1
全試合。間藤ヒルカを下した人妻マリアの“絶対能力”の黄金術式。それを更に凌駕する能力の
現れに、マリアは少し焦っていた。攻撃をいくら加えても倒せない相手。普段の立場が逆転したか
のような錯覚に陥る。
自分の絶対的な能力に過信し過ぎていたマリアの大きな誤算である。
対し、輪廻のほうはというと、先ほど攻撃された記憶がないためマリアの攻撃を待っているかのようだ。構えもゆるみきっていて防御体制すら取っていない。
「ん?攻撃しないのかな?それともまた“巻き戻った”かなぁ・・・」
「・・・・・」
実際のところ、あれから輪廻は三回ほど“転生”をしている。再生と共に記憶も巻き戻る輪廻は
憶えていないだろうが、マリアのほうはあれからいろいろと試している。
しかし、すべて失敗だ。
どんなに殺しても・・・輪廻は“倒せない”のだ。
「やり方を変えるわ。“あの力で”倒す・・・」
スススッ
「やっと攻撃かな?待ちわびた・・・」
“四度目”の同じ輪廻のセリフ。しかし違うのはマリアの動きのほうだ。初手の複雑な動きは止め、単純な攻撃に変える。横一文字の槍が、輪廻を弾き飛ばした。
「ぐぐっ、やるねぇ・・・」
「やはり威力を抑えれば再生はしないわね」
吹き飛んだ輪廻は、多少の出血はあるものの再生しない。再生するダメージには至らなかったのか?それとも・・・
「なるほど“黄金術式”か。頑丈なあたしが死ぬわけだ。でも、まだ何か隠しているみたいね?」
「そう。あなたはいずれにせよ倒れる・・・」
シュゥゥゥゥゥゥ
「まさか?根本を絶ちに来たわけね。しかし、“それ”を使うとあなたも魔術の類は使えなくなる・・・」
「問題ないわ。わたしには対象外だから。堕天使の力(ヘルマ・テレズマ)発動!!」
黄金色に輝いていたマリアの身体は、薄白く放つ光を変え再び光り出した。
「堕天使の力。正直あたしには無意味だけどね♪こちらも“本気”でやらせてもらう・・・」
ブンッ
文字通り消える輪廻。気すらも残らず消えてしまう。移動音もまったく聞こえない。
「時間移動の能力。所詮記憶が飛ぶ能力だから・・・
過去には飛べない。全体に術式展開させれば、自ずと姿を現す・・・」
ゴゴゴゴゴッ
マリアを取り巻く光が、まっさらな会場全体に行きわたる。その刹那、姿を消していた輪廻が現れた。
「あららら・・・」
「無駄よ。堕天使の能力は、魔術行使者の能力傍受と崩壊。再生したところで永続的に蝕み続ける。更に、あなたの失われた魔力はわたしの魔力にプラスされる・・・」
両手を上げて叫び声を上げるマリア。振り上げた両手には大量の魔力が集まり身体全体に循環していく。魔力の暴発という可能性は、必要以上の魔力をマリアが自主的に消しているため起こらない。
マリアの目の前にいる輪廻は、どんどん衰弱していった。
「終わりみたいね、輪廻さん。黄金の手捌き(ゴールデン・カトルチュア)っ!!」
ブンッ
ギラァァァァッ
「相迭(リムーヴ)・・・」
ピタァァァァッ
「と、止められた?通常なら触れた時点で原形など残らないはずなのにっ!」
ググッ
「漸層(アフェクト)」
バキィィィィン
「そんなっ!?」
音速を超えるマリアの突きを、左手一本で止めた輪廻。続けざまに右足の蹴りで槍を空中へと弾き飛ばした。
丸腰になった輪廻。触れた時点で粉々になるはずの輪廻はなぜダメージすら受けないのか・・・
「終わりだ。滑走(ゾディアーズ)」
ゴシャァァァァッ
ドドドドドドッ
輪廻の右ストレートが炸裂した。マリアの取り巻く黄金術式はまるで反応を見せず、まともに攻撃を受けてしまったみたいに倒れこんでしまった。
マリアは一撃で意識を失ってしまったのか、輝きを失い起き上がらなかった。
「勝者、六道輪廻・・・」
「時間よ動き出せ(ディレクティヴ・ルーヴァス・タイム)」
バシャァァァァァッ
「なっ!?」
思わず驚き声を上げた審判。目の前に立っている輪廻の両腕と右足が、急に破裂音を上げ粉々になったせいだ。
「くっ。痛い痛い・・・」
輪廻の失った手足は、先ほどマリアに触れた部位だ。おそらく時間を止めて破壊を止めていたのだろう。輪廻は審判に告げる。
「再生したら、あたしが勝ったことを伝えてくれよ・・・」
と、・・・
2
二回戦の試合がすべて終了し、本選は三回戦へと移行する。一試合目からかなりピリピリした空気が張り詰めている。
辛羅同士の戦い。三年の猿渡花VS御波奈乃の試合だ。
花のほうは、二回戦で力の程はだいぶ感じ取れた。しかし、奈乃のほうは違う。
圧倒的な力の差で一、二回戦を完封した奈乃の力の根源は測り知れない。この試合で恐らくそれが分かるだろう・・・
向かい合う二人。花の表情はあまり芳しくはなく、逆に奈乃のほうはずっとニヤけっ放しだ。
同校同士初の今大会本選。一体どんな試合展開になって行くのだろうか?
