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真説・恋姫†演義 北朝伝 終章・終幕 ~そして大団円からエピローグへ~

狭乃 狼さん

ついに北朝伝、これが最終話です。

ここまでお付き合い頂けた方々に、多大なる感謝を。

では、この物語の結末、ご覧くださいませ。

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2011-10-27 13:48:52 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:21906   閲覧ユーザー数:15542

 

 『……中華連合諸王朝?』

 「そ。俺が頭に描いてきた、大陸の今後の形。それが連合国家ってやつさ」

 

 襄陽の城の王座の間。そこにて行われているのは、晋・燕・魏・呉・蜀、そして荊州の劉・袁両家の面々による、今後の各勢力同士の関係と、漢土全体の統治体制を方向付ける、その為の会議である。

 

 「……これまでの様に一つの王朝が大陸全土を統べるのではなく、複数の王朝がそれぞれの土地をそれぞれに治め、複数の国家群による一つの国家を創り上げる……か」

 「……ようするに、秦代の前の時代……夏・殷・周の頃の様な、覇者を中心とした体制に戻す……そんな感じかしら?」

 

 会議の冒頭にて一刀から諸侯に伝えられた、連合国家構想。今という時代にはあまりに突飛なその構想に、その場の者のほとんどが呆気にとられる中、その頭をすぐに冷静なものへと戻して分析した曹操と孫策が、それぞれにその感想を口にする。

 

 「うん。概念的にはそれが一番近いと思う。連合全体を代表する立場の、覇者に近い立場の連合首長っていう役職ももちろん設置するしね。……ただ、それが覇者ともっとも大きく違う点は二つ。その役割と後継者の選び方さ」

 「役割の違いって?」

 「覇者の場合は自分に従う諸侯を守り、助ける義務を背負っているだろ?そしてその見返りとして、膨大な贈り物をそれら諸侯から受け取れる」

 「……この場合の代表首長とやらは、その両者が無いということですかしら?」

 「両者、ではないよ、麗羽。この場合の首長が有するのは前者の義務と責務のみさ。国家間の仲裁や紛争の解決に、首長は全力を尽くさなければいけないけれど、かといってそれを行ったとしても、各国家にたいして見返りを要求してはいけない。連合首長は全国家に対して、完全に公平で中立な立場を貫かなくてはいけないんだ」

 

 連合首長の立場に就いた者が、基本的に行うべき事柄と立ち位置、そして一貫していなければいけないその精神を、一同に語って聞かせる一刀。

 

 「それで?実際に事が起こった場合、首長が紛争を鎮圧する、そのための戦力はどうするの?」

 「各国から一定数の戦力を公平に供出して、首長に暫定的に指揮権を預けることにするんだ。もし、紛争などが各地で起こった場合、その鎮圧相手に同じ故国の人間が来るかも知れないとなれば」

 「……確かに、それだととってもやりにくいですよね。というか、それだと最初から、乱に参加する気すら起きないかも」

 『……』

 「……あれ?あの、私、何か変な事言いました?」

 

 一刀の話を聞いてその先を読み、その意図する所に気付いた劉備が、それをその口にした瞬間、唖然とした一同の視線を一斉に浴び、思わずうろたえる。

 

 「あー、いやその。……すまん、桃香。まさかお前がそこまで考えが回るとはその」

 「あー!白蓮ちゃん酷いー!……そりゃあ、そう言われても仕方の無いくらい?昔の私はその……だったけど、これでも一応、ちゃんと勉強してるんだからねー?」

 「そうね。確かに今のは、私達の態度が礼を失していたわ。……ごめんなさい、劉備」

 

 曹操のその一言を皮切りに、次々とその頭を劉備に下げる一同。そしてそれを受けた劉備がかえって恐縮し、慌てて顔を上げるように一同を促す。……そんな平和な光景が、暫くその場で続けられたりしたのであった。 

 

 

 

 「えーっと。とりあえずさっきの話を続けるけど。今言った紛争などへの対応を、責任もって行うその一方で、首長は各国に対し、政治的な干渉を行ってはいけないともする。国の政治はあくまで各国の独自裁量に委ね、内政には不干渉の立場をとるんだ」

