No.296796

未定。仮題~とある商人の物語~

十三月さん

とある異世界の商人と、彼が拾った少女の物語。
※この物語は今のところ完結予定ではありません。また、設定集及びプロローグのみが保存されています。

2011-09-10 00:10:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:581   閲覧ユーザー数:581

 

「おじさんおじさん! それがあれば、母さんはホントに助かるの?」

「あぁ。間違いねぇ。この手の薬は初めてだが、多分作れる」

「……じゃあ!」

「指定の材料を持ってくりゃぁ、どんな薬でも作るのが薬屋だ。男に二言はねぇよ」

「分かった! 探してくる!」

「おーい、リース。間違っても1人で買いに行くなんて事は……ってもう遅いか。ま、たしかこないだ来た旅団商のところで買えたから問題はねぇか。迷わないといいけどなぁ」

 

 

 ~α~

 

 

「……て。…きて、ケント」

「ぁ……、もうちょっと、寝かせてくれ……」

「起きて」

「……後、3秒……」

「1、2、3」

「……んぁ?」

「0」

「ってぅぁぁあああああああああ!?」

 

目が覚めたら視界が回転していた。

何を言ってるか分からないが俺も分からない。

8割方毛布で覆われた視界はそのまま360度回転した後、床に激突した。

 

「痛つつ……いったい何事だよ!」

余りの目覚めに珍しく叫んでみる。

いやでもほら怒ってもいいでしょ、これは流石に。だって普通に寝てたらいきなり布団ごと持ち上げられて床にドスンだぜ?

 

窓の外に目を向けると、太陽の位置は日が昇ってからまだ1刻も経ってない事を示していた。

辺りは少しずつ明るくなり始めていて、いくつかの気の早い店は既に開店し始めている。

もっとも、基本的に夜こそこの街の本当の売り時なので、店は幾つかしか見当たらないが。

 

「客」

そして、何時もなら後数刻は寝ている時間に俺を叩き起こしてくれたのは無愛想な表情の少女。

名前はフィー。真っ白な髪と灰色の眼、そして白い服という全体的に色素の薄い格好をした13歳前後の少女。

年齢が正しく分からないのは、この世界では誕生日を祝うという習慣が無いからだそうだ。

まぁ、別に年齢が分かっても良い事は特に無いという身も蓋も無い理論はどうかと思うが。

 

「あー……今度からは、別に追い払っても良いぞ?」

「駄目」

無愛想な表情の下には、きちんとした感情があるのは今までの経験で分かるのだが、やはり喜怒哀楽って大事だと思うんだ。

特に、朝っぱらから起こされて不機嫌な所に「客」だからな……。まぁ、似たようなことは今までもあったし。別に今更起こるようなことでもないのだが。

 

「……おーけー。ある程度格好を整えたら下へ向かうよ」

「早く」

「分かった分かった。寝巻のまま外に出るわけにもいかんだろうに」

「早く」

「……分かったって」

 

 

ここは、異世界スニス・イルディッド。

俺の生きてきた地球とは様々な物が違う、別の世界。

 

とある事情からこの世界に落ちてくる事になった俺は、まぁ勇者の様な物をやってみたり、冒険家の様な物をやってみたり、様々な事をしてきた。

その辺の物語は無駄に長いので割愛。いやぁ、あの頃は俺も若かった。

 

そして、そんな俺が最後に行きついたのが。ここ、“商人の街”アイドクレス。

そう、商人だ。

勇者時代に培った各方面へのコネに加え、冒険家時代に取り揃えた各種激レアアイテムの数々。そう言った物を売りさばきながら、面白そうなものを見つけたら買い入れて、そしてまた売りさばく。

単純だが、毎日を不自由なく暮らすぐらいの金は手に入る。

元来、呑気だのマイペースだの危機感が無いだの言われてきた俺としては、やはりこの生活が一番合っているのだろう。なんだかんだ言って、この商売をやっているのが一番長い気がする。

……まぁこの仕事が商売と言えるかどうかは怪しいところだが。

 

ま、俺の面白くも無い過去を朝っぱらから語ってもしょうがない。

フィーに怒られないうちに、さっさと下へ向かおうか。

 

 

 

「で、これが“客”と」

フィーを先に行かせて、服を着替えてから1階に降りたところに居たのは、フィーと同じぐらい、いやもう数歳上かな。それぐらいの年の少女だった。

 

最も、フィーとは真反対の様な調子の少女だ。

浅く日焼けした肌になびく茶髪。そして広めのおでこ。

地球のTシャツに似たこの世界の一般服を着た、活発そうな印象を抱かせる。

 

「で、何が入用、じゃない欲しいんだ?」

入用という言葉が先に出る辺り、俺はもう冒険者には戻れないんだろうなーと言った感じがする。

この世界の冒険用の装備の名前は何時まで経っても覚えなかったのに商業用の業界用語はあっという間に覚えたからな……。まぁ、そこまで量が無かったのも関係してはいるが。

ちなみに別に入用は業界用語じゃないよ。一般でも使わない言葉だと思うけどね。

素材の名前とかも覚えるの早かったなー……まぁ生で見てる者が多いからかもしれないが。

 

……すぐ話題がそれるのも年寄りの特徴かもしれん。いかんな。

 

そして、その日焼けした少女はいきなりこんなことを言い出した。

 

「えっとね、ケルモファレスの角!」

……はい?

