No.303864

真・恋姫無双~君を忘れない~ 五十二話

マスターさん

第五十二話の投稿です。
江陵を陥落させた麗羽。しかし、その脳裏に思い描く勝利はそれに留まることはなかった。そして、荊州に辿りついた御遣いはついに最後の王と出会うのだった。
最後にアンケートがあります。お答え頂けると幸いです。それではどうぞ。

コメントしてくれた方、支援してくれた方、ありがとうございます!

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2011-09-20 00:46:46 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:11289   閲覧ユーザー数:6694

麗羽視点

 

「あ、麗羽様、ご無事で何よりですー」

 

「七乃さんこそ成功してくれて助かりましたわ」

 

 部隊を江陵城に入れると、念のため城壁に兵士を多数の見張りに立たせ、厳戒態勢を布きましたが、どうやら孫策さんもこちらを今のところ攻める気はないみたいですわ。

 

 兵力差はおよそ二倍あるとはいえ、孫策軍が被った精神的苦痛は相当なものでしょうね。本来ならば自信のある情報戦において遅れをとり、況してやわたくしに敗北を喫するなんて、正直なところその痛みたるや想像も出来ませんわ。

 

「それにしても、まさか焔耶さんがたった一人で城壁を破壊できるようになっているとは思いませんでしたわ」

 

「私も助言しておいてなんですけど、もはや人間離れしてますよねー。恋さん同様に化け物ですよー」

 

「七乃! お、お前、自分からそうなれるって言っておきながら、言うにこと欠いて、人を化け物呼ばわりするのか!」

 

「…………恋、化け物じゃない」

 

「むむむ! 貴様ら、恋殿を貶めるとは許さないのですぞっ!」

 

 誰もが緊張感や不安に駆られ、内面が荒んでしまう戦場においても、この人たちは相変わらず騒がしく、またそれは寧ろ兵士たちにとってはふとした日常を思い出させてくれるので、助かるのですが、少しくらいは落ち着きという言葉を知って欲しいですわね。

 

「だけど、これからどうするんだ?」

 

 恋さんを化け物と呼んだ張本人である七乃さんに、ねねちさんが噛みつき、しかし、それを物ともせず、逆にねねさんをからかおうとしている七乃さんから逃れてきた焔耶さんが、わたくしに尋ねました。

 

 これからのこと――それはある程度は想定しておりますわ。そもそもわたくしの勝利は、確かに孫策軍を殲滅することではなく、荊州という地の制圧にあるのですが、それは江陵の占拠ではありませんの。

 

「やっぱり孫策軍と雌雄を決するに決まってんじゃん。まだアタイは暴れ足りないぜ」

 

「麗羽様、何か考えがあるんですか?」

 

「ええ。猪々子、残念ですが、孫策さんとの戦いは終わりですわ」

 

「えぇーっ! そうなんですか!?」

 

 明らかに残念そうに頬を膨らませる猪々子。

 

「でも、孫策軍はまだ健在ですよ。むしろ、兵力差があるんですから、こちらの方が危ないんじゃないですか?」

 

「あー、それは大丈夫ですよー。孫策さんも馬鹿じゃないですからねー。ここで私たちを攻めるなら、こちらは籠城しながら、愛紗さんたちが援軍を送るのを待てば良いんですからー。そうなれば、城の内外から挟撃を受けますし、それになによりもまだ襄陽には曹操軍がいますからねー」

 

 斗詩の質問に、七乃さんはねねさんを抱きしめながら答えました。まるで玩具を愛でるように大事に扱っていますが、ねねさんの方はかなり不機嫌そうな表情を浮かべていますわね。

 

「そういうことですわ。わたくしたちの軍勢が如何に少なくとも、短期間でこの城を攻略する術はありませんわ。……相手に焔耶さんのような方がいなければですけどね」

 

 わたくしの冗談に、焔耶さんも拗ねたように顔を背けてしまいましたわ。当分の間は、これで焔耶さんは皆さんからいろいろと遊ばれるのでしょうね。

 

「ですけど、麗羽様? 実際のところはどうするんですかー? いつまでもここにいるわけにもいきませんし、てっきり私は投降した荊州兵を使って、孫策軍と戦うと思っていたんですけどねー」

 

 今度は七乃さんがわたくしに疑問を投げかけました。確かに孫策軍と戦い続けるという方針もあるのですが、わたくしが描くこの戦の終結は別にありますの。

 

