ほんわかした娘。
それが劉備を初めて見て感じた感想だ。
暖かな空気を周りに振りまき、近くにいる者の心を穏やかにする。
「初めまして、でいいのかな?劉備玄徳です」
ニコリと微笑むその顔は見るものを安心させる。
なるほど、これが劉備の力。
この魅力が彼女について行こう思える原動力となるのか。
「遠いところ、わざわざ来ていただいてありがとうございます。
本当は私から向かわなくちゃいけないのに……」
「いや、俺も君に会いたいと思っていたんだ。
それに部屋にこもって政務ばかりじゃ、息が詰まるしね」
俺がそう言うと劉備は「そうですよね!」と身を乗り出し食いついてきた。
「桃香様!」
関羽の咳払いに劉備はビクッと体をはねた後、ごまかすように苦笑いをした。
「孫権様、前の時は助けていただき誠にありがとうございます。あの時はきちんと礼をできなかったことをお赦しください」
劉備の横に立っていた関羽が頭を下げ感謝の気持ちを表した。
あの時のこととは魏が徐州を攻め、劉備たちが逃げた時のことらしい。
「あの時も言ったが俺は命令で向かっただけだよ。別に感謝されるものじゃ無い。…それにあの時は同盟を結んでいたんだし」
同盟だったと言う言葉に劉備や他の将の顔がやや歪んだように見えた。
「その事ですが、私はまた呉の皆さんと手を取り合いたいと思っています。
……でも、王様が孫策さんから孫権さん、あなたに変わりました」
「孫策は信用できるが、俺は信用出来ないと?」
「いえ、そこまでは言いませんが…」
劉備は少し困った顔をした。
「ちょっとだけ私の話を聞いてもらえますか?」
そう言い息をすっと吸い込み語り始めた。
「私が暮らしていた村はとても穏やかなところでした。
でも、外から他のところのひどい状況が入ってきていました。
その時はどうにかしたいって思っていたんですけどなかなか決心がつきませんでした。
そんな時に愛紗ちゃんと鈴々ちゃんに出会いました。
3人でこの国を救おうと姉妹の契りを結び、それで決心がつきました。
皆が笑って暮らせる国にするって。そこで義勇軍をつくって各地にいる賊を倒そうと思いました。
弱い人から金品を奪う賊をやっつけたら平穏になるって思ってました。
そう思い黄巾党の鎮圧にのりだし皆さんと力を合わせて倒すことができました。
でも違った。黄巾党は始まりでしかありませんでした。
その後も賊は減らずに人々の生活は苦しいものでした」
劉備は一度切ると茶を飲み一息ついた。
「その原因は国を治める官が腐っているからだ、と皆が言うのを聞くようになりました。
袁紹さんからゆ…董卓さん討伐の連合の参加呼びかけを受け取ったのはその頃でした。
その書状には洛陽での暴虐のについて書かれていました。
それを見て、やっぱりそうなんだと思いました。
早く悪政をやめさせなくちゃ。その決心のもと、連合への参加を決めました。
董卓さんが悪いことをしているから、やめさせなくちゃって思っていたのに……
後で知ったんですけど、洛陽で悪さをしていたのは董卓さんじゃなくて張譲さんだったって。
その時は愕然としました。知らなかったとはいえ、無実の董卓さんを攻めたことを。
そのあと徐州に任じられて自分の州をもったとき、この街だけでも皆が笑って暮らせるようにしたいって思うようになりました。
そのために仕事や勉強を一生懸命しました。
北では曹操さんと袁紹さんが戦っていたけど関係ないと思っていました。
でもやっと街が安定してきた時に曹操さんが攻めてきました……」
華琳が攻めてきた時のことを思い出したのか、劉備は唇をきゅっと噛みしめた。
「その時曹操さんに言われました、話し合いなんて無意味だって。私の言うことは甘いって。
確かに理想を追った私には力は無く、現実を見ている曹操さんには大きな力があった。
そんな大きな力の前では私の理想なんて無力でした。
徐州から脱出して、劉表さんのところに匿ってもらっているとき、ずっと考えていました。
私の理想は、皆が笑って暮らせる国なんて無理なのかなって。
考えて考えて考えて、それで…」
「答えが見つかったのかい?」
「はい」
劉備は胸の前で手を組み祈るように目をつむり答える。
「私の理想はやっぱり皆が笑って暮らせる国にすることでした。
甘いことだってわかってます。でも私にはそれしかありませんでした。
私は愛紗ちゃんたちみたいに戦いが強いわけでも朱里ちゃんたちみたいに頭が良い訳でもありません。
でも思うことは出来ます。この国を平和にしたいって思う気持ちは誰にも負けないつもりです!
