそのフォローによって、どうにかその顔を再びほころばせていた。

 

 「おや、巴ちゃんにしては随分優しいですねえ。母性本能でもくすぐられましたか?ああ、それとも」

 「……それとも……なんですか?」

 「おっと、そろそろ朝議の時間ですねえ。一刀くん、輝里ちゃん、さ、美羽嬢が待っているから行きましょうか」

 「ちょ、秋水さん?!」

 「秋水様!そ、そんなに押さな……!!」

 

 紀霊の一にらみにより、自身の言の先を押さえられた諸葛玄は、慌てて一刀と徐庶の背を押し、半ば強引に同道してその場を立ち去っていく。

 

 「まったく秋水殿は。……母性本能の方はともかく、“それ以外”の理由など、この私が殿方に抱くことなんて、天地がひっくり返ったってありえる筈無いでしょうに。まあ、その逆はもっとありえないけど……ね」

 

 自分に好意を抱くような物好きな男など、何処を探したって居る筈も無い、と。彼女は本気でそう思っている。武人として以外に取り得の無い、可愛げも面白みも全く無い女に惚れる男など、大陸中を探したって見つかりっこない、と。

 

 ……まさかそんな風に考えている自分に、実はかなりの男達が密かに好意を寄せ、ファンクラブめいた物まで作っていることなど、今の彼女には知る由もないのであった(笑)。

 

 

 

 

 「は~い、みなさん注目してくださ~い。これから今日の朝議を始めますよ~」

  

 朝議。それはその日一日の、政の基本方針を話し合う、その為の会議の事。首座である玉座に座るのは、もちろんこの南陽の主である袁術。そのすぐ手前右に立つのが、南陽袁家の大将軍として政・軍双方を束ねる立場の張勲。その二人の前面、朝議の間の中央に敷かれた赤い絨毯を挟んで、それぞれに並ぶのが袁家の将たち。袁術から向かって右側に、諸葛玄、一刀、徐庶。左側に紀霊、陳蘭、雷薄が、それぞれに居住まいを正して並んでいる。

 

 「では、一刀さんと輝里さんが加わって初めての朝議を、ただいまから行ないますね~?それじゃあまずは、昨日の報告から始めましょうか。では、始めに秋水さんからお願いしま~す」

 「はいはい。えー、三月前から始めていた、新しい農法の導入なんだけど、これは正直思っていた以上の効果が出ていますね。人や家畜の糞尿を肥料として使い始めたことで、これまでとは比較にならないほど、作物の生育度合いが高いと。そう報告が来ています」

 「各地の邑の人たちも~、始めはかなり~、抵抗があったと聞いていますが~、一部で試験的に使ってみた結果~、かなりの改善が~、見られたそうです~」

 

 人糞や家畜の糞などを、わらや籾殻と混ぜて発酵させることによって出来る肥料、堆肥。これを、最初に一刀が張勲に話して聞かせた際、彼女は思いっきり眉間にしわを寄せて、その顔を引きつらせていた。しかし、騙されたと思って試してみて欲しいと一刀から言われ、半信半疑のまま一部の農家にそれをやらせてみていたのだが、その効能は思っていた以上のものだった。この分で行けば、今期の収穫量はこれまでのおよそ十倍近くの量が見込めるのではないかと、報告書片手に話す諸葛玄の言葉を聞きつつ、改めて一刀の持つ未来の知識に脱帽していた一同だった。

 

 「作物の成長に役立つ事もそうだけど、堆肥を作ることによって、今まで川に流すかその辺に埋めたり放置されていたそれが無くなる事で、衛生面の方も改善されるからね。おかしな病が発生する確率も、これでかなり下がると思うよ」

 「ほほー。その様な効果もあるのかや。ん、さすがは一刀じゃ。頭がよいの」

 「……別に俺が考えたわけじゃあないんだけどね。ただ単に、向こうで覚えた事を話してるだけだよ」

 「それでもじゃ。一刀が妾たちの所に来てくれなんだら、こうしてそれを教えてもらうことすら出来なんだのじゃからの」

 「……ありがと」

 