「七乃さん、曹操軍の兵力はどれくらいですの?」

 

「そうですねー。襄陽に駐屯した曹操軍直属の部隊が五万、それに降伏した旧劉琮軍が十万ってところじゃないですかねー」

 

 まぁ旧劉琮軍の方は大した戦力にならないでしょうね。兵の質の悪さは、桃香さんが益州入りするときに率いた兵が証明していますわ。おそらく混成軍にするにしても、全軍を率いることはないでしょうね。

 

 それでもそれが大軍であることは変わりありませんし、確か襄陽の部隊を指揮しているのは夏侯惇さんですものね。決して油断してはいけない相手ですわ。

 

「分かりましたわ。それでは、七乃さん、孫策さんに使者を送る準備をなさっていただけませんか?」

 

冥琳視点

 

 全身を怒りと羞恥が駆け巡った。それを何とか表情に出さないように必死に努めるが、少しでも気を抜いたら、すぐにでも感情が爆発しそうだった。

 

 すぐにでも対策を講じなければならないだろう。相手に江陵を奪われただけではなく、既に荊州南部まで制圧されているのだ。ここでむざむざ本国に帰還しようものなら、此度の出兵が全て無駄になってしまう。

 

 頭を回転させろ。現状を速やかに把握して、この状況を打開する戦略を組み上げるのだ。

 

 荊州――江陵には袁紹の部隊がおよそ四万、荊州南部にも関羽たち主力部隊が同じく四万。江陵を引き続き攻めるならば、必ず背後から挟撃されるだろう。ただでさえ、関羽たちの武は厄介なものなのだから、それは避けねばなるまい。

 

 このまま曹操軍が江陵を攻めるまで待つか――否、そうなるとは確約できないし、何よりも現状を維持したままでは士気は落ちる一方ではないか。南部に駐屯している関羽たちもそうなれば、本国を牽制する動きを見せるかもしれない。

 

 頭の中に様々な考えが浮かんでは消えていく。しかし、その中に上策と呼べるほどのものはなかった。自分たちが置かれた立場を考えれば、ある程度の覚悟は決めなければならないだろう。

 

「…………琳」

 

 いっそのこと敵の本拠地まで永安まで攻め込むのはどうか。かなり危険を伴うがそれくらいの戦略も頭に入れた方が良いのかもしれない。

 

「冥琳!」

 

「…………ッ!」

 

 雪蓮が心配そうな表情で私を見つめていた。

 

「済まない。すぐにでも次の策を練るからもう少し時間を――」

 

「大丈夫よ」

 

 雪蓮は私を優しく抱きしめた。背中に手を回し、宥めるように摩ってくれる。

 

「冥琳は一人じゃないから。私が側にいるから。だから、落ち着いて。ね?」

 

「雪蓮……」

 

 雪蓮の肌を通して、直接鼓動が伝わってきた。それが私の心を穏やかにしてくれるような心地がした。自分が冷静だと思い込んでいたことが分かった。

 

「あぁ、もう大丈夫だ。済まなかったな」

 

 私は雪蓮から身体を離して、微笑みかけた。それで雪蓮も私がもう大丈夫であると分かったのだろう。

 

「冥琳は自分で背負いこみ過ぎるのよ。もっと私たちを頼って。そんなに頼りにならないと思われるのは心外だわ」

 

「ふふふ……、雪蓮に諭されるようでは私もまだまだのようだな」

 

 既に笑えるだけの余裕が心に生じたようだな。

 

 一人で抱え込む――か。

 

 確かに私はその傾向が強いのかもしれない。きっと――いまさら自身の欠点に気づくなんて癪な話であるが、いや、それ自体が欠点なのだ。

 

 私は他人の成長を軽んじている。それが今回の戦で良く分かった。袁紹を見た瞬間、この戦に勝てると踏んでしまった――慢心してしまった。それがあのような不様な敗北を招いてしまったのだ。

 

 どんな人間でも成長する――それを心のどこかで信じていないのだ。だから、自国内においても、私は他人を寄せ付けず、孤独を貫こうと――一人で何でも行おうとしてしまうのだ。

 

 仲間を頼るか。それもまた良いことなのかもしれない――いや、そうに決まっているのだが、私はそれに気付けないでいたのだ。それで何が呉の大都督だろうか。

 

