比べられるのには慣れていた。
寧ろ比べられない事の方がおかしかった。
負けたくない、その気持ちだけで自分は優れた人間になるべく努力をした。
だからこそ自分は今この位置にいる。
血を分け合った、自分に良く似た人間に、負けないように。
それだけの思いだった。
そんな努力の甲斐あって、自分は常に自分と年も背格好も寸分違わぬ人間に、
自分の方が優れている所を見せ付けてきた。
誇りだった。
勝っている事の快感。
しかし自分は少しも驕る態度は見せず、「素晴らしい人間」を演じていた。
そんな自分に、酔い痴れていた。
学生時代も、就職してからも。
ずっと、自分の方が上だった。
…それなのに。
恋人ができた。
自分ではなく、自分に似たあの人間に。
自分よりも劣った人間に。
結婚すると言い出した。
自分より先に。
何故自分ではなく、自分より劣ったあいつに?
何故あいつが、自分よりも先に、自分よりも幸せになるんだ?
…そんな事が許される訳が無い。
そうさ。
自分はあいつよりも優れているんだ。
自分の方が上なんだ。
自分の方が幸せになる権利がある、そうだろう?
それは当然の事だ。
…許してはいけない。
自分の方が優秀な事、今までの人生の中で
あいつは身に染みて解っているはずだろう?
…その幸せに溢れた笑顔は、自分がするべき笑顔だ。
そうだろう?
…非難の声が聞こえる…
―もういい年齢なのに、まだ一人身?―
―いくら優秀でも、人付き合いが悪くちゃねえ―
…自分が、あいつよりも下だって?
そんな筈は無い。
そんな訳が無い。
自分は何もかもあいつより優れているんだ…!
解らせてあげるよ、…今すぐにだ。
どうすれば良いかなんて悩む必要は無い。
優れた自分には何より優れた方法がすぐに見つけられる。
結論は簡単。
あいつの何もかもを終わらせれば良い、それだけだ。
実行するのも簡単だった。
自分の計画が完璧だった所以だろう。
自分はこの手で、自分が優れていると言う事を、
あいつ自身に身を持って見せ付ける事ができた…
さあ、比べてみろ。
自分とこいつを比べてみろ。
非難の声はもうしない。
当然だ。
どう考えたって、まだ生きている自分の方が優れているに決まっているだろう?
…充実感と爽快感…
血の匂いに包まれたこの夜を、自分は一生忘れる事は無いだろう。
自分の何より素晴らしき日として。
人生の勝者は、自分だ。
―犯行が行われた当日と思われる本人の手記より
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2003年10月7日作