 特に自分自身の功績だとは思って居ないが、それでも袁術から礼を言われて嬉しくならない筈も無く、少々照れくさそうに自分の鼻の頭を掻く一刀であった。

 

 「でさ、お嬢?この堆肥、これからはこれをどんどん製作して、領内各地に積極的に広めて行きたいと、思ってるんだけど、その為にももっと効率よくそれを生産できるよう、その研究に力を入れて行きたいんだけど、良いかな?」

 「もちろん良いのじゃ。千州、金に糸目をつけずとも良いから、出来るだけ早く、その研究を完成させてたも」

 「了~解。……ふっふっふー。よーし、意欲が湧いてきたぜー!!」

 

 研究し放題。陳蘭にとってはそれが何より、一番の働き甲斐なのであろう。まるで新しい玩具を貰った子供の様に、その目を輝かせて笑っている彼だった。

 

 

 「まあ、あんまり使いすぎない程度にお願いしますねー?……えっと、それじゃあ次の報告を、巴さん、お願いしまーす」

 「承知。……治安関係についての報告ですが、この三月の間にかなりの改善を果たすことが出来ております。『割れ窓理論』と『交番制』。やはり、この二つによる効果が最も大きいかと」

 

 紀霊のいう『割れ窓理論』も『交番制』も、やはり一刀からの知識の提供による物だった。

 

 まずは『割れ窓理論』のほうだが。これはつまり、建物の窓が壊れているのを放置したままにしたり、ゴミ等があちこちに山積されたままにされたりしているしていると、それが「誰も当該地域に対して関心を払っていない」というサインとなり、その周辺における犯罪発生率を高める環境を作り出してしまう、という考えである。

 例としては、よく空き缶などを捨てようにも、近くにゴミ箱がないために困っていたら、それらが道路の片隅などに捨てられているのを見て、ならばと同じようにそこへ捨ててしまう、等といった行為を見かけることがあると思う。だが、もしそこがきれいに掃除されている、塵一つ無い場所であったとしたら、誰もそう簡単には空き缶を捨てようと思わない筈である。

 

 要するに、犯罪の発生を抑止し、治安の強化に繋がるようにするための考えが、この『割れ窓理論』というやつである。

 

 そしてもう一方の『交番制』であるが、これはもう説明の必要の無いぐらい、熟知されている制度であろう。街の各辻ごとに、兵が数人常駐する小屋、『交番』を設け、普段は定期的な警邏や民への道案内などの業務をこなしつつ、一朝ことが起こればすぐに最もその現場から近い交番から兵が駆けつけ、ことに当たるという制度である。

 

 ただし、それが設置された当初のうちは、これまでのいきさつもあってか、民たちはなかなか不信感を拭えずにいた。もしかして、何かあるたびにまた、金をせびられたり理不尽な要求をされたりしないかと、戦々恐々としていたのである。

 その意識が大きく変わったのは、交番の設置から何日かが経ったある日のことだった。交番の常駐役として詰めていた兵士の一人が、道案内に訪れた民の一人に対し、その礼として金銭を要求した。そして、その被害にあった当人が、別の交番に詰めている兵にその事を涙ながらに訴えると、それを聞いた者たちはすぐさまその同僚を捕縛し、城に連行。

 

 不当に銭をせしめた兵は、そのまま投獄され、厳罰に処されたのである。

 

 その出来事があってからという物、交番に常駐する兵はより自らを律して職務に当たるようになり。民達もまた厳正なその対処に幾ばくか安堵したのか、積極的に交番を利用するようになった。そして先の窓割れ理論とも相まって、宛の街はこの時代にあっては信じられないほどに、治安の良い街として、南陽の郡内はおろか、その外へも知れ渡るようになっていた。

 