 「ですが晋王閣下?それですとその首長とやらは、有事意外はただのお飾りになって、悪く言えばただ飯食いになってしまいませんの?」

 「麗羽の言うことも分かるよ。けど、首長だって全く平時に仕事をしないってわけには行かないさ。自身がその居所(きょしょ)とする、街とその周辺に関してのみには、首長自らその統治を行わなければいけない。それも首長に課せられる義務の一つだよ」

 「……なるほど。ただ有事に動くだけの単なるお飾りではなく、平時は平時で首長としての責務も、きちんと担うというわけね」

 「働かざる者食うべからず……といったところかの?」

 

 連合国家の象徴という立場である以上、それに見合った能の無い者には決して務まらないように、州の一つ程度は万事滞りなく治められるぐらいの器量は、首長に求め続けなければならない。そしてそれと同時に、大陸全土の代表者としての覚悟と認識をも、持たせ続けなければいけない。だからこそ、平時から政治にはきちんと関与させ、統治者としての意識を常に意識させておくのである。

 

 「首長の役割と義務は分かったわ。で、もう一つの点……後継者の選び方と言うのは?」

 「代々の連合首長は、各国の王の一族から優れた能を持つ者を選抜して選りすぐり、その中から最も優れた人物を、次代の首長として定める」 

 「……首長に限っては、血縁継承を否定する、と?」

 「……血の繋がりが、必ずしも能力の優秀さに繋がるわけじゃあないからね」

 

 さらに、もし市井に埋もれている優秀な人材が居た場合、そういった者達にも機会を与えるべく、試験制度の導入もその視野に入れている、と。一刀は最後にそう付け足した。正直な所、一刀としてはこれについては反対意見のほうが確実に多いだろうと思っていたのであるが、意外にも一同は揃ってその案を了承した。その時、全員を代表して賛成の理由を述べた曹操曰く、以下の通りの意見であった。

 

 「血と出自に捉われて、(ぎょく)の原石を見逃しては、まさに愚の骨頂というやつよ」 

 

 その後さらに続けられたその話し合いにおいて、一刀の提案した連合王朝成立は、諸侯の満場一致による可決を見た。ただ一点だけ、その首長という呼称についてのみ、その場に集った一同から異論が出された。

 

 「確かに、いままで無かった呼称を用いて、世に新しい時代の到来を告げるのも、一つの手だと思う。だがな、一刀?大陸に住むほとんどの民達は、皇帝こそが大陸を代表する頂点の存在だと認識してる。だからこそ、皇帝という称号については、そのまま用いるべきだと私たちは思うがな」

 

 皆を代表して公孫賛が述べたその言葉は、一刀以外全員の、ほぼ一致した意見であったため、連合首長の呼称は皇帝とされることになったのであった。

 

 

 「……さて。それじゃあそろそろ、今代の王朝の皇帝、劉協帝の話に入ろうか」

 「……協については死罪が相当じゃろう。これまでにあれがして来たことを鑑みれば、それ以外に選択肢はない」

 「命さま……」

 

 漢の十四代帝劉協は、双子の片割れとして自身を忌み嫌い遠ざけた、今は亡き父母への意趣返しと、姉である李儒こと劉弁への敵愾心により、大陸の混乱を陰から煽ったその後に、自らの手でその混乱を収めて、己が力と存在を誇示しようとした。それが、先に捕らわれた後、一刀と李儒の前で劉協自らが語った、これまでの行動のその理由であった。

 

 その事をつまびらかに語っていたとき、劉協の瞳には完全に生気が失われていた。全ての目論見が潰えた以上、生きる気力を完全に失った彼女は、あれから三日経った現在も、食事はおろか水すら碌に摂ろうとしていない。みずからその喉を掻っ切るような事は無いが、それでも彼女は生を拒絶し、死を望んでいることは明白で、一刀や李儒はもちろんの事、他の誰の言葉にも、一切聞く耳をもたずに、ハンストを続けていた。

 

 「……彼女の事は哀れだとも思うわ。双子が忌み子なんていう迷信に捕らわれて、我が子をぞんざいに扱った先帝や何太后にも、その罪はあるでしょうし。でも」

 「それでも、劉協帝がしてきたことは、事情に同情はしても許されることでは無いわ。……わたしも、命さまと同様、死罪が相当だと提案するわ」

 「……孫策さんも、華琳も、か。……他のみんなは?」

 「……私も、弁明の余地は無いと思う」

 「残念じゃが、仕方ないかもな」

 

