フィーが倉庫から持ってきた、角の乾燥粉と金貨の入った袋を持って宿屋を出た。
俺が起きてからは若干時間がたったが、それでもまだ早い。起きだしているのはまだ僅かだ。
そもそも、この世界の市場と言うのは夜やるのが通例とされている。まぁ朝では駄目なある理由があるのだが……。
それはともかく、出店も無い道は広々として歩きやすく普段の人混みが嘘の様に空く。
最も、元来商人と言うのは金を稼ぐためには何でもする奴ら。
“早起きは三文の徳”とは言わないが、ここならば時間ですら金に換えられるだろう。
だからこそ、この時間帯に危険を冒しても店を出す連中もいるのだ。
「らっしゃい! 不思議の旦那。今日はクロリスの音が入ったんですがどうですかい?」
「不思議の旦那じゃないですか! 今日は随分と早いですね。どうです、このティルギニ買いませんか? 今なら10匹で金貨5枚ですよ」
「不思議屋さん。今日はお出かけですか? 折角だし、嬢ちゃんにアクセサリーでもどうです?」
「相変わらず商魂逞しい奴らだな」
「煩い」
「うあっ! この人たち何処から!?」
出店、とまではいかなくとも、路地裏や建物の中に本命の商品を残しつつ、集客だけでも外でやろうという思惑か。
下手にやれば倉庫ぐらい容赦なく潰されるのに、まぁ頑張るものだ。
「んじゃ、その根性に免じてクロリスの音を1つ貰おう。後、そのアクセサリーも。ティルギニはまた今度見よう。すまんな」
「「「まいどあり!」」」
最後の声だけは揃ってまいどあり。
これもまた商人か……。この世界では、商人とは詐欺師と奇術師の次に胡散臭いと言うが、本当に胡散臭いから困る。
「さてと。君、なんて言ったっけ?」
とりあえずいつまでも日焼けの子なんて呼ぶわけにもいかないから、名前でも聞いておくかな。
「え? 私? 私はリアナだよ。言ってなかったっけ?」
スキップしながらついてくるリアナが答える。
「名乗っては無いと思うが……フィー、聞いたか?」
「無い」
愛想無くフィーが答える。
……フィーの方が年下の筈なんだが、なぜか年上に見える。
この無表情はなんとかならないかなぁ。
「ま、それは良いんだ。それよりリアナにプレゼントだ」
「ふぇ? それって……さっき買ったアクセサリー?」
「まぁ、おまじないだな。最近の旅団商は質の悪いのが偶に居ると言うし」
「え、でも勝手にもらっちゃ……」
「タダより高いものは無い、ってか。ま、それでも受け取っときな。これは何枚金貨を積んでも買えない物を買う方法だから」
「……??」
「理解」
「フィーはまたそういう愛想のない喋り方を……。ま、うちの店を当てにしてくれた分のサービスさ。受け取りな」
「お金は払えないよ……?」
「はいはい請求なんてしないから」
なーんでこうこの街の子供は愛想が無いんだろうか……。
いや、大人っぽいと言えば大人っぽいけどさ。それってどうなんだろ。
「さて、そんなこと言ってる間に見えて来たね」
この街は大体に言って4つの区画に分かれる。
東の“素材区”
西の“食材区”
南の“旅団区”
北の“専門区”
俺の店が丁度北東、“素材区”と“専門区”の狭間の辺りにあって、今向かっているのは“旅団区”。
“素材区”を突っ切ってここまで来て、ここ辺りを境に店が変わる。
「“旅団区”。街の中で唯一、一日中市場を立てることが出来る区画」
地に根付いた建物は少なく、殆どはテントや出店となっている。
それもその筈、名前の通り旅団商が集まるのが、ここ“旅団区”だからだ。
旅団商:
普通の商人はそれぞれの街に店を構え、別の知り合いから運ばれてくる物を買い付け、そしてその街で売る事で生計を立てる。
物を運ぶのは、専門の運び屋が居て、彼らもまた商人と契約する事で安定した代金を得ている。
だが、中には自ら商品を担いで世界中を回る者達が居る。
近くにまともな店すらない小さな村を回り商品を売る者。
運び屋の駄賃すらケチってその分利益を上げる者。
特殊な者を専門とし決して他人に触れさせないために自ら運ぶ者。
理由は様々だが、旅団商達は採取買付運搬販売全て自らの手で行う。
外は危険に溢れ、それ故に各街で見ず知らずの他人と手を組み軍団となって街々を渡り、売り歩く。
それが旅団商だ。
「さてと、どうするかねぇ」
旅団商には旅団商のルールがあり、これが意外と厳しかったりする。
旅人だからというのもあるのだが、自分達が異端だからこそ、というのもあるのだろうな。
ただ、ある意味普通の店よりも物を買うのは簡単だ。
その商品の持ち主と交渉できればそれだけで良いのだから。
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