「しっかし、一刀は本当にやんごとなき血筋だったのねぇ。まさか、お婆様が天の世界に移った始皇帝なんて。
ある意味、私の見立ては大当たりだったわけだけど」
「俺だって、華琳を無理やり天の世界に引き寄せて、外史を三周した記憶を取り戻してからだよ、知ったのは。
爺ちゃん婆ちゃんは、基本伏せておくつもりだったらしいし」
「それに、私や一刀も、お爺様がお婆様以外の歴史上の人物に子胤を残していたなんて知らなかったわ。
…まぁ、あり得なくない話とは、思っていたけど」
「私の『靖王伝家』が本物って判ったのは嬉しいな♪…あれ、でも、なんで私が持っても光らなかったの?
…ま、まさかっ…私自身がその血筋じゃ…」
「うんにゃ、そうじゃないよ、桃香。今の俺なら判るんだけど、単純に、君の氣が少なすぎるんだ。その剣の力を引き出す為にはね」
「ほへ?」
「あっ、鈴々にもわかったのだ」
「あうぅ…なんか鈴々ちゃん、さっきからすごく冴えてるよ…」
「単純にお姉ちゃんは、まだその宝剣に認められてないってことなのだ」
「がーん!…そ、そんな…」
俺と冥琳、明命が再会の喜びに十分に浸った後。
皆を招き入れた俺は、華琳の補足を受けながら、一気に俺の家系について説明をした。
といっても、俺も詳しく聞いてないわけで、
爺ちゃんが先代の御遣いだったってことと、婆ちゃんは実は始皇帝だったよ、ってことぐらいで。
つまり、審問会なんてなかった。
あとは俺が辿った三度の歴史の流れを、大まかにだけれど、説明をした。
それぞれ、歴史をたどった人達が、追加説明をしてくれたので、その辺は大変楽だった。
あとは、ここにいる黒華琳とは別に、この世界の金華琳がいることも合わせて説明してある。
そして、この四度目の外史で成したいことも。
そこに華琳曰く『我が子房』たちの推測と、桃香の所持していた宝剣のお陰で、
俺と桃香が遠い親戚であることがが赤裸々になったというオチがついた。お膳立てしたのは、左慈だけど。
「北郷の言う通りだ。玄徳、ちっとは自身を守る為にも、武を鍛えろ」
「はぁい、ご主人様…」
「…左慈。なんつーか、俺、存在自体が相当まずい立場なのな、ほんとに」
「だから、最初の外史で無理やりにでも、世界を終わらせる方向にもっていったんだ。本当に、お前はいろいろ規格外なんだよ」
「ちっとは自覚しろってことか」
「あぁ。ついでに俺との決着もつけてもらう。その規格外の氣もきちんと扱えるように鍛練しておけ」
「おぅ。身体能力が伸びない以上、俺にはそれしか無さそうだしな」
なんて嬉しそうに笑うかな、左慈。まぁ、俺もわくわくしてる自分を否定できないんだ。
「はい、于吉さん、とんとんしますよ~とんとん~」
「…これは申し訳ない、風どの…思わず、二人の熱いぶつかり合いを妄想してしまいましたよ、ふふふ…」
「いえいえ~。稟ちゃん以外の人に『とんとん』するのも新鮮なのですよ~」
「はっ! 私の特徴を取られ…でも、鼻血は出ていませんね」
そんなお馬鹿なやり取りもあったものの、話し合いは『確実に天の世界に戻る俺』に対しての各々の対応に移っていった。
存在自体が俺の同じ世界にある『蘭樹』華琳は最初から強制送還扱いなので同行確定。
あとは誰が同行するかという話なんだけど…。
正直なところ、希望者全員が俺と共に来たとしたら、極端な人材不足になるのが目に見えている。
三国の平和もくそったれも無くなることは間違いない。
既に、同行を公言している、愛紗・星・稟・風・朱里・雛里にしても、全員問題無く一緒に行けるかといえば、正直不明瞭だ。
皆の気持ちを聞いてあげたいとは思うけれど、俺と蘭樹の罪滅ぼしの為にこの世界に降りたという目的を変えるつもりは無い。
俺は彼女を第一に選び、その為に三国の平和を確立して帰還するのは、俺の行動の根幹になっている。
「一刀、当面の問題は西涼の馬騰だっけ?