 孫策、曹操に続き、公孫賛と丁原も、劉協は死罪が妥当だとの意見を述べる。その他の者も、同様の意見である……かと思われたのだが、それに異を唱えた者が三名ほどいた。その内の二人、劉備と袁紹はまださほどでもなかったが、一番一刀にとって以外だったのが、徐庶から反対意見が出たことであった。

 

 「劉備さんはまあ、一応漢の血族なんだし、反対意見に回るのは分かる。麗羽も意外と言えば意外には違いないんだけど、袁家は漢朝に受けた恩が大きいから、擁護するのもなんとなく納得できる。……でも輝里、君が劉協帝の助命に回るとは思ってなかったよ。……で?その理由は?」

 「はい。……確かに、私自身も、個人としては劉協帝のされてきたことは、その罪業深いものだとは思います。ですが、ただ皇帝を極刑にしただけでは、一刀さんをはじめ各諸侯に皇帝殺しの悪評が着かないとも限りません」

 「……それで?」

 「……同じ頂戴するのであれば、そのお命よりも位の方を頂戴した方が、世の風評は良くなるかと。つまり、民や兵の見ている前で、劉協帝に禅譲の儀を大々的にしていただいたほうが、皆様の徳を世に示し、血には血を持って償う哀しい時代の終わりを、世に知らしめる事が出来ると、臣はそう愚考いたします」

 

 個人的には斬首が相当の刑だと、徐庶自身はそう思ってはいる。しかし、そこをあえて助命し、劉協に禅譲をさせることによって平和裏に事を済ませるほうが、後々一刀ら各王や諸侯のためになると。徐庶はそう進言したのである。

 

 「……元直の言うことも、確かに一理はあるの。ただ問題は……」

 「劉協さんが、それを素直に受け入れるか否か、だな」

 

 

 「断る」

 『……』

 

 水も食事もまともに摂っていないためか、この三日間でかなりやせ細った感じのその顔で、部屋を訪れた一刀らから、先の提案、連合首長である新たな皇帝への禅譲を、無表情なまま一蹴した劉協だった。

 

 「夢よ。そなたに選択権があると思うておるのか?本来ならば死罪になる所を、皆の温情により命永らえられるのじゃぞ?そなたかて本気で死にたくなどは」

 「殺さば殺せ。朕はもはやこのまま醜態を、生き恥などを晒しとうはない。さっさと地獄とやらに送るが良いわ」

 「……」

 「一刀?」

 「一刀さん、何を」

 

 不貞腐れ、そっぽを向いた劉協の傍に一刀が近寄り、寝台に座っている彼女のその前にしゃがみ込む。

 

 「な、なんじゃ?言っておくが、朕はお主なんぞこ、怖くは……」

 「……ほんと。命にそっくりだな。一卵性の双生児って、ここまで似るものなんだ」

 「……は?」

 「しかし、双子でも体型までは似ないんだ。……うん、なんかその、ほんと、残念だ」

 「なっ……!!こ、この無礼者の恥知らずが!な、なんと言うところで朕と姉上を比較しておる!?大体、双子じゃからと言って何もかも同じなわけが無かろうが!」

 「そう。君と命はまったく別の存在。劉伯和と言う名の、きちんとした個人だ。……それが分かって居ないから、双子の片割れは忌み子だなんて平気で言えるんだろうな」

 「……え」

 

 姉である李儒との見事なまでに体型的に違うその点を、一刀はわざとふざけた言い方で指摘する事で、それまで無表情だった劉協から怒りの感情を引き出して、皇帝と言う名の人形から劉協と言う名の人間へと、その一瞬だけ戻し。怒りのままに吐き出された彼女の言葉に、無念の表情をその顔に浮かべて同調する。

 

 「生命が生まれた。ただそれだけでも十分に幸福な事なのに、それが二つも同時に誕生したのは、その幸福が二倍になったということだ。……君はもっと、その誕生を祝福されるべきだった。それが為されなかったのは、世に古い因習が蔓延しているせいだ」

