No.301401

真・恋姫†無双 ~夢の中で~ 第七話 『黒い男』

レインさん

はぁ、テストが近づいてくる・・・。

破滅へのカウントダウン・・・。

2011-09-16 21:33:52 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1791   閲覧ユーザー数:1584

五胡(ごこ)

 

匈奴・鮮卑・羯・氐・羌の5つからなる非漢民族。

 

三国動乱時代の終盤の戦いである【赤壁の戦い】。史説通りなら曹操とは完全に決別する事になるが、

襄陽(じょうよう)にて五胡が襲来。

急遽、三国は手を結びこれを撃退する。

その後三国は争うことなく結束を深めていく。(完全に五胡が噛ませ犬である)……それから2年。

三国はこれからも戦争が起きないようにという願いを込めて毎年〈三国同盟記念祭り〉とやらを興しているらしい。

 

 

とまあ、正史の歴史学者が聞いたら卒倒しそうな感じなのだ。この世界の歴史は。

他にも聞いたところによると、孫策と周瑜が亡くなっておらず、孫権に呉の王の座を譲っていないなど

正史とは違う点がいくつもある。

特に。

 

 

「きゃあああ!!このご主人様可愛い~!!」

「あらあら、本当に可愛らしいわぁ。璃々も連れて来ればよかったわぁ。」

「にゃあ~。お兄ちゃんがいっぱいいるのだ。」

「あのお館が…(ゴクッ)。」

「え?焔耶?今もしかしてこの『しゃしん』見てつば飲んだ?」

「ち、違うぞ!!ワタシは別に、頬に泥を付けながら笑うお館可愛いなーとか思っていないぞ!!」

「いや聞いてない聞いてない。」

「はわわわわわ、ご、ご主人様の寝顔…!!!!!!」

「あわわわわわ、お、落ち着いて朱里ちゃん。子供の頃の寝顔も可愛いけど、水遊びしてるご主人様も…。」

「ほほう…この『がくせいふく』?を着て立っているお館も中々凛々しいのう。」

「確かに…主の精悍な顔立ちは、昔からも同じという事か…。」

「へぅぅ…ちっちゃなご主人様…すごく可愛らしいです…。見て、詠ちゃん。」

「ああああぁぁぁぁぁ…帽子を後ろ向きにかぶるなんて…っ!!ひ、卑怯よっ!!」(鼻血放出中)

「にゃー兄が美以みたいにゃ。」

「にゃー。」

「にゃー。」

「にゃー。」

「………ぎゅーって、したい。」

「なななななんとぉー!!このちっちゃい主、ねねと同じくらい可愛ゲフンゲフン!!」

 

 

……はい。そうです。

三国の英傑達がみぃぃぃぃぃぃぃぃんな女の人なんです!!!!

しかも美人&可愛い!!!

美少女&美女!!(複数形)

天然ロリツンデレ熟女お母さん従順メイド眼鏡ツンデレケモノ耳無口巨乳美乳爆乳貧乳無乳!!!

ハーレムとはまさにこのこと!!!よりどりみどり!!!

 

っていうかおかしくない!?

正史のゲームとか歴史の授業じゃ三国志の英傑は皆おっさんで、髭がもっさもさなのに!!

なんで外史(こっち)じゃ皆こんなに可愛いの!?聞けば魏も呉も『こんな感じ』って。

正史だったら確実に『40人ぐらいの多人数アイドル』を越えることすら容易いよ!!

外史、恐るべし!!

 

あの後、急遽重鎮のみで軍議が開かれた。もちろん議題は『五胡の襲撃』に関して、だ。

その前に私が本当にお兄ちゃんの妹である事を証明するために頑張って説明した。

愛紗さんを追い込んだと星が皆に言ったから、ものすごく危ないことになったけど

アルバムを見せて、私が本当にお兄ちゃんの妹であると分かると皆さんは納得してくれた。

その後、愛紗が『切腹する!!ご主人様の妹君にあのような厚顔無恥な振る舞い!!死んで償いまする!!』

って大騒ぎ。なんとか収まってくれた。で、皆さんが【真名】というものくれた。

【真名】というのは、その人を顕す神聖なものだと教えてくれた。

 

改めてアルバムを皆に見せたら、もう、大はしゃぎ。

かれこれ20分近くきゃーきゃー言ってる。まあ気持ちは分かるけど。

 

写真にお兄ちゃんがいるのを見たとき、ものすごくびっくりした。正史じゃいなかったから。

写真でも一足先にお兄ちゃんに会えたのは嬉しかった。泣きそうになった。

(泣くのは、会ってから、だよね。)

 

 

……その前にこの状況を何とかしなきゃいけないんだけど。

 

 