「やっと本気が出せる相手ですね。あなたは下がってて下さい・・・
『わたしが出たとこで歯が立たないからな』」
「厄介極りない相手だね、奈乃ちゃん。おとなしく下がる選択肢はないのかな?」
「花さん程の相手に背を向けるなんて言語道断です。でも、勝つのはわたし・・・」
「全く。組長さんは怖ろしいね」
「現役を離れた花さんに、わたしは倒せないです・・・」
「第三回戦第一試合目、始め!!」
「六連射撃(セクセドリック)」
ガキキキキキキィィィィィン
「旧ソ連製六連式改造型ベレッタ12口。威力をフルドライブで上げる代わりに動きが鈍足すぎます。これは実践向きではない?」
「あららー、全弾素手で受けきるなんて相変わらずむちゃくちゃな身体だねぇ奈乃ちゃん。でも、鈍相手じゃなかったらどうなるかな?」
ジャキィッ
「いつの間に射程範囲にっ!?」
ダダダダンッ
異次元移動で奈乃の懐に入り込んだ花。スカートを捲って取りだしたのは18マイル程の小型銃。
瞬時に抜いたそれは、奈乃の反応スピードを遥かに上回り攻撃を放っていた。
シュゥゥゥゥゥ
「あらら、奈乃ちゃんも紅い血を流すんだ・・・」
「光線型角刺弾丸HN端子式小型マグナムですか。そんな幻の銃よく出回っていましたね。18世紀の外れものでしょうに・・・」
「奈乃ちゃんにダメージを与えるには普通の銃では威力もスピードも全く足りないからね。でも、この銃でも“この程度”のダメージ・・・」
まともに銃弾を撃ち込まれた奈乃が受けたダメージはかすり傷程度。一万発受けたとしても倒れないだろう。
しかし、付き合いの長い二人。花は百も承知のはず。
「銃撃戦で奈乃ちゃんを倒すのは不可能みたいだね。だから・・・」
「だから?」
「“素手”だけで倒すことにしたよ・・・」
「・・・・・」
3
素手だけで倒す。この言葉の意味は重い。
「刀も使わず、銃も使わず、ですか。相変わらず面白い発言ですが・・・・
“その言葉の意味”を理解した上での発言とは思えませんね、花さん」
「どうせ刀も効かないんだ。素手で十分」
ググッ
「頑固ですね。せっかくいい試合ができると思ったのに残念です・・・」
攻撃態勢に入ったのは奈乃のほうだ。花は、奈乃の後方2mの位置だ。
「斯道(シドウ)っ」
ズシャァァァァァ
「断罪点(だんざいてん)、四十万(シジマ)っ」
ガシュゥゥゥゥ
右手を振り上げた奈乃。鋭い斬撃が花を襲うが、強力な拳に阻まれる。花は、奈乃の攻撃を右手
一本であっさりと止めたのだ。
「さすがですね花さん。先ほどの言葉は撤回させて頂きます・・・」
ドウゥッッ
ガキィィィィン
「発動したか、あれが・・・」
奈乃から流れ出した強力な気が花を襲った。花はあっさりと受け流すがあくまで発生した気。
本体ではない・・・
渦を巻く奈乃の気は、比べ物にならないくらい上がって行く。
すっ
「仁善六小見(じんせんろくおみ)」
「異次元への歪空間(リリカル・ヴァルカミット・スラベロランドラ)」
シュゥゥゥゥ
「咄嗟の判断としては悪くはないです・・・」
突如として放たれた奈乃の攻撃。拳が一瞬消えたかと思えば、100mを超える馬鹿でかい気功波が放たれていた。
花は、とても受けきれるものではないと判断し、異次元へと攻撃を流した。
攻撃が放たれたわずかな帰路には、すさまじい傷跡が入っている。
「以前よりも威力が段違いすぎる・・・」
「さて、嫌が負うにも刀を抜かざるを得ませんね」
スススッ
「その刀?一体どこで!?」
シュラァァァァァッ
ガキィィィィン
思わず刀を抜いてしまう花。奈乃が取りだした“扇子”が刀に変化して斬りかかって来たためだ・・・
「あらららら。花さんもそんなにあっさりと刀を抜くなんて軽くなられたのかな?」
「馬鹿言え!!どこでそんな代物手に入れた。禁辞刀、“玄碌彗”(げんろくすい)を!!!」
花が奈乃に問い詰める。扇子が刀に。まさか・・・
「流水の舞華ちゃんに借りました。もちろん勝負をして・・・」
「そんなことをしなくても小刀があったじゃないか」
「わたしも小刀で十分と思っていました。でも、舞華ちゃんには“触れることすら”できなかった・・・」
「ばかなっ!?あんな小娘にだぞ」
「もちろん素手では“互角”だったですけど、くやしくて剣術を学びました」
「・・・・・」
「剣術であなたを倒します」
「武、剣での勝負を要求するわけか・・・」
ガチャッ
「ん?」
「これで銃もです・・・」
「気銃ね。さっき撃った・・・」
「そして、わたしの完全な能力の確立・・・」
「奈乃ちゃん。完成するまで“待って”やったんだ。すぐにくたばらないで欲しいな・・・」
ギラァァァァァッッッ
ゾクゾクゾクゾクゾクッッッ
「もちろんです」
「第二ラウンドと行こうか・・・」
4
次回予告
三回戦入りました。そして次回は大荒れです。
魔術もないただの気のぶつかり合いのガチバトル。
武、剣、銃の三種を使った激しいバトルが始まります。
次回、GROW4 第十九章 再縁する二つの魂
ではでは
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そして世界は始まった