 「……北、郷……」

 「だからと言って、君自身の罪が許される訳でもない。忌み子だと親に言われながらも、それでも親兄弟を憎まずまっすぐに育った、そんな子達だって世の中にはいくらでも居るだろう。それを理由に道を踏み外してしまったのは、君自身の弱さによる罪だ」

 「……ッ」

 「けど、その罪をちゃんと認め、向き合って行きさえ出来れば、人はいくらでもやり直せる。……生き続けてさえ居れば、ね」

 

 

 

 死んでしまえば罪滅ぼしもやり直しも何も出来ない。自分が嘗て黄巾賊の一部隊に対して行った、死と言う罪のあがなわせ方では、本当の意味での罪滅ぼしをさせたことには、決してならない。その時の事は今でも後悔こそしていないが、感情に走ったが故の間違った手段であった事を、一刀はずっと自身への戒めとして、その胸中に残し続けてきた。それはおそらく、これから先もなんら変わる事無く、彼の心に突き刺さったまま、生涯抜け落ちる事は無いであろう。

 

 「……結局、おぬしは何が言いたいのだ?自分にさっさと帝位を禅譲して、朕には安穏と田舎暮らしでもせよとでももうすのか?」

 「いやあ、俺は皇帝なんて柄じゃあないって。……俺が言いたいのはただ単に、死に急いで逃げるなって事だけさ」

 「……っ!!」

 「さて。言いたい事は全部言わせてもらったから、あとは……命。君に任せるよ」

 「……わかった」

 

 李儒にその後のことを任せ、一刀は一人部屋から出る。そこに待っていたのは徐庶、姜維、徐晃の三人。

 

 「どうだった、一刀。劉協帝の様子は」

 「ちょっとだけ、わざと怒らせるようなことを言ったら、瞳に生気が戻ったよ。……そこからは本人次第だけど、まあ、後は姉妹水入らずで話していれば、案外悪いほうには行かないかもね」

 「せやったらええんやけどね。……ところでカズ?劉協はんを怒らせるのって、どうやってやったん?」

 「……内緒♪」

 「内緒、ですか。それでは一刀さん?ちょっとこれから、私たちのO☆HA☆NA☆SHI☆に、付き合ってもらえますか?」

 「へ?」

 「女にせくはら発言するような人間には、きっちりお説教をしておかんとな」

 「ちょ!?三人揃ってそんな“いい笑顔”で人の腕を引っ張らないで!!あーれー……」

 

 部屋の外で三人の少女に引きずられていく一刀のその声は、当然の如く室内の二人の耳にもしっかり聞こえていて。 

  

 「……今何か、断末魔のような声が……」

 「助平人間の、な。……ま、それはそれとして、じゃ。……ほれ」

 「……これは?」

 「ん?見て分からんか?桃饅じゃが」

 「いえ、それは分かっているけど……」

 「ならば食え。美味いぞ~?わざわざ許昌から取り寄せた、纏華羽屋の絶品饅頭じゃ。妾の一番のお気に入りじゃぞ?」

 「……辛いのは嫌です」

 「安心せい。辛くない普通の桃饅じゃ」 

 

 李儒が差し出したその饅頭を、劉協は暫く無言で見つめた後、おもむろにかぶりつく。

 

 「……~~~~~っ!!か、辛っっっ!!けほっけほっ!!……やってくれましたわね?」

 「はっはっはっ!相変わらず良い反応をしてくれるの~♪これじゃから、そなたをからかうのはやめられんのじゃ。さっき一刀のやつも言うたが、見た目はこれだけそっくりであるのに、趣味嗜好はまるっきり違うんじゃからの~。双子でもその個は全く別物。見た目は一緒でも、その中身の違うこの饅頭と同じでな。……はむ」

 

 饅頭の余りの辛さに激しくむせこみ、自分を以前と同じように騙した姉を、キッと睨みつける劉協。その妹怒りの視線を一切気にせず、李儒はその手に持っていた普通の饅頭を一口齧る。

 

 「どうする?こっちと変えるか?」

 「……結構です。はむっ……けほっけほっ!……うう、辛いです……涙出るほどに……ヒック、ヒック。……でも、美味しい、です……」

 「……そうか」

 