 私には雪蓮もいれば蓮華様もいる。若い将たち――亞莎や穏もいる。彼女らと共に、私もまた大きく成長しよう。

 

「おいっ! 益州の連中から使者が来たぜっ!」

 

 そのとき茴香が私たちの許に飛び込んできた。

 

「使者が? それでどのような用件だと?」

 

「それが……同盟の申し出なんだよ」

 

七乃視点

 

 私たちは主な将のみで孫策陣営を訪れています。理由は一つ――孫策軍との同盟を締結するためです。まさか麗羽様自身がここに訪れるなんて、本当に危険な真似を平気でしますよ。

 

 単に死にたい願望が強いだけじゃないんですかねー。私が周瑜さんだったら、罠でも仕掛けてぱっぱと殺しちゃうんですけどねー。まぁ、誇り高いあの人たちはそんな卑劣なことはしないんでしょうねー。

 

 床几を挟んで、麗羽様と雪蓮さんが向かい合います。それ以外の人は後ろに控えているのですが、周瑜さんが私を睨んでいるので、非常に居心地が悪いです。帰りたいですねー。

 

「用件は使者に託けた通り、わたくしたちと同盟を組んで頂きたいのですわ。勿論、そちらに利があるように、わたくしたちが占領した江陵を明け渡しますわ」

 

 ……どうして、そんなことを簡単に言い出せるんでしょうねー。せっかく私たちが必死に制圧したというのに。もう少し駆け引きというものを覚えて欲しいですよ。むしろ、私が交渉したいくらい――いや、孫策さんとは話したくないのでやっぱり勘弁して欲しいですね。

 

「こちらにも何か条件があるのだろう。戦況はお前たちが断然優位にあるのだ。それだけではあるまい」

 

 周瑜さんが不信さを露わにしながらそう答えました。まぁ、それが普通の発想ですよね。本来であれば、孫策軍には選択肢がほとんど残っていないんですから、静観しているだけでも良かったんですものねー。

 

 ですけど、麗羽様からまだその条件を私たちも聞いていません。孫策軍との同盟――それをする価値があるのは認めますけど、江陵を明け渡してまで、どんな条件を要求するのでしょう。

 

「簡単なことですわ。美羽さんを――袁術を許して欲しいんですの。金輪際、彼女を弑するような真似をしないと約束して欲しいのですわ」

 

 はい? え? え? 麗羽様は何を言っているんですか? 

 

「そ、それは……?」

 

 ほら、周瑜さんも思わぬ発言に言葉を失っているじゃないですか。そこは理不尽で不平等な条件を要求するのが当然ですし、周瑜さんもそれを予想していたからこそ、こちらを警戒しているんですよー。

 

「わたくしたちが要求するのはそれだけです。貴女方は袁術に特赦を与えれば、江陵の地を得ること出来る。それは決して悪いことではありませんわ」

 

 艶やかな微笑みを浮かべてそう言う麗羽様。本人はそう思っているのかもしれませんけど、それはそれで逆に怪しいというか、どう対応したら良いか困るところでしょうねー。

 

 思った通り、孫策さんは話し合う猶予が欲しいと申し出て、結論は数日中に出すということで、私たちも江陵に戻ることになりました。

 

「麗羽様、一体どういうつもりなんですか?」

 

 城に戻るなり私は麗羽様に尋ねました。

 

「孫呉と同盟を結ぶ上で、美羽さんとの関係を語らずにはいられないでしょう。相手に面倒なことを言われる前に、こちらから手を打っただけですわ」

 

 まぁ確かに両国の同盟に際して、お嬢様は相手の仇敵なんですから、同盟を結んだ後になってから、とやかく言われる可能性はあるんですけどねー。それでも相手にとって利があり過ぎるんじゃないですかねー。

 

 あれ? まさか……?