 

 「郡内各地の邑々にも、同様の役目を果たす出張所のようなものを設置し、各地の自警軍と協力して、治安の安定に全力を尽くしております。……ですが」

 「……芳しくないのかや?」

 「はい。郡内にて賊が蜂起する事自体は、以前と比べて激減こそしておりますが、他から流れ込んでくる者達まではまだ、対応が追いついていないのが現状です」

 

 他人の芝生は青く見える、と言う言葉があるように、他の周辺地域に住む者たちから見れば、今の南陽という土地はかなり豊かに見えるのであろう。しかし、実際はまだそれほど豊かといえるほど、この南陽郡もけっして農業も経済も回復してきては居ない。次の春を迎えるころであればまだしも、現状ではまだ、人々はぎりぎりのラインで生活を送っている、といったあたりでしかないのである。

 

 「そうなってくると、これからの課題は如何にして、他所からの賊の流入を防ぐか、に尽きますかねえ」

 「そうじゃな。……そういった賊になった者達にしても、好き好んで賊をしておる者はあまり居らんじゃろうが、今はまだ、彼らを迎えてやれる余裕は妾たちにも無いからのう……」

 「ですよねえ……」

 

 憂いを帯び、心底からそんな賊達(彼ら)にも同情し、哀しげに溜息を吐く袁術。……まあ、そんな彼女の表情を見ながら、何故か恍惚とした表情をしている張勲が居たが、とりあえずそれに関しては見なかったことにしておいて。

 

 結局、隣接する他の地域から流れ込んでくる賊に対しては、断固たる態度で対応し、言葉は悪いが他の賊に対する見せしめとして討伐、もしくは追い払うしか、今のところは打てる手の無いのが現状であった。

 

 「……七乃?これ七乃!なにを惚けておるのじゃ?ほれ、早う次の話しに進まぬか」

 「はっ!?……えーっと。それじゃあ本日の皆さんのお仕事の話に移りましょうか~」

 『……(ほんとにまともになってるのか、こいつは)』

  

 袁術に諭され、慌てふためきながらもいたって普段どおりを装いつつ、張勲はこの日の仕事を全員にそれぞれ割り振っていく。その差配たるやまさに見事な物で、絵に描いた様な適材適所を見せる彼女。……本当に惜しむらくは、彼女のその特殊な性癖のみであると、改めて彼女と言う人間をそう認識していた一刀であった。

 

 

 

 そして、時はそれから、さらに半年と言う時間が流れていく。

 

 一刀は袁術や張勲共に政務に関るその傍ら、諸葛玄や雷薄と協力して街の警邏に出たり、また陳蘭の研究にもその知恵を貸し、南陽と言う郡の発展に寄与する日々を送っていく。またその一方で、徐庶と共に自ら部隊を率いて出陣し、他所から流入する賊の討伐のため、同じ近衛の将である紀霊と共に南陽の各地を駆けずり回って、徐々にその名を世間に知らしめて行く。  

 

 戦に出ればそれだけ、人を殺め続けなければならないが、今の彼はもう、それによる悪夢を見ることはなくなっていた。たまにカウンセリングを受けている雷薄からは、『それは~、慣れなのかも知れないですね~』と、ある時言われた。正直言えば人殺し(こんな事)に慣れたくは無かったというのが彼の本音なのだが、人という物は同じ環境に長く居続けるほど、それに柔軟に対応してしまう生き物なのだろうと思えるほどに、戦場で賊を斬ることへのためらいが、徐々に無くなりつつあった彼であった。

 

 しかし、そういった慣れ以上に、今の彼を突き動かしている感情(モノ)があるのもまた、間違うことなき事実である。

 

 南陽に住む多くの者たち。同じ職場で同じ目的の為に動く仲間達。そして何より、自身が愛するその少女のためならば、自分は悪鬼羅刹にもなって見せられる。そう思えるようになっていたからこそ、一刀は全ての現実を、漸く受け入れられるようになっていた。