反董卓連合の頃には病にかかっていたはずだから、華佗もいることだし、早めに向かった方がいいわよね」
「そうなんだ、雪蓮。ただ、あまりに距離があるからね。どこかで良い馬を調達しないと不味いとは思っていたんだけど」
「ねぇ、真面目にちょっち提案。
少なくとも、一刀が天の世界に戻る、つまり、三国の鼎立が成り立つまで、かなりの期間があるでしょ。
今のうちに、分かれて行動した方が良くない? 魏は放っておいても成立するとは思うんだけどね」
「具体的には…?」
「北郷、それは私から説明しよう。
まず、幽州に向かい、涼州に向かう為の良馬を調達する役割が一つ。出来れば、公孫賛との誼も作っておきたいな」
「あ! それなら、白蓮ちゃんとは友達だから、私が中心で行くのがいいかな?」
「よし、まずは玄と…いや、桃香どのを中心とした一団に幽州に向かってもらうと。同行者は後ほど選ぶとしよう」
皆、真名もお互いに交換を終えていた。
最終目的『天の世界に行くぞーっ!』の同志として、何やらすごい連帯感を持ったらしい…。
いや、だから、全員行かれたら困るんだけどさ…。
…まぁ、国を超えた友情を早く育んでくれたという点では非常にプラスだと思う。
「次に、これは提案だが、
北郷、本格的な戦乱が来る前に、この世界の曹孟徳から出資を受けた元手を使って、行商人としての拠点を作れ。
出来れば、いっそ一つの街ぐらいの規模がいい。
袁術の領地に私の知り合いの豪商がいる。その者に話を通すから、力を借りるといい。
三国の兵糧の流れを早めに抑えてしまえば、ある意味統一も早くなるだろう」
「経済で三国を制御するってことか」
「後は自前の自警団も持てって所?」
「ある種の独立国家のようなものが理想だな。立地条件的に荊州の南陽辺りに持てるのが一番かもしれん」
「あの辺で私腹を肥やしてる都市の領主をうまく蹴落とせばいいわね・・・って、どうしたの、一刀」
華琳の問いに、俺は冥琳の言葉に引っかかった点を指摘する。
「いや、冥琳の知り合いの大商人ってさ、俺の世界の歴史でも一人該当者がいるじゃないか」
「あ、商家の魯一族って、この世界でも有名だから、気にしていなかったけど・・・それもそうね」
「魯粛ってことですかーっ! 程普さんといい、呉が一気に強化されとる・・・」
「だ・か・ら♪ すぐに私が抜けても大じょー」
「却下」
雪蓮の一言を、俺・華琳・冥琳の三人がバッサリ切り捨てたのは言うまでもない。
雪蓮・冥琳の提案を受けながら、俺達の当面の方向性が決まっていく。
一つ、幽州への軍馬買付け及び、公孫伯珪さんとの誼を結ぶ。
二つ、この世界の魯粛さんに学びつつ、商人としての拠点を得る。
三つ、早急な孫呉の独立、もしくはそれに準ずる状況を得る。
四つ、馬の確保が出来次第、涼州に向かう。
三つ目の準ずる状況というのは、袁術さんを傀儡化しちゃいましょう! という物騒なものである。
実権は孫家が握るってことになる…って、雪蓮。孫呉の復興はどうするんだろう。
「毒殺されるよりマシよぉ♪」
「簡単に心を読まないで!」
「勘よ、勘。それに、蓮華にしても小蓮にしても頑固だから、意地でも一刀と一緒に行くとか言いかねないわよ。
その為の保険って意味もあるのよね~」
「ゆえに、地域の有力豪族と早く協力体勢を築き、袁術を丸裸の女王にするためにも、早く北郷には豪商の仲間入りをしてもらわねばならんな」
「あれ? 提案だったはずなのに、拒否権が無くなってる気がする…」
「私だって我慢してしばらく孫呉のために動くんだから、それぐらいやってよ~、一刀」
「やってよ~、って、そんな簡単なもんじゃないだろ…」
「この三国の誇れる頭脳が揃っていて、むしろ出来ないわけがないぞ、北郷」
駄目だ、この二人には敵わん。ここは我が最強のパートナーを…。
「諦めなさい」
さくっと切り捨てられましたとさ。泣いてもいいかな、俺。
あ、でも、華琳もため息ついてるってことは、撤回させるとしても厄介だってことだよな…。
「その代わり、割り振りの面子は一刀と私で決めさせてもらうわよ。
