静かな夜、少女は白い脚を曲げ自宅近くの路地にしゃがみ込んだ。
遠くで車の音がする。生け垣が微かに見える。雑草も近くに生えている。
少女はチラリと後ろを確かめると、手に持った線香花火に火をつけた。
シューッと炎が吹き出して光の中で煙が上がる。
少し回るように紙縒りとなった薄い紙が震える。
細く白い人差し指と親指でしっかりと摘んで待つ。
しゅうううううとオレンジの細長い火の塊が短くなって行く。
じわじゅじゅじゅと小さな音とともに、丸い玉が太陽の表面めいた蠢きを見せ、
きゅううと身を縮め、しばし落ち着く。
ここで揺らしてはいけない。心をちょっと引き締める、唇を薄く咬む。独特の香りが鼻腔に漂ってくる。
じじじじじ。輝くオレンジ球はじらすように音を立てる。
ひゅ、一筋光が尾を引く。
ほんの少し目を見開くが、ちりちりと細かいスジのみが下に流れる。
待ちきれないように少し顔を傾けた瞬間。
ぱちっと火花が横に飛ぶ。
続いて、ぱちっ、ぱちぱちぱちぱちと小さな打ち上げ花火たちが左右に飛び出し始める。
闇の中にオレンジの輪が無数に弾けいっぱいになった。
紙縒りはその反動で小さく小刻みに揺れる。
やがて輪は小さくなってまた細かいスジだけになり、微かなじじじと言う音を立て
もう一度もっと小さなオレンジの球が静かに出来上がる。
落ちないようにじっと待つと、再び可愛い輪を光らせると、球は黒く縮んだ。
手を離し紙縒りを落とす。
音も無く地面に落ちた。
急に虫の音が耳に入って来た。夏の終わり。静かな時間。
少し涼やかな空気が後れ毛を揺らした。
少女はしばらく落ちた紙縒りを寂しそうにに眺めていたが、
ふいと立ち上がると、スカートの皺を伸ばし、小首をかしげちょっと微笑むと、
吹っ切れたような足取りで家に帰って行った。
ぱたぱたというサンダルの音が消え。
道には線香花火の紙縒りがポツンと落ちていた。
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夏の終わり、一本だけ残った線香花火。