 

 

 それから半月後。

 

 大安吉日のその日、数十万を越える数の群集の見守る中、とある儀式が厳かな雰囲気の中、執り行われていた。

 

 許昌の街のその郊外に設営された祭壇を、一人、一歩づつ、ゆっくりと段を上がっていく、日の光を反射して輝くその白い衣服に、白いマント羽織った北郷一刀。

 

 その視線の先、段上の頂上にて一つの包みを持ち、彼を待ち受けているのは、漢の十四代皇帝劉伯和。

 

 各国の王や将兵、そして民達のその視線を一身に受けながら、一刀は段の頂上に辿りつくと、その足元にある香の焚かれた壷の置かれた台を挟んで、劉協と正面から向かい合う。

 

 「……漢の脈絡に連なる者として、父祖が築きし王朝を、今日この場にて、朕自らの手により、その幕を引くは甚だ遺憾なれど、時勢は既に朕の、漢の手により離れ、晋王ら諸侯の手に渡りし事、明々白々である」

 「……」

 「故に、朕はここに、諸侯連合の代表となりし、晋王、北郷一刀に、至尊の位とその証たる玉璽を、今、譲り渡すものである。これより後は、新帝の名の下、各王らが一致団結し、大陸とその周辺氏族に、多大なる栄と幸をもたらすことを、強く願うものである」 

 「は。……われら未だ未熟な者ばかりなれど、誠心誠意、身命を賭して、世の民らのため、微力なれど全力を尽くして、働いていく所存にございます」

 「……晋王のその言を聞き、朕も安心して市井へとこの身、隠すことが出来る。……後は、良しなに」

 

 劉協の手から、一刀の手へと玉璽が受け渡され、この瞬間、大陸に新たな皇帝が誕生した。

 

 その名は、晋皇帝・北郷一刀。

 

 大陸各地を統べる、七人の王と共に、世界史上初の連合国家を纏め上げる、『中華連合諸王朝』の、代表首長としての皇帝が、今ここに誕生したのであった。

 

 その後、各地を治める王として、改めて選抜され、認可されたのが、以下の七王である。

 

 領、幽州及び并州の牧。燕王、公孫伯珪。

 

 領、冀州及び青州の牧。斉王、袁本初。

 

 領、兗州及び徐州、淮南の牧。魏王、曹孟徳。

 

 領、擁州及び涼州、漢中の牧。秦王、董仲頴。

 

 領、揚州の牧。呉王、孫伯符。

 

 領、荊州の牧。楚王、袁公路(ただし、その後見として荊州刺史、丁建陽が補佐として着任)。

 

 領、益州の牧。漢中王、劉玄徳。

 

 そして晋皇帝北郷一刀の直領として、司隷、豫州が、その統治下となり、これにて、大陸は新しい時代の体制へと、その歩を進めて行く事となったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【終幕。そして大団円】

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 「……久しぶりの許都じゃな」

 「はっ。……一年ぶりにございますか」

 

 許昌、現在は再び皇帝の居所となったため許都と呼ばれているこの地に、一台の馬車が到着した。外見は簡素な見栄えをしているその馬車であるが、同時に二十人は乗れる大型のもので、馬は四頭立てのがっしりとした造りになった、駅馬車用の乗合馬車である。

 

 「それにしても、この乗り合い馬車……じゃったか。よくまあこの様なものを思いつくものだ」

 「さようですな。しかもこれと同じものが、現在は大陸各地に何台と配置され、安い料金で誰でも乗れる上に、護衛の為の兵も付くのですから。力ない老人や女子供も、安心してどこへでも行けますからな」

 「ん。……本当に、当時の妾…いや、私がしていた政が子供のお遊びだったことが、これ一つとっても理解出来るて」

 「……伯和さま……」

 「ああ、気にするでない、承。……それよりいい加減、私を伯和さまと呼ぶのは止めぬか。遠慮なく真名で、夢と呼んでくれんかのう?……良人(おっと)であればそれが自然じゃろう。祝言を挙げてもう半年も経つというに」

 「……その、癖が抜けぬというのもありますが、なんというか、気恥ずかしさのようなものの方が、どうにも先立ってしまいまして……申し訳な、いや、す、すまん。……夢」

 

