「未だにさ、月…特に満月見ると、なんというかささくれだってくるんだ」
「あら、奇遇ね。私もよ。無性にいらいらするのよね」
自分の主人の何気ない言葉に、どこか嬉しそうに薄衣だけを裸身に纏い、盃を傾けながら妖艶に微笑む、元・覇王。
その姿は、百合百合しい雰囲気を元々受け付けないと、自他共に自覚する愛紗ですら、
思わず見入り、取り込まれそうな錯覚を感じる、魔性の誘いにも似て。
それに気づけば、背筋にぞくりと寒気が走るのを抑えることが出来ずにいる。
狂気すら感じる壮絶とも言える笑みを、事も無げに受け入れている『ご主人様』にも。
「こら、華琳。愛紗を怖がらせてどうするんだよ。火照りを覚ます為に、月見酒と行こうと言ったのは誰だっけ」
「ふふ、あれだけ可愛い声で毎晩鳴かれていたら、私だって手を出したいと思うじゃない。
愛紗を愛でながら、一刀に貫かれる。今の私にとっては、極上の酒にも値するわ」
「なっ、なななななな!」
激しい情交を幾夜重ねたとしても、人の性根というのは簡単に変わるものではなく。
からかいの対象となった愛紗は、頬を朱紅のごとく真っ赤に染め、まともな抗議の声を上げる事も出来ない。
さらに彼女にとっては不幸な事に、一刀と華琳にとっては喜ばしい事に…、
自分が羽織る薄衣がはだけてしまい、重力に逆らうかのように、見事な張り出した双丘に、引き締まった腰つき、
秘部の程よく生い茂る黒の山林が、惜しげもなく、露わに晒されている事に気づかない。
「相変わらず初心な事。そこが一刀にとっては可愛くて仕方が無いのでしょうけど」
そんなことを言いつつも、しかりとその造形に目をやる華琳。
触れる事が許されぬなら、せめて瞳で、と語らんばかりの熱の入った観察である。
一刀も一刀で、先程まで触れてしっかりと味わっていた彼女の引き締まった…それでいて、
女性特有の柔らかさは失われていないのだが…体つきを、月明かりの元で、改めて綺麗な造形に見惚れる。
が、華琳が観賞だけで何時までも我慢が効くとも思えないと考えた一刀は、愛紗の元に歩み寄り、さっと乱れた衣服を整えた。
「慌てないの。いつもの華琳の手なんだから」
「は、はいっ、も、申し訳ありません…」
「私の楽しみを奪うなんて、ひどいことをするものね、一刀」
愛紗を宥めながら、背中から聞こえる恨めしい声に、一刀は呆れ混じりで、振り返りもせずに言葉を返す。
「わざと直接的な表現を使った華琳が悪い。それに今、俺がささくれ立っているのも判って言っているだろ」
「過去の事とはいえ、私と一刀の『全て』を奪ったアレだもの。
ちょっとした意趣返しのつもりとはいえ、あの時の感情が消えるわけでも無いわ」
呪詛混じりの、低い、感情を極力押し殺したかのような声。
「今の幸せを見せ付けてやる、って所なんだろうけど。この苦い感情は、ま、消えないよな」
同調するように、感情が抜け落ちたかのように、冷たい声。
どう見ても、負の感情に囚われた一組の男女。
なのに、どうして、こうも羨ましいのか。
二人が共有する、深い絶望の想い出を、持ち得ない自分。
同じ場所にいるのに、透明の厚い壁の向こう側に、二人がいるように感じる疎外感。
自然と、愛紗は自分で自分を抱きしめる格好になっていた。
「私は…」
「いていいんだよ」
「いてもらわなきゃ困るわよ」
自分自身を否定する言葉を紡ぎかけた彼女の機先を取り、二人は先程と打って変わった優しい声色で、彼女を包む。
「どうにも私と一刀だけだと、破滅的な方向に行きそうでダメなのよね。
特にこの大陸にいる限り、どうしても思い出すから」
「愛紗は俺や華琳を照らす太陽みたいなもんだよ。導いてくれな、天の御遣い達の守護者としてさ」
言うが早いが、一刀は徳利から酒を含むと、華琳の顎に手を沿え、口移しで喉へと強引に流し込む。
拒否する様子も無く、華琳は素直にその行為を受け入れ、一刀の首元に腕を回し、少し舌を絡ませた後、
同じように、酒を口に含み、文字通り『返杯』してみせた。
「次は愛紗の番だよ。お酒はこうやって綺麗な女性の唇で味わうのが極上なんだ」
「そんな話、聞いたことがありませんよ。ご主人様」
くすりと笑いながら、愛紗は一刀の手から徳利を受け取る。
「嫌な思い、今は忘れさせて差し上げます。今日だけは華琳どのにも、守護者の神酒を献上させて頂きますから」
そう言うと、愛紗は口に含んだそれを、最愛の人の唇を奪い、彼と同じように強引に流し込むのだった───。
<あとがき>
あれ、イチャコラ書くはずなのに、どうしてこうなった?
なんで重たい雰囲気の酒になってるの?
だけど、こんな陰を引きずる一刀と華琳さんが大好きです・・・!(ダメ作者
愛紗の華琳への盃の献上を書いてないのは仕様です。
ZABADAKはやっぱりええなぁ・・・。
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これから山場が続きそうなので、息抜きに一刀と華琳のいちゃいちゃを書きたかった。後悔はしていない。