No.316030

【DQ5】遠雷(5)【主デボ】

sukaさん

捏造満載デボラ様ばなし。小魚はまだ出てこないです。すみません。
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2011-10-10 18:37:21 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1594   閲覧ユーザー数:1593

 雨の勢いは、収まる気配がない。窓越しに、冷気を感じ、デボラは己の躯が冷えることよりも、別のことが気になった。今の己の躯は、自分よりも優先するものが発生している。

 膝掛けを落とさない様に手に取る。立ち上がり、窓枠に手を添える。

 窓に激しく叩きつけられた水滴が拡散し、静かに流れて集合する。そうして、大きな軌跡を描く。その様を眺めていると、デボラは、妹のことを思い出すのだ。

 物静かで本を読むのが大好きな妹。寂しがりやで、いつもデボラの側にいようとした可愛い妹。そんな彼女の夢は、学問をすることだった。それも、ただの学問では無い。神に仕え、神に全てを捧げる学問だった。信仰と知識の両方を生かし、人々を救う神の代行者となる為に学ぶ。それは、心優しい妹に最もふさわしい生き方のように、デボラには思えた。彼女は、今、どうしているだろう。結婚は、デボラがしてしまった。だから、彼女はもう、家の為だとかデボラの為だとか、そんなことは考えなくても善いのだ。

「フローラ、元気かな。」

呟くと、途端に寂しくなった。

 「あれあれ!そんな所にいたら、躯を冷やしてしまいますよ!」

中年の女官が、血相を変えて飛んでくる。「大丈夫よ」という間もなく、デボラは暖炉の側まで移動させられてしまった。

「大事にしないと。」

「大丈夫だってば。自分の躯のことは、よくわかっているつもりよ。」

そう言うと、女官は眉をつり上げた。

「いいえ。デボラさんは解ってません。」

腰に手をあて、いかにも“怒っている”ポーズを取る。その様が、デボラには可笑しくてもどかしい。

「今のデボラさんの躯は、デボラさんだけのものじゃあありません。」

「それも、わかっているつもりなんだけど。」

言い返すが、説得力はない。女官は、心配そうな顔をした。デボラの躯が冷えないように、膝掛けをかけ直しながら、時折、慈しむようにデボラを見つめた。

 女官は、他人であるデボラにも、善くしてくれる。主な理由は、デボラの“夫”が、彼女の主君の関係者かもしれないからだが、それだけではないようだった。

 “夫”はともかく、デボラは赤の他人である。けれども、女官はデボラを介抱してくれた。そして、うろたえる“夫”に対して、「あたしは、三人産んでるんだよ!」と、胸を張った。その姿は頼もしく見えたし、誇らしげな顔は美しかった。己も、あんな顔が出来るようになるのだろうか、と、デボラは思った。

 母親になる人は、皆、あんなにも頼もしいのだろうか。

―― ママも……。

デボラの“母”は、いつも“父”の影に隠れていて、印象が薄かった。だからだろうか、デボラは、己が“母”になるかもしれないことを、うまく整理することができずにいた。

 デボラにとっては、“父”とどのようにつき合っていくのかが、問題だった。それは、もしかしたら、フローラもそうだったかもしれない。

 “父”は、いつでも強引だった。けれども、赤の他人であるデボラのこともフローラのことも、彼なりに愛そうとしていたのだろうことは、最近になってわかり始めた。ただ、昔は、そんなことなど、思いもしなかった。寧ろ、“父”とどうやって向き合うか、ということに頭を悩ませていた。

 

 

 

(5)

 

 フローラは、結婚してルドマンの家を継ぐ為に、神学の勉強を中途で辞めさせられたのだ。

 デボラの素行に心を痛めた義父は、傍若無人で自由気ままな長女に対して、家の存続など如何とも思わないだろうと判断したのだ。

 デボラとフローラが暮らすこの富豪の家は、デボラには想像がつかないほど大きい。その財は、小国の君主など足下にも及ばないほどだと言われていた。それほどまでに大きなこの家を維持しなくてはならない。デボラは、このときまで、それを失念していた。否、考えないようにしていた。素性の知れない孤児を引き取るのは、慈善だけではないのだ。それは、至極当然のことであった。