 馬車の中で肩を寄せ合い、そんな会話を交わしているのは、かつての漢の十四代皇帝であった劉協と、その側近で禁軍の将軍であった董承である。一年前。その至尊の位を禅譲によって一刀に譲った後、二人は市井の身に降りて洛陽郊外のとある邑へと移り住んだ。初めて経験する色々と慣れない邑人としての生活に戸惑いながらも、二人は一致協力して平民としての日々を過ごし、その半年後、夫婦となった。

 

 その知らせを都で多忙な日々を送っていた一刀らが聞いたときは、全員、目の玉が飛び出るのではないかというほどに、仰天した。それもまあ無理からぬことであろう。董承がその見た目と違い、いまだに三十前だったということにも驚いたが、彼の劉協に対する強いその忠誠心が、よもや異性としての愛情から来ているとは露ほどにも思っていなかった。さらに劉協自身も、董承をひそかに異性として慕っていたその事実にも、心底から驚かされたが、それもまた一つの良縁なのであろうと、式が行われる当日、一刀と李儒、徐庶の三人だけで、お忍びでその邑を訪れ、二人を祝福したのであった。

 

 ちなみに、であるが。その式の当日、久々に顔を合わせた姉に対し、劉協はこんな不安を漏らした。あれだけのことを仕出かした自分が、女としての幸せなどを掴んでよかったのかと。それに対し、李儒は彼女にこう言ったそうである。

 

 「過去は過去。現在(いま)は現在。……昔に縛られているだけでは、人というものは歩いていけん。これから未来を紡いで行くのが、生きている人間の最低限の務めじゃぞ?」

 

 話を元に戻すが。その劉協と董承がこの許都に、二人そろってやって来たのは、実はこの日の翌日に行われる予定の、ある儀式に出席をするためなのである。

 

 

 「……さて。文によれば迎えの者がここに来ているそうだが……」

 「あー、居た居た。待ってたわよー、お二人さん」

 「ん?……おお、呉王ではないか!まさか、おぬし…あ、いや。貴女が迎えの者……」

 「ああ、そっか。貴女はまだ知らなかったんだっけ。私ね、ちょっと前に隠居して、妹の蓮華…孫仲謀に王位を譲ったのよ。なもので、今はただの自由な風来坊よ。だからその辺気兼ねなく、友人に接するぐらいの気持ちで居てくれていいわよ♪」

 「……なるほどの。まあ、貴女らしいといえば、らしいのかも知れん」

 

 前・呉王であったその女性、孫策のあっけらかんとしたその態度に拍子抜けし少々呆れつつも、劉協は微笑をその顔に湛え、自由の身となってさらに奔放さが増した彼女に、そう呟いてみせるのであった。

 

 「あははー、まあね~。……お元気そうで何よりね、お二人さん。……協さんも大分、おなかが目立ってきたわね?」

 「……ん/////時折、元気に動いてくれる」

 「……幸せ?」

 「……申し訳ないほどに、な」

 

 子が出来たことで大きくなり始めた自身の腹をさすりながら、劉協はその顔に複雑な笑顔を浮かべる。

 

 「……さ!それじゃあお城の方に行きましょうか!みんな待ってるわよ?」

 「さようですな。……では、行くか、夢」

 「……ん」

 

 孫策の先導により、二人は許都の城へと向かう。本来であれば、一農民の二人が城に入れることは無いのだが、今回はことがことだけに、特例として城内への入城を認められている。そして城内にて、かつての知己らと再会した劉協と董承は、その最後に、明日の主賓であるうちの、女性二人が控える部屋へと向かった。

 

 「夢!それに董承!いや、二人ともよう来てくれたな?」

 「ご無沙汰しています、お二人とも。お元気そうで何よりです」

 「……正直、どうしたものかと出発直前まで悩んだが、承に背を押されてな?……恥ずかしながら、姉の晴れ舞台を見させてもらいに来ました。……姉上、そして徐元直どの。……御成婚、おめでとうございます」

 