 

「麗羽様がこの戦いの指揮を執った理由って、お嬢様を助けるためだったんですか?」

 

 敢えて袁家の名を出すことで勝利を掴むことが出来て、孫策さんたちにとってこの同盟は受けざるを得ない状況にまで持ち込んでいるのです――例えそれがお嬢様を赦すという、相手にとっては屈辱的であることですら。

 

「か、勘違いなさらないでくださるかしら? わたくしは貴女に美羽さんを守って頂いた礼がしたかっただけですわ。他意はありませんの」

 

 他意はないって――そのままじゃないですか。意外に可愛らしい部分もあるんですねー。この顔を是非とも一刀さんとお嬢様に見てもらいたいのですが、ここにいないのが非常に残念ですねー。

 

 やや顔を赤らめる麗羽様を、斗詩ちゃんと猪々子ちゃんは微笑みながら眺めていました。本当に、この人たちはどこまでもお人好しなんですねー。わざわざそんなことをしなくても、いくらでも手はあったんですけどねー。

 

 あぁ、もしかしたら私がそういうことをしなくても済むようにしてくれたのかもしれませんねー。私があくどい手を使ってでも、お嬢様をお守りすることをよく知っていますからねー。

 

 全く、本当にここまでくるとお人好しじゃなくて馬鹿の部類に入るんじゃないですかねー。

 

 ……でも、まぁこういう馬鹿は嫌いじゃないですね。

 

「報告します。漢中より御遣い様と黄忠様がお見えになりました」

 

 もう少し早く来てくれれば面白い場面が見えたというときに、やっと一刀さんがここに到着したのでした。

 

一刀視点

 

 やっと荊州まで辿りつくと、既に孫策軍との戦いは終わっているようで、麗羽さんたちは江陵城に入っているらしかった。まさか、あの寡兵で孫策軍に勝利するとは思わなかったが、しかし、孫策軍もまだ軍勢は健在だった。

 

「一刀さん、お待ちしておりましたわ。早速ですが、謝らなければならないことがありますの」

 

 俺を出迎えた麗羽さんが、独断で孫策軍に同盟を申し入れたことを謝罪した。落とした江陵を孫策軍に渡す代わりに、美羽と七乃さんを赦すという条件での同盟だそうだ。

 

「このような勝手な真似、決して許されることではありませんわ。わたくしはどうなっても構いませんので、どうかこの同盟を考えて欲しいですわ」

 

 麗羽さんは頭を下げながらそう告げた。その後ろでは、斗詩と猪々子と七乃さんが心配そうな瞳で見つめている。

 

「頭を上げて下さい。俺は麗羽さんを罰するつもりはないですから」

 

「ですけど――」

 

「俺は出立前に、荊州侵攻における全権をあなたに委ねました。麗羽さんがそう判断したのなら、俺に文句はありません」

 

「一刀さん……」

 

「それにちゃんとこっちにも利点があるんですよね?」

 

「さすがにわたくしにも考えはありますわ」

 

 そうして、麗羽さんは孫呉との同盟の利点を説明してくれた。

 

 その一つ目が曹操さんとの戦を考えてのことだった。曹操軍は強大で、国力はこちらと比べ物にならないくらい豊かだ。さらに付け加えるのなら、曹操軍は翡翠さんを打ち破る程の精強な軍を有している以上、独力で対抗するのは難しいという。

 

 従って孫策軍と同盟して当たるのが適切であり、仮にその後孫呉と争うことになっても、ほぼ同等の力でぶつかることが出来るのだから、今よりはずっと勝率は高いということだ。

 

 そして、二つ目――江陵を明け渡すことに関してだが、これは最初から決めていたことらしい。

 

 孫呉と俺たちでは残念ながら国力に差がある。領土で考えればそうでもないのだが、相手は江東の地を完全に掌握しているが、俺たちは益州を制圧してからまだ日が浅く、それに桃香たちの問題もある。

 

 そこで江陵という地を手にしてしまうと、常に曹操軍と向き合わなくてはいけないため、荊州を保つことだけでも精一杯になってしまうのだ。それ以上の力――荊州から北上するだけの力は残念ながら俺達にはない。

 

 今回は孫呉に俺たちの強さを思い知らせ、対等な同盟を結ぶことと、桃香たちが荊州南部を制圧したという功績を得ただけで充分だそうだ。それよりもまだ発展途上である益州の地を盤石にした方が、利があるという。

 

 その説明で俺は納得することが出来た。まぁ麗羽さんがそこまで考えを巡らせて上で判断したのだから、問題はないだろう。

 

「それにしても、よく江陵を落とせましたね。それも麗羽さんの策だったんですか?」

 

「いいえ、それは七乃さんが尽力してくれましたわ」

 

「もう何言ってるんですかー? ほらー、そんなところにいないで、戦功を自慢してくださいよー」

 