…一刀、私が今から割り振りをこれに書くから、後は修正して頂戴」
そう言って、華琳が取り出したのは、ボールペンとメモ帳。
制服のポケットに常に入れておいた為、偶然とはいえ、持ち込み出来たらしい。
「えっと、幽州組が、桃香・鈴々・左慈・于吉・朱里・雛里に星。
このまま呉地方に向かうのが、俺・華琳・愛紗・風・稟・貂蝉に孫呉組に華佗…か」
「今回の立ち位置として、商家というのは私の中にもあったわ。どこかの勢力に肩入れし過ぎると色々動きにくいわけだし。
経済面から、強国をある程度制御できるのは十分私達の武器になる。
西涼の馬騰の元には準備出来次第向かいたいけれど、足場もしっかり固めないとね。
そこで、風・稟にはその辺りの中心になってやってもらおうと思うの。愛紗や貂蝉は護衛も兼ねつつ、実務にも動いてもらいたい。
孫呉が独立するか、実権を握る形になるかはこれからの見極めだけど、そっちにも武官も必要でしょう」
「星が幽州に行くのは…桃香たちとの連携が取り易いのと、馬の調達が出来次第、連れてきてもらう為?」
「西涼へは長旅になるから、頑丈な良馬が望ましいしね」
「朱里に鈴々がつくのは、桃香と雛里の経験を早急に上乗せする為か。伯珪さんの所で、客将になってもらうってことかな?」
「現場で学びながら、優秀な先生が補足するのが有効だしね。星にはその点でも奮闘してもらわないと。
左慈は護衛としては最強クラスだけど、教師役としては不得手のようだしね。于吉は左慈が行くところについていくでしょ」
「そして、俺達の体勢が整ったら、桃香たちを呼ぶ、か」
「そのまま、公孫賛や麗羽を併呑して、河北の覇者になってもらってもいいんだけど」
「情勢次第ってところだね。ただ、知る限りの桃香の性格だと、伯珪さんを差し置いて、勢力の長になるなんて出来ない気がする…」
「だから、基本路線は入蜀する方向。あくまで自らの能力を鍛えに行ってもらうというつもりでいましょう」
「あとはどう説得するかだけど…ん? 皆どうしたの?」
呆気に取られたような表情をしている人たちが大多数。雪蓮や冥琳はなんかものすごく嬉しそうな顔をしてる。
「はわっ」
「あわっ」
「ほえ~すごいよ…」
「はうぁ~」
「…ぐぅ」
何人かの擬音の後に、聞き慣れた狸寝入り。華琳と目線を合わせ、タイミングを合わせて、
『寝るなっ!』
お決まりの突っ込みを入れる。
「おぉ! 以前とはまるで違うお兄さんの頭の回転の良さに感動して思わず寝てしまいました」
「感動して寝る人は初めて見たよ…あ、寝てごまかすなよ?」
「むー。お見通しですかー」
不満そうな風の横に稟が立ち、彼女もどこか笑みを浮かべながら、口を開く。
「華琳さまと同じ次元で会話を交わしている一刀どのが見れて、過去の貴方を知る皆は驚いているのですよ。
ふふふ、これは華琳さまも喜んで、貴方についていくのもわかる」
「いい男になったでしょう? 私の自慢の男よ」
本当に自慢げに言う華琳に、俺はむず痒くなる感覚に襲われ、どこかに隠れたくなってしまい、必死に言い訳を口にしていた。
「華琳の教えを必死に吸収しただけだよ。それでも、まだまだ話についていけない時もあるからね」
「いーなー、華琳。一刀がどんどんカッコよく過程を間近で見ていられたんでしょ? 羨ましいわよ~」
「ふふっ、今の北郷に本気で仕えてみたくなるよ。今の理解力なら、献策するのにも大いに張りがある」
「だぁーっ! 雪蓮に冥琳までそんな照れくさくなること言うなよっ!」
こうして認められる感覚にどうにも慣れない俺は、まさしく地団駄を踏んでこの流れを止めようとするが、
冥琳の『あちらを見てみろ』という仕草に、周りを見渡してみる。
すると…まず、瞳を非常に輝かせている、ちびっこ軍師ずの姿が目に入った。
「うぉい、朱里に雛里。どうしたんだ」
『すごいでしゅ!』
声をかけると、見事にまでハモる二人の声。
「ご主人様は元々ただ者では無いと判っていましたが、覇王たる華琳さんと同じ高みで話ができるなんてすごいでしゅ!」
「この類まれなる知性、私が全てを捧げるのにまさに相応しい方でしゅ!