 その部屋の中。椅子に座って笑顔を向けているその二人に対し、心からの祝福を述べる劉協と董承。そう。明日行われる儀式というのは、中華連合諸王朝代表首長である、晋帝北郷一刀と、徐庶元直、李儒白亜の、結婚の儀なのである。

 

 「それにしても、二人同時の婚儀とは、いや、正直初めて聞いたときには、我が耳を疑いましたわ」

 「そうじゃな。北郷帝が複数の女性とそういう関係なのは知ってはいたが、まさか二人同時に婚儀とは」

 「ははは。まあ、その気持ちもよく分かるが、夢よ?明日の婚儀はあくまでも、妾と元直のみのものじゃ。……来月には、伯約と公明、二人の分も控えておる」

 「え?」

 「……第二夫人どころか、第三、第四夫人とも、で、ございますか?」

 「第二とか第三とかじゃあ無いですよ?……全員第一夫人です」

 『……は?』 

 「……一刀が言うにはの?『俺はみんなのことを平等に、等しく好きなんだ。だから奥さんに序列をなんてつけたくないんだ。というわけで、全員第一夫人でいいじゃないか』……だそうじゃ」

 「なんとまあ……。自由というかなんと言うか」

 「……男としては少々羨ましい立b「何か言うたか?承」いや!なんでも」

  

 あはは、と。すがすがしい笑い声がこだまする、その部屋。かつてのしがらみはもうどこにも無く、終始和やかな雰囲気のまま、彼女らの語らいは夜遅くまで続いた。

 

 

 

 そして、翌日。

 

 どこからとも無く流れてくる、重厚な鐘の音の響く中、許の城中、普段は謁見の間として使用されているそこに、公孫賛、曹操、孫権、董卓、袁紹、袁術、劉備ら、各国の王を始め、烏丸の丘力居、匈奴の劉豹ら五胡の氏族の長たちも列席し、そして文武百官が整然と居並んで、この場における主役たちの登場を静かに待つ。

 

 「皆様。新郎新婦方、ご到着にございます」

 

 その声とともに、一同の視線が謁見の間の扉へと集中され、それと同時に、ゆっくりと、その重い扉が開かれていく。扉が完全に開ききり、そこに姿を見せたのは、白いタキシードを着た一刀のそのそれぞれの両腕に、それぞれ片側づつに腕を絡めた、純白のウェディングドレス姿の、徐庶と李儒。

 

 「はあ~……綺麗……」

 「……ちょっとだけ、羨ましいかも」

 「……私もいつかは、一刀と……はあ~……」

 

 それぞれにそれぞれの感想が、小さな声で聞こえてくる中、一刀たちはゆっくりと、一歩づつその歩を前に進めていく。そして婚儀のために特別にあつらえられたその祭壇の前で、三人は静かにその足を止めて並ぶ。その三人の前、祭壇を挟んだ正面には、祭司を務める司馬仲達の姿。

 

 「それではこれより、中華連合諸王朝代表首長、晋皇帝、北郷一刀陛下と、共に第一夫人となる徐元直、李白亜の婚姻の儀を執り行います」

 

 祭司であるその少女の宣言と共に、式は厳かに進められていく。

 

 

 そして、滞りなく式が行われた後、新郎新婦らは天蓋付きの豪奢な馬車に揺られ、許都の街を、大勢の人々からの祝福を受け、歓喜の声に包まれながら、ゆっくりと一周していく。

 

 それから後は街中、いや、国中をあげての祭りが、大陸各地で盛大に執り行われ、それは三日三晩に渡って続けられたのであった。

 

 

 こうして、大陸は新たなる秩序の下、次なる時代へと、その歩みを始めた。

 

 後の世に記された史書によれば、この中華連合諸王朝は、その後およそ千五百年近くに渡ってその体制を維持し、まさに人類史上例を見ない奇跡の王朝として、その名を歴史に燦然と輝かし続けた。 

 

 そして、北郷一刀と数多の少女たちが、その後どのような人生を送ったかについては、ここではあえて割愛させていただくが、長きに渡る無限の旅路を終えたこの北郷一刀は、その最後の生涯を、幸福なままに過ごした事だけをお知らせし、その締めとさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 以上にて、この物語は結末と相成ります。

 

 それではみなさん、またいつか、どこかの外史にて、再びお目にかかれるその日まで。

 