 七乃さんが斗詩と猪々子の後ろで、俺から隠れようとしている人物の腕を無理矢理引っ張って、俺の前に立たせた。

 

「え、焔耶じゃないか? どうしてここに?」

 

「そ、それは――」

 

「すいません。私が勝手に連れてきたんですよー。ですけど、江陵を陥落させたのはほとんど焔耶ちゃんのおかげなんですよー」

 

「え! 本当か?」

 

「い、いや……その……うん」

 

「すごいじゃないか! お前が将軍職を辞するって言ったときはどうしたのかと思ったけど、やっぱり焔耶はすごいよ!」

 

「うひゃぁっ!」

 

 俺は思わぬ焔耶の活躍に素直に喜びを表し、彼女の手を両手で握った。

 

 しかし、焔耶は俯いてばかりいて、俺の目を見ようとしてくれない。せっかく喜びを分かち合おうと思ったんだけど、何か焔耶に嫌われるようなことをしたのだろうか?

 

「…………一刀、恋も頑張った」

 

 俺が焔耶ばかり誉めることが嫌だったのか、恋さんも自分も誉めてと言わんばかりに俺の腕を引っ張ってきたので、労いの言葉をかけながら頭を撫でてあげた。

 

 まぁ、その後、当然の如くねねから蹴られたのは言うまでもないだろうな。

 

 

 それから二日後、孫策さんたちが江陵を訪れた。

 

 孫策さんは一目見ただけで圧倒される心地がした。やっぱりこの人もまた、翡翠さんや曹操さんと同様に王を名乗るだけの人物である。こちらを見つめる眼差しは鋭いものであった。

 

 それは隣に控える周瑜さんも同様である。初対面の俺を値踏みするような――俺の内面を全て見透かすような瞳は、この人の観察眼の鋭さを垣間見せ、史実通りの天才であることがすぐに分かった。

 

 そんな周瑜さんに、戦略的勝利を収めた麗羽さんの凄さを、俺はここで再認識したのだが、それはともかく、どうやら孫策軍も俺たちとの同盟を受け入れるという結論に達したらしい。

 

 彼女らが険しい表情を見せているのも当然で、仮にこの同盟が孫策軍に利があるように思われるが、憎き美羽を保護する俺たちと同盟させざるを得ない状況に陥ってしまったのは心苦しいものであろう。

 

 正式な同盟の締結は、江東にいる主な面々がこちらに揃ってから行われ、それまで江陵は俺たちが保有するということになった。

 

「それと一つ約束してもらいたいことがあるんですけど」

 

「何かしら?」

 

「俺はあなたを信用する。決して裏切ることもないし、無駄な駆け引きもしない。だから、孫策さんたちも俺たちを信用して欲しいんです」

 

「……あなたたちを信用する根拠はあるのかしら?」

 

「そうですね。だったら、こうしましょう。もしも俺があなたを裏切ったら、この首をどうぞ落として下さい。俺の命が根拠では駄目ですか?」

 

「…………」

 

「俺は益州を守りたい。だから曹操さんに負けることは許されないんですけど、俺たちだけでは対抗できない。だから、孫策さんたちと確固とした協力体制を築きたいんです」

 

 演義でも、蜀と呉は微妙な同盟関係にあった。結果としては、その同盟が崩れ、関羽という逸材を失い、さらにはそのせいで劉備自身も死ぬことになる。

 

 そんな表面上の同盟――確かにこの乱世において、それが当然なのかもしれないけど、俺たちには必要ない。益州を守るためには、孫策さんたちとは良好な関係を結ぶ必要がある。

 

「それでも信用できないって言ったら?」

 

「そのときは仕方ありません。この場で同盟の話を白紙に戻して、堂々と戦いましょう」

 

 孫策さんは俺の瞳を凝視した。どこまで俺の言葉が本当であるのかを確かめているのだろう。だから、俺もその瞳を見つめ返した。海色の綺麗な瞳の色とは裏腹に、強い光を秘めた瞳だった。

 

「ふふふ……、そこまで本気なら良いわよ。私もあなたを信用するわ」

 

 その言葉に周瑜さんは何かを言おうとしたが、孫策さんが目で制した。

 

「あなたが命に賭けて信用を誓うなら、私も真名に賭けて信用を誓うわ。曹操軍を打倒するまであなたたちとは同盟関係を続けましょう」

 