幽州で実践経験を積み、必ずご主人様の第一の参謀として、馳せ参じましゅ!」
あー、これはなんというか。華琳を見る時の春蘭と似たような目だ。心酔してるというか、盲目になってるというか。
三周分の経験値と、それを踏まえた的確な指導をしてくれた華琳のお陰なんだけど、
たぶん、その辺とか色々吹っ飛んでるんだろうな、今。
桂花は華琳至上主義のあまり、周りとの連携が困難になる時すらあったのを思い出す。
それ以上に彼女は優秀だったのと、華琳の統率力ゆえに、極端に表立った問題にならなかっただけで。
「華琳、幽州行きの面子を変更するよ。稟と朱里を交代だ」
「…能力的には問題ないわね。朱里は軍略より政務を中心に置いた方がより才を生かせるでしょうし」
「後は、朱里と雛里を、風・稟にそれぞれ鍛え直して欲しい。俺至上主義なんか正直何の足しにもならない。
周りとの不要な諍いを作りかねないからね。さらに可能なら、稟には騎馬軍の運用の経験を積んでもらえたらって考えもある。
なんたって、烏丸相手といえば『郭奉考』だからね」
「…わかりました、一刀どの。この郭奉考、雛里に軍師としての在り方から全てを叩き込みましょう」
「朱里ちゃんは元々優秀ですから~、風は主に感情面の制御方法の訓練ですかね~」
「それぞれが一人の生徒を持つようなものだから、お互いに切磋琢磨してくれると嬉しい」
「…負けないよっ、雛里ちゃん! 戻ってきた時には、圧倒的な差をつけておくからね!」
「あわわ…勝つのは私だよ、朱里ちゃん」
「なるほど、後輩を通じて、風と競うわけですか…面白い」
「ふむ~。あまり勝ち負けには興味ありませんが、あえてお兄さんの思惑に乗ってあげるのも、いい妻の条件ですかね~」
いい意味での競い合う関係ってのは悪くない。四人のさらなる成長に繋がれば、と考えたけど、出だしとしてはOKかな?
あ、華琳もほくそ笑んでる。冥琳も秘めた笑みを見せているし、ま、仕掛けとしては及第点なんだろう。
「ということは、私と一緒に行くのは、ご主人様と于吉さん、鈴々ちゃん、星ちゃん、雛里ちゃん、稟ちゃんなんだね。
…うん、たくさん学んで、早く一刀さんと並び立てるように、私、頑張るから」
「理想は諦めず」
「…現実を見据えて」
「目の前の困難に全力を持ってあたる」
「…うん。一刀さんが教えてくれたこと、ちゃんと軸に置いているから。私、頑張るよっ!」
清々しい風が吹くような錯覚を覚える、桃香の満面の笑顔。
大丈夫だ。今の彼女なら、周りの支えがあれば、瞬く間に頭角を示すはず。
「…主」
「星。困難な役割を託すけど、頼むね。星なら、やり遂げてくれると信じてる」
「ふふっ、主に頭まで下げられては、応えてみせなければ女が廃りまする。指導役も馬の調達も、この趙子龍にお任せあれ」
続けて、星からの心強い快諾を得る。
おそらく、北と南を何度も縦断してもらうことになる、厳しい役割を、彼女は笑って引き受けてくれた。
「それに、この道士二人組の漫才を見れるのも、いい酒の肴になりましょうし」
「北郷に子龍・・・こいつはいらんのだが」
「そう言っても、左慈。于吉は無条件で付いていくと思うぞ」
「その通りです。愛しの左慈とやっと出会えたのに、何故離れて行動しなければならないのか理解に苦しみます」
なぜ得意顔なのかは俺も理解に苦しむけど、于吉の行動理念を考えると、ねぇ。
「・・・ちっ」
「あぁ、この蔑むような舌打ち! 久し振りの感覚に身が震えるようです・・・っ!」
「一遍脳味噌ぶちまけて中身を入れ替えてしまえっ!」
一筋の閃光が走る。
光が于吉の頭部に吸い込まれ、奴は錐揉みしながら宙を舞い、床に強かに打ちつけられた。
「これが・・・愛・・・」
「それが于吉の辞世の句であった・・・って、気を失っただけか。なんつータフネスだ」
「そのまま死ねばいいんだが。曲がりなりにも管理者だからな。全く面倒だ」
「綺麗な錐揉み回転でしたね~これは10点をつけてもいいのでは~」
「なんで体操競技の採点みたいなことを・・・」
「なんのことやら~風にはさっぱりなのですよ~」
本当に風ってこの外史の人間なのかな。時々、絶対にこの世界じゃありえない概念とか持ち出してくるんですけど。
実は管理者予備軍とかさ。
「それはないですから~お兄さんへの愛の力ですね~」