 永遠の観測者にして、旅人。

 

 菅公明の此度の講釈、これにて幕と、させていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『真説・恋姫†演義 北朝伝』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~終劇~ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エピローグ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「漸く終った、な」

 「せやな。ほんま、これで漸く、あのかずぴーにも、安らぎの時が訪れたわけや。めでたしめでたし、や」

 

 白一色の何も無い空間にて、目の前に浮かぶその像を見つめていた、二人の白い装束を纏った人物。

 

 「さて。あとは向こうから娘達の分け御霊を回収して、本来の魂と融合させるだけだな」

 「なあ、いまちょっと疑問に思たんやけど、あっちの体から分け御霊を回収したら、あの世界のあの娘たちはどうなってまうん?」

 「別にどうにもなりやしないさ。……これだけ長い時間、あの世界の肉体と結びついて居たんだから、その本質的な魂の情報は、あの世界の体の新しい魂として、もう固着しているしな」

 「ほんなら、あの娘らはあの娘らのままっちゅうことやな?」

 「そういうことだ。さて。それじゃあおれはそろそろ行くよ。娘達の出迎えがあるんでな」

 「おー。みんなによろしゅうなー」

 

 二人の人物の内、片方の人物の姿が、すっと白い世界の中にそのまま溶け込む。

 

 「……さあてと。ほんならわいも、そろそろ“次の”かずぴーんとこに行くか。あの世界に行った北郷一刀の、その贖罪の旅はこれで終わりやけど、いままでの過程で誕生した他の北郷一刀は、まだまだたくさん、『ゆりかご』の中で、役割の開始をまっとるし。……ほんま、あん時のかずぴーの台詞やないけど、一体後何回、わいは『導き手』を務めなあかんのやろな」

 

 一人、その空間に残っていた人物が、その身に纏っていた白装束を脱ぎ捨て、その顔に眼鏡をかけながらそうぼやく。

 

 「ま、ここでぼやいて居てもしゃあないか。うし、ほんじゃまあ『ゆりかご』に、フランチェスカを模して創られた始まりの場所に、とっとと行くとしますか。次なる北郷一刀を、新たな外史に導くために。導き手たる役を担いし管理者、『及川 裕』として、な」

 

 ぱちん、と。指を一つ鳴らし、正面に浮かんでいたその画像を消してから、その人物もまた、白い空間から姿を消した。

 

 彼がその姿を消し、誰も居なくなったその白い空間。

 

 暫くして、その空間に再び、別の訪問者が訪れた。

 

 「……ふむ。もう二人とも帰ったか。……まあ、仕方あるまい。さて、わしはわしで、あの馬鹿弟子を迎えねばな。次なる外史の舞台は、もう整っておるのだから」

 

 その、凛とした美しい声を、訪問者たる白い外套を羽織った人物が発すると、空中に再び、虚像が浮き上がった。

 

 そこに書かれていたのは。

 

 

 

 

 

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 『真説・恋姫†演義 仲帝記』

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 Stand by ready……

 

 

 

 

 

 

 

 と、言うわけで。

 

 

 終ったああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

 

 

 昨年年明け前より開始した、この真説・恋姫†演義 北朝伝。

 

 これをもちまして、ついに終了でございます。

 

 

 このしょうもない駄文が、無事、終わりを迎えられましたのも、ひとえに応援し続けてくれた、読者の方々のお陰にございます。

 

 改めて、この場にて篤く御礼申し上げます。

 

 

 さて。これからの活動予定ですが。

 

 とりあえず、次回からは以前途中で思いっきりぶった切った、

 

 「天上天下絶品武道会」

 

 これの第二部を再開させていただきます。

 

 そして、早ければ年内にも、次の長編ss、袁術√こと、

 

 「真説・恋姫†演義 仲帝記」

 

 を、開始したいと思っております。

 

 なお、その合間合間に、この北朝伝の外伝的お話を、ご紹介したいとも思っておりますので、

  

 そちらの方もぜひ、ご一読くださると、作者としては非常に嬉しい限りです。

 

 それでは皆様。

 

 また、次回投稿作品にて、お目にかかりましょう。

 

 

 再見~( ゜∀゜)o彡゜!!    


 
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