「ありがとうございます」

 

「会ってみれば、意外と良い男じゃない」

 

「え? 何ですか?」

 

「いいえ。こっちの話よ」

 

 孫策さんも俺のことをそれなりに評価してくれたのだろうか。何はともあれ、これで益州と孫呉の同盟は成った。

 

 二国が合力して当たれば、曹操軍とも対抗することが出来るだろう。曹操軍を倒した後の話は置いておこう。そのときはそのときで、また皆と協力して考えれば済む話だ。

 

 和やかな雰囲気のまま会合は無事に終了したが、それもすぐに終わってしまった。

 

 ――曹操軍襲来。

 

 夏侯惇を総大将にして総勢十万の大軍を率いて、江陵に進軍しているという知らせが舞い込んだ。

 

 こちらは戦直後で、兵士の疲労も残っているだろうが、相手も半分は旧劉琮軍の混成軍である以上、実力はほぼ互角と見ていいだろう。

 

「じゃあ、御遣い君。同盟の印に、ここは協力して戦いましょう」

 

「はい!」

 

 荊州を舞台にして、ついに三国の精兵たちが戦うときが来たのだった。

 

あとがき

 

 第五十二話の投稿です。

 言い訳のコーナーです。

 

 さて、今回は麗羽様の描いた勝利について説明しました。

 

 麗羽様の頭には曹操軍との戦いがあり、益州だけでは拮抗することは出来ないという判断を下し、孫策軍との同盟を申し出ました。

 

 そこまで含めた上での戦略だったわけですね。それから本人の感情として、美羽を助けたかったという部分もあるのでしょう。

 

 江陵を手放す件に関しては、どうしようかなーと迷っていたのですが、両国の関係を考えると、孫呉に譲った方が賢明かなと。

 

 益州は豊饒な土地ではありますが、本文の通り、まだまだ発展余地は大いにありますので、まずは本国を優先させた方が良いなと判断しました。

 

 さてさて、そしてついに我らが種馬と雪蓮が出会いました。まぁ、とは言え、まだまだ会ったばかりという訳で、雪蓮も自分の予想よりはまし、という評価なのですが。

 

 これからは孫呉ともからませたいなと思っています。

 

 さてさてさて、そして物語はさらに進み、曹操軍も迫ってきました。次回以降はその戦いの模様をお送りしたいと思います。

 

 それから次のページにアンケートがありますので、感想と共にそちらにも答えて頂けたらと思います。

 

 今回はやや淡々とした感じで終わってしまいました。次回は白熱するバトルシーン(そんなもの書けませんが)をお送りします。

 

 相も変わらず駄作ですが、楽しんでくれた方は支援、あるいはコメントをして下さると幸いです。

 

 誰か一人でも面白いと思ってくれたら嬉しいです。

 

アンケート

 

 皆さんに訊きたいことがあります。前回、作者が焔耶の扱いについて困っていると述べたのですが、ご存知の通り、既に焔耶とはどう見ても良い関係を持ってしまっています。

 

 紫苑さんに次いで拠点話も書いてしまっているのですが、このまま一刀くんと結ばせてしまって良いものかと悩んでおります。

 

 この物語のヒロインは紫苑さんですので、一刀くんの種馬能力も原作よりも低い設定で、執筆当初は紫苑さん以外とはそういう関係を描かないつもりでした。

 

 ですが、作者の中で焔耶ブームが起きてしまい、ついつい焔耶を活躍させ過ぎてしまった結果、イチャラブ以外の焔耶を書きにくい状態になってしまったわけです。

 

 従って、この場を借りて、皆様に紫苑さん以外のキャラクターと一刀くんの関係について、以下の中からお選び頂きたいです。

 

1、種馬が一人の女性しか愛さないなんてあり得ない。どんどんやれ。

2、焔耶とそれ以外の少人数なら許してやろう。

3、焔耶のみだったら考えなくもない。

4、一刀の嫁は紫苑さんだけ、異論は認めん。

 

 ちなみに2の場合、それ以外の少数とは、焔耶のように良い関係を、作者の我儘で築いてしまったときのことを指します。現状だと、恋とか詠とか月あたりがそうなんですかねー。美羽や桜は外見とキャラの関係から結ばせるのは危ういかなって感じですね。

 

 それでは皆様からの意見をお待ちしております。

 


 
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