「簡単に心の呟きを読むなっ!」
「・・・スカウトしてもいいかもしれんな」
左慈が思案顔になる横で、風がさりげなく腕を絡め、甘えてくる。
「むっ! ご主人様、鼻の下が伸びていますっ」
そんなことを言いながら、もう片方の腕を引き寄せるように取る愛紗。
あ、弾力のある愛紗のおっぱいが当たって・・・はっ、いかん。本当に鼻の下が伸びてしまうじゃないか。
へいじょーしん、へいじょーしん・・・。
もにゅん。
ん? もにゅん? あ、この背中の程よい大きさと柔らかさの感覚は・・・。
「ふふっ、争奪戦は始まってるってことね」
俺が育てた(?)華琳さんのおっぱいでした。背中から腕を回すような格好になってるから、そうなるよね・・・。
「はわっ! で、出遅れましたっ」
「あわわ・・・油断も隙もありません・・・」
こうして始まったカオスを収めるのに、一刻があっという間に過ぎましたとさ・・・。
「これは中々に厳しい戦いのようだな。なぁ、雪蓮」
「ふふ~ん、困難な闘いほど燃えてくるってものじゃない♪」
断金の二人組がそんな会話をしていたとしても、俺は聞く余裕がなかった。
その日の晩。
まずは幽州組が明朝出立するということで、俺の宿泊部屋には鈴々、星、雛里、稟が集合していた。
実質、俺と相部屋状態の華琳と愛紗も一緒にいる。
桃香は于吉と、左慈の取り合いで忙しいようだ。
「さて、幽州組はしばらく一刀と会えなくなる訳だし、一刀、頑張って相手なさいな」
「へ?」
「抱きなさいってこと」
「・・・はい!?」
「あら、皆そのつもりで来てるみたいだけど。あ、私と愛紗は最後でいいから」
「え、え、え、いや、いろいろ待って!?」
「ふむ、主は私たちの身体では物足りないと」
「だーっ! んなわけないだろ! 皆、それぞれ魅力的だし、物足りないわけない!」
「では、順番に寵愛を下され。再会してからドタバタがあり過ぎて、機会が無かったのですからな」
「・・・みんな、いいんだね?」
華琳がこの場のセッティングをしたのはわかったけど、やっぱり、皆に直接意思確認はしたかった。
「お兄ちゃんだから、いいのだ」
「あ、あの、精一杯勉強しましゅ!」
「・・・私が身体を許すのは、貴方と華琳さまだけです」
「不満そうな愛紗に、先に言っておいてあげるわ。本当に今の一刀は無尽蔵だから、必ず順番が回ってくるから、そのつもりで」
「え、ええええ!? い、いや、わたひはっ!?」
「愛紗、慌てすぎよ・・・六人いるから、まぁ、最低でも二回は・・・」
「おお、今の主は本当に夜の帝王ですな」
華琳の余計な解説に、色めき立つ女性陣。
いや、確かに、華琳にはここのところ、身体的な負担をかけまくっていたけど・・・。
なんつーか、記憶が戻るごとに、底が無くなっていく感覚なんだよな。
「では、始めましょうか」
・・・結局、朝日が出る頃まで嬌声が絶えることは無く。
また、皆、まともに立てなくなった為、出発が一日遅れるというオチもきっちりついた。
「・・・愛紗、生きてる?」
「な、何とか・・・し、しかし、なんというご主人様の底なしの精力。
四人を失神させてなお、私も腰が立たない程になるとは・・・ううっ」
「その後が私の相手だものねぇ・・・。今日は二回で済んで、楽といえば楽だったわ。
まぐわえばまぐわうほど、どんどん精力が増していくのは圧巻ね。体力も修行の成果が出ているのか、陽が出るまで平気だったし。
・・・よし、皆に毛布もかけたから、これで大丈夫でしょう」
「あんな激しい動きの後で、普通に動ける華琳どのも華琳どのだ・・・あ、私ももう意識が・・・」
「おやすみ、愛紗。夜の体力もつけましょうね」
そんな正妻争い二人組の会話も、幸せな眠りの中にある俺には、もちろん聞こえることはなかったのだ。
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前回のあらすじ:やっと冥琳たちの記憶が戻った。星の特殊技術もお披露目された。
人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237
一回の文章量増やしたんですが、どうでしょう。
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