 期待に応えたいと思ったことが無い訳ではない。ただ、面倒くさかった。喜んで期待に応えられるフローラを、素直にすごいと思っていた。そのままで善いはずがなかったのに。

 

 全ての事情を話し終えると、フローラは、堰を切ったように涙を流した。

 ―― 私は、暢気だったわね。

 デボラは、心が痛いと感じた。泣きそうだとも思った。怒りがこみ上げてきて、今すぐにでも義父に抗議したいと思った。けれども、全て耐えた。

 フローラは、自ら望んで修道院に入った。それは、神の学問を修めるためだった。しかし、その志は絶たれてしまったのだ。それも、自分ではどうしようも無い理由で。

 フローラが可哀想だ、とデボラは思った。

 当初は、フローラが居なくなるのが寂しくて仕方が無かった。神様に仕えたいなどと言って修道院へ行ってしまったものだから、デボラは、神様を逆恨みした。そして、花嫁修業などと言って、フローラを遠くへやってしまう義父に対して反発した。今も、神様をありがたがったりすることはない。面倒なものだと思っている。義父のことは、育ててくれた恩を感じている。一方で、強引に過ぎるやり方には、反感もある。己を取り巻く状況や、己自身のことを考えだすと、怒りがこみ上げてくる。それに加えて、妹のことを考えると、頭がどうにかなってしまいそうだった。

 デボラは、妹が望んでいることは、全てかなえてやりたいと思った。己に出来ることならば、何でも。出来ない事であっても、どうにかして。

 妹は、声を押し殺して泣いた。フローラの纏っていた質素だけれどもしっかりと縫われている修道服が小刻みに揺れている。家に帰り着いてもこの服を脱がないのは、彼女なりの抗議の気持ちだったのかもしれない、とデボラは思った。

 細い肩に触れると、冷たかった。布越しに、フローラの震えを感じた。デボラは、妹を抱きしめた。

 義父には、逆らうことは出来なかった。一度、決断を下してしまったならば、何を言っても無駄なのだ。それは、デボラにもフローラにも、よく解っていた。

 「こんなこと、本当は、お姉さんに言うつもりは無かったのよ。だって……、こんなこと、言ったって、どうにもならないもの。」

子供のようにしゃくり上げながら、必死に言葉を発する。

「それに、お姉さんは、きっと、傷つくに違いないから、言いたくなかったの……。」

「何を言われても、傷ついたりしないわ。」

嘘だ。

 デボラは、確かに傷ついていた。それは、妹が己の為に志を折られたことや、義父が己を信用していなかったことに対してではない。妹の言葉、泣きじゃくる妹の姿に、である。だが、何も知らないよりは遙かに“まし”だとも感じていた。

「大丈夫よ、フローラ。」

これは、気休めだ。発言したデボラ自身、口に出した途端に、己の言葉の説得力のなさに情けなくなった。声は震えて、妹の肩に乗せた手は冷たくなりはじめていた。フローラは、真っ赤になってしまった顔を上げて、デボラを見つめた。形の良い眉をしかめ、濡れた頬を強ばらせていた。

 ―― この子を助けてあげられるのは、私だけだわ。

 決意する。

 今までも、反抗してみたりお説教を受け流してみたりしたけれども、それでも義父はびくともしなかった。ため息を吐いたり怒鳴り散らしたりしていても、結局は義父の思うとおりになるのだ。そんな義父に、反抗する。デボラは、義父に正面から向き合うのは怖かった。けれども、フローラだけは、己が幸せにしなくてはならない、と思った。

「お姉さん……?」

フローラは、修道服の袖で涙を拭った。何度もまばたきして、不思議そうにデボラを見つめた。

「私に任せなさい。」

立ち上がって、踏ん反り返る。天井が暗くて、不安になる。

「私が、何とかしてあげるわ。」

 フローラを助けてあげたい気持ちこそが、長年求めていた“もの”なのではないか。きっと、そうだ。そうに違いない。―― デボラは、思った。そう思うことで、自身を奮い立たせたのだった。

 

 


 
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