ん?なんだい?
この刀「
…そうさね。少し長い話になるよ?
わかった、わかった。そんなに聞きたいなら、ほら、そこにお座り。
お前が知っているように、かつて我ら一族の悲願であった大江山の朱点童子討伐を成し遂げたのは、第6代当主
紫様が大江山出立前に血を絶やすまじと焼津ノ若銛さまとの間に成された第一子は、
そう判断された紫様は、次期当主としてもうひとりお子を作られることとした。やはり焼津ノ若銛さまとの間に成されたこの子はまさしく望まれた女の子で、
御歳3カ月にして当主を引き継いだ真央様は、気負っておられたのか、それともその風評通りせっかちであったためか、初陣の討伐先に、未だ訪れたことのない紅蓮の祠を選ばれた。かの地は、炎の鬼どもの聖地のような場所……その恐ろしさも知らぬまま挑まれた真央様たちは、あっけなく鳴神小太郎に惨敗してしまわれた。
全滅、敗退……ほうほうのていで京に戻った真央様であったが、翌月1026年11月、5カ月という若さで帰らぬ人となってしまわれた。それは、当主としてもたったの2カ月という短さであった。
嘆きの深かったのが兄である岩鉄様さね。自分が同行して補佐してやるべきであったとそれはそれは悔いてね。もちろん兄として紫様から頼まれておられただけでなく、一族でも珍しい兄妹にして同じ職業でもある真央様を、岩鉄様はそれはそれはかわいがっておられた。そのころ京にできた刀鍛冶を一緒に訪ねては、ああでもないこうでもないと語りあっておられる姿をよく目にしたといわれておる。
結局、岩鉄様はその悲しみをひと振りの刀に込めることにしたのさ。「
経緯を知らないものにとっては、この銘はただ「真の中央を捉えて、岩や鉄をも斬る」というような意味にしか見えないだろうがね。我ら一族にとっては、悲しい兄妹の物語を意味するのさ。そして、当主である女剣士にとっては、無謀を戒める名でもある。一族の者に、けっしてこんな悲しみを負わせてくれるなというひとりの兄の願いを、この刀を受け継ぐ当主は心に刻んでいくのさ。
…なんだい、そんなしんみりした顔をして。次はこの刀をあんたが継ぐんだよ。あんたが、そんな顔してちゃみんなが心配になるだろ。当主はどんなにつらくても、笑ってなくちゃダメなんだよ。明日を信じて生きていくんだ。
ただ、ただね、次の世代へと希望を繋いできてくれた御先祖様たちのことは忘れちゃいけないと思うんだよ。だからね、この刀の物語はお前が覚えておいておくれ。
泣きなさんな。私は死んでもずっと、お前たちを見守っているから…
――第10代当主花梨さま、嫡子可憐(第11代)さまへの訓練時のお話
1030年7月、訓練を終えると同時に、力尽きたように他界。
「真央岩鉄斬」は当主の名とともに、可憐さまへ受け継がれた。
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リメイクが11/10に発売された「俺の屍を越えてゆけ」のプレイ中のエピソードを膨らませたSSです。
mixipageに載せてみたけど、閲覧が微妙なのでこちらに転載。
※※※11/16 19:30追記※※※
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