 

ケルモファレス:

秘境の奥深くに生息する獣の一種。俺的レア度☆7つ。物の状態にもよるが、お値段にして金貨100枚ほど。

体長の数倍まで伸びるトナカイのような戦闘用の角に加え、危機察知能力が恐ろしく高いため仕留めるのは困難。また、角には血管が通っていてこの血管が死後も崩壊しないように加工された物は通常の物より効果が高く金貨数千枚単位で取引される。

 

「……何かと勘違いしてない?」

というか絶対してる。間違いなくしてる。

幾らなんでもその素材は無いだろ……。この少女が金貨を数十枚持ってるとは思えないし……。

 

金貨:

あ、ちなみにこの世界のお金の価値は割と普通。

竜・金・銀・銅・鉄と呼ばれて、それぞれ後ろに貨と付けて使う。大きさは掌にいくつか収まる程度。まぁ物々交換も普通に出来る世界なので、何でもかんでも絶対に貨幣を使うのは商人ぐらいだったりもする。

金貨10枚でだいたい1年生活できる物と思って良い。各貨幣の交換は100枚ごとだから、鉄貨100000000枚で金貨1枚。分かりやすいね。

ただ、別の国へ行くとその国専用の貨幣が合ったり、材料は同じでもサイズが違ったりと厄介な物でもある。ぶっちゃけ現金を持ち歩くよりは宝石の類を持っていた方が良い。

 

竜貨というのは竜の鱗を貨幣にしたもので、大きさも抱えるほどと大きく、こちらはイレギュラーな物になる。ぶっちゃけ発行数が少なく、流通用と言うよりは記念貨幣に近い。

どこかで聞いたことがあるような貨幣なのは、どこかの元勇者が提案した貨幣だからである。細かい事は突っ込んではならない。

 

 

「えー……、でも、秘薬にいるって……うーん?」

「あー、“秘薬”か。なるほど。了解」

 

秘薬:

またまた新単語、“秘薬”。

簡単に言ってしまえば、エレクシール的な物です。

名前は凄そうだが、ぶっちゃけ滋養強壮と体細胞強化ぐらいしか効果は無い代物なのだが、何故か世間では万能薬としてあがめられている。

結構珍しい物から作る薬で、先程のケルモファレスの角やクロリースの肝やカラカタカナの爪からも作れた気がする。もちろん効能は上記のとおりなので、どの材料で作るかで大分効果が変わってしまい、そしてまた何故か世間では全て同じ薬として扱われている。

 

……ちょっとネガティブになったね。昔に騙されたことがあったからかなぁ。名前は凄そうなのにね、“秘薬”って。

 

「“秘薬”用なら、丸々一本は要らないな。1人用だろ?」

「うん!」

「となると、保存用の粉末でだいたい金貨10枚分ぐらいかな。瓶と紙、どっちがいい?」

「うー、えっと。駄目!」

「……とりあえず聞くけど、なんで?」

「駄目だから!」

「……さいですか」

 

こういう所はフィーの方が話しやすいと思う。

子供というのはどーしても物事を説明するのが苦手だからなー、まぁ良いけどさ。

 

「えーっと、血管で、生きてないと、取りたて……?」

「……OK。大体把握した」

なるほど、生の方か。

 

「意外と面倒な事になったな……」

先程も言ったように、ケルモファレスの角は生と乾燥と2種類ある。

血管保存の加工済みが生。加工無しが乾燥。もちろん生の方が数は少ない。

 

「おーけー?」

「おーけー」

「おーけー!」

「……何だこの会話は」

隣でフィーと日焼け少女が言い合う。

この世界に英語などなく、基本的に純日本語の会話である筈なのにフィーが覚えた日本語英語が混じるせいで時折元の世界に帰ってきたかと錯覚する事がある。

……今更、戻れるような場所では無いのに。

 

「で、ここには無いことが分かったんだが、どうする?」

「え、うー……ん。それじゃ、旅団商さん達の所へ……」

「そのなりで? 1人で?」

「……うん」

絶対に買えないな。間違いなくボラれるかスられるか……最悪人攫いなんて事にも……。

 

「……」

「……な、何だよ、フィー」

「……………」

「…………はぁ。分かった。俺もついて行こう。俺もついて行くからそう睨むなフィー」

折角の朝が……。もう少し寝ていたかったのに。

まぁ、この少女が1人で旅団商の所まで行ってしまうのも目覚めが悪いしな……。しょうがないか。

 

「……フィー、倉庫から瓶詰めでケルモファレスの角の粉持ってきてくれ。後、資金蔵から適当に幾らかお願い」

「りょーかい」

これも俺の口癖だ。了解のりょの後を伸ばしてしまう。

だからどうという訳でもないのだが、あまりきれいな言葉じゃないし、治させたほうが良いかなぁ……。

 

「でも粉じゃ……」

「ま、一応の保険さ。なーに心配には及ばない」

適当に市場をうろつけば幾つか見つかるだろう。

 

何せここは“商人の街”アイドクレス。

世界中の物が集まり、そして売り買いされていく“世界の宝蔵”。

ここに無い物など、無い。

 

 
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