……こんな私の考えって間違えてるでしょうか?」
伺うようにこちらに視線を向けてきた。
「君の考えはとても甘いものだ。現実には不可能だって言ってもいい。
……でも、いいじゃないか別に。君が考えぬいた結果思い至ったのがそれなら。
強い思いは力になる。その思いが本物なら君は誰にも負けないよ」
「ありがとうございます!」
劉備はうれしそうに微笑み、その姿はとても美しかった。
「これが私の考えです。…今度は孫権さんの考えを教えてくれますか?」
「俺の考え……」
顎に手を当て数瞬考えた後、俺の考えを述べる。
「俺の理想は君の理想に少し似ているかもしれない。
俺はこの大陸の民が平穏に暮らせるようにしたい。
賊や戦争に理不尽に殺されない、そんな世の中に。そのために争いを大陸から無くす。
そのために俺は戦う」
「争いを無くすために、戦う……それって矛盾してますよね?」
「そうだね、もしこの大陸から戦いが無くなっても外の五胡が攻めてくるかもしれない。
戦いが終わった後も戦死した者の遺族は恨みが残るかもしれない。
でも、だからって俺は歩みを止めない。そこで止まったらそれこそ死んでいった者達が浮ばれない。
俺はそう考えているからね」
俺の考えを聞き、劉備は何かを噛み締めるように考えていた。
「……孫権さんは民の事を大切にする人だとわかりました。
私たちの考えは確かに似ていますが違うものです。でも……」
劉備は一度目をつぶった後、
「よしっ!孫権さん!私の真名は桃香と言います。
これから一緒にこの大陸を平和にしましょう!」
そう言い劉備は手を差し伸ばしてきた。
「俺の真名は一刀だ。これからよろしくな、桃香」
そう言うと、桃香は「はい!」と笑顔を返してくれた。
後ろに控えていた思春たちも安堵の様子で俺達を見守った。
その後桃香は夜、俺達の歓迎会を行うと言い侍女に準備を行うように指示した。
でも、俺はその前にすることがある。
「そういえば君たちと同盟を結ぶ他に、ここに用事があったんだ」
「どんな用事ですか?」
桃香は興味を示し、聞き返してきた。
「知人に会いにね」
「知人…ですか?」
「ああ。ここに居るんだろ、董卓と賈駆が」
董卓と賈駆の名前を出すと、それまでの和やかな空気が一変した。
「な、ななななんでそれを!」
「と、桃香様落ち着いてください!」
慌てる桃香をよそに控えていた劉備軍の将たちはこちらに構えの様子を見せた。
「な、何を言っておるのだ孫権!董卓様たちはお前たちのせいで……」
俺の後ろにいた華雄も怒りをあらわに叫んだ。
「一体どういうことですかな?孫権殿」
こちらに殺気を向けている一人の趙雲がたずねてきた。
「それは…」
「それは私たちから説明します」
俺が話そうとすると別の声が聞こえ、声の方に顔を向けると、
「あ…董卓様?」
かつて洛陽で魔王と呼ばれた少女董卓とその軍師賈駆が立っていた。
今回は桃香の思いを書いてみました。
桃香は良く甘いって言われていますが、そんなことは無いと思います。
桃香は王家の血を引いているとはいえ庶人の出です。他の二陣営は両方共庶民では無い最初から天下への下地は出来ていました。
でも桃香は身一つでスタートしてゆきます。そのために必要なのはやはり大きな理想だと思います。
その理想に皆がついて来る、皆が集まってくる。そういうものだと思います。
そして最初から最後までその思いがブレないというのも大切だと思います。
考えがブレないというのは他の陣営でも言えますね。
やはりその思いというのは大切ですね。
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久しぶりの投稿、すみません。
今回は桃香との会談。そして同盟…
ではどうぞ!