 

 元の世界に残してきた家族の事も、時折その夢に見、その度に郷愁に駆られないわけでもなかったが、それを心の片隅にあっさりと追いやってしまうほど、彼にとって袁公路という人物は、その心の大半を埋め尽くす存在となっていたのである。

 

 そして、一刀がこの世界にやってきてから、およそ一年という月日が経った、その年明け。

 

 後漢の初平三年。

 

 今だ南陽の地に流れ込んでくる賊達の中に、時折、体の一部の何処かしらに、『黄色い布』を身につけた者達の姿が見え隠れし始めた。

 

 歴史と言う名の大河は、ついにその姿を、清流から濁流へと、大きく変え始め、大陸全土を乱世と言う名の激流へと、呑み込み始めようとしていたのである……。

 

 ~続く~

 

 

 狼「はい。仲帝記の第九羽、お届けいたしました。作者の狭乃狼です」

 輝「アシスタント、輝里です」

 命「同じく命じゃ。今回もよろしくな~」

 

 命「・・・ところで輝里よ?お主・・・ツンデレだったのだな」

 輝「・・・何か問題でも?」

 命「問題は無いが・・・北朝伝の時は、ただのデレ子だったような気が」

 狼「一刀が悪い。何もかも全部、あの世界の一刀が悪い。種馬ニコポ野郎だったあいつが全部!悪いんだ」

 命「・・・つまり、あの世界の一刀のせいで、輝里の性格までかわってしまった・・・と?」

 狼「そ!つり目ツインテールはツンデレの証!なのに奴のせいで、輝里の性格が大幅に変わってしまったんだ!」

 輝「・・・べ、別に一刀さんのせいで性格変わったとかそういうんじゃないんだから!その辺勘違いしちゃ・・・!!」

 狼「はいはい、ツンデレ乙♪じゃ、次行ってみよー」

 

 

 命「堆肥とか割れ窓理論とか、交番の制度。・・・聞いた事のあるものばっかりじゃな」

 狼「しょーがないだろ?一体今までにいくつ、外史(ss)が生まれたと思ってる」

 輝「ま、確かにこれだけ外史(ss)が乱立していたら、なかなか目新しい手段って出て来ないわよね」

 命「そこを何とかひねるのが、親父殿の腕の見せ所じゃろが」

 狼「すいませんねー。二番煎じどころか三番煎じなネタしか思いつかない、似非作家でー・・・いじいじ」

 輝「・・・これ見よがしにいじけても、慰めてあげないからね?」

 狼「・・・くすん」

 

 狼「あ、それともう一つ。前回で一刀達が関から戻って来るまでの期間を、二ヶ月程度のものとして表現をしていましたが、さすがにちょっと短すぎたかと思うので、一ヶ月伸ばして三ヶ月に変えた事、一応ご了承くださいませ」

 

 命「で?次からいよいよ、黄巾編に入るのかの?」

 狼「んー。その前に、今回紹介できなかった輝里の登場シーンとか、一刀が兵士の矯正役を務める事になったこととか、関でのその訓練の様子とかを、次回、幕間みたいな感じで入れようと思ってる。てか、もう七割がた出来てるけどね」

 輝「ところでさ、今回から私がでたんだけど、“あの娘”・・・何時から出てくるの?」

 狼「とりあえず名前は次回でチラッと出ますが、本格登場は黄巾が終った後になるかね」

 輝「今はまだ塾に居るんだっけ?」

 狼「そ。件の人物がどう袁術軍に絡んでくるかは、登場の時まで内緒です」

 

 狼「というわけで、今回はここまで」

 輝「ではまた次回、真説・恋姫†演技 仲帝記、その幕間の一」

 命「その講釈にて会おうな?あ、今回ももちろん、たくさんのコメント、待って居るからの?」

 狼「それでは皆さん」

 

 『再見~!!』

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
76
9

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択