わいわいと騒がしい町並み。迫る祭りに備えてたくさんの人達が忙しそうに動いている。

だが、皆どの顔も晴れやかで、楽しそうだ。

そんな中を黒いフードに黒いコート。全身黒ずくめの男が歩く。

【男】は賑やかな人々ちらりと一瞥して歩を進めた。

うるさい。

きゃっきゃと笑う子供達。『そっち!ちゃんと持て!危ないんだからな!』と叫ぶ男達。

うるさい。

茶店で談笑しながら菓子をつまみ、お茶を啜る女共。

うるさい。

 

何でお前らがへらへら笑っているんだ。

イライラする。

落ち着け。

落ち着け。

やるべき事をやれ。考えるな。何も考えるな。

『あの子』の為にも。

 

ふつふつと湧き上がる怒りをぶつけたい衝動を抑えながら、【男】は歩を進める。

目の前の城に向かって。

 

「えーっと、もういいですよね?」

「ぅぅうううう~詩織ちゃぁ~ん。」

「そ、そんな顔しないでくださいよ…。」

な、何とかアルバムを取り返すことができた…。

そろそろ…→このご主人様可愛いくない!?→そっちもいいですけどこっちも…→いやいやでも…(×3)

疲れたぁ~。

「また後で見ようね!?ね!?」

「わ、分かりましたから、今は…。」

「五胡の対処が最優先です。」

復活した愛紗がピシリと言う。鼻にティッシュ(らしきもの)を詰めているから、イマイチ迫力が無い。

「うん、そうだね。…朱里ちゃん、現状はどうなっているの?」

「はい、現在五胡は我が国境の城を攻め落とし現在も進軍中。あと5日程で成都に到着するでしょう。」

「8日だと!?」

軍議の空気がざわりと揺れる。当たり前だ。

正史において『8日で到着する距離』というのはとてつもなく遠い距離という意味である。

しかし外史では距離の捉え方が違う。

『8日で到着』する距離は、五胡はもうすぐそこまで来ているという意味である。

「朱里ちゃん、敵の戦力はどれくらいなのかしら?」

「……それが。」

朱里ちゃんは顔をうつむかせて唇を噛んでいる。

「およそ、50万です。」

 

「「「「「「!?!?!?」」」」」」

ご…っ!!

「50万!?」

「そんな大規模な進軍に、何故気づかなかったの!?。」

「2年の期間があるとはいえ、ここまでとは…。」

「っていうかまたかよ!?」

皆も驚きを隠しきれていないようだ。

 

…あれ?でも

「そっかぁ、50万かぁ。」

「へ?」

「桃香様?」

「なら、大丈夫だよね。」

は?

「え、えっと、桃香さん。50万ってものすごい規模なんですよね?」

「?うん、そうだよ。」

「皆さんもすごく驚いているみたいなんですけど。」

「そうだよ~皆驚きすぎだよ。」

なんだか桃香さんがあんまり動揺して無いみたいなんだけど。愛紗さん達が全員ぽかーんってしてるし。

「…いやいやいや。桃香さんなんでそんなに落ち着いて…。」

「だって大丈夫だもん。」

「えぇえ?」

さも当たり前のように言う。この人っていつもこうなのかなぁ?

「詩織ちゃん、聞いて。」

「はぁ。」

「2年前も、こうやって五胡の人達が攻めてきたの。その時は魏の人達とも、呉の人達とも争ってた。」

「はい、それはさっきも紫苑さんから聞きました。」

「私達蜀は呉の人達と同盟を結んで魏と闘う寸前だった。その時、今みたいに五胡が攻めてきたの。」

「はい。」

「そして、私達三国は手を取り合って、皆の力で五胡を撃退したの。皆の力で、ね。」

 

 

……ああ、そういう事か。

この人は余裕を持ってるとか、そんなんじゃない。

疑っていない。信じてるだけだ。

蜀だけじゃ駄目でも。

呉が。

魏が。

必ず助けてくれると。

力を貸してくれると。

ただ、自分が為すべき事と思うこと為しているだけだ。

 

「……ふふっ。」

思わず笑みがこぼれる。

「ふぇ!?何で笑われてるの?私!?」

「別に桃香さんを笑ったわけじゃありませんよ。ただ…。」

「???た、ただ?」

「お兄ちゃんも同じこと言うだろうなぁ…って思っただけです。」

本当そっくり。お兄ちゃんもこんな感じでのほほんて事言いそう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

『あははははははははははははははっっっっっ!!!!!』

 

「な、何ですか?」

いきなり笑われたよ!?

「ふふっ、とうとう妹君にも言われてしまいましたね。」

「やっぱり、詩織ちゃんもそう思うのね。」

「うぅ~詩織ちゃぁ~ん。」

 

 

一方その頃。

「えっほ、えっほ。」

鈴々である。

「うぅーむ。お兄ちゃんたらどこにいるのだ?」

先っきからずーっと鈴々は一刀を探し続けているのだ。

「早く戻って鈴々も【あるばむ】を見たいのだ…。」

城内、城下町、宿舎、他にも色々探したが全然いない。いつもなら匂いですぐに分かるのに。

「……ん?」

おかしなものが見えた。何だろう?黒い何かがあったような…。

 

たったった

 

いた。

見たことの無いやつ。その男は黒い頭巾(フード)付きの黒い外套(コート)を着ていた。

「おい、待つのだ。おまえ。」

ぴた。

黒いやつが止まった。

「どこから入って来たのだ?何者なのだ?」

黒いやつは止まったまま動かない。なんだろう。嫌な予感しかしない。

「おい!!」

ゆっくりと。かなりゆっくりと振り向く。鈴々が丈八蛇矛を握る手が汗にまみれていた。

「・・・・・・・。」

「――ッッ!!!」

ぞわあああっっっ!!!

顔を合わせた途端、鈴々の背筋が凍った。威圧された訳ではない、目の前の男に単純に恐怖したのだ。

顔は頭巾の影で見えない。

それが恐怖に拍車をかけた。

がたがたと震えの止まらない手で丈八蛇矛を男に向けて叫んだ。

「お、おまえは何なのだ!?その頭のやつを取って顔を見せろ!!」

「・・・・・・・。」

無言。

男はうんともすんとも言わない。

「ふーっ!ふーっ!ふーっ!」

何もされていない。何もされていないのに鈴々は肩で息をしていた。

(動いたら…動いたら、斬る!!)

すっ、と男が手を前にかざして構える。

「――ッッ!!!うああああああああああっっっっ!!!!!」

鈴々は雄叫びとも悲鳴とも分からない声をあげながら向かっていった。

 

 

「それにしても、鈴々ちゃん遅いね。」

「全くです。きっとご主人様と遊んでいるに違いありません。」

「あはは、それはないと思うよ~。」

魏と呉に『力を貸して欲しい』という旨を伝える為に、先程伝令がこの国を出た。

それにより軍議が終了し、今は皆でお菓子を食べているところだった。

賑やかに喋っている面々を見て、詩織は複雑な気持ちになっていた。

 

私はずっと、お兄ちゃんは大丈夫なのだろうかと心配し続けていた。

でも、さっきから皆の話を聞く限りお兄ちゃんはとても楽しくやっているそうだ。

そして、そんなお兄ちゃんといて、皆もすごく幸せそうにしているのだ。

何度もデートして、一緒に過ごして、どう聞いても私といるよりも楽しそうなのだ。

だから悲しかった。

お兄ちゃんの無事と幸せを確認して嬉しく思う反面、私の事を忘れているのではないかという気持ちがある。

それが辛かった。

私はずっとお兄ちゃんに会いたかった。

でも、お兄ちゃんにとってはそうじゃないのかもしれない。

 

もしかしたら。

お兄ちゃんにとって私は過去の存在ではないのか。

 

もしかしたら。

ずーっとお荷物だったのではないか。

 

もしかしたら。

私は来るべきでは無かったのではないか……?

 

詩織がそう思った瞬間。

 

――ズドォォォン!!

 

「?」

大きな音がした。

「何の音でしょうか?」

「何かが倒れたんじゃないか?」

「…行ってみよっか?」

「え?」

不意に桃香さんに手を掴まれた。って、え!?

「急げ急げ~♪」

「ちょ、ちょっとおお!!」

「と、桃香様!?」

後ろから愛紗さんが走ってきた!!

後ろのほうでぽかーんとしている皆を置いて、私たち三人は音のしたほうに走っていった。

 

「ふぅ。」

想定外――否、十分想定内の戦闘が終わり、【男】は一息ついた。

激しい戦闘のせいで辺りはクレーターのようなものがいくつもできていた。

【男】は『折れた棒切れ』を手で弄びながら考える。

あの少女、聞いていたより大したことは無かった。恐らく自分の気にあてられたのだろう。

手も足も震えていたし、動きに全くといっていい程精度がなかった。

(しかし。)

何だろうか。この感覚は。

あの少女に一撃をいれるごとに、頭の片隅に引っ掛かりのようなものを感じたのだ。

そのせいで少しだけ頭が痛い。

「まぁ、どうでもいいか。」

どうでもいい。自分は自分の役割を果たせばいいのだ。己に課せられた【名前】の通りに。

そう思い、【男】は『折れた丈八蛇矛』を投げ捨て、その場を後にした。

 

 

 

 

【男】が去った後の場には、血まみれの鈴々が横たわっている。

 

鈴々はぴくりとも動かない。

 

